INTERVIEW

【Livehouse's voice 】Vol.1 西村仁志さん(LIVE HOUSE FEVER)

Interview by Chie Kobayashi
Photo by Taio Konishi


バンドシーンを語るうえで、欠かせない存在なのが全国のライブハウス。アーティストがライブのMCなどで、名物店長のエピソードを語ることもあり、出演者のみならず、店長の話を聞いてみたいというファンも多いはず。

ということで全国のライブハウスの店長へのインタビュー連載が始動。初回は2009年3月オープンの、東京・新代田にあるLIVE HOUSE FEVERへ。新代田駅の目の前、ライブハウスでは珍しい透明の自動扉、飲食店・POPOが併設された広い空間。いわゆるライブハウスのイメージとは一線を画すライブハウスを作った理由とは? 西村仁志店長に聞いた。

※このインタビューは3月末に行ったものです。FEVERは現在、新型コロナウイルスの感染リスクを考えて配信も含めて自粛期間としています。

 

間口の広いライブハウスを目指して

――最初に、LIVE HOUSE FEVERを作った経緯を教えてください。

それまで下北沢SHELTERの店長を10年近くやらせてもらっていて。30歳を過ぎたくらいから「自分でライブハウスができたらいいな」と思うようになり、店長を辞めて1年後にFEVERをオープンしました。

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――「自分でライブハウスができたら」と思うようになったのはどうしてですか?

もっと自由にやりたいなと思ったんです。SHELTERでもけっこう自由にやらせてもらってたんですけど、会社に所属している以上、そう言ってられないこともあって。言ってしまえば「好きなバンドにばっかり出てもらいたい」みたいなことなんですけど、もっと好き勝手に面白いことができたらいいなと思って、決意しました。

――FEVERには、出演するアーティストのジャンルもライブの形も、多種多様な印象があります。それは前職での「もっと自由に」という気持ちがあったからなんですね。

そうですね。「何かに特化する」というよりも自由度の高いライブハウスにしたかった。あと「怖くて暗くて狭い、臭い」というイメージとは違う、間口の広いライブハウスにしたくて。

――変な話、「“怖くて暗くて狭い”のがライブハウスだ」みたいな考えもあると思うのですが、そこを踏襲しなかったのはなぜですか?

自分が30代になると、周りの同世代のバンドマンも、家族ができて子供ができて。そうなったとき、完全にクローズドの空間よりも、ちょっと緩みがあったほうが、家族と一緒に来やすいんじゃないかなと思ったんです。それまで、東京のライブハウスって、扉開けてすぐ「ジャーン」って感じだったんで。そうじゃなくて、音が鳴ってる空間のほかに、逃げ場があったり、ゆっくりお茶ができるところが併設されていたりしたらいいなと。あと、ライブハウスの象徴的な、重たい防音扉。あれがけっこう、ライブハウスを怖いイメージにさせていると思うんですよね。それをなくしたいと思って……なんならうちは最初の扉、自動扉ですからね(笑)。「そこをクリアした勇者だけが集う場所」というイメージから、誰でも楽しめる場所にしたいなあというのは、最初に思いましたね。

――FEVERは外観もおしゃれですしね。

入り口だけ見たらライブハウスだと思わない方も多いと思います。オープン当初は「ここでいいのかな?」と不安げなお客さんも多かったですし。そもそも新代田という土地にも馴染みがない方が多くて。今も渋谷や新宿に比べたらまだまだですけどね。

――今では「新代田=FEVER」というイメージも定着してきましたよね。

そう言ってもらえるとありがたいです。すぐ近くで「RR-coffee tea beer books-」(https://rrknnn.tumblr.com/)というコーヒー屋さんもやっているんですけど、そこに新代田に引越しをしてきたという方がいらして。「なんで新代田だったんですか?」と聞いたら「友達に『新代田ってカッコいいライブハウスがあるらしいよ』って言われて決めたんです」と言われたことがあって。それはうれしかったですね。

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――そもそも西村さんがライブハウスで働きたいと思ったきっかけは何だったんですか?

