INTERVIEW

THE CHERRY COKE$ "OLDFOX" RELEASE INTERVIEW!!

Interview by Tomoo Yamaguchi
Photo by Taiyo Konishi

 


 『THE ANSWER』から1年半足らずでリリースした9thアルバム『OLDFOX』は、結成20周年を迎えるアニバーサリー・イヤーにふさわしいTHE CHERRY COKE$(以下チェリコ)の集大成を思わせる意欲作となった。MASAYA(Gt/Bouzouki/Mandolin/Banjo)が言うようにアイリッシュ・パンクをバックボーンに、あらゆるエッセンスを詰め込んだ、あまりにも多彩な全11曲は、まさに海千山千という意味を持つタイトルどおり。思わずニヤリとしてしまうが、それだけで終わらないのが21年目のチェリコだ。荒波を乗り越えながら、ここまで20年、活動してきてもなお、チェリコにはやりたいことも、歌いことも、世の中に訴えかけたいこともまだまだいっぱいあるということがビンビンと伝わる熱い1枚になっているところがうれしいじゃないか。その感動を、KAT$UO(Vo/Banjo)とMASAYAにストレートにぶつけてみたところ、さらなるチェリコの大きな夢を聞かせてもらうことができた。
 

もっと個性を出してトガッてもいいんじゃないかな。

 ――『OLDFOX』、一ロック・ファンとして、こういう作品に出会えたことがうれしいと思えるくらい、いいアルバムで。遅ればせながら、チェリコの大ファンになりました。

KAT$UO:うれしい。

MASAYA:ほめられ慣れてないからなんだか(照)。

――手応えはいかがですか?

KAT$UO:まだ、お客さんの反応はわからないんですけど。

――そうでした。ツアーはこれからでしたね。

KAT$UO:ただ、自分たちの中では、いいものができたという感触はありますね。心底、いいと思った上で、聴いてくださいと言える作品になったんじゃないかなとは思います。

MASAYA:発売前に聴いてもらった関係者の方々が口を揃えて、“前作『THE ANSWER』からのスパンが短かったにもかかわらず、妥協が一切感じられない”って。いろいろな要素を入れるとか、遊び心を入れるとか、オマージュを入れるとか、そういうことは最後の最後まで、できるかぎり詰め込んだので、そう言ってもらえるのはほんとうれしいです。

――曲はいつ頃から作り始めたんですか?

MASAYA:ネタはヴォイスメモに溜めていたんですけど、それをまとめ始めたのが2月とか、3月とか。amiinAと2月1日にマイナビBLITZ赤坂でやったとき、メンバー全員で話し合ったんですよ。このタイミングでほんとにアルバムを出すのか? 出すんだったら急ピッチになるけど、みんな、やる気はあるのか? で、“やろう!ってなって。

KAT$UO: MASAYAがぼんと出してきたネタを、ほぼ全曲、同時進行で肉付けしていったんです。リード・トラックの「火華~HIBANA~」だけは最後に作りましたけど。

MASAYA:入る予定はなかったって言うか、存在してなかったんですけど、レコーディングの1週間前にKAT$UOさんがスタジオでホワイトボードに収録予定の曲を全曲書きだして、激しい、明るい、バラードってジャンル分けしながらバランスを見ているとき、“何かパンチが足りないんじゃない?”って。

KAT$UO:遠くから見たりしてね(笑)。

MASAYA:それ、全然意味がない(笑)。

KAT$UO:ハハハハ。

MASAYA:“今回、なんかきれいにまとまっててパンチが足りない。何か強いやつ、なくない?”みたいな。確かに今回のアルバム、弾き語りでみんなでワイワイやる「Of Music」をはじめ、けっこうアコギ主体の曲が多いんですよ。

――アコギがいろいろなところで鳴っていますね。

MASAYA:そうなんですよ。それもあって、よけいにパンチが足りないんじゃないかって思われるんじゃないかって話になって。じゃあ強いの作ろうって急遽作ったのが「火華~HIBANA~」。

KAT$UO:「火華~HIBANA~」がなきゃ成立しないってことはないと思ったんですけど、ここにさらに強い曲が入ったら、アルバムの印象は、だいぶ変わるだろうなって。

MASAYA:だから、リードにしようと思って、作ったわけではいんですけどね。

KAT$UO:うん、それは全然なかった。

MASAYA:とりあえず強い、パンチがあるやつって。

--でも、入って良かったんじゃないですか。

MASAYA:結果、良かったですね。

--「火華~HIBANA~」の歌詞は、今の音楽シーンにケンカを売っているようにも聴こえますが。

MASAYA:どうですか?

