Wienners “TOP SPEED” INTERVIEW!!
Wiennersが新曲「TOP SPEED」を配信リリースした。この曲は「人生はトップスピード(=最高速度)で過ぎていくから一瞬一瞬を楽しみたい」という想いを込めた爆走チューン。別れが続いたという玉屋2060%(Vo, Gt)のどうにもならない感情を、高速エイトビートに乗せた、Wiennersが贈る走馬灯のような1曲だ。この曲について、またKOZO(Dr)の脱退が決まったWiennersの今について、玉屋2060%に話を聞いた。
Text by Chie Kobayashi
Photo by Yuta Kato
“アルバム”というパッケージと現在の音楽の聴かれ方
──去年リリースしたアルバム『TREASURE』について玉屋さんは「人生最高傑作」だとおっしゃっていました。そのアルバムをリリースしてツアーを回って、得たものや気付きはありましたか?
人生最高傑作を出したからそれなりに手応えもあったし、届いているという実感はありましたけど、あえて問題点を挙げるとしたら……日本ではもうアルバム文化がないんだなということを知りました。全曲リード曲だと思って作っていたけど、ライブでは実際のリード曲やMVの曲はわかりやすく反応がよくて、それ以外は反応がまばらだったり(笑)。もしかしてアルバムという形じゃなくて、1曲1曲配信で出していたらまたその曲の捉えられ方も変わってたのかなとも思ったし、めちゃくちゃ勉強になりました。曲が悪いんじゃなくて、出し方が違ったのかなって。後悔ではなくて、本当に勉強という意味で。学びでしたね。
──とはいえ、アルバムとして出したい気持ちもありますよね?
あります、あります。そこが難しいところで。「アルバムで出したい」というのは、作り手のエゴなんですよね。今はみんなそういう聴き方をしてないわけで。でもそのエゴを作り手が諦めちゃったらダメだなとも思って。でも曲を聴いてもらえなかったら意味がない。だから「アルバムというパッケージで聴くのが一番楽しいんだよ」と言える発言力を持たないといけないなと改めて思いました。今の段階では、今一番刺さる方法を選ぶことが大事。曲を作ることに関しては、いわゆる“寄せる”みたいなことはしていないですけど、よりその曲を届けるためには、音楽を翻訳する作業が必要なんだなと。翻訳して翻訳して広く届けて、知名度が上がって発言権を得たときに「これが一番楽しいんだよ」を言えたら一番響くと思うから。パンクが大好きだし、SATANIC ENT.はパンクの媒体だからあえて言いますけど、俺、パンクの嫌いなところがあって、「わかるやつだけにわかればいいんだ」って言って、10人の前で政権の批判をすることなんですよね。そんなんじゃ変わんねえって思うんですよ。もちろん「目の前の1人から変えていく」という気持ちはわかりますけど、なんだろうな、なんかモヤっとしちゃう。
──伝わらなきゃ意味がない。
そう。イアン・マッケイ(MINOR THREAT)は「面白いことは2000人の前じゃなくて20人の前で起きてる」と言っていて、それは真理なんですよ。それはそうなんだけど、みんな額面通りに捉え過ぎじゃない?と思っちゃう。パンクって元々カウンターカルチャーで、反体制だったのに、結局「パンクたるもの、こうであれ」みたいな型にハマり過ぎてる気がして。Wiennersを始めたばかりの頃、シンセサイザーとかサンプラーが入ってるだけで、パンクシーンのやつにすげえディスられたんですよ。俺はみんながやっていないことをやりたくて始めたのに。音源を出す前に、ダイジェストサンプラーを作って無料配布したこともあったんですけど、そのときも「なんでCD出さないの?」って言われたりして。そういう意味でも、発言権が欲しいっていうのはずっと思っていますね。もちろんパンクは大好きなんですけど、大好きだからこそ、そこから1回抜け出して、発言権を得て戻ってきたい。声は大きければ大きいほどたくさんの人に届けられるので、多くの人に届けられる拡声器が欲しいというか。
──側から見ると、玉屋さんはもう十分に拡声器を持っていると思うのですが、まだまだ?
