"MIXED HELL 2024" INTERVIEW!!
11月30日、“超多種多様”を謳ったメタル系フェス「MIXED HELL 2024」が川崎CLUB CITTA’で開催される。出演バンドは、ヘッドライナーのPassCodeを筆頭に、花冷え。、JILUKA、VMO、明日の叙景、kokeshi、KANDARIVAS、Launcher No.8(Opening Act)とまさに“超多種多様”。日本では類を見ないこのイベントの首謀者はメタル雑誌「ヘドバン」。2013年7月に“世の中をヘッドバンギングさせる本” として創刊した「ヘドバン」は、BABYMETALの誕生に衝撃を受けた編集長・梅沢氏がもつ独自の感性によって、日本のメタルシーンに新たな価値観をもたらした。今回、なぜ「MIXED HELL 2024」というフェスを開催するに至ったのか、「ヘドバン」創刊時から梅沢氏に振り返ってもらったのだが、実はSATANIC CARNIVALの存在も彼に大きな影響を与えていたのだった――。
Interview by Daishi Ato
――まずは梅沢さんが編集長を務める「ヘドバン」創刊のきっかけから聞かせてください。
BABYMETALが初めてシーンに登場したとき、「このアーティストをメタル側から紹介する媒体は一切ないだろうな」と思って、「じゃあ、自分でやろう」と思ったのがきっかけのひとつです。あとは、当時、日本の既存のメタル雑誌は扱うバンドが偏っているように感じて、「ヘドバン」の創刊号につけたキャッチコピーが<あれもメタル、これもメタル、それもメタル>なんですけど、自分なりのボーダレス……そこにはパンクも入るし、ミクスチャーも入るし、ラウドロックもV系も入ってくる。そういう、これまで日本のメタルが毛嫌いしてきたジャンルを全部ぶっこんだ1冊にしたくて。でも、それと同時にアイアン・メイデンとかジューダス・プリーストみたいなガチのメタルも載るっていう。特に初期は、ちょっとサブカルなテイストもある、「メタルごった煮本」にしたかったっていうのはありましたね。
――「ヘドバン」をメタル雑誌として認識しているパンクやラウド界隈のリスナーは多いと思うんですけど、実はKen YokoyamaやDragon Ashなんかも載ってるから、そういう人たちでも楽しめる要素は意外とけっこうあるんですよね。
そうですね。自分としては、掲載されてるジャンルの比率がパンク/ハードコア/ミクスチャーとV系とメタルで半々ぐらいになってもいいと思ってて。それぐらいのブレンド加減が自分の中でちょうどいいんですよね。アブリル・ラヴィーンを表紙にしたことがあるぐらいだし。でも、メタル雑誌と謳っている以上、メタルが7でそれ以外が3ぐらいになっちゃうんですけど、パンク特集をメインにもできるし、ラウドロック的なものやV系も扱えるという転がり方をしていきたいっていう気持ちはずっとあります。
――BABYMETALの登場が創刊のきっかけではありますけど、当時から今の「ヘドバン」のようなビジョンがあったんですね。
そうですね。自分自身、アンダーグラウンドのシーンが大好きだからそっちもやりたいけど、そればかりになるとただのファンジンになってしまう。だから、「ヘドバン」ではオーバーグラウンドなバンドもがっつりやりたいんです。そもそも、BABYMETAL自体がそうじゃないですか。縦軸を意識するだけじゃなく、横にも広がっていくっていう。
――たしかにそうですね。
自分としては、BABYMETALを扱っているのに縦しかやらないのは変だと思うんですよ。そうじゃなくて、BABYMETALがすごく幅が広いことやっているんだから、うちも同じように横幅を広くしたほうが面白いと思うし、むしろ彼女たち以上に広げたいと思っているところはありますね。以前、ミクスチャー特集をやったことがあるんですけど、あの号ではもっとヒップホップを掘り下げたかったんですよ。90年代にシンコーミュージックから出てたヒップホップ雑誌「FRONT」の編集長にもインタビューしたかったし、実はあの号ではアイス・キューブとアイスTにもインタビューのオファーをしていて。
――ええ⁉︎ それはすごい!