KAT$UO:うーん、まさに(笑)。お見せしていいですか?(とスマホを見せ)、この曲でどういうことを伝えたいのか、これがMVの監督に送ったメッセージなんですけど。


--「個性がなく、同じような音楽が流行るシーンやリスナーに対して、20年間オンリーワンを目指してきたTHE CHERRY COKE$からのアンチテーゼの意味を込めた曲です」。

KAT$UO:音読されると照れくさいですね(笑)。

MASAYA:イキッてる、イキッてる(笑)。

KAT$UO:火をつけてやるじゃないですけど。それは自分たちに対してもなんですけどね。

--KAT$UOさんから見て、今のシーンは個性がないように見えますか?

KAT$UO:個性はあるんでしょうけど、古い人間である僕には瞬時には区別がつかないものも多い。みんなそれぞれに魂を込めてやっているものだから、それに対して何か言うつもりはないですけど、もっと個性を出してトガッてもいいんじゃないかな。これが流行るから、これがメインストリームだからってところでやるもんじゃないなっていうのは、チェリコをやる上では常々思っていることではあるので。もちろん、こっちの勝手な主張ではあるんですけどね(笑)。


--楽曲としては、アイリッシュ・パンクを基調に、これでもかって言うくらい、「火華~HIBANA~」は、いろいろな音楽のエッセンスを詰め込んでいますね。

MASAYA:オープニングの静かなところではケルト・ミュージックの雰囲気を思いっきり出しながら、そのあとドラムのスネアからパーンってなるところは、スーパーファミコンの『ロマンシング サ・ガ』――『ロマンシング サ・ガ』シリーズの作曲をしている伊藤賢治さんが、僕は大好きで。延いては、『ファイナルファンタジー』シリーズの植松伸夫さんも大好きなんですけど、その『ロマンシング サ・ガ』の四魔貴族の音楽のオマージュになってるんです。

--なるほど。

MASAYA:そのあと、Aメロで裏打ちになるんですけど、そこはケルトとスカのトロージャンズ。それがKAT$UOさんの和を意識した歌詞と節回しが乗ることで一気に日本風になる。そこがかっこいい。で、曲の最後は、『聖闘士星矢』の「ペガサス幻想」(笑)。ダサいけど、敢えて、あのジャジャジャーンをやろうって。そんなふうに、ほんといろいろな要素を詰め込みました。

--イントロの泣きのリード・ギター、ドラムのツイン・ペダルにはメタルの要素が感じられますが。

MASAYA:そうですね。やっぱり幼少期からジャーマン・メタル、メロスピはゴリゴリ通っているんで。ハロウィンとか、アングラとか、アングラはブラジルのバンドですけど、そういういろいろな要素を入れたいんですよ。

--そして、おっしゃったように歌詞は、和風で。“火事と喧嘩は江戸の華”からの連想なのかなと思ったんですけど、時代劇っぽいと言うか、江戸時代を意識した、ここまで和風の歌詞は、これまでなかったですよね?

KAT$UO:なかったですね。今回、他の曲もそうなですけど、口頭語的と言うか、きちっとしていない言葉が多くて。〈それで〉っていうのを、〈んで〉って歌うみたいに砕けた歌詞をつけているんですけど、「火華~HIBANA~」がなぜそういう世界観になったのかというと、〈あっぷっぷ〉という歌詞があるんですよ(笑)。歌詞をつけるとき、そこはもう〈あっぷっぷ〉としか聞こえなくて、そこからイメージを広げていったんです。元々、こういうかぶいている感じの歌詞を書きたいっていうのはあって、この曲ならハマるだろうと思って、つけていったらどんどんハマっていたんです。

--そのかぶいている感じは、どんなところからの発想だったんですか?

