INTERVIEW

Andrew「WAKEFiELD sessions」INTERVIEW!!

Interview by Chie Kobayashi
Photo by Taio Konishi


新型コロナウイルス感染拡大によりライブハウスの営業自粛が続く5月、サウンドエンジニアのAndrewが、自身のレコーディングスタジオ・WAKEFiELDよりライブを配信する企画「WAKEFiELD sessions」を立ち上げた。この企画は、“三密”を避けるため、メンバーが1日1人ずつ個別に一発録りで録音および録画を行い、最終日に最後の1人がそれにあわせて演奏する姿を生配信するというもの。これまでにCOUNTRY YARDやTHE CHERRY COKE$などが出演し、ライブを待ちわびていた多くのファンを喜ばせた。

未曾有の事態の中で、このアイデアをどのようにして形にしていったのか。同企画を始めたきっかけや当日までの苦悩、実施した手応えをAndrewにWAKEFiELDで聞いた。
 

弾き語りじゃなくてバンドが見たい

――まず、今回「WAKEFiELD sessions」を立ち上げた経緯を教えてください。
とにかく“何もしてない状態”が気持ち悪かったんです。こういう状況になって、スタジオ存続、バンド支援のために、自分は何ができるんだろうということをずっと考えていて。ずっと家にいても頭がおかしくなりそうだったので、3月末くらいからは毎日スタジオに行っては機材を見つめて「うーん……」って考えて、家に帰ってまた翌日来ての繰り返し。で、最初に思いついたのはCDを作ることでした。レコーディングスタジオだから、それができるのは当たり前だし。「WAKEFiELDオムニバス」みたいな感じで、このスタジオでレコーディングしたことあるバンドから、アコースティックとか未発表曲とかを募って……って考えたんだけど……なんか俺っぽくないなと思って。
――「俺っぽくない」というのは?
面白くないなと思ったんですよね、弾き語りの音源を俺が作るのって。瞬間的にはみんな買ってくれるだろうけど、なんか違うなと思って、声かけたバンドに「ごめん、やっぱなしで」ってすぐ連絡した(猛照)。で、同じ時期にCOUNTRY YARDのSit(Keisaku “Sit” Matsu-ura / B, Vo)と「弾き語りライブとかやらない?」って話をしていて。それが「WAKEFiELD sessions」の始まりかな。ただ、その話をしていたのが4月末頃で、インスタライブとかで弾き語りがやり尽くされていた時期。だから、みんな弾き語りよりもバンドが観たいんじゃないかなと思ったの。ただレコーディングブースの中にバンドメンバーが入っちゃうと密になっちゃうし、どうしたらバンドが見せられるんだろうと考えて、あの方法にたどり着いた感じです。
――「バンドを見たい」という発想がさすがですよね。
自分も現役でバンドをやっていることもあるし、せっかくスタジオから何かを発信できるのに弾き語りって、自分が観る側だったら面白くねえなって思ったんです。まあ、思いついてから実際にやるまでが地獄の日々で7キロ痩せるんですけど(笑)。でもやってよかったです。反響もすごくて。「音で感動しました」「ライブハウスみたいでした」「臨場感がこんなにあると思わなかったです」っていう、一番聞きたかった意見がたくさんもらえて。苦労してやった甲斐があったなと思いました。
――私も拝見していましたが、本当にライブハウスにいるような音で感激しました。
俺もテストで感動しちゃって。自分の仕事はサウンドエンジニアだから「音で感動させたい」というところだけは曲げたくなかったんですけど、「これだったら感動を届けられるんじゃないか」と思いました。あともう1つ、今回こだわったのがDIY。映像には映像のプロがいて、その人たちに頼めばいい映像が配信できるのはわかっていたけど、いきなり1回目でたくさんお金がかかってしまったら、当初の目的である、スタジオ存続とかバンド支援の意味がなくなってしまう。まずは試行錯誤しながらやってみようと。機材とにらめっこしていた3月末にも「絶対にここにある機材だけで何かできるはずだ」と考えていたし。だから配信を見てくれた人に、音で感動を届けられたのならよかったと思いました。俺にしかできないことができたと思いますね。インディーズ魂を見せられたかなと。
――映像の面でも、普段のライブだとなかなか見られないメンバーの手元や表情が見られて、配信ならではだなと思いました。
そうですね。素人なりに、普段はあんまりみんなが見られないような角度から撮ってみたりという工夫はしました。チケット代をもらってる以上、普段ではやらないようなトークをしたり、楽しめる何かエンタメ的なものがあると観てるみんなは喜ぶのかなと。まあ「お金を払ってもらっている以上失敗できない」という点で、頭を抱えて痩せていったんですけど(笑)。