まだまだですね。あと、まだまだ誤解も多くて。自分個人で言うと、作曲の仕事もしているので、それで知ってくださっている方はいますけど、俺がバンドをやっていることを知らない人はめちゃくちゃ多い。いまだに「玉屋ってバンドやってたんだ」ってめっちゃ聞くので。だから苦手だったSNSも始めたりして。その乖離も埋めていきたいですね。
重いテーマであればあるほど、軽く明るく笑い飛ばしたい
──そんな課題も改めて見えた『TREASURE』を経て、1年ぶりの新作として新曲「TOP SPEED」が完成しました。この曲には「人生はトップスピード(=最高速度)で過ぎていくから一瞬一瞬を楽しみたい」というメッセージが込められているそうですが、そういう曲を作ろうと思ったきっかけが何かあったのでしょうか?
最近、個人的にめちゃくちゃ別れが多かったんです。「こんなに続くかね?」と思うくらい友達が他界したり、身内にいろいろあったりして。この感情をどうにか成仏させたいというのは、1つテーマとして持っていて。そんなときにTVアニメ「逃走中 グレートミッション」のエンディングテーマのお話をいただいたので、スピード感のある曲がいいなということも思っていて。さらに、ツービートじゃなくてエイトビートのめっちゃ速い曲をやりたいというアイデアもずっと持っていて、全部がハマったのがこのタイミングでした。人生って、見過ごすことが多いくらいウワーッと駆け抜けていくじゃないですか。それが、スピード感と合致したという感じです。
──Wiennersはもちろん速い曲も多いですが、ミディアムチューンも得意ですよね。このテーマだったらミディアムチューンでもよかったはずなのに、どうして速い曲がしっくりきたのでしょう?
それは自分の中で一貫していて。悲しいことを歌うときほど明るくいたいんです。この感情をバラードにするのは、いくらでもできますけど、それって悲しいだけじゃんって思っちゃうんです。「さみしいよ。そんなこと歌わないでよ」ってなっちゃう。だったら、俺は重いテーマであればあるほど、軽く明るく笑い飛ばしたいし、そっちのほうが泣けると思うんですよ。映画の「クレヨンしんちゃん」みたいな。あれだけずっと面白くてバカなことやってるのに、最後にしんちゃんがちょっと泣いただけで、俺らは号泣するわけですよ。それってシリアスなドラマではできない感情の動かし方。喜怒哀楽に揺さぶられて、最後泣いちゃうんですよね。俺はそんなふうに感情を揺さぶりたいし、揺さぶられたい。だからこれだけ明るくて、ずっこけ感のある曲調で歌いたかった。これはWiennersのテーマでもあり、自分の中のテーマでもあること。それがこの曲に集約されたんだと思います。
──「別れの多かった時期の感情を成仏したい」との想いがきっかけだったとのことですが、曲にしたことでご自身に変化はありましたか?
単純に、思ったことを歌詞にガッと書くことで、自分の中で整理できましたね。別れのたびに「なんであのとき、ああしなかったんだ」とか「もっと話したいことあったのに」とか、後悔するんですよね。でもまた同じことが起こったときに同じ後悔を繰り返す。でも、後悔しないために生きるのは無理な話なんだなって思って。それを改めてこうやって歌詞にすることで、後悔することに対する言い訳ができたというか。どんな形であれ、2度と会えないと言われたら後悔しかない。後悔をなくそうとすること自体が無理な話だよって、それをコメディみたいな形で伝えられてよかったなと思いました。言葉にしたことで自分も救われたし。
「速い曲=ツービート」が当たり前になっているのがつまらない
──この曲ができた背景として、もう一つ、エイトビートで速い曲を作りたかったとおっしゃっていましたが、そう思うきっかけは?