KAT$UO:俺、ヒップホップも好きなんですけど、ヒップホップのほうがロックよりも自由度が高いと言うか、歌詞のメッセージがロックはメロディーに縛られている分、ヒップホップに負けているなと思う時があるんですよ。だから、できるだけ強い言葉を乗せたいと常々思っているんですけど、大阪弁とか京都弁とか、方言ってかっこいいじゃないですか。だったら東京で生まれ育った俺たちにふさわしい、かっこいい言葉があるんじゃないかってところで、こういう言葉遣いは江戸弁って言えるんじゃないかなって。

--KAT$UOさんは東京出身なんですね。

KAT$UO:そうです、蒲田です。大田区の。

――あ、そうなんだ。

KAT$UO:そうなんですよ。それで今回、「蒲田行進曲」のカヴァーが入っているんです。

--そうだったんですか。なぜ、「蒲田行進曲」なんだろうと思ったら、そういうことだったんですね。そして、2曲目の「Daydream Believer」はアイリッシュ・パンク調の曲ですが、20年前の自分に歌いかけながら、いつの間にか今の自分に今一度、発破をかけているようなところがおもしろい。

KAT$UO:まさに。

--〈何も恐れないその目で睨んでた未来ってそんなモンかよ〉〈いつも叫んでた張り裂ける心がこのまま終われるのかよ〉という歌詞からは、みなさんがこれまでどんな思いでバンドを続けてきたのかが窺えます。

KAT$UO:紆余曲折しながらやってきたバンドですからね。メンバーの出入りも激しかったし、浮き沈みも多かったし、その都度、岐路に立たされてきたと思うんですけど、休止することもなく、ここまでやってきた道のりを改めて振り返ってみると、“あの時がピークだったのかな”って思うことも正直あります。でも、結局、“いいの?おまえはそれで”ってなるんですよ。今、やめて、何が残るかっていったら、犠牲のほうが多いだろうしって考えると、まだまだやめられない。もう1回、でかいステージに立って、昔の自分に、もっといい景色を見せてやりたいって思うんですよ。
 

車に例えれば、アメ車。

--結成20周年のアニバーサリー・イヤーということで、しばらく離れていたけど、また聴いてみようというファンもいると思うんですよ。そういう人たちが今回のアルバムを聴いたとき、チェリコがまだまだ、「火華~HIBANA~」や「Daydream Believer」のような曲をやっていたら、すごくうれしいし、勇気づけられるんじゃないかって。そういうところが今回のアルバムは、すごくいいなと思うと同時に、ただ単なる原点回帰で終わらずに20年やってきたからこその成熟とか、したたかさとかが感じられるところも聴きどころじゃないかなと思うんですけど、そこは意識したところなんですか?

MASAYA:自然とそうなったんじゃないかな。こういうふうにしたら、お客さんは乗るだろうなってことは考えないですけど、こういうふうにしたほうが聴きやすいだろうなっていうのはあります。昔はそうじゃなかったじゃないですか?

KAT$UO:うん。

MASAYA:こうしたいと思ったら、こうする。誰かが“こっちのほうがいいと思うよ”って言っても、“いや、こうしたい”って押し通したけど、今は、“それだとちょっと聴きづらい。せっかくの言葉がもったいない”とか、“歌が聴こえないからバックの演奏をちょっと抑えよう”とか、そういう意味でのしたたかさはありますね。そういう経験に裏打ちされたものは自然にあると思うんですけど、今回のアルバム、実はもっと賛否両論あるかなと思ったんですよ。

――え、そうだったんですか。

MASAYA:そしたら、思っていた以上に評判が良くて。バラードの「ラスト・ピース」を、友達のバンドに聴いてもらったら、“チェリコの「シングルベッド」だね”って。シャ乱Qの。そう言われたんですけど、確かに自分らが聴いてきた90年代のJ-POPのバラードっぽいところがある。今回、バラードも4曲ぐらい候補があって、その中からみんなで選んで、「ラスト・ピース」になったんですけど、それも狙ってどうこうって言うよりも、狙ってたら、逆にこの曲、入れなかったと思うんですよ。それかもっと現代風のしゃれたアレンジにしてたと思うんです。だから、今回はしたたかに作ったと言うよりは、愚直なまでにやりたいことをやったのかなって気持ちはありますね。


--なるほど。賛否両論を予想していたというのは、バラードに対してですか?