 

観たい人がお金を払って、そのぶん満足してもらうクオリティで届ける

――1人ずつ収録していくという形の中で、発見したことや気付きなどはありますか?
レコーディングと映像収録の両方を一度にやるから、やり直しがきかない。だから1人でライブさながらに演奏するんですけど、その姿が人それぞれで面白かったですね。THE CHERRY COKE$で言えば、スズちゃん(suzuyo / A.Sax、T.Whistle)はメッセージを描いた画用紙をカメラに向けてたし、LFくん(B)は「飛び跳ねるスペースが欲しいから機材をずらしてくれ」って(笑)。あとはボーカルがない状態でコーラスも録るので、音程が外れてたり歌詞を間違えてたり、楽器が入りそびれてるところなんかもあるんですけど、全部そのまま使ってます。ライブだったらよくあることだから。COUNTRY YARDのときは初回だったこともあって、回線の調子が悪くて見られなかったところも多かったんだけど、それに対して「金返せ」って言ってくる人もいなかった。俺のキャラクターで助けられたとこもあるかもしれないけど、「ライブにトラブルはつきものでしょ?」ってことで多めに見てもらったところはあるかな(笑)。
――完璧な演奏を求めているのであれば、CDやMVでいいですもんね。出演した2組はどんな反応でした?
「ずっとライブをやってなくて感覚を忘れつつあったから、ライブの感覚を戻せてよかった」というようなことはみんな言っていたかな。Sitに関しては、実験のために配信の日まで何度もスタジオに来てもらって、何度も録ってたんですけど、その期間がボーカルのスキルアップにつながったと。言ってしまえば、メンバーが演奏したカラオケじゃないですか。それにあわせて何度も歌うことでかなり練習になったみたいです。「もし『明日ライブです』って言われて大丈夫だ」って言ってました。
――それこそなかなかスタジオにも入りづらい時期でしたしね。
KAT$UO(Vo)も、体力の衰えとかいろんなことに気付けたって言ってましたね。それと、ひさしぶりのライブのおかげで物販が動いたり、とにかくバンドが動いているところを見せられてよかったって。まだまだやらなきゃいけないことはたくさんありますけどね。チケットの販売方法もDIYだし。この先“密”が解けてきたらどうするのかとか、配信を1回で終わらせられないよなとか、次のことを考えてさらに痩せるんですけど(笑)。
――痩せすぎには気をつけていただきたいです(笑)。
ただ、この方法は、スタジオとかバンドだけじゃなくて、いろんな人を手助けできるんじゃないかなとも思ったんですよね。例えばここでの音作りを他のPAさんに仕事としてやってもらうとか。秋、冬までライブができないとなったら第一線で活躍してるバンドも若いこれからのバンドも「WAKEFiELD sessions」というコンテンツを使ってバンドの活動を見せられるし。サッカー観戦みたく、飲食店へ配信とかもできたら面白そう。考えればもっといろんな方法があると思いますね。
――「ライブを見るためにチケット代を払う」というのはファンからしたら当たり前のことですしね。
観たい人がそれに対してお金を払って、こっちはそのぶん満足してもらうクオリティで届ける。それでスタジオの家賃が払えるっていうイーブンな関係が美しいなと思った。なんならそこから、カメラマンさんや、PA、ローディーさんのギャラが支払えたらいいし。「WAKEFiELD sessions」では、映像の収録は俺が一人でやったんだけど、編集は映像を勉強してるっていう若いやつと一緒にやったんですよ。プロに支払う高い金額は支払えないけど、そいつは一生懸命やってくれて、「ものすごく勉強になった」と言ってくれて。バンドやスタッフの支援にもなるし、若い子の勉強する機会にもなる。俺がやりたかったことが、どんどんできていくと思いましたね。
――まさにインディーズ魂ですね。
東方神起のライブ配信とかも見たけど、次元が違った(笑)。それはそういう世界で、インディーズはインディーズでやっていきますんでって感じかな。

 

