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Review「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」

Review「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」
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Review「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」

Text by Chie Kobayashi


Hi-STANDARDのドキュメンタリー映画「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」がDVD化。4月22日にリリースされた。

「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」は1991年のバンドの結成から、2018年の「AIR JAM 2018」までの彼らの姿を追った作品。2018年には全国の80の映画館で公開され、約10万人を動員した。本作は過去のライブ映像やオフショット、現在の3人のインタビューで構成されており、これまで明かされていなかった、2000年から「AIR JAM」で復活を遂げる2011年までの“空白”とも言える期間についても、赤裸々に語られている。本作で改めて見えたHi-STANDARDというバンドの全貌とは。

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Review「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」

 「Hi-STANDARDって、人間なんだな」。
 初めて「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」を観終わって、最初に出てきた感想はこれだった。Hi-STANDARDといえば“伝説のバンド”であり、彼らのドキュメンタリーは「才能を持った若者が成功するまでの話」であると思っていた。しかしスクリーンに映し出されたのは、楽器をただただ楽しそうに鳴らし、機材車ではしゃぎ、そして苦悩し、もがき苦しみ、11年の年月をかけ再びステージに戻ってきた3人の、とても人間らしい姿だった。

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 Hi-STANDARDは1991年に結成された。「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」は当時の回想から始まる。横山健(G, Vo)がアルバイトをしていたライブハウス・下北沢屋根裏に、難波章浩(Vo, B)が出演バンドとして出入りしていたこと、難波と知り合いだった恒岡章(Dr)を迎えてバンドを始めるも、2回目のスタジオを恒岡がバックれたことなどが、現在の3人の口から語られる。「とにかく気が合ったんだよね」。Hi-STANDARDはそうして、ごく自然に誕生した。

 「客がいないのなんて当たり前。痛くもかゆくもなかった」「3人が納得するカッコいい音源作って、海外でも流通されたらカッコよくね?って、よく言ってた」。精力的にライブを行い、ライブハウスで人気を得始めた頃、3人はCDをリリースしてツアーを回ることに憧れを抱き、初めてのCD制作に挑む。レコーディングを行うものの、資金難により予定していたインディーズレーベルからのリリースは破談に。そこでTOY'S FACTORY内で自主レーベルを立ち上げる形で、念願の1stミニアルバム「LAST OF SUNNY DAY」をリリースする。その際に立ち上げたレーベルが「PIZZA OF DEATH RECORDS」だった。

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 活動初期からアメリカのバンドの来日ツアーなどに参加していた彼らは、アメリカで1stアルバム「GROWING UP」のレコーディングを行うなど、活躍の場を世界に広げていく。「FUJI ROCK FESTIVAL」が初開催されたのと同じ1997年には「AIR JAM '97」を実施。バンド主催はもとより、そもそも「フェス」という概念すら日本にはまだなかった当時。ファンが何日も前から会場に並び、イベント中には観客の大移動が起こるなど、今見るとヒヤリとする様子も映るが、それ以上にハイスタメンバーもファンも高揚しているのがわかる。

 バンドの人気が高まり、規模が大きくなっていくその一方で、メンバーがナーバスになる場面も増えていく。1999年、オリコン初登場3位を獲得したアルバム「MAKING THE ROAD」のリリースを機に、それまでTOY'S FACTORYの傘下だったPIZZA OF DEATH RECORDSは完全にインディーズレーベルとして独立。形として横山が社長を務めることになる。そのあたりから、バンドに歪みが生じるようになる。そして横山に抑鬱状態が見られるようになり、バンドの活動継続は困難に。3人はオーストラリアツアーを断念し、「AIR JAM 2000」を最後に、実質の活動休止へと入った。それまでは思い出を愛おしむように回想していたメンバーのインタビューも、このあたりから「今となっては……」「後悔している」といった言葉が並ぶようになり、表情が曇った。

 ここから2011年まで、3人はHi-STANDARDとして人前に出ることはなかったし、ましてや、バンドがどんな状態にあるかを口にすることもなかった。難波が「警告!」と銘打ったブログを公開し、世間にはさまざまな噂が飛び交った。我々は真相を知ることはなく、ひたすらハイスタの復活を待った。もしくは、この期間にハイスタに出会った。そうしてハイスタは「伝説のバンド」として語り継がれていく。ライブハウスで彼らの姿を見られなかった世代のリスナーはCDを買い、VHSを買い、当時のハイスタを追いかけた。ハイスタに憧れてバンドを始め、インディーズレーベルを立ち上げた。

