COUNTRY YARD "The Roots Evolved Tour” LIVE REPORT!!
Report by Tomoo Yamaguchi
Photo by Toma
2021.3.26
COUNTRY YARD "The Roots Evolved Tour” @渋谷WWW X
開演前に念押しとして、モッシュ、ダイブをはじめ、新型コロナウイルス感染防止ガイドラインを遵守するための禁止事項がアナウンスされたが、COUNTRY YARDが唯一無二の音楽と伝えたいメッセージ、そして逆境を違う角度から見ることができる聡明さを持っていることを思えば、これまでどおりのライブができないことが不利になるなどということは、これっぽっちもなかったように思う。
しかも、中止と延期という紆余曲折を経て、ようやく開催に漕ぎつけた4thフルアルバム『The Roots Evolved』のリリース・ツアーだ。ライブを観られるだけで御の字というファンは少なくなかったに違いない。しかし、もちろんCOUNTRY YARDは、そこでファンに甘えたり、逆境をエクスキューズにしたりするようなバンドではない。
「(コロナ禍によって)何か変わった気になってんじゃねえぞ! 音楽は何も変わらねえぞ!」
序盤、Keisaku “Sit” Matsu-ura(Ba/Vo)が言い放った言葉からもコロナ禍なんかに屈してたまるかという向こう意気が伝わってきた。その意味では、この日一番の収穫は、「(観客が)ダイブしている時も(今日みたいに)棒立ちの時も気持ちは変わらない気がする。だから、ここは何も変わってない。むしろ成長している」という言葉を、最後の最後に口から聞けたことだろう。その言葉を聞けただけでもこの日、会場に足を運んだ甲斐は大いにあったと思う。そんなことを言えたのは、バンドがこの日のライブに大きな手応えを感じていたからこそ。どんなライブだったのか、順を追って振り返っていこう。
ライブは、『The Roots Evolved』のトップを飾る「Passion」のサビのコーラスを、いきなりSitが歌い上げるという音源とは違うアレンジで意表を突くようにスタート。ミッドテンポのムーディーな曲調がBメロから2ビートに変化。Yu-ki Miyamoto(Gt/Cho)とHayato Mochizuki(Gt/Cho)がハーモニーを重ねながらぐんぐんと熱を帯び始めた演奏に応えるようにフロアから拳が上がる。それを見たSitはそれまでの緊張が一気に解けたのか、思わず破顔一笑。1曲目から確実にペースを掴んだバンドがそこから、曲間でもアンビエントな音色を奏でながら繋げていったのは、『The Roots Evolved』の収録曲を軸にした新旧の代表曲の数々だった。
2ビートに乗せたグルーブの大きな歌と1曲の中でリズムが大胆に変わるShunichi Asanuma(Dr)のドラムプレイが印象的な4曲目の「Turn On, Tune In」が終わったところで、「みんな元気だった? 元気じゃなかった人たちは今日、元気になって帰ってほしい」と改めて観客に挨拶したSitは続けて、この日、ステージに立つ上での心構えをしっかりと言葉で伝えたのだった。
「過ぎていったこと、実現しなかったことを話してもつまらない。やっていけること、やっていきたいことを語りながら自分たちを思いっきり見てもらいたい。(全公演、ゲストを迎える予定だった)ツアーは全部、ワンマンになったけど、(見方を変えれば)かっこいいバンドのかっこいい曲をたくさんやる時間があるってこと。おなかいっぱいになって、幸せな気分になって帰ってください」
そこからバンドはダイナミックなギター・リフを持つアンセミックな「Tonight」、「暗い夜の人は自分で星を作ってくれ!」と明るい曲調に思いを込めた「Starry Night」と繋げていった。後者ではSitのメッセージの応え、観客全員が拳を挙げ、その光景をステージ後方からのライトが照らし出すという演出が心憎かった。
バンドと観客の気持ちが1つになったことを祝福するそこには、まさにライブならではの醍醐味があったと思うが、Sitが言った「かっこいい曲をたくさんやる時間がある」が、この日の大きなテーマだったとしたら、一番の見どころはやはり、トラッド・フォーキーな魅力が歌に感じられるバラードの「Son Of The Sun」からの中盤のセットだったんじゃないか。
「Purple Days」のディレイを掛け、音色を揺らしたギター・プレイとドラムの4つ打ち、「Not A Stairway」のアンビエントな音像と2ビートの組み合わせ、「Moon July」の絶妙に変化しながらひっかかりを残すリズム・アレンジ――このセットでバンドが印象づけたのは、メロディック・パンクの範疇に収まりきらない、彼らのウェブサイトで使われている言葉を借りるならそれこそネオ・オルタナティブなユニークなサウンドだった。
その魅力はモッシュやダイブせずに、じっくりと聴くことによって、より伝わったはず。以前のようにモッシュやダイブができないことが何一つ不利にならなかったと筆者が言ったのは、そこだ。
後半戦の幕開けとなった新曲「Alarm」もシャッフルのリズムをはじめ、レトロなブルース・ロックを思わせる曲調が、COUNTRY YARDが持つユニークさを物語るという意味で、この日のライヴに相応しかったと思う。因みに、その「Alarm」を収録した手作り感満載のシングルが会場および通販のみの販売という、ちょっと入手しづらい形のリリースになったのは、Miyamoto曰く「コロナ禍の影響でライブができない間、ライブ以外の楽しみを見つけたかもしれないみんなに待っていてもらうには、バンドあるいは現物を追ってもらうのがいい」と考えたからだそうだ。
そして、「Quark」「In Your Room」とたたみかけ、観客が体を揺らしながら手拍子で応え、一際大きな盛り上がりを作りあげると、興奮を抑えきれなかったのだろう、持ち替えたベースにシールドを差すことも忘れてSitが語ったのは、観客との新たな約束だった。
「これから(のこと)は自分たちが作っていく。たぐりよせなきゃ、待っていても来ない。自分たちで天井や壁を作らず、やりたいことをやりながら、笑って、たまに悲しんで、起き上がって、前を向いていきます。どうかみなさん、ゆっくり楽しんでいきましょう。音楽を嫌いになることもあるかもしれない。でもまた好きになる時が来る。俺たちはあきらめず、元気にやっていきます」
ラストスパートが「When I Was Young」「Orb」と聴かせる曲というところがCOUNTRY YARDらしい。そして、「笑顔はどこまでも届いて、他の人を笑顔にするんじゃないか」とSitが言いながら、本編最後を「Smiles For Miles」で締めくくったあと、アンコールに応えたバンドを代表して、Sitの口から出てきたのが前掲の「ダイブしている時も、棒立ちの時も気持ちは変わらない気がする。だから、ここは何も変わってない。むしろ成長している」だったのだ。そして、「かっこいいものを見せていきます。大事な曲を最後に」とダメ押しでSitが新たな決意を言葉にしたあと、ステージの4人が向かい合い、ジャム・セッションからなだれ込んだのが「Don't Worry, We Can Recover」だったのだ。
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