WAKEFiELDは音楽家の遊園地

――このスタジオについても話を聞かせてください。SitさんがWAKEFiELDにはよく遊びにくるというようなことを言っていましたが、このスタジオはどういう場所になっていると思いますか?
「創作意欲が湧く」ということはみんな言いますね。例えば俺がコントロールルームで作業してるときに、外からなんか聴こえるなと思ってロビーをのぞいたら、Sitがギター弾きながら歌ってて。「何歌ってるの?」って聞いたら「なんかひらめいて」みたいな。Northern19の(笠原)健太郎(G, Vo)なんかもそうで。レコーディングのときとか、家に帰らないでここで歌詞書いてます。楽しくていろんなことが思い浮かぶ、音楽家としての遊園地みたいな場所みたいですね。
――どうしてそういう場所になっているんだと思います?
俺がいるから?(猛爆) 世の中には真面目なスタジオも多くて、ハードコアな人たちはやりづらいと思うんですけど、ここには怖い人も来ますからね(笑)。ここでレコーディングするとみんな「レコーディングが好きになった」とか「レコーディングってこんなに楽しかったっけ?」と言うんですよ。レコーディングって、ダメなテイクを重ねていくと、どんどん空気が悪くなる。俺は自分がそういう空気を何百回も経験してるから、空気作りも意識していて。普通、レコーディングスタジオって、エンジニアがいて、アシスタントがいて、テープレコーダーを回す人がいて、「はい、じゃあ回します」ってきっちりやっていくんだけど、ここは何もないんですよ。俺のやり方でやるだけなんで。レコーディング中にBBQすることもあるし(笑)。なので、そういう俺のやり方で気持ちよくレコーディングできる人たちが集まるから、居心地がいいのかもしれないですね。
――それこそ、現役バンドマンのAndrewさんだからこそ、空気が悪くなっていくのを察知できるんでしょうしね。
そうだと思います。コミュニケーション取れないとエンジニアもライブのPAも務まらないと思うし。


――先ほど「配信を1回で終わらせられない」とおっしゃっていました。実際に「WAKEFiELD sessions」としてこれまでに4回やられましたけど、今後の展開などは考えているんですか?
レコーディングスタジオだからレコーディング優先にはなるけど、配信を終わりにするつもりはまったくなくて。お母さんになってライブにあまり行けなくなってしまった人とか、仕事が変わってライブいけなくなった人、海外に引っ越してしまった人、いろんな人のために、この配信というコンテンツは残しておくべきだなと思ってます。「WAKEFiELD sessions」だけじゃなくて、例えばバンドマンによるギター講座とかドラム講座とかもできるだろうし。あとは無料のコーナーも用意したりして。5Gになったら、映像も3DになったりVRを使ったり、アプリを使って観る人が音を触れるようになったり、さらにいろんなことができるようになると思うし。いろいろ考えてます。
――楽しみですね。
今回、“三密”NG時期にやった「WAKEFiELD sessions」の、別々に収録するというやり方って、このスタジオじゃなくてもできるじゃないですか。だから1回目が終わった後は俺のところにいろんな方面から相談が来るようになりましたね。お互いの情報交換したり。俺はとにかくあの時期に“給付金待ち”みたいになって何もしないのが嫌だった。その気持ちで始めた「WAKEFiELD sessions」だったけど、結果、いち早く動けたことで、今こうやっていろんなところから「何か一緒にできないですかね?」って声をもらえるようになって、本当にやってよかったなと思ってます。
――「何かできないかな」と頭を悩ませていた人にとって5月中旬の「WAKEFiELD sessions」は、大きな刺激やアイデアの参考になったんじゃないかと思います。
ですね。あれを観て刺激になった同業者もけっこういて。ライブハウスがこれまでと同じ収入を得るにはかなり大変だとは思うんですけど、それでもやるのとやらないので全然違う。あと、可能な限りライブハウスに足を運んでもらえるような合同企画をやってみたり。レコ発ツアー全公演中止になったバンドが、全会場に配信URLを渡して1日でライブハウス同時配信とか(笑)。発信元もライブハウス。レコ発ツアー1日で終了みたいなのも面白そう(笑)。「WAKEFiELD sessions」も未完成な部分がたくさんあるけど、スタジオから配信するというのは、せっかくひらめいたコンテンツなので、今後、いろいろなものに生かしていきたいですね。


 

WAKEFiELD SESSION5 [SHACHI]

2020年6月28日(日)
OPEN 20:00 / START 20:30
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