MASAYA:いや、「ラスト・ピース」に限らず、「火華~HIBANA~」を聴いて、“どうしちゃったんだ?いきなり和装して!”とびっくりされるとか、全体通してですね。3曲目の「パブリック・ハウス」は、これこそチェリコって感じなんですけど、5曲目の「Social Network Slave」は玄人好みすぎるんじゃないかとか。

――ああ、ブルージーでハード・ロッキンなアレンジが。

MASAYA:レッド・ツェッペリンやストーン・ローゼズの2ndアルバム『セカンド・カミング』の「ブレイキング・イントゥ・ヘヴン」を意識しましたから。そういう意味では、楽しんでもらえるのかな。大丈夫なのかなって。ただ、みんな“マンセー!マンセー!”じゃつまらないから(笑)、賛否両論あるぐらいのほうがいいんですけど、1から10まで説明するのイヤじゃないですか。この曲はね、こういうあれでねって。そうじゃなくて、やっぱり純粋に楽しんでもらいたいですからね。

--僕はすごく楽しかったですけど。

MASAYA:ありがとうございます(笑)。

--いや、だって、「火華~HIBANA~」「Daydream Believer」「パブリック・ハウス」「Flame」という前半の4曲と、後半の「Ark Line」「ラスト・ピース」「Of Music」では、同じバンドとは思えないくらい曲の幅が広いじゃないですか。そこが楽しいと思うんですけど、「ラスト・ピース」のようなバラードは昔だったら歌えなかったですか?

KAT$UO:バラードはこれまでもありましたけど、言ったら失恋ソングみたいな世界観を、個人的な視点で歌詞にするって初めてでしたね。個人的な視点っていうのは、歌の主人公の主観って意味なんですけど、今回、そこは今までやったことがないことに挑戦してみたいという気持ちもあって、意識的にやってみました。

--「ラスト・ピース」はこれからライヴでも歌っていくことになると思うんですけど。

KAT$UO:どの面下げて歌えばいいんですかね(笑)。

--いやぁ、ライヴの聴きどころになると思いますよ。

MASAYA:山崎まさよしさんとか、スガシカオさんとか、ダメな男のことを歌うじゃないですか。そういうところがかっこよくて、好きだなって思うんですけど、20代の若い男が歌うわけじゃないから、しみったれた感じがよけいにかっこよかったりするんですよね。だから、KAT$UOさんはめちゃめちゃ合うと思うんですよ。

――そうですね、とは言いづらい(笑)。

MASAYA:2人でDIET COKE$って弾き語りを、バンドで出られない時にやるんですけど、KAT$UOさんに山崎まさよしさんの曲、歌ってもらいましたよね。

KAT$UO:やったね。

MASAYA:〈路地裏の窓 こんなとこにいるはずもないのに〉みたいな。

KAT$UO:「One more time,One more chance」ね。

MASAYA:やっぱ、合うなと思いました。声の枯れた感じと歌詞のしみったれた感じが。だから、「ラスト・ピース」、ライヴでやってもかっこいいと思いますよ。

--今回、ヴォーカリストとしての魅力を再確認しました。

KAT$UO:あら、うれしい(照)。

--歌声が染みるんですよ。

MASAYA:僕なんかは器用貧乏タイプなんですよ。でも、僕が好きな海外のミュージシャンって、みんな一点突破タイプなんです。イングヴェイ・マルムスティーンとか、マイケル・シェンカーとか、リッチー・ブラックモアとか、万人が望むプレイができるわけじゃないけど、自分のスタイルに関してはハンパじゃない。そういうミュージシャンに憧れてきたはずなのに、自分はどんなジャンルでもそつなく、なんとなくこなせるタイプのプレイヤーになっちゃったなと自分では思うんですけど、KAT$UOさんは一点突破タイプで、他のヴォーカリストにはない突破力を持っている。長年、一緒にやってきて、それは思いますね。

KAT$UO:初めて聞きました。俺、そういうタイプなんだ(笑)。

MASAYA:車に例えれば、アメ車。僕なんかは日産マーチ。小回りが利く(笑)。

--でも、その突破力と器用さが合わさるからこそ、これだけバラエティーに富んだアルバムが作れるんじゃないですか。

MASAYA:ああ、その一言で救われました。ありがとうございます。ハハハハ。
 

お客さんからも“チェリコは売れてもいいよ”って言ってもらえるんですよ(笑)。 

--ところで、20年やってきたからこそ歌える曲は、「ラスト・ピース」以外にもあるんじゃないでしょうか?

