HEY-SMITH「Back To Basics」INTERVIEW!!
Interview by Chie Kobayashi
Photo by Shingo Tamai
HEY-SMITHがニューシングル「Back To Basics」をライブ会場限定でリリースする。コロナ禍に制作したという今作は、制作過程から楽曲に込めた思いまで、これまでとは異なる点が多かったという。猪狩秀平(Vo, G)に話を聞いた。
猪狩秀平、YouTubeはじめます。
──6月からYouTubeを始められましたね。反響はいかがですか?
フェスとかで、お客さんから「ライブ行きました」じゃなくて「YouTube見ました」って言われることが多くて、みんな見てくれてるんやなって。YouTuberとバンドマン、がんばって両立しようと思ってます。
──初回の動画で「HEY-SMITHやバンドシーンを広められたら」と、YouTubeを始めた理由を語られていましたが、そのあたりの実感はありますか?
それはまだ全然ですね。ただ、俺のYouTubeを見て「そういう見せ方もあるんや」ってバンドマンがみんなYouTube始めてくれたらいいなーって思ってて。それが結果的にバンドとかライブハウスの支援にもつながってくると思うので。例えば格闘技ってYouTubeすごいんですよね。選手のほとんどがYouTubeやってて、結果、ファンが増えてこの間の「RIZIN」では東京ドームを埋められてるわけで。バンド界もそうなったらいいなと思ってます。
──ただ、その一方で、HEY-SMITHはずっと「ダウンロードやテレビじゃなくてライブ」というメッセージを掲げてきていたので、猪狩さんがYouTubeを始めたのは少し意外だったんですよね。
あー、そういう抵抗感も最初はもちろんありました。けど、YouTubeってほかのメディアに比べたら、発信するのに向いてるんじゃないかと思って。用意されたコメントとかじゃなく、本当のことを発信できるから。それに最終的にはライブを観てほしいのは変わらなくて、ただ、そのきっかけを作りたいっていう話かな。もうテレビも観ない、CDも聞かない、YouTubeしか観ないっていう人もいるから、そういう人に向けて「こういうシーンがあるで」って発信しておかなアカンなと思った。
──その危機感みたいなものを感じたのには何かきっかけがあったんですか?
シーンが停滞してるなと思って。別に狭まってはいないけど、大きなムーブメントになるわけでもなく。これだけ一生懸命に車輪を漕いでも停滞してるんやったら、車輪の数を増やさなアカンのちゃうかなと。
──その停滞感はいつ頃から感じ始めたんですか?
やりながらずっと。もう10年くらいはずっと感じてたかな。シーンがめちゃくちゃ広がってほしいわけでもないねんけど、選択肢にすら入ってないっていうのはよくないなと思ってて。このシーンって閉鎖的やから。そこがいいところでもあるんやけど。だからYouTubeも例えば「巨大グミ食べてみた」とかばっかりやるつもりもないんやけど、カルチャーばっかり発信しても結局知ってる人しか見なくなっちゃうから、いろいろ織り交ぜつつやりたいなと思ってます。
とにかくいい曲が作りたかった
──YouTubeを始めたのには、コロナ禍やそれに伴う自粛期間が影響していますか?
してます、してます。自分は表現者のつもりやから、ライブがなくなったときに「表現する場所がないやん!」という危機感があって。何か自分が表現する場所を持ちたいっていう気持ちがYouTubeを始めるキッカケにつながったかな。
──最近のライブでも「今、一番しんどい時期」とおっしゃっていましたが、自粛期間や思うようにライブができない今の時期、どういうことを考えていますか?
本当につまらないですね。「最悪やー」ってずっと思ってます。ライブもないし、人とのコミュニケーションも取れないし、ほんまに時間の無駄してる感じする。“未来のためにがんばってるんだ”みたいな気持ちには全然なってないです。
──いわゆる“おうち時間”は何を?
基本、シコってたすね。中3の頃より、この1年シコったんちゃうかっていうぐらい。いろんなジャンルでイケるようになりました。
──なるほど。ちょっとそこはあんまり広げられないので話題を変えますけど(笑)、音楽や映画といった普段とは違うインプットは何かありました?
音楽的なインプットは特になかったかな。みんなにオススメされて韓国ドラマとかも手を出してみたけど、あんまりハマらなくて。とにかく無。無でした。
──曲作りはいかがでしたか?
曲作りはめっちゃしました。今回の「Back To Basics」もこの期間に作ったものやし。あとは今まで使ってなかったDTMも勉強して使えるようになった。それは良かったかな。
──基本“無”だったとのことですが、そうなると、曲として出てくるものも今までとは変わりますか?
そうですね。前作「Life In The Sun」(2018年11月発売)のときは「日曜日の朝、こんなことしてるだけで楽しい」みたいな明るい曲が多かったけど、今はやっぱりそういう気持ちの曲は生まれない。今回は今の状況・・・というか、この状況の中での自分の何もできてなさに対する気持ちが大きいかな。コロナとか世間に対してっていうよりは自分の堕落さですね。
──それこそ「Life In The Sun」のときはカリフォルニアで曲作りをしていましたし、そう考えると全然違いますよね。
はい。今回はマジで家だけで。メンバーとも集まれる環境じゃなかったので、レコーディングまで1回も合わせてないんですよ。
──1回も!?
はい。レコーディングでぶっつけ本番みたいな感じでした。
──今までとはずいぶん違う曲作りだったと思うのですが、やってみていかがでしたか?
合わせてみないと、ライブしてみないと、わからないことはいっぱいあると思う。でも逆に言うと、そういう広がりが見えない分、ゴールまで突っ走ることができたというか。普段はゴールに向かってる最中にライブをやって「ここ、こっちのほうがいいかも」とかいろいろ見えてきて、ゴールまでに何回も曲がるんですよ。でも今回はそこは考えずに、演奏と音をめっちゃ良くするっていうことしか考えなかったので、まっすぐに行けてよかった。
──突き詰め方がいつもとは違う形だったと思うのですが、何をゴールに作っていったんですか?
とにかくいい曲が作りたかった。自分が死んだときに評価されるような良いものを残しておきたかったって感じかな。
──毎回いい曲を作りたいという気持ちはあるんじゃないですか? それとはまた違う気持ちでした?
もちろんいつも良いものを作りたいっていう気持ちはあるんだけど、なんか今回は「これをライブで演奏することはないかも」っていう危機感があって。だから、いつもよりももっと“これ聴いときゃHEY-SMITHの全部が入ってる”みたいな曲を作りたかった感じがある。「Life In The Sun」のときはいろんな色があったと思うんやけど、今回はもう“HEY-SMITH全部乗せ”みたいなものにしかった。これが最後の作品ですって言っても納得できるような。
──最近、ライブでも「これが最後かもしれないと思ってライブをしている」とおっしゃっていますが、何からその危機感が生まれてきているんですか?
何だろうな。自分が子供の頃から好きやった有名人が死んだニュースとか見て「あ~、人って死ぬんやな」って思うんですよね。前まではそれが自分に降りかかってくるとは思ってなかったけど、最近すごい感じるんですよ。
──昨年、病気をされたことも影響していますか?
もしかしたら、それもあるのかもしれない。肺の病気やから、コロナも余計怖いし。あとは周りの友達に子供が生まれることも多くて。なんか死ぬとか人生が終わるっていう感覚が前よりも近いって感じ。誰かをずっと好きな人生とか、誰かと愛し合って死ねるんやったら最高だけど、今の自分は結婚もしてないし、今のところそういう人生はないなって考えたら、最高の音楽を残しておかないとって。
──生死含めて人生を考える時期だったのかもしれないですね。
そうかも。&page:&
作品の鍵は「Back To Basics」というタイトル
──ここからはシングル収録曲について詳しくお話を聞かせてください。まず1曲目「Proud And Loud」。タイトルが1stミニアルバム(2009年8月発売)と同じですが、これにはどういう意図があるんでしょうか?
この曲はインストで、「チャンチャンチャン」のところだけ何か叫ぶっていうのは決まってて。今回のCDのタイトルが「Back To Basics」で、“元に戻る”とか“従来のものに戻る”とかそういう意味なんやけど、そしたらふと「Proud And Loud」を思いついて。「Proud And Loud」のときの気持ちこそ思いっきりベーシックやなと思ってピンときて、作品のタイトルとか今思ってることが全部つながったのでこれにしました。
──シングルのタイトルが先に決まっていたんですね。それは“Back To Basics”というテーマで作品を作ろうと思っていたからですか?
うーん・・・なんやろな、なんかコロナ禍始まったくらいから、この単語がずっとあって。なんでなんかはわからないんやけど。
──この単語、猪狩さんはどういう意味を持っている言葉だと捉えていますか?
元に戻りたい、みたいな感じかな。素の状態、普通の状態に戻りたいって気持ち。
──コロナのない状態?
それもある。あとは、なんかみんな何かを評価したり感想を言うときに右ならえになっているような感じがするんですよ。本当は自分とそのものだけでいいはずなのに、余計なものが多くなってる。わかりやすく例えると、影響力ある人が「このラーメンはまずい」って言ったら、自分はおいしく感じたのに「あの人がまずいって言ったからまずいんだ」って思っちゃうみたいな。なんかいろんなことに対してそういうのを感じる。
──それは音楽シーンにも感じますか?
音楽には特に感じる。ライブで「ここでこういう動きしないといけない」とか「私ツーステップできない」とか、マジでどうでもいい。テンションが上がった時に勝手に体が動くはずで、そんなの決めてやることじゃないのに。ほんまに立ち返って、やりたいことを自由にやったらいいやんみたいなことはずっと思っていて。
──で、それをテーマにした、と。これをテーマにしたからこそ、楽曲も原点回帰だったり、基本に立ち返るみたいなことは意識していたりするんでしょうか?
めっちゃしてます。「Be The One」はさっきも言った通りに“全部乗せ”。使えるリズムは全部入れて、シャウトも入れて・・・みたいなことを昔はいっつも思ってたけど、最近はやってなかったからやってみて。
──先ほどもおっしゃっていた通り“これぞHEY-SMITH”という楽曲になっていますよね。
そうそう。あと「Fellowship Anthem」はずっとマイナーコードで、サビになったらメジャー進行になるんだけど、その進行って、今やると「いやいや、ちょっと恥ずかしいねんけど」ってなるんですよ。軽く感じるというか。でも「Proud And Loud」を作ってた頃やったら疑いもなくやっていた展開で。「Back To Basics」ってタイトルの作品やったから、ひさしぶりにやってみました。なんか「人生の2曲目ですか?」みたいな恥ずかしさがあるんですよね。
──聴いてる側からするとそんなことまったく思わないですけどね。
そっか。だったらよかったです。まあ俺も聴いてる分には大丈夫なんですけどね。ライブでやってみないとわからんかも。
──メンバーはどういう反応だったんですか?
「最高!」ってヤツと、「ちょっと恥ずいな」ってヤツ、どっちもいた。でも「恥ずいな」っていうメンバーも、「『Proud And Loud』の頃やったら最高って言ってたよな」ってなったから、やっぱりなと思って。ある意味、俺らもちょっとストイックに曲作りすることに慣れてきてたんかなと思って、たまにはいいかと。
──曲の展開自体には初々しさを感じたとしても、メンバーのスキルは向上しているわけですしね。メンバーやバンドの成長も感じられたんじゃないですか?
感じました。特にYuji(B, Vo)。ギターからベースに持ち替えてるから、正直「Life In The Sun」のときとかはもうちょっとベースのゴリっとした感じが欲しいなと思ってたんですけど、今回はベース録り終わって「めっちゃええ感じやん!」と思って。そう思えたことがうれしかったです。俺、Yujiに限らず、どのパート聴いても、最初に「もっとこうできるやん」って思っちゃうタイプなんだけど、今回のベースは自分の思ってた音と同じか、むしろそれよりもいいくらいの音に聴こえたからすごいよかったなと。
──少し遡りますが、昨年にはアメリカの老舗レーベル・Asian Man Recordsと契約もしましたね。反響はいかがですか?
海外からのコメントとかDMが増えました。だから海外の人も聴いてくれてんねんやってめっちゃ感じる。しかも英語だけじゃなくて、見たことない文字とかのもあるから、ほんまにいろんなところで聴かれてるんやと思うとうれしいですね。
──そもそもAsian Man Recordsと契約したのはどうしてだったんですか?
2017年にAuthority Zeroとツアーでアメリカを回らせてもらったんだけど、そのときにアメリカからリリースしないと意味ないなと思ったんです。アメリカを回って、全然自分らの音楽が届いてないことを痛感した。でもツアーで回ってるうちに、届いた人はすごくいい反応をしてくれて。この人たちの選択肢に入ってなかったんやって、選択肢に入らないとアカンなって。それでいろんなアメリカのレーベルに相談して、Asian Man Recordsから出してもらえることになったという。単純にみんな俺らのこと知らないから、まずは知ってもらわないとという気持ちですね。
──冒頭のYouTubeの話と同じく、選択肢に入る努力が必要ということなんですね。
そう。知った上で嫌われるのは全然OKだけど、「知らなかった」では終わりたくないから、とにかくみんなに知ってもらいたい。
全国のライブハウスを守るための47都道府県ツアー
──そしてこのシングルを携えた・・・というか、このシングルを販売するツアーが8月2日から始まります。どんなツアーになりそうですか?
いやー・・・我慢のツアーになると思うなぁ。少なくとも年内はモッシュやダイブはできないだろうし、フルキャパも厳しいだろうし。でもまあ、ライブがないよりはあるほうがいいっしょっていう。
──ひさしぶりの47都道府県ツアーですね。
47都道府県ツアー、めちゃくちゃしんどいんですよ。だんだんメンバー間の仲も悪くなってくるし、最初は47都道府県ツアーにするつもりはなかったんです。けど、それよりもバンドをやってて帰る場所がなくなるほうが嫌なんで。コロナ禍でライブハウスの店長さんとかスタッフの人と話すことが多かったんですけど、月に1回、ソールドアウトするような公演があるだけで全然違うらしくて。だったら、そういうところ全部行きたいなと思って、47都道府県回ることにしました。
──お客さんにも県をまたぐことには抵抗がある人もいるでしょうしね。
そうそう、「自分の県なら行ける」っていう人もいると思うから、だったら回ろうと。規制のある中でのライブはやっぱり寂しい。でも今は、自分のシーンを守るために、規制の中でライブをやることがカッコいいと思ってやってるわけだし、これしか方法はない。でも本当に、ないよりはあるほうがいい。これは間違いないから。やる以上は楽しみたいです。
■HEY-SMITH「Back To Basics」
1. Proud And Loud
2. Be The One
3. Fellowship Anthem
CAFFEINE BOMB ORGANICS / CBR-115