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 これまで3人の口から語られることのなかった2000年から2011年に何が起きていたのか。まず、当時の横山いわく「ハイスタのリハビリとして」のバンド・BBQ CHICKENSが結成された。横山はハイスタでは入ることのできなかったスタジオに、BBQ CHICKENSだと入れたと言い、自身の復調を喜ぶ。しかしながらBBQ CHICKENSの活動により、3人の溝はより一層深くなっていく。それまでは「なんとなく」休んでいた3人は、明らかな活動休止状態に。恒岡は松田岳二らと共にCUBISMO GRAFICO FIVEとして活動。難波は「バンドをやらない東京には用がない」と沖縄へ移住した。

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 横山は自身が病床に伏せている間にぐしゃぐしゃになってしまったPIZZA OF DEATH RECORDSの立て直しを始める。レコード会社として機能させるために、PIZZA OF DEATH RECORDSを「ハイスタのもの」ではなくさなくてはいけない。「ハイスタのために」と集まったスタッフ陣は辞めてしまったそうだが、横山は同レーベルより「Ken Yokoyama」名義でアルバム「The Cost Of My Freedom」を発表。横山にとっては再出発の意味を込めたアルバムの1曲目「I Go Alone」。しかしそれは恒岡、難波には重たく、厳しく聴こえた。当時、沖縄で手作りのスタジオを作り、仲間と共に、TYÜNXやULTRA BRAiNとして活動をしていた難波は、横山のソロ活動に想像以上のショックを受けた。そして「自殺しようと思った」と言う。例の「警告!」もこの頃だった。そして難波は気付く。「やっぱり俺がやりたいことってハイスタだったんだな」。ちなみに横山は、「The Cost Of My Freedom」の時期を振り返り、「自覚はなかったけど、喪失感だったり孤独感はあったんだろうね」と話している。

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 2011年3月11日。東日本大震災が発生した。Hi-STANDARDの3人も、この惨劇に胸を痛めた。そして導き出した答えが「Hi-STANDARDを復活させて東北の人たちを元気付けること」だった。突如、3人の写真と共に投稿された「9.18 ハイ・スタンダード AIR JAM。届け!!!」というツイートは日本中に衝撃を与え、そして希望の光を灯した。各々、思うところはあったと言うが、それでも当日、横浜スタジアムを埋め尽くした歓声、熱気、パワーは凄まじかった。

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 ここで初めて公にされた事実がある。それは恒岡の双極性障害の発症だ。彼は2007年頃から同症状に苦しんでいたという。それゆえ、2011年の「AIR JAM」は日本の復興のためという理由のほかに、ハイスタにとっては「恒岡の復帰」もあった。恒岡は自身の意識とは別のところで、命を絶ってしまうギリギリのところだったそうだ。キュビズモメンバー、ハイスタメンバー、そのほか多くの人に支えられて、乗り越えてきた現在の恒岡はじっと地面を見つめて言う。「言えるのは、死なないほうがいいよってこと」。

 突き動かされるように2011年の「AIR JAM」で復活を遂げたHi-STANDARD。当初の目的であった「東北でのAIR JAM」を達成したあと、本格的に再始動への道を歩む。その理由は「ライブをやるなら新曲を作らないと」。至極まっとうな、バンドマンらしい発想だ。

 そして彼らは2016年10月5日、Hi-STANDARDの16年半ぶりの新作「ANOTHER STARTING LINE」をリリースした。事前告知なし、CDショップに行くとシングルが並んでいるという、その発売方法もあいまって、全国のCDショップには長蛇の列ができた。あの日のドキドキは、記憶に新しいファンも多いだろう。しかも「ANOTHER STARTING LINE」のレコーディングを担当したのは、活動休止前同様、ライアン・グリーン。CDを手にしたファンはもちろんだが、新曲を作ることを何よりも楽しんだのが、Hi-STANDARDの3人だったのだ。「GOOD JOB! RYAN TOUR 2016」と銘打ったツアーで、3人は2011年より目標にしていた、東北のライブハウスへ。同年12月には福岡 ヤフオク!ドームで「AIR JAM 2016」を開催した。新曲を作り、CDを出し、ツアーでライブハウスを回り、主催イベントを開催する。ようやくのバンドらしい活動に、メンバーの調子も上がっていった。

