LIVE REPORT

WANIMA "Boil Down 2020" LIVE REPORT!!

Report by 山口智男
Photo by 瀧本JON…行秀

 

2020.12.17
WANIMA “Boil Down 2020”@東京ガーデンシアター


   寒い! 家の中にいても寒い。聞けば、今季一番の寒気が日本列島の上空に流れ込んだという。だからなのか。どんなに着込んでも、暖房をつけても寒い。そうだ! そんな日はWANIMAのライブを見よう。きっと身も心も激アツになるにちがいない。

 ご存じのとおり、新型コロナウイルス感染拡大を受け、19年11月15日にスタートした「COMINATCHA TOUR!! 2019-2020」を中断したため、WANIMAが有観客ライブを開催するのは、実に10か月ぶりのこととなる。メンバーたちはもちろん、ファンもこの日を待ち焦がれていたと思うが、今回、WANIMAがファンとの再会の場所に選んだのが、最大8,000人を収容できる東京ガーデンシアターだった。
感染防止のガイドラインに沿って、もちろん8,000人を入れることはできないが、アリーナを選んだことからは、できるだけ多くのファンに見て欲しいというバンドの思いが窺える。それと同時に彼らはもう、3階スタンド席からの眺めも壮観なアリーナが普通に似合うバンドなんだという感慨が、開演を待ちきれずに観客が始めた手拍子の音とともに今さらのように胸にこみあげてくる――。

 その瞬間、SE(この日のために作った新曲「Boil down」)が流れ、お揃いのジャケットを着た3人がステージに登場する。KENTA(Vo/Ba)は薄く色の入ったサングラスをかけている。KO-SHIN(Gt/Cho)は赤色の坊主頭。FUJI(Dr/Cho)は金髪を逆立てている。久しぶりに見る3人はさらに垢抜けた印象が感じられた。
FUJIが銅鑼をジャーンと鳴らす。そして、「Boil Down 2020、開催します!」というKENTAの開催宣言を合図に3人は「エル」から演奏になだれ込むと、曲間を空けずに「雨あがり」をたたみかけるように繋げる。そこで、配信ライブのカメラが捉えたのは3人が湛えた満面の笑み! それを見ただけでも3人がこの日をどれだけ待ち焦がれていたかが窺えるではないか。幸せな気持ちが胸いっぱいに広がった。
懐かしい2曲で早速、客席と家で配信ライブを見ている観客を盛り上げたところで、「我々とみなさんのBoil Down 2020が開催されました!」と改めて観客に語りかけたKENTAは言葉を繋げ、「やっと開催できました」と10か月ぶりに開催した有観客ライブに込めた思いを伝える。
「COMINATCHA!! TOURを中断したあと、(9月に)ZOZOマリンスタジアムで無観客の配信ライブをやって、改めてみんなの存在が必要なことがわかりました。この場所にいてくれてありがとうございます。みなさんと新しい一歩を踏み出したいと思います」

そして、「4万曲ある曲の中から3万曲やって帰ります!」とそこから1時間半にわたって、アンコールも含め全16曲を披露した。
この日のライブの大きな見どころは3つ。1つ目はやはりライブ・バンドとしての新たな覚悟とも言える、いつも以上に特別な思いが込められていたことだ。前掲のMCの中でKENTAが端的に言っているが、これまで当たり前のようにやってきたライブができなくなったことで、WANIMAの3人は改めて、ライブというものが観客とバンドが気持ちをやりとりしながら、一期一会の空間・時間を作り上げていくものだということを確認した上で、バンドを天職とする自分たちに何ができるかを考えたんじゃないか。
終盤、KENTAがバンドを代表して言った「無観客を経て、みんなと一歩踏み出したくて、何かできんかなと思って毎年できるイベントを考えました」という言葉からもそれは窺える。そして、その言葉に繋げた「生きとったら、思うようにならないことはあるけど、なんとかみんなが一歩踏みとどまれるように音楽を作っていくから。なんとか負けんようにおってくれるだけでいいから。何かあったらいつでもWANIMAを頼ってください。これからもWANIMAとともに生きてください」という言葉からは、彼らの中にある使命感がさらに大きなものになったことを想像させたのだった。