音楽がすごく好きになったと思うのは小学生高学年くらいかな。音楽好きの姉がいて、小学生くらいから姉貴の部屋でCDを聴いていたのが始まりです。中学生では友達と「バンドできたらいいね」って言いながらギターをチャカチャカ鳴らしてて。その頃、友達の間にスケボーブームが来たんです。そのときに見ていたスケボーの映像のBGMとして流れてたのが、俗にいうメロディックパンク。GREEN DAYとかOperation Ivyとか。「最近はこういうバンドがカッコいいんだね!」みたいな話をして、聴くようになりました。でも同時にBOOWY、ユニコーン、Xとかも聴いていて、ごちゃ混ぜでコピーバンドをするようになった。そんなときに出会ったのがHi-STANDARDで。「日本にもこんなにカッコいいバンドがいるんだ!」と、調べていくうちに“ライブハウス”という場所があることを知りました。高校生のときに、ハイスタがライブをすると聞いてライブハウスへ行ってみたんですけど、「当日券はもうないよ」って言われて帰ってきたこともありましたね。

――そこからライブハウスに興味を持ち始めたと。

はい。それが高校生の頃だったので、卒業後、音響の学校に進んで。並行してSHELTERで働き始めたのが19歳でした。だけど働いているうちに「俺、音響よりもブッキングのほうが好きかも」と思い、そこから自分のキャリアが始まりました。
 

笑って終われて、その日のビールがうまい

――これまでFEVERで開催されたライブの中で、西村さんが一番印象に残っているライブや出来事は何ですか?

あまりしたくない話ではあるんですけど……milkcowのボーカルのツルさんがフロアで火を吹いて。その火がエアコンに付いてバーっと広がったことですね。今はもう笑い話にしてますけど(笑)。そのときに燃えたエアコンのフィルターは事務所に飾ってあります、「これは教訓にしよう」ということで。

――なんというか……milkcowらしいエピソードですね。

milkcowがライブで火を吹き出した頃から「今日はどうします?」という相談をした上で、ライブをやってもらっていたんですけどね。ライブハウスとしてはもちろん火を使うことはOKとはしてないんですけど、milkcowに限らず、ライブ中にポッと火を燃やす人はいて。そのたびに「やめてくれ」とは思ってるんですけど、心のどこかで「面白え」と思っちゃってる自分もいて。それこそ会社に属していたら、始末書とかあるのかもしれないけど、俺は基本怒らない。もちろん誰かがケガをしてしまったり、何かあったらよくないですけど。終わった時に「最高でしたよー!」って言えたらいいと思っていて。危険の伴うハードコアでも、優しいポップスでも、笑って終われて、その日のビールがうまい、そんな1日を作れるように常日頃心がけています。

――「火を使うパフォーマンスを見て、やめてくれと思う一方で、面白がっている自分もいる」というところが、西村さんが多くのアーティストから愛される所以なんでしょうね。

そうなんですかね(笑)。言い方悪くなっちゃいますけど、人間としてはダメだけど、ステージに立ったらすげーカッコいいっていうバンドマンっていっぱいいるじゃないですか。自分が若い頃、そういう人をたくさん見てきているから「ステージの上でカッコよかったら全部許せる」っていう考え方が、根本的に自分の中にあるんだと思います。
 

10周年でようやくtoeが出演

――そのほかに印象的だった出来事や感銘を受けたライブはありますか?

正直、オープンしてすぐはがむしゃらにやっていたので、あまり覚えていないんですけど、FEVERができた翌月に、カナダのパンクバンド・NOMEANSNOに出てもらったのはすごく覚えています。キャリアのあるパンクバンドで、すごく好きだったので、テンションが上がりましたね。あれはうれしかった。

――オープンの翌月だと、励みにもなりますよね。

はい。あと、実はFEVERの設計はtoeの山嵜(廣和)さんがやってくれたんです。で、「toe、いつ出てくれますか?」って話をしてたんですけど……去年ようやく出てくれました。初めは本当にタイミングが合わなくて。でも5、6年経ったくらいから「こうなったらもう10年目とか節目のときに出てもらったほうがいいんじゃないか」と思うようになって、10年目にやっと出てくれました。それこそ、さっき話に出たツルさんは実は厨房機材などの調達に力を貸してくれたり、そういう意味でもFEVERはいろんなバンドマンに支えられてますね。

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――そうなんですね。

話をしていて思い出したんですけど、Suchmosも昔、うちのブッキングライブで出てもらってたんです。お客さんが1桁だったこともあって。でも当時からカッコよかったので、世間と波長が合ってガッと売れていく姿を見られたのは面白かったですね。FEVERはライブハウスの中では広さがあるほうだと思うので、「初ライブがFEVERでした」みたいなバンドはあんまりいないんですけど……でもゼロから始まったバンドがカッコよくなっていくバックアップもしたいなと思っています。デモテープ……って言い方でいいのかな(笑)、デモテープ? 音源? YouTubeのライブ映像? 形は限定しないので、興味があるバンドはぜひ送ってください!
 

