Ken Yokoyama "4Wheels 9Lives Tour" LIVE REPORT!!
Report by 柴山順次(2YOU MAGAZINE)
Photo by 岸田哲平
2021.7.15
KEN YOKOYAMA 4Wheels 9Lives Tour@ Zepp NAGOYA
Ken Yokoyama、実に2年振りのツアー。この2年という時間で色んなことが変わった。変わらざるを得なかった。当たり前が当たり前じゃなくなり、価値観ごとひっくり返った世界でバンドがどう戦っていくか。それはKen Bnadのみならず、モッシュ&ダイブやシンガロングなどライブハウスの醍醐味であったものを封じられたバンドにとって至難の業であった。
有観客ライブだとか無観客ライブだとか、これまで口にしたことすらなかったし、密とか飛沫とかディスタンスとか、覚えなくてもよかった言葉をライブハウスに行く度に耳にするようになった。その結果、軒並みライブもフェスも中止や延期を余儀なくされ、挙句不要不急とさえ言われる始末。みんな戦っていた。みんな戦ってきた。
BRAHMANは「Tour 2021 -Slow Dance-」と題しスローナンバーを中心とした演出にも拘った今だからこそのカウンター的ツアーを行った。マキシマム ザ ホルモンは顔面指定席ライブ「面面面~フメツノフェイス~」で透明マスクを配ることでオーディエンスの顔が見えるライブを実現させた。みんなそれぞれのやり方で戦ってきた。そして2021年7月。Ken Yokoyamaの番がやってきたのだ。
ツアー最終日となったZepp Nagoya公演。ステージにKen Bandのメンバーが登場すると、そのリラックスしたムードからいつもとは何か違うものを感じた。これまで幾度となく観てきたKen Bandの空気感と何かが明らかに違うのだ。大阪、東京とどんなツアーをしてきたか。そのツアーで何を掴んだのか。それはライブが終わる頃には名古屋のオーディエンスにもしっかり伝わることになる。
ライブは「Let The Beat Carry On」から始まった。「ビートを繋ぎ続けろ」「決して止まらせるな」いきなり今回のツアーの本質を突くようなメッセージだ。
Ken Bandのライブで椅子があるなんて考えたこともなかった。声を出せなくなるなんて思ってもいなかった。だけどKen Bandは、それでも俺たちは、たとえ音楽が不当な扱いを受けてもビートは死なせない。不思議なもので今この時のために「Let The Beat Carry On」が生まれたかのように聴こえる。
続く「Runaway With Me」で一斉に拳が挙がると、ライブの形としてはこれまでとは違うし、こんな状況の中だけど、Ken Bandのライブとして新しい形にしっかり更新されていることを実感した。
2年振りのツアーで横山はステージからどんな話をするのか。体調不良でツアーが中止になったこともあった。新メンバーにEKKUNを迎えてKen Bandがどう変わったのか。そんな話が飛び出すかと思っていたら最初のMCで口を開いた横山から出てきた言葉は、飛沫防止のため喋れないオーディエンスに対して下ネタの応酬だった。久し振りの名古屋のライブでステージから何度も何度も発せられるクリ〇リスという言葉。そこに拍手で返すオーディエンス。このツアーでKen Bandが掴んできたものや確信したことが伝わってくる。
ニューアルバム『4Wheels 9Lives』から「Cry Baby」を叩きつけるとNO USE FOR A NAMEのカヴァー「Soulmate」をプレイ。「Let The Beat Carry On」で歌っているビートを繋ぐということはこういうことなのかもしれない。続く「Still I Got To Fight」では戦い続ける姿勢を歌う横山。
これがついさっきまで下ネタで大笑いしていたバンドのライブとは思えない。いや、思う必要がないのかもしれない。過去のライブでステージから投げかけてきた言葉は紛れもなく全部が全部横山健そのものだったし、根本的には何も変わっていない。
だけど今の横山は、Ken Bandは、バンドであることやライブを楽しむことに喜びを見出している気がするのだ。下ネタで笑い合うこと、メンバーから突っ込みを受けて笑うこと、そう笑うことが物凄く増えたように感じるのだ。眼の前にいるオーディエンスに話しかける言葉のひとつひとつも優しく感じた。「絶対に道はあるからさ。そう考えるとこんなライブは貴重じゃないかな」「カオスなライブもいいけど、こういうのもいいな」と今起きていることに向き合って新しい楽しみ方を見つけ出す横山の表情は実に明るかった
「I’m Going Now, I Love You」「4Wheels 9Lives」と『4Wheels 9Lives』から冒頭2曲を立て続けに高速ビートでぶん投げ、「愛だけが自分達を救う」と連呼する「Save Us」では今のこの状況を生き抜くヒントも投げかける。「ライブはみんなに歌ってもらって成立すると思っていたけど、拳を上げてるその姿が歌っているように見えるんだよな」と語る横山。全く嘘のない言葉に胸が熱くなる。
ここでギターを持ち替えた横山が手にしたのはなんとテレキャスター。ちょっとじっくりとMCをするかのような態勢の横山にギターの話を期待するも、そこはやはりAV女優の話に。これがもう本当に止まらない。飽きれたメンバーがステージに座り込み、それでも構わず話し続ける横山。そして拍手で応えるオーディエンス。なんだこれ(笑)。でも横山は本当に楽しそうだし、その姿を眺めるメンバーも嬉しそうで、今のKen Bandがどれだけ上手くいっているのかよく分かる一幕だった。
今回のツアーのセットリストのメインとなっているのは言うまでもなくニューアルバム『4Wheels 9Lives』の楽曲だ。「Spark Of My Heart」「Forever Yours」とアルバムの中でもグッドメロディが際立つ2曲にオーディエンスもしっかり拳で応戦する姿を観て、どれだけアルバムを聴き込んでライブに挑んでいるのかも分かる。
「Woh Oh」で心の大シンガロングを決めて、ここからは声が出せないためTwitterを使用したリアルタイムリクエストコーナーに突入。
リクエストの多かった「Ten Years From Now」と「How Many More Times」をチョイスした横山。思えば10年前は10年後がこんなことになっているなんて想像もしていなかった。「How Many More Times」を初めて聴いた頃、Ken Bandが今のようなライブをするなんて思ってもいなかった。今から10年後の自分を想像してみるけれど、ずっと楽しんでいたいなと思う。20年経って、30年経って、いつか素晴らしい人生だったと言えるような生き方をしていきたいと思う。こんなことを考えながらKen Bandのライブを観るなんて10年前の自分は想像していたかな。人生は面白いし素晴らしい。
グレッチに持ち替え横山が歌い出したのは「I Won’t Turn Off My Radio」だ。この曲もある意味では繋いでいくことがテーマになっている気がする。ニューアルバムの中でも指折りの泣きのメロディが炸裂する「Helpless Romantic」、自分の信じたパンクロックを貫く姿をキッズに魅せた「Punk Rock Dream」と続く。「その場でくらってくれ!」と叫ぶ横山の姿は紛れもないパンクロックヒーローだった。
ここで横山が語ったのは、この状況下でライブに足を運んでくれたオーディエンスに対する感謝と敬意だった。
「学校や会社や家族に内緒で来てくれてる人もいるよな。そんな思いをしてまで来てくれて本当にありがとう」「ツアーで得るものがなかったらもうやらないかもしれないって思っていた。でも楽しくなっちゃった」と素直に語る横山。信じたものが確信に変わった瞬間だ。
いつもは客席にマイクを投げ込む「Believer」をしっかり歌い上げる姿を観れたこともコロナ禍でのKen Bandの在り方なのかもしれない。良いことばかりじゃないけど悪いことばかりでもないよな。
「どれだけ感謝しているか伝わったよね」と発し「While I’m Still Around」でエンディング。そう、このツアーでは曲の説明や解説は殆どなく、横山の口から出たのは同じ時代を生き抜く仲間との会話、そして経緯、あと下ネタだ。だけどどの曲からも強烈なメッセージが放たれているから充分伝わる。文字通り家族のようなメンバーと、信頼関係で成り立ったクルーと、自分を信じるオーディエンスと、みんながみんな気持ちをぶつけ合ったライブに声を出せないとかモッシュが出来ないとかは問題じゃなかった。
アンコールの「Running On The Winding Road」は聴こえないはずの大合唱が確かに聴こえた。コロナなんかに負けてたまるか。コロナなんかに奪われてたまるか。客電が点き、目に飛び込んできたのはオーディエンスのTシャツの背中に書かれた「ABCDEFUCKCOVID19」の文字。俺たちのビートはコロナなんかじゃ殺せない。