そして、2つ目の見どころは、「懐かしい曲もやっていけたらと思います」と序盤でKENTAが予告したとおり、インディーズ時代の代表曲が大半を占めていたセットリストだ。「絶対やらないと思っていた曲もやりたいと思います」とKENTAが言って、早速演奏した「いつもの流れ」では、あんまり久しぶりすぎて歌詞が飛ぶというハプニング、いや、別の意味での見どころも飛び出したが、昔からのファンに対する感謝の表れだったのか、それともライブハウスを熱狂の坩堝に変えていた頃の感覚を取り戻そうという狙いがあったのか、はたまた毎年やっていこうと考えているBoil Downというイベントのテーマがそうだったからなのか。ともあれ、配信ライブのコメント欄が「神セトリ」という言葉とともに沸いたこの日のセトリもまたレアという意味で特別なものに感じられた。

中でも人間なら誰でも持っている欲望をユーモラスに歌ったインディーズ時代の「いいから」「オドルヨル」の2曲と、観客を泣かせたせつないバラード「SNOW」、大切な人たちとの大事な時間を歌った「Milk」――割と最近の曲と言える2曲を交互に演奏して、WANIMAが持つやんちゃな魅力と叙情性を、そのギャップのインパクトともに印象づけた終盤の流れは、新旧の楽曲を織り交ぜることによって、よりダイナミックになったはず。

因みに、その「オドルヨル」で「ただでは帰さん!」と客席に挑んだKENTAは、観客が声を出せないことをわかった上で、「WANIMA!WANIMA! 足りない!足りない! Boil Down!Boil Down!」とコール&レスポンスを求めたのだが、観客の代わりにレスポンスするFUJIの声に加え、KENTAの中では観客の心の声がきっと聴こえていた……いや、それぐらいの気概を持って、やっていたに違いない。
そして、「飛び跳ねろ!」と客席を煽ると、そこから一転、人生の先輩が刻んできた皺の美しさを称える「Mom」をライブならではのアレンジでじっくりと聴かせ、観客の全員の胸にズシリとした感動を落とす。しかし、しんみりした締めくくりはWANIMAには似合わない。ダメ押しでもうひと盛り上がり欲しいと考えた3人がこの日、本編ラストに選んだのは「Hey Lady」。WANIMA流の明るい人生賛歌に拍手喝采が沸き起こった。


そこからアンコールを待つ間、それまでの流れを振り返りながら、筆者はWANIMAの楽曲が持つリズムのおもしろさを楽しんでいた自分に気づいた。それが3つ目の見どころだ。
マスクをした上で、飛沫防止のアクリル板を持ったKENTAが客席に降りていき、観客から募ったリクエストに応えた「1CHANCE」やアンコールで演奏した「HOPE」に顕著なスカおよびレゲエの裏打ちのリズムはもちろん、「雨あがり」のイントロでKO-SHINが奏でたファンキーなカッティングや、「Japanese Pride」のラップとも言えるKENTAのリズミカルな歌、「オドルヨル」でFUJIが打ち鳴らしたラテンのリズムなど、彼らの楽曲には多彩なリズム・アプローチ(と意外に多い曲中のいわゆるキメ)が散りばめられ、それがバンドの音楽性をユニークなものにしている。そのことを、この機会に今一度、思い出せたのは個人的にはちょっと得した気分になれた。そう言えば、WANIMAに対してミクスチャーなんて言葉も使われていたっけと不意にデビュー当時のことを思い出したが、この日、9月にサプライズリリースしたミニ・アルバム『Cheddar Flavor』から披露した「Milk」ではシャッフルのリズムがKO-SHINが奏でる厚い音色のリフとともに曲をダイナミックに響かせ、新境地を印象づけていたことを付け加えておきたい。


そして、最後の最後に《大丈夫》《その先へ》という歌詞を持つ「HOPE」を演奏しおえたところで、KENTAは「大切なことを忘れてました!」と来年、『Cheddar Flavor』をひっさげ、全国ツアー「Cheddar Flavor Tour 2021」を開催することを発表した。
「みんなと少しでも新しい一歩を踏み出せたらと思って開催します。楽しみにしてます。みんなも楽しみにしてくれたらいいな」
 この日、WANIMAが踏み出した一歩がここからどんな二歩目、三歩目……に繋がっていくのか楽しみにしている。



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