Ken Yokoyama “DEAD AT MEGA CITY” LIVE REPORT!!
Report by Chie Kobayashi
Photo by Teppei Kishida
2023.5.20 @日比谷公園大音楽堂
“DEAD AT MEGA CITY”
Ken Yokoyamaが“ロックの聖地”・日比谷公園大音楽堂にやってきた! ロックの聖地でありながら、初降臨となったのは、この会場が「座席あり」だからだ。
「俺たちはとにかくスタンディングにこだわってずっと活動してきたバンドでさ。前はこういう椅子ありの会場は自分たちの選択肢から100パーセント外れていた。特別なライブをどこでやろうかってときにも日比谷野音の『ひ』の字もなかった」と、横山健(Vo, G)は明かす。しかし彼らの考えを変えたのは、コロナ禍だった。「最初はつまんねえなと思ったよ。なんだけど、やっていくうちにこれはこれで面白いことがあると。カオスのライブじゃ得られないものがあると気付いて、速攻でこの会場を押さえてもらったら……2023年5月20日だったんだよ」
そうして迎えた2023年5月20日。前日までの天気予報は雨だったが、いざ当日になってみると雨は1ミリも降らず。心地よい五月晴れの日比谷野音には、立ち見エリアにまで多くの観客が集まり、開演前のアナウンスが始まるだけで、大きな歓声と拍手が送られるほど、観客もどこかそわそわしながらその幕開けを待っていた。そんな中、横山がうれしそうに手を大きく手を振りながらステージに登場すると、南英紀(Gt)、Jun Gray(Ba)、EKKUN(Dr)も笑顔で続く。
横山は「ようこそ、『DEAD AT MEGA CITY』へ! 俺たちこの会場でやるのは初めてです。楽しんで帰ってって!」と呼びかける。そして「1曲目はコレだ!」と言い放ってバンドが始めたのは、2008年に日本武道館で開催した“DEAD AT”シリーズの最初「DEAD AT BUDOKAN」のために作られた「Dead at Budokan」。さっそく盛大なシンガロングが会場に響き渡る。しかし横山はまだまだ物足りないとばかりに、さらにシンガロングを煽った。コロナ禍を経たとはいえ座席がある会場のライブに戸惑っている観客や、ひさしぶりの声出し解禁のライブに躊躇があった観客も、この日は多くいただろう。そんな観客の戸惑いや不安をも吹き飛ばそうとしているようかのようだ。彼らはそんな観客を見て「最高だな」と声を弾ませると、「Maybe Maybe」「I'm Going Now, I Love You」「4Wheels 9Lives」を続け、その熱量をさらに引き上げていく。コロナ禍真っ只中の2020年にリリースされたモータウン調の「Woh Oh」で観客の体を揺らしたと思えば、横山がステージにしゃがみこんでイントロを弾き始めた「Running On The Winding Road」では日が傾き少し冷たくなった風と相まってエモーショナルな空気で会場を包んだ。
横山は、この日のチケットが入手困難なプレミアムチケットになってしまったことに触れ「勝ち取る努力をしてこの場に来てくれてありがとう」と告げれば、客席からも「ありがとう!」と声が帰って来、そこに対し「こちらこそなんだよ」と返す。「次の曲は感謝の気持ちだな」と続けられるもんだから、「今日はいつになく素直だな」と思っていたところに「東京の真ん中でこんなこと言っていいのかっていう(笑)」と付け加えて、バンドは最新シングル収録曲の問題作(?)「Whatcha Gonna Do」をプレイ。「今の曲を野音の夕暮れにやりたいって言ったのは南ちゃんだったんだよ」と明かせば、南は「やってみて別にだった」と笑う。この緩急が、Ken Yokoyamaらしさだ。
「日もとっぷりくれていい感じになってきた。これを体験したかったんだよなぁ」と、自然の演出も堪能する。また声出し解禁に伴い、客席からもヤジや歓声が飛び交う。感嘆の声はもちろん、下ネタも多く飛び交い、横山ははしゃぎながら一つ一つ拾っては返していく。普段とは異なる環境、いつもと同じ空間。それぞれの良さをじっくり味わいながら、ライブは折り返し地点へ。ここでバンドは、受注販売限定でリリースした最新シングルの表題曲「Better Left Unsaid」をドロップ。新曲を持ってツアーを回る。「レコ発」という名目でイベントを打つ。ライブバンドにとって当たり前でもあり、そしてライブバンドとしての矜持でもある、この行為を、結成から20年経とうとする彼らもまた、当然大事にしている。ミディアムテンポに乗せた力強い最新曲を日比谷野音にしっかりと置いていった。