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 その後、Hi-STANDARDは2017年にアルバム「THE GIFT」を発売。2018年には18年ぶりとなる千葉マリンスタジアム(現:ZOZOマリンスタジアム)での「AIR JAM」を行なった。作中では描かれていないが、横山と難波はスプリットアルバム「Ken Yokoyama VS NAMBA69」も作り、2組でツアーも回った。

 ドキュメンタリーは、現在の3人の言葉で締めくくられる。そこで何が語られているかは、皆さんの目と耳で確かめてほしい。2000年ではなく、2018年に、Hi-STANDARDのドキュメンタリーが作られて、よかった。

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 私が音楽ライターとしてキャリアを積み始めた頃、恩師に「ライブレポートに、余計な言葉はいらない。目の前でバンドがカッコいいライブをやっているなら、それをそのまま書けばいいだけだ」と言われたことがある。すごく腑に落ちて、今でもすごく大切にしている。「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」を観て、この言葉を思い出した。構成としては、メンバー3人のインタビューと、当時の映像。それがほぼ時系列に映し出される。ただそれだけで、ドラマなのだ。本編の終盤、横山は言う。「ステージ上には3人しかいない。逆を言えば、自分以外にあと2人いるじゃないか」。そう思えるまでに3人が歩んできた道のりは、非常に過酷だった。しかし一つ一つに向かい合い、時には逃げ惑い、それでも乗り越える姿は、まさに人間らしい。彼らはただ音楽が好きで、面白いことが好きで、疑い深い一方で、仲間には愛情深くて。冒頭でも書いた通り、これはHi-STANDARDというバンドが成功するまでの話ではなく、不器用なほどにまっすぐな3人が、Hi-STANDARDというバンドを今日まで生きてきた話、明日からも生きていく話なのだ。

 もう1つ、この作品を見ていて思ったのは、どの場面にも、彼らの心情に寄り添うようなHi-STANDARDの楽曲があるということ。それはまた、Hi-STANDARDの3人だけでなく、毎日を生きる私たちの人生、誰にでも寄り添ってくれる音楽である。夢に向かう楽しさや不安、仲間との楽しい時間やいざこざ、別れ。最新アルバム「THE GIFT」では彼らは「We're all grown up(オレたちは大人になってしまった)」と歌っている。「Life goes on, how can I regret?(人生は続く 悔いることなんてないよ)」とも。

 DVDの2枚組盤には「ATTACK FROM THE FAR EAST 3」のDVDも付いている。こちらにはおバカでユニークで、明るくてハッピーなHi-STANDARDの姿が収められている。陰と陽、とでも言うべきか。Hi-STANDARDがこれほどまでに多くのキッズを熱狂させてきた所以が、この2枚でよくわかると思う。

 私事になるが、私は1年ほど前「もう音楽業界には戻らないと思います」と言って前職を辞めた。しかし結局、1年経って「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」のレビューを書いていて(機会をくださった方々にはめちゃくちゃ感謝してます。ありがとうございます!)、そんな自分の人生を「ハイスタみたいだな」と思ったりもしている。そしてこれからも自分の状況や気分に応じて、ハイスタの音楽を聴くんだろうと思う。大人になってしまった私にも寄り添ってくれる曲があるから。

 最後に。
 「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」「ATTACK FROM THE FAR EAST 3」どちらの映像にも、国内外、多くのライブハウスが登場する。改めて、ライブハウスの楽しさや大切さを思い出した。コロナ禍の影響を受けて、ライブハウスや関わる方が経済難などに見舞われています。どうか一刻も早い終息を迎え、また全国のライブハウスでパンクロックが鳴らされますように。
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[RELEASE INFO]

「SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD」
2020年4月22日(水)リリース
レーベル:PIZZA OF DEATH
DVD(1DISC)
PZBA-14 / 3500円(税抜)
DVD(2DISC)
PZBA-12,13 / 4500円(税抜)

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Hi-STANDARD ドキュメンタリー映画「SOUNDS LIKE SHIT the story of Hi-STANDARD」




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