KAT$UO:「Ark Line」も、「Of Music」もそんなふうに言ってもらうことが多いんですけど、俺の中ではそんなに抵抗はなかったですね。確かに言われてみると、昔だったら歌詞にしないような、ほんとストレートなことやこっぱずかしいようなことも普通に歌っていて。でも、それも自分の中から自然に出てきたものなんです。「Of Music」も普段、ライヴのMCで言っていることを伝えたいと思ったんですよ。“チェリコのライヴは曲を知ってるとか、知らないとかじゃない。その場のノリで楽しめるから”っていつも言っているんですけど、そうすると、お客さんも“CDを買わなくてもチェリコのライヴは楽しめるよ”って。ふざけんなと思うんですけど(笑)、そういう音楽の楽しさをせっかくだからアコギ1本で表現しよう、それかっこいいんじゃないかってやってみたり、「Ark Line」は昨年、僕らメンバーで会社を立ち上げたんですけど。


--その会社の名前でもありますね。

KAT$UO:そうなんです。箱舟の航路って意味なんですけど、ノアの箱舟の話あるじゃないですか。ノアの家族とすべての動物のつがいを乗せたっていう。でも、あれに乗れなかった人たちは洪水に流されて、生き残った種が次の時代を作っていったっていうところで、その選別は誰がしたんだろうって。同じ人間なのに乗れる人と乗れない人がいる不条理って決して神話の中の話じゃなくて、今の世の中にもあるじゃないですか。そういうコントロールする人がいて、その人たちの匙加減で動いていく世の中に対するメッセージを歌ってみたんです。人が命を奪われるって、戦争だけに限らず、病気だったり、事故だったり、いろいろあるけど、選ばれる人、選ばれない人って何なのかなって考えると、いろいろ思うところはありますね。

--「Ark Line」は今回のアルバムの中で特に好きな曲なんですけど、〈人を愛して家族が出来て掛け替えない命が生まれ そんなあの娘は守るものがあった〉というフレーズは、元メンバーのtomoさんを連想させますね。

KAT$UO:ああ~。tomoちゃんのことだけを歌ったわけではないんですけど、彼女、波乱万丈な人生を送っていて、そういう破天荒な娘も子供ができて、立派にお母さんをやっている。感慨深いものがありますよね。そういうことってあるんだなってその情景を思い浮かべたっていうのは確かにありましたね。

MASAYA:レコーディングしているスタジオに子供を連れて遊びに来てくれたんですよ。

--ベートーヴェンの「交響曲第9番」のメロディーがモチーフとして使われていますね。

MASAYA:ええ。コーラスもホールで聖歌隊が歌っているイメージで〈ララララ〉にしました。クラシックも好きで、「火華~HIBANA~」にもちょっと入れているんですよ。

--そういうところがキャッチーと言うか、耳に残りますよね。

MASAYA:キャッチーって言われると、めっちゃうれしいです。前作の『THE ANSWER』を作ったとき、KAT$UOさんにキャッチーとポップの違いを教えられているんで、僕は。

KAT$UO:どの立場なの、俺?(笑)

MASAYA:前作を作ったとき、“ポップとキャッチーは違うと思うんだよね”っていう話をしたんですけど、それまで考えたことがなかったんですよ。ほぼ同義語だと思ってたんで。だから、KAT$UOさんが“違うと思うんだよね”って言ったとき、何を言ってるのかなって思ったんですけど、“メロディアスじゃなくてもキャッチーだったりするじゃん”って言われて、ああ、確かに確かに。耳をとらえるインパクトがあるならって。

KAT$UO:僕がMASAYAに教えました(笑)。ホワイトボードに書きながら。ハハハハ。

MASAYA:だから、キャッチーって言われると、うれしいですね。そこは前作からすごく意識しているので。メロディアスなバンドって今いっぱいいるし、とてもいい曲を書く人たちも世界中にいっぱいいる。じゃあ、自分たちにできることって何かなって考えると、これかなっていう。

--なるほど。キャッチーということに繋がるのかもしれないですけど、意表を突く展開が曲の中に幾つかあって、たとえば、「Flame」の〈燻る紅い炎が〉で転調するところとか、「桜舟