「I Won't Turn Off My Radio」では、それこそ“日がとっぷり暮れた”ことも利用した演出で、<暗闇を突き破って 誰かの想いを 光を 俺に届けてくれ>(和訳)と歌い奏でる4人の姿がシルエットのように浮かび上がり、より一層エモーショナルな雰囲気が場内に広がった。
客席からのヤジを受け思わずタバコを吸って落ち着かせたあと、改めて観客と向き合い「楽しいな」とポツリと呟いた横山。そして「本当は特別なライブには出てきて欲しい人がいるんだけど……。今日は俺がリードボーカルをやるから。いいものが届くようにやる」と誓い、チバユウスケ(The Birthday)をゲストボーカルに迎えて制作された「Brand New Cadillac」を丁寧にプレイ。演奏後には「チバくんとここでできたらいいな」とまたの共演に想いを馳せた。続く「Without You」の演奏前には今年2月に恒岡章が亡くなったことについて言及。「それより前に書いた曲だけど、(3月以降は)彼に捧げるつもりで俺はライブのたびにプレイしていた」「こうやって人前で話したり演奏したりしながら、少しずつ俺も受け入れる……って言うと変だけど、それは起こってしまったこととして納得していく、時間の助けを借りて、君らの力を借りて」と現在の心境を語る。そして胸を叩いたり空を指差したりしながら、パンクロックに乗せ盟友への想いを贈った。
その後も「Believer」や「Punk Rock Dream」など、Ken Yokoyamaのアンセムとも言える楽曲を次々と日比谷に響かせていく彼ら。横山はMCで「オールスタンディングの環境では見られないような……ぽろりもあるかもよ?」と笑っていたのだが、ステージ前方ギリギリまで進みできるかぎり観客の近くでギターを弾いたり、かと思えばメンバー4人で向かい合って息を合わせたり、終始うれしそうにステージに立ち続ける。同時に「このエリアが日本を動かしているとすると……次やる曲に意味あるのかな」と言い「Ricky Punks III」を演奏するなど、様々な想いを託した音楽を、高らかに鳴らしていった。
「特別な一夜になった気がするわ」と告げたあとに本編ラストとしてプレイされたのは横山いわく「思いっきり感謝を伝えた曲」だという「While I'm Still Around」。そしてアンコールでチョイスされたのは「I Love」と「You Are My Sunshine」。「While I'm Still Around」の演奏前に横山は「もうそろそろ感謝をちゃんと伝えないと、いつ会えなくなるかわかんないからさ。いつまでやれんのか、いつまで生きてるのか。明日のことはわかんないから、思ったときに口にするような歳になっちゃったよ」と想いを吐露していた。2024年に、結成から20年経つKen Yokoyama。その間にいくつもの天災があり、未曾有の病が流行し、ライブやバンドを取り巻く環境が変化した。また年齢を重ね、仲間の死や病気にも直面した。そんな彼らの20年は、しかし彼らのものだけでなく、この日足を運んだオーディエンスもまた、同じような日々を20年間送ってきたことだろう。その中で、Ken Yokoyamaというバンド、音楽に支えられた夜があって、彼らのライブを糧に過ごしてきた日々がある。そんな観客に対して、横山は最後に言った。「俺たち、また必ず会おうぜ」。そして澄み切った空を見上げたあと、ゆっくりとステージを歩いて、ステージをあとにした。
セットリスト
01. Dead at Budokan
02. Maybe Maybe
03. I'm Going Now, I Love You
04. 4Wheels 9Lives
05. Woh Oh
06. Running On The Winding Road
07. Whatcha Gonna Do
08. Let The Beat Carry On
09. How Many More Times
10. Helpless Romantic
11. Better Left Unsaid
12. I Won't Turn Off My Radio
13. Brand New Cadillac
14. Without You
15. THE SOUND OF SECRET MINDS(Hi-STANDARD)
16. Believer
17. Still I Got To Fight
18. Punk Rock Dream
19. Ricky Punks III
20. While I'm Still Around
<アンコール>
21. I Love
22. You Are My Sunshine