FEVERでのライブ体験が明日の活力になれば

――FEVERはいろいろな動きが早いという印象もあります。例えば子供用のイヤーマフの導入。

確かにイヤーマフの導入は早かったと思います。うちが流行らせたつもりはないんですけど、導入当初「どこに売ってるんですか?」みたいなことはよく聞かれましたね。イヤーマフを付けなきゃダメとは言いませんが、ありがたがられることも多くて。お子さんをライブハウスに連れて行くこと自体、いいか悪いかという話はあると思うんですけど、でもどうしてもライブを見たいお母さんや、ライブをしていて家族に見てもらいたいお父さんっていっぱいいるので、その中で、来てくれた人全員が楽しめる環境を作りたい。とにかく、FEVERでライブを見て、喜んで帰ってもらいたいんです。それが明日への活力になったらいいなと思います。

――新型コロナウイルス感染拡大防止のため、各地でライブの中止が相次ぐ中での無観客ライブのYouTube配信、チャンネルの収益化を始めたのも、FEVERはかなり早かったですよね。

普段からライブがない日は掃除に充てることが多いんですけど、さすがに中止が続いて、やることがなくなっちゃうなと。いつまでこの状況が続くかわからないという中で、前向きな姿勢がないのは嫌だったんです。何か面白いことを探してアクションを起こしてないとと思って。

――そこでYouTubeチャンネルを開設したんですね。

はい。ライブハウスとしての存在意義も含めていろいろ考えて、ライブ配信だったらハマるなと思いました。ライブ配信って、ライブハウスからしたら敵みたいなイメージがあったんですよ。それによって動員が落ちてしまう懸念もあったので。でも今の状況では、生配信することで、ライブに行きたい人の気持ちが少しでも晴れるんじゃないかなと。初めてそのアーティストのライブを見るきっかけにもなるし、さらにスーパーチャットを使えば、バンドを含めて関わってる人の利益にもつながる。そこで手探りながらスタッフ一丸となって、アクションを起こした感じです。またライブができる状況になったときには「FEVERではライブ配信もできる」というのも、強みの1つになりますし。

――ライブハウスに行くお客さんもライブハウスを守る方法として、ライブに行って、ドリンク代を払うことくらいしかわからないと思うので、本当にみんなが戸惑っているのが現状ですよね。

そうなんですよね。僕は、バンドとライブハウスとお客さんが三角形であることが美しいと思っているんです。対等であるべきで、どれかが欠けると、ほかの2つは困っちゃう。だからこそ三角形をキープしていきたい。今回の件で「こんなにライブハウスを応援してくれてる人がいるんだなあ」と思ったんです。もちろん批判的な意見もありましたけど、ライブハウスはもともと絶対的多数に好かれてる場所ではないので。その中で、好きでいてくれる人にはもちろん、そうでない人にも広がりのある何かができればいいなとは思ってます。ライブハウスって面白いところだと思うんですよね。普通じゃありえない経験ができる場所。だからこれまでライブハウスに対して批判的な目で見ていた人にも、それこそライブ配信などを通して、興味を持ってもらって、1回くらいライブハウスに来てもらえたらなと思っています。

――ライブハウス、本当に面白い場所ですよね。

音楽もライブも、なくても生活ができるとは思うんです。でも、特にライブハウスが好きと言ってくれるお客さんは、衣食住の、その次くらいには入ってる人もすごく多い。“食”を削ってライブに行くとか、洋服代を少し削ってライブに行くとか。そういう人がもっと増えたらいいなと思います。それから……新代田って「こんなに何もない街ある!?」って思うくらい、何もない街なんですけど(笑)、FEVERがあって、「LFR」(http://listenandfood.red/)というレコード屋さん兼飲み屋さんがあって、「新代田Crossing」(http://crossing.pw/)という弾き語りのライブハウスがあって、「Cafe2st」(https://www.second-drip.com/)っていうレコーディングスタジオもあって、実は「音楽の街」っぽさもあるんです。今後、大きな街になっていくとは思わないんですけど、面白いお店が多いので、ライブの日、少し早めに新代田に来て、いろんなお店を見てみたり、ライブ終わりには世田谷代田や代田橋のほうへ足を伸ばして飲み屋街に行ってみたりと、新代田の街ごと楽しんでもらえたらうれしいです。

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■ライブハウス支援プロジェクト「MUSIC UNITES AGAINST COVID-19」
約70組のアーティストが楽曲を無償提供。楽曲購入者が、支援先のライブハウス、金額を自由に選べるシステムです。
http://savelivehouse.com
※4月20日追記しました