結局、彼らから返信はこなかったんですけど、ミクスチャー特集をやるからにはそれぐらい本気のことをやりたかったんですよ。そういう意味ではヒップホップも全然ウェルカムだし、舐達麻が表紙になってもいいと思ってます。
――おお、「ヘドバン」はメタル的な視野が広い雑誌だと認識していましたけど、そこまでだとは思っていませんでした。
メタルって人によって解釈は違うけど、海外のメタルフェスに行くと基本的に重たいギターが鳴ってればなんでもOKみたいな雰囲気があるんですよね。ヘッドライナーにはメタリカがいたりするけど、その枝葉にはグラインドコアもいれば、ブラックメタルやハードコアのステージがあったりする。それを「ヘドバン」でも誌面化するのが理想ですね。
――確かに、アメリカのメタルフェスでメタリカとバッド・レリジョンが同じステージに立ってもなんとも思わないですよね。日本だと「え?」ってなりそうだけど。
そうそう。そういうボーダレスな感じを誌面にも出したいけど、それだと商業誌として売るにはファンがブレてしまうから、ある程度絞らないといけないんですよね。
――そうやって地道に「ヘドバン」を作りつつ、それと並行して音楽イベントをやるというのはいつから意識していたことなんですか?
実は、2015年に人間椅子をヘッドライナーにしたイベント「HEADBANG HELL ON EARTH Vol.1」を新宿ReNYでやってるんですよ。2017年には、THE冠とベッド・インの2マンも主催していて。その後、コロナ禍になって止まってしまったけど、イベントはいつか復活させたいとずっと思ってたんですよね。
――でも、ここまで大きな規模での開催は初めてですよね。
これは別にSATANIC ENT.に載るから言うわけじゃないんですけど、SATANIC CARNIVALに対するメタルからの嫉妬みたいなもんですよ(笑)。
――あはは! 「メタルからの回答だ!」と言うならまだカッコがつきますけど(笑)。
いや、嫉妬(笑)。あんなにすごいレベルのイベントに対して「回答」だなんておこがましいですよ。激しく歯ぎしりしてます(笑)。
――それぐらいサタニックに対して思うところがあるんですね。
そうですね。サタニックはピザオブデスが中心となってラウド系の音楽を巻き込んでいるイベントですけど、そこにメタルは入ってないじゃないですか。自分としては、メタルを中心としながらパンクやハードコアも巻き込んでいきたいんですよね。でも、今の日本のメタルはイベントの軸にするにはちょっと弱い。それがもどかしくて。だから、サタニックを見ながら「いいなぁ……」ってうらやんでるという。
――あはは!
でも、海外だと逆で、メタルのほうが強いじゃないですか。ヘルフェストもそうだし、ダウンロードもそうだし。来年ワープド・ツアーが復活するけど、基本的に大きなパンクフェスはゼロなんですよ。あったとしてもすごく規模が小さい。そうやって海外のメタルフェスの隆盛を自分は実際に見てるから、こういうことを日本でやれたらいいなっていうのはずっと思ってました。
――なぜ日本と海外でそういう逆転現象が起こっているんだと思いますか?
