Ken Yokoyama “Killing Time Tour“ LIVE REPORT!!
Report by 柴山順次(2YOU MAGAZINE)
Photo by 岸田哲平
2022.10.17
Killing Time Tour @ 名古屋 Diamond Hall
『Killing Time Tour』と題して行われたKen Yokoyamaの秋のショートツアーの名古屋公演、聖地ダイアモンドホール。この日、大袈裟でもなんでもなく、ライブハウスシーンの何かが確実に動いたのを目撃した。コロナが少し落ち着いてきたかと思えば、第何派だって偉そうな顔をしてまたやってくる。何歩進んだのか、そして何歩下がったのか分からないけれど、それでもライブハウスは、ライブシーンは踏み込んだ足を強く前に進めようとしてきた。1か月、2か月、いや夏まで、なんて言っていたのがこれは長期戦になるなと不安に襲われた2020年。何が正しい、何が正義、誰が悪い、誰のせい。きっと答えなんかないのに、誰も悪くなんかないのに、分断が生まれ何かが歪んでしまった2021年。もうこのままじゃいけないと現実を叩きつけられながらも希望を捨てず走り始めた2022年。そのどの日々にも僕らは立っていて、そのどの日々も僕らにはパンクロックが必要だった。Ken Yokoyamaにとって聖地であるダイアモンドホールはこの日からキャパ制限が8割に緩和された。しかし、緩和=自由ではない。緩和されて何か起きてしまっては意味がない。境界線なんかがある訳ではない日々がグラデーションしていく中で、それでもこの日と決めた10月17日。ダイアモンドホールには800人のキッズが集まり、ライブハウスで熱狂した。ダイアモンドホールにとって、間違いなくコロナ禍以降マックスの動員だ。ライブハウスはこうやってひとつずつ取り戻してきたんだ。いや、前に進んできたんだ。当たり前だったことが当たり前じゃなくなって、新しい当たり前が生まれて、そこにはそれぞれの価値観を持った人が集まって。それを比べるんじゃなくて、認め合うこと、譲り合うこと、もしぶつかってしまったら最後は握手すること。それがライブハウスだし、それがユニティだと思う。ここまで長々書いたのはこれからのライブハウスで誰も嫌な思いをして欲しくないから。聖地ダイアモンドホールのキャパ制限緩和の初日がKen Yokoyamaのライブだったから。対バンが、これからの名古屋を、メロディックパンクシーンを背負っていくであろう10代のパンクバンド、HONESTだったから。『Killing Time Tour』、退屈していた僕たちをブチ上がらせてくれたのは、やっぱりKen Yokoyamaだし、ブチ上がったのは、HONESTというニューヒーローの誕生の瞬間に立ち会えたことだ。
今回のツアーの対バンが発表された時点で耳の早いリスナーや名古屋のライブハウスシーン以外でHONESTの名前を知っていた人がどれだけいたかは分からないけれど、この日ダイアモンドホールにいた800人には間違いなくその存在を知らしめたと思う。樋口浩太郎は小学生の頃、「ミュージックステーション」で「I Won’t Turn Off My Radio」を演奏するKen Yokoyamaを初めて観て衝撃を受けたという。金曜日の夜、「ドラえもん」を観て「クレヨンしんちゃん」を観て、その流れでたまたま観た「ミュージックステーション」に出演していたKen Yokoyamaの音楽がひとりの人間の人生を変えてしまうのだからパンクロックって凄い。前情報殆どなしの状態でHONESTを迎えるフロア。何処か緊張感がある中でステージに立った3人がどんなライブを叩きつけるか。人生にターニングポイントとなる日があるとしたら、彼らにとって今日はその1日のひとつだと思う。
HONESTのライブはメロディックパンクに対する愛情と熱量が迸りまくっていて、3人から発せられるひとつひとつの音に気持ちが宿っているのがよく分かる。樋口に至っては感情が天井を突き破った結果、MCなのか絶叫なのか分からないほどの気持ちの入り様だ。しかし、それがめちゃくちゃ胸を打つのだ。誰かの夢が叶う瞬間ってこんなにも美しく、こんなにも心を動かされるんだな。
特に「RADIO」を熱唱する3人の姿は溜まらないものがあった。曲名から察することも出来るように、小学生だった樋口少年があの日「ミュージックステーション」で観た「I Won’t Turn Off My Radio」に対するHONESTなりのアンサーソングともいえる曲を、その張本人であるKen Yokoyamaの前で歌う日がくるなんて、樋口自身も思っていなかったんじゃないだろうか。いや、違うか。この日が来ることを信じていたから、メンバーが見つからず、全パートをひとりでレコーディングしてでもバンドを続けてきたから、だからこの日を迎えることが出来たのだ。ダイアモンドホールで堂々と歌うHONESTを希望と言わず何と言うのだろう。メロディックパンク・イズ・ノット・デッド。10代とかもう関係ない。HONESTが地元名古屋で狼煙を上げたその瞬間に立ち会えたこと、そこにKen Yokoyamaがいたこと、この後Ken Yokoyamaがライブをすること、全部が全部心のずっと奥の奥のほうに深く突き刺さるライブだった。
Ken Bandがこの日の1曲目に披露したのは「Empty Promises」だった。「I'm writing this song for you」という歌詞があの日の樋口少年に向けた言葉にも聞こえたし、Ken Yokoyamaの音楽にケツを蹴り上げられてきた僕たちに向けた言葉として優しく包み込んでくれた。そしてギターソロ。まるでライブハウスを祝福するようなそのメロディに自然と涙が溢れてくる。帰ってきたんじゃない。戻ってきたんじゃない。進めてきた。まだ完全とは言えないけれど、この数年間が報われるような瞬間をライブハウスで共有出来ていることをただただ嬉しく思う。それはきっとKen Yokoyamaも一緒なんじゃないだろうか。ライブハウスで演奏すること、そこに人が集まることに対する嬉しさや感謝の気持ちが「Maybe Maybe」ではKen Yokoyamaの表情から駄々洩れていたように感じる。何度も何度も「ありがとう」とフロアに向けて感謝の言葉を送っていたのも印象的だ。
Ken Bandそのものを現したような「4Wheels 9Lives」もエンジン全開だったし、「I love you,baby」という言葉の持つ力を「Can’t Take My Eyes Off Of You」では思い知ったし、過去ではなく前に歩くことをHUSKING BEEの「Walk」カヴァーで今日も教わったし、「Angel」でもやっぱり「I love you」という言葉の持つパワーに抱きしめられる。そして「I Won’t Turn Off My Radio」だ。あの日、樋口少年の心を、全国のお茶の間の心を撃ち抜いたあの曲だ。
あれから何年も経ったけれど、2022年目下コロナ禍、暗闇を通り抜けて「I Won’t Turn Off My Radio」はこうしてまた僕たちに光を届けてくれるのだ。フロアにいる誕生日のオーディエンスを「Happy Birthday」で祝ったり、「The Sound Of Secret Mind」や「Popcorn Love」のプレゼントだったり、とにかく集まった人を楽しませたいというKen Bandの心意気がダイアモンドホールに充満したライブに笑いながら気付いたら泣いていることに気付きハッとする。不要不急だと言われたこと、忘れたことなんてない。まるで音楽が悪いように報道されたこと、忘れるわけがない。みんなそれぞれの立場、場所で戦って戦って掴み取ったもの、それが今日のライブだと思うし、これからのライブハウスだと思う。Ken Bandが鳴らす音そのものが楽しくて仕方ないんだよって音をしているし、音を楽しむから音楽なんだけど、それより今日は楽しくて音が鳴っているように響いてくる。
「Let The Beat Carry On」では今日のライブにHONESTが出演していることを物語っているようにも感じた。ビートを続けること、継承すること、だけどそう簡単には譲らないぞ。こんな先輩がいるんだからHONESTは幸せだ。追う背中があること、そしてその背中の大きさを、きっとステージ脇でHONESTは感じていたはずだ。何がパンクかは人の数だけあると思うけれど、自分の中のパンクを、Ken Yokoyamaのパンクを、HONESTのパンクを貫くことで観る夢を「Punk Rock Dream」が確信させてくれたし、「Helpless Romantic」では弱さを見せてくれることで物凄く近くに感じるし、そんなKen Yokoyamaがずっと歌い続けてきた「Believer」があの頃と何も変わらないまま進化していることにだって滅茶苦茶に感動している。
ファンとして、リスナーとして、勝手に自分の人生の傍に置いてきた音楽が、一方通行じゃないんだって確信させてくれる。最初にも書いたけれど、今日Ken Yokoyamaは何度も何度も「ありがとう」と口にしていた。それは「While I’m Still Around」でも歌っているし、ラストナンバーが「I Love」だったことも含め、愛と感謝に溢れたライブを堪能させてもらった。
アンコールは「Dead At Budokan」ならぬ「Dead At DiamondHall」でダイアモンドホールを称え「Longing(A Quiet Time)」でエンディング、のはずがまさかのWアンコールで「Who Oh」で超ハッピーに大団円。娯楽なんか沢山ある。家から出なくても楽しめることなんて沢山ある。なんでも替えが効く世の中で、それでも僕たちはライブハウスで時間を共に過ごし、新しいやり方と新しい価値観を持って思いっきり踊っている。ライブハウスを健全になんて思っていないけど、誰かが悲しむのは絶対に違う。Ken Yokoyamaがこの日名古屋でHONESTを連れまわして見せたかったものとか、ライブハウスでかっこよく遊ぶこととか、色んなことが頭を駆け巡るけれど、もうはっきり確信したのは、ライブハウスは確実に前進しているってことだ。それが『Killing Time Tour』の核心だ。