LIVE REPORT

Ken Yokoyama "4Wheels 9Lives Tour FINAL" LIVE REPORT!!

Report by 阿刀 “DA” 大志
Photo by 岸田哲平

 

2021.12.9
Ken Yokoyama “4Wheels 9Lives Tour FINAL” @ 新木場USEN STUDIO COAST

 

来年1月に閉館が迫っている新木場USEN STUDIO COASTにて、Ken Yokoyama 「4Wheels 9Lives Tour Final」が開催された。Ken Bandのライブ は7月に行われたZepp Haneda公演以来5か月振りだが、場内は落ち着いている。コロナ禍のライブハウスではすっかりお馴染みの雰囲気だ。とはいえ、最近の状況を受けていくぶん緊張感が和らいでるというか、コロナ前とかなり近い感じ。実際、懐かしい場所に帰ってきたという感覚がある。Zepp Hanedaは座席ありだったが、今回はKen Bandの単独公演としては久しぶりのスタンディングということも影響しているのかもしれない。

コロナ禍になってライブはほぼオンタイムで始まることが増えたが、定刻を迎えてもKen Bandの4人は当たり前のように出てこない。結局、機材トラブルによる遅れだったようだが、これもいつものノリを思い出させた。

ようやくステージに現れた4人を代表して横山は開演の遅れを詫びる。そして、「声は出せないと思うし、制約もあると思うけど、その中で楽しんでちょうだい」と「Cry Baby」でいつものパンクロックを鳴らしはじめた。

続く「Woh Oh」で気づいた。以前の横山は、言葉にし切れない感情なのか、何かに対する苛立ちなのか、そういったものを異常なエネルギーに変換してフロアへ向けて放出している印象だった。しかし、Zepp Haneda公演も含めて、この日の彼はかなり自然体でステージと向き合っているように見えた。

MCも「呼びかける」というより、「話しかける」ような感じ。「こういう(ソーシャルディスタンスを保った)ライブに慣れてきたのかな? 他のライブに行ってる人、いる?」と彼が尋ねると、あまり手は挙がらなかった。そんな反応を受けて、「しょうがないよね、横山のライブしか観たくないもんね」と笑った。

そして、文字に起こすのも馬鹿らしい下ネタを呼吸をするように吐き出したあと、横山は「身動きがとれないライブになったのは寂しいけど、暴れりゃいいってもんじゃないからね」と、近年のKen Yokoyamaを代表する曲「I Won't Turn Off My Radio」のフレーズを爪弾いた。元々美しい曲ではあったが、ここではよりきらめきを放っていた。コーラスが美しいのだ。

音源では精巧にコーラスが重ねられている横山の楽曲だが、ライブではどうしても粗くなる。それを変えた男がいる。Ekkunだ。彼のドラマーとしての技術の高さは説明するまでもない。しかし、彼の歌の上手さはまだそこまで知られていないように思う。Ken Band初の歌えるドラマーとして、Ekkunは横山メロディの魅力を音源と変わらぬレベルへと引き上げている。これはかなり大きな変化だ。改めて素晴らしいメンバーが加入したなと思う。

MCでは、「だらっとしてる?」と尋ねる横山にJun Gray(B.)が「いや、いつもこんなもんだよ」と返す。ステージに出る前、横山は「テンポよくやろう」という意味で「今日はちゃちゃっとやろう」と言ったらしいが、そんなことになるわけがない。というか、そんなKen Bandのライブにこれまでお目にかかったことがない。

かといって、彼らがだらだらしたパフォーマンスをしているとも思わない。コロナ禍になって、バンドやアーティストのライブにはそれぞれ独自の価値観や生き様が反映されていることを改めて見せつけられた。客席の制限にかかわらず従来のパフォーマンスをする人、ライブのスタイルをガラリと変える人、(この状況下で許されることではないが)観客の自由にさせる人。Ken Bandはよくも悪くも、本人たちが意識しているかどうかは別として、フロアの空気とがっつりシンクロするバンドだ。フロアの雰囲気がよければ奇跡的なパフォーマンスが生まれやすくなるし、雰囲気が悪かったり、横山の虫の居どころによってはどう転ぶかわからない展開になる。これまであまり意識したことはないが、それがプロとしてどうなのかという疑問は置いといて、そういうKen Bandが自分は好きだ。「気難しい男だなあ!」と思うことも多々あるが、なんやかんやで惹きつけられてしまうのは、彼と直で魂の交換ができているという実感があるからなんだと思う。

でもやっぱり、MCは相変わらずダラダラしている。しかも、メンバー同士でお互いのミスを指摘しあう始末。「失敗を失敗に見せないやり方がプロなら、俺はアマチュアでいい」とJun Grayが言えば、横山は「俺はジャズを弾いてんの」と開き直る(もちろん、ジャズの高度さを踏まえた上でのジョーク)。

不思議なことに、いつも以上にダラダラと喋りながら、内容はかなり面白かった。あの場所独特の空気感があるし文字に起こすのは野暮なので控えるが、自分は大笑いした。自分は横山に対して20年以上思い続けていることがある。彼はオフステージで圧倒的な面白さを見せる一方、人前に出るとエンタメ魂が回転しすぎて普段の魅力を発揮し切れない傾向がある。それがもったいないと長年密かに思っていた。しかし、この日はかなりオフステージに近かった。終演後、彼に今までで一番笑った旨を伝えたところ、「ああ、そう?」と素っ気ない反応が返ってきた。つまり、彼はまったく意識しないでアレをやっていたのである。言い換えると、究極の自然体。

この日のライブ全体を表現するなら、バンドリハの場所がたまたまステージ上だった、という感じ。しかし、「(MCの時間が長いのは観客である)君らのせいでもあるんだぜ。みんな高齢化してるからお耳を休ませないといけないからさ」という横山の言い訳に対して、南が「練習のときのほうがちゃんとやってますよ」と即座にツッコんでいたのを見ると、普段のリハはもっとまともなのかもしれない。

演奏の話に戻ろう。この日、個人的に響いた曲は「Remember Me」と「Helpless Romantic」というふたつのミッドテンポの曲だった。前者は2ndアルバム『Nothin’ But Sausage』に収録されていて、改めてライブで聴くと当時と印象が異なる。15年以上もの時を経て聴く<やがてお前はオレのコトなど忘れてしまうんだ>(日本語訳)というフレーズはまた違った響きがあり、切なさが増す。演奏にも深みがある。以前は切ない曲を切なく演奏するというシンプルなものだったが、今はEkkunが叩いているということもあり、哀愁のなかに「このままでは終わらねえ」という意地とプライドも垣間見える。もしかするとこの曲は今、ようやく完成したと言ってもいいのかもしれない。

最新作『4Wheels 9Lives』に収録されている「Helpless Romantic」は、作品のリリース前から横山のお気に入りで何度も披露されてきた。この日はアンコールのラストという、体がフルで温まった状態でプレイしたことも大きいのか、演奏としては一番タイトでグッときた。かれこれ30年以上2ビートで突っ走ってきた横山の新たな魅力が開花しようとしているのかもしれない。

こんなことを言ったら眉をひそめる人がいるかもしれないけど、コロナ禍スタイルのKen Bandのライブが自分はけっこう好きだ。声を上げさせる代わりにツイッターのハッシュタグ<#jungrayお願い> からリクエスト曲を募ったり、普段は観客に歌わせる「Believer」を横山のボーカルでフルで聴かせたり(まあ、横山は「あー、早くみんなのとこにマイク投げてぇ~」とボヤいていたが)、コロナ禍が明けたとき、きっとこの日のことを自分は懐かしがるだろう。

 ライブ終盤、「先のことはまだ決めてないし、こんなこと頼むのはカッコ悪いけど、(自分たちの活動を)チェックはしててな」と「Maybe Maybe」「Save Us」「While I'm Still Around」をプレイし、それまでとは違ったシリアスでエモーショナルな流れをつくる。そんななかで思った。Ken Bandのライブは最早、どの曲をやったからよかったというレベルのものではなくなっているのではないか。なんというか……自分の存在を確認するための場所、とでもいうか。ここは閉じた空間ではないし、いつ誰が来てもウェルカムな雰囲気がある。そう思えるのは、「きっと横山健はずっとここでギターを鳴らし続けるんだろうな」という信頼があるから。彼は数々の挫折や失敗を味わっていて、我々もそれをなんとなく知っている。そうやってカッコよさもみっともなさもここでさらけ出し続けているからこそ、彼に寄り添っていたいと思える。

しかも、ステージ上のパフォーマンスはいい意味で徐々に変化が生まれているし、そのときどきの自分に対して彼は正直。予定調和はない。それが楽しくて仕方がない。今日は何を見せてくれるんだろう、といつだって思えるのは幸せなことだ。そう考えると、これだけ年輪を重ねてきた彼らにスッと馴染んでいる新(というほどでもないか)メンバーのEkkunはすごいな。

 アンコールでは前述の「Helpless Romantic」の前に、まさかの1曲が演奏された。<#jungrayお願い>ではまったく上がってこなかったけどやりたいからやる……と前置きした上で鳴らされたのはまさかの「Dead At Budokan」。予想外の選曲に動揺と歓喜が渦巻くフロア。しかし、よく聴くと「Dead At Budokan」ではなかった。「Dead At Shinkiba」である。サビの<Budokan>を<Shinkiba>に置き換えて歌っていたのだ。演奏後にはこの日一番の拍手が送られた。最後は「『4Wheels 9Lives Tour』でした! さよなら、新木場コースト! またね、みんな!」と上手、下手、中央、2階席に手を振り、深々と頭を下げてステージを去った。来年のスケジュールがどうなっているのかはわからないが、いまのKen Bandをみんなに観てもらいたい。

 

>>Ken Yokoyama Official Web Site