これはもう、AIR JAMの影響が大きいんじゃないですか? これは自分の価値観なんですけど、自分が高校生だった80年代当時、メタルはカッコいいものだったんですよ。今の30代ぐらいの人たちがスリップノットに熱狂していたように、自分はメタリカがカッコいいと思ってて。だけど、いつの頃からか「ダサカッコいい」っていう、「ダサいのもカッコいい」みたいな新たなメタルの価値観や、メディアの過剰プッシュで日本だけ異常に人気がある“ビッグ・イン・ジャパン”と呼ばれるメタル系アーティストが出てきて、それによってどんどんガラパゴス化が進んでいくっていう。その結果、日本ではガチで古典的なメタルが増えていく一方、最先端の音を追い求めたメタル・バンドがいつしか日本ではラウドロックと呼ばれるようになっていったんですよね。そんな頃にHi-STANDARDがカジュアルでスポーティという新しい価値観でAIR JAMをはじめたものだから、そりゃあみんなそっちに流れますよね。そしてのちに、AIR JAMとラウドロックが合体して巨大化したものが結果としてSATANIC CARNIVALになったんじゃないかと個人的には思ってます。で、日本のメタルはどんどん先細って、パイが小さくなっていくという。
――世界的にはそんな現象は起こっていないのに。
むしろ、メタルが全てを取り込んで巨大化してますよね。
――そういう世界的な動きを見ていると余計にもどかしさがあると。
めちゃくちゃありますよ。それは本(「ヘドバン」)を作ったから余計に。売り上げにも響くし、今の日本のメタルの状況に関してはもどかしさだらけです。でも、去年開催された「NEX_FEST」が、メタルでもちゃんと取り組めば2万人も人が集まるんだっていうことを証明したじゃないですか。
――あのフェスは「俺たちが求めていたのはこれなんだよ!」っていうフィーリングがありましたもんね。
そうそう。YOASOBIやBABYMETALがいる一方で、アンダーグラウンドのKRUELTYやVMOもいる。でも、会場はパンパンになった。しかも、KRUELTYやVMO のライブを誰も見てない、なんてことにはならなかったじゃないですか。
――むしろ、かなり人がいました。
そう、それがすごく理想的だなと。あのフェスのラインナップに関して批判する人はいなかったじゃないですか。まあ、細かい意見まで拾ったらわからないですけど、少なくともあのフェスに対して「ちょっとひどかった」みたいな感想は一切聞かなかった。それは、今回自分で「MIXED HELL 2024」を開催するにあたってすごく影響を受けていますね。
――「MIXED HELL 2024」は今年、ヘドバンが満を持して開催するメタルフェスになるわけですが、やはり「NEX_FEST」からの影響はあったんですね。今回出演するバンドの幅広さに関しても「NEX_FEST」に背中を押されるところはありましたか。
めちゃくちゃありました。でも、今回は2年前なら実現しないメンツだったと思います。というのも、ここ2,3年の間に、根っこにメタルがあったり、メタルを取り込んだボーダレスで面白いバンドが日本のアンダーグランドから一気に出てきたんですよね。花冷え。しかり、kokeshiもしかり。花冷え。はメジャーデビューもしたし、VMOも「NEX_FEST」に出たことで名前が売れたし、今回は世の中に日本の新たなメタルを紹介するタイミングとしてすごくよかったと思います。
――なぜそういったバンドがここ数年で一気に台頭してきたんでしょうか。
アンチノックとかサイクロンで始まったバンドが「あいつらやべえよ」って言われるようになるまでに2年ぐらいはかかると思うんですよ。そこに自分がうまく反応できたのもあるけど、どのバンドもコロナ禍の間に溜まっていたものが爆発したり、あの頃にグッと溜めこんでいたアイデアがのちに個性の強さにつながっていったのは感じますね。
――今回、「MIXED HELL 2024」を開催するにあたって、どういうことを意識してバンドに声をかけていったんでしょうか。
海外のメタルファンが日本のシーンを見たときに、「なんで日本にはこんなに幅広いバンドがいるんだろう」と思うと思うんですよ。もちろん、海外にもいろんなバンドはいるんですけど、日本のバンドはより個性が強いというか。だから、海外の人たちが見て、「うわ、日本だとこんなにいろんなバンドを集められちゃうのか。行きたいけど金ねえや、うらやましいな」って思うようなイベントにしたかったんですよね。実際、日本人は海外のフェスを見てそう思うじゃないですか。
――それはイベントの指針としてすごくわかりやすいです。そして、全出演バンドの解禁と同時にチケット販売がはじまりましたけど、すごい勢いで売れていったそうで。驚いているんじゃないですか?
チケットの売れ行きに関しては全く読めなかったというのが正直なところで。やっぱり、「MIXED HELL」は新しい試みじゃないですか。JILUKAみたいなV系バンドもいれば、KANDARIVASみたいなグラインドコアもいるし、kokeshiもいるし、明日の叙景もいるし、PassCodeもいるっていう。だから、「ヘドバン」創刊時と同じような感覚で、自分が世に問うたあとのことが全く読めないっていうのはありました。漠然と「成功するかもな」っていう感覚はあったけど、100パーセントの自信はなかった。でも、「これはいける!」っていう感覚が自分の中にある程度ないとスイッチは押せないじゃないですか。
――今ってフェスに関するいろんなノウハウが蓄積されてるし、極端な話、ビッグデータを駆使すればある程度集客できるフェスの開催自体はできるのかもしれないけど、それって世間の好みに主催者側が寄っていってるだけで、決して刺激的な内容にはならないですよね。
そうですね。今、フェスが乱立状態になってますけど、どこも同じメンツで新鮮味がないですよね。ラインナップを見ても「ああ、そうなんだ」っていう感想しか出ない。だから、「この組み合わせだったら観たい!」っていう刺激を自ら求めていった結果、こういうイベントを開催しようと思ったところもあります。
――イベント当日はどんなことになりますかね。これも読めないですね。
でも、オープニングアクトのLauncher No.8から観たいっていう人もけっこういるし、最初から来てくださるお客さんは多いんじゃないかなと思ってます。でも、本当に長丁場なので、みんなバテバテになるんじゃないかと(笑)。まあ、音楽性が多様なのでずっとサークルモッシュやダイヴで暴れる感じにはならないと思うし、みなさんに面白がってもらえるんじゃないかなと。自分もお金を払って観たいぐらいですよ(笑)。
――「MIXED HELL」は今後、どうなっていくんでしょうか。
「MIXED HELL」という名前を付けたからには、ジャンルを混ぜるのは必須ですよね。核はメタルだけど、いろんなバンドさんやアーティストさんを観てもらえるようなものにできたらとは思ってます。あと、アンダーグラウンドフェスにはしたくないけど、徐々に規模を拡大していくなかで、アンダーグラウンドのすごいバンドを「こういう人たちがいるんだよ」ってたくさんの人に紹介できたらいいですね。たとえば、今回出演してもらうKANDARIVASなんて、グラインドコアに詳しくない人が観ても絶対楽しいと思うんですよ。だから、今後もそういうバンドを見つけたらどんどん声をかけさせてもらいたいですね。そういう意味でも、サタニックがうらやましい(笑)。
――あはは!
サタニックは、まだSATANIC CARNIVALには出られないようなバンドをSATANIC PARTYという形で呼んだりしてるじゃないですか。そうやってバンドをフォローする感じもすごくいいし、自分もメタルに軸をズラしてそういうことをやりたいですね。
――じゃあ、ライバルはサタニックだと。
いやあ! ライバルだなんておこがましい! でも、いつかは「MIXED HELL」も幕張メッセまで到達できたらいいなと思ってます。理想をいうと、いつか野外でやりたいんですよ。メタルバンドもいるし、ハードコアバンドもいるし、V系もいるし、ヒップホップのクルーもいるんだけど、親子が観に来てたり。しかも、お揃いのメタルTシャツを着て。ハードルはすごく高いけど、そういうことをやりたいですね。
――最終的に梅沢さんが目指すのは、日本におけるメタルカルチャーの復権なんですね。
「MIXED HELL」はメタル系フェスを謳っているので、今後も「これもメタルって呼んでいいんだよ。メタル成分が少しでもあればメタルなんだよ」っていうことを伝えていきたいし、「MIXED HELL」がそういうバンドにたくさん出てもらえるような場になれたら、日本でももう一度メタルカルチャーが広がっていくんじゃないかと自分は信じています。
MIXED HELL 2024
2024/11/30 sat.
@ 川崎 CLUB CITTA’
OPEN 13:00 / START 14:00
ACT:PassCode / 花冷え。 / JILUKA / VMO / 明日の叙景 / kokeshi / KANDARIVAS / Launcher No.8(Opening Act)
前売りチケット: ¥6,980(税込・ドリンク代別・オールスタンディング)
主催・企画制作:ヘドバン / CITTA'WORKS
Info. チッタワークス 044-276-8841(平日12:00〜13:00 / 15:00〜18:00)
OFFICIAL HP>>>https://mixedhell.site/