自分の中で「速い曲=ツービート」が当たり前になってきちゃっている流れがつまんないなって思っていて。速い曲は作りたいけど、別にツービートの曲が作りたいわけじゃないんだよなって。でも思えば、ロックンロールバンドとかって、すげぇ速いエイトビートでツイスト踊ったりスイングしたりしている。その感じがいいなと思って、いつかWiennersでもやりたいなとストックしていて、そのタイミングがここだったんです。
──いざWiennersでやってみていかがでした?
今、この引き出しを開けたのは、いろいろな要素があった上なんですけど、その要素の1つにドラムのKOZOくんが辞めることもあって。KOZOくんってツービートも得意だけど、エイトビートがめっちゃ得意なんですよ。だから最後にこれやろうよって言ったら、みんなが「めちゃくちゃいいじゃん」って言ってくれて。
──バンドとしても新たな挑戦を取り入れた「TOP SPEED」ですが、この先Wiennersや玉屋さんにとってどのような1曲になりそうですか?
自分の中で「こうありたい」という理想を描けた曲かなと思います。人生を重たく捉えないというか、一周回って人生を喜劇にしたい、そうやって自分も人生を終わらせたいっていう、「こういう自分でいたいな」っていう曲。だからライブでやったときに、お客さんにもそういう感情になってほしい。俺、よく曲を作るときに「走馬灯みたいな曲」って言うんですけど、まさにこの曲は走馬灯みたいな曲で。「あっという間に終わっちゃう」っていう焦燥感と、とてつもない思い出がフィードバックしてくる。そのときの感情って、悲しいとかじゃなくて、側から見たらめっちゃ笑える光景だと思うんですよ。「何騒いでんだよ」って。その感じをライブでもやりたい。喜怒哀楽全部が詰まっていて、走馬灯でしか出せない一瞬のきらめきと、喜怒哀楽のその先に行くみたいな曲になってほしい。僕らもそういう感情で演奏します。
──この曲がKOZOさんと作る最後の曲になりました。先ほどエイトビートの話もありましたが、KOZOさんがWiennersにもたらしたものを一つ挙げるとしたら何になりますか?
いろいろありますけど、1つは四つ打ち、ダンスビートの解釈を改めて考えるきっかけを作ってくれたこと。それはめっちゃ大きかったですね。というのは、KOZOくんって、Wiennersに入るまであまり四つ打ちを叩いてこなかったんです。このバンドに入って初めて四つ打ちやダンスビートと向き合うことになって。俺らも、実はもともと四つ打ちって嫌いだったんですよ。というか、ダンスミュージックが好きだからこそ、ロックバンドとして安易に四つ打ちをやりたくないと思っていた。手っ取り早いのもわかっていたからこそ。それを解禁したのが「蒼天ディライト」だったんですけど、案の定、この曲がめっちゃハネて。そこから改めてロックバンドとして四つ打ちを見つめ直すようになった。そのときに、初めて四つ打ちを自分のものにしようとしているKOZOくんと一緒にやることによって、「ダンスミュージックってこういうことなんだ」「ハイハットが裏に入る意味ってこういうことなんだ」ということを改めて知ることができた。それはすごく大きかったですね。
「なるようにしかならない」を楽しみにしている
──そして現体制最後のライブとして、8月3日に東京・Zepp Shinjukuにてワンマンライブ「CULT POP WORLD」を行います。過去最大のキャパでワンマンとなりますが、どんなライブにしたいですか?
結果的にKOZOくんのラストライブにはなっていますけど、自身最大のワンマンだし、タイトルは「CULT POP WORLD」。結局Wiennersでやりたいことって、世界中のお祭りを集めたいってことなんですよね。日本の盆踊りにラテンのサンバ、アジアの秘境の祭り、はたまた深夜のクラブのパーティまで、世界中の祭りが全部ここにある、みたいなことをずっとやりたかった。だから、このタイトルを掲げて、これまでのWiennersの集大成を見せられたらと思っています。何より俺がそれを一番見たかったんで。どんなライブになるのかめちゃくちゃ楽しみですね。
──1stアルバム「CULT POP JAPAN」や収録曲「Cult Pop Suicide」を彷彿とさせる「CULT POP」をタイトルに付けるのって、Wiennersにとってなかなかに大きなことではないですか?
そうですね。結構前から「俺らの音楽って何て表現するのが一番いいのか」がずっとわからなかったんですけど、結局「CULT POP」が一番近いよねって話をみんなでしていて。直感で作った曲のタイトルが、自分たちにしっくりきてるんだなと。だからこそこれを改めて掲げようと思ったし、このイベントもこれからもっと大きくしていきたいな思っています。
──ということは、「CULT POP WORLD」はもしかしたらシリーズ化するかも?
はい。そうなるといいなと思ってます。
──Wiennersは昨年秋から、ガイドラインに従いつつ、ライブでの声出しを解禁しました。いろいろと戻ってきたライブの手応えはいかがですか?
やっぱり人の声ってすごいなと思います。全然関係なくても、人の歓声とかで泣いちゃうんですよ。例えば、アメリカでクジラが浜辺に打ち上げられたニュースを見ていて、町民総出でクジラを海に返したときにみんなが声を上げて喜んでいて。その歓声で涙が出ちゃいました。あと、サッカー観戦が好きなんですが、スタジアムで観戦していても、点が入ったことじゃなくて、点が入ったことによる歓声で泣いちゃうんですよね。それだけの威力が、人の声にはあるんだなって、ライブで声出しを解禁したときにめちゃくちゃ思いました。「お前、こんな声で歌うんだ」「なんて下手くそで、なんて汚くて、なんて美しいんだ」って。どんな楽器にも敵わない音だなって改めて思ったし、こんなものを3年間封じ込められてたんだという想いもあって。とにかく人の声って最強の武器だなって改めて思いましたね。
──Zepp Shinjukuではこれまでで最大の声が聞けそうですね。
楽しみですね。
──このライブをもってKOZOさんが脱退しますが、バンドはその後もサポートメンバーを迎えて活動を継続します。バンドとしてここで止まらない選択をした理由を教えてください。
それこそ「TOP SPEED」の歌詞にもあるんですけど、最近すごく「なるようになるさ」と思っていて。裏を返せば、なるようにしかならないんですよ。だからここでいろいろ考えるよりも、「とりあえずライブ入れようか、なるようになるからさ」っていう感じでしたね。なるようになることが全ての正解だと思うんですよ。なるようにならないことを恐れて何もしないよりかは、間違えていたとしても、何も決まっていないのにライブを入れれば絶対になるようになるし、なるようにしかならないんだから。しかも、それを必死になってやっているわけじゃなくて、「なるようにしかならない」をちょっと楽しみにしているところもあるんですよね。気が付いたらメンバーが10人くらい増えているかもしれないし(笑)。決め込んじゃったら振り幅がなくなっちゃうんで、やっていく中で面白いと思うものをもっともっと吸収していって、新たな扉を開けるきっかけになったらいいなくらいの感じで思っています。
──これからのWiennersも楽しみですね。最後に、玉屋さんが最近感銘を受けたカルチャーを教えてください。
さっきの歓声の話じゃないですけど、最近改めてサッカーのサポーターカルチャーの面白さを感じています。俺は、小学生の頃からスタジアムに行って応援しているウルトラスなんですけど、大人になって改めてめちゃくちゃ面白いなと思っているんです。まず、チームごとに応援の仕方が違うんですよね。フラッグをめちゃめちゃ振るということに重きを置いているチームもいれば、きれいに装飾することに重きを置いているチームもいるし。「チャント」という、応援のときに歌う歌の嗜好性も違う。それによって選手も焦ったり落ち着いたりする。そういうものを見ていて、サッカー自体も面白いけど、サポーターというカルチャーもむちゃくちゃ深くて面白いからみんなにも知ってもらいたいなと思います。言ってくれたら俺がいつでもスタジアムに連れて行って説明するんで!(笑)
Wienners「TOP SPEED」
7月12日配信リリース
配信URL:https://wienners.lnk.to/TOPSPEED
CULT POP WORLD
2023年8月3日(木)東京都 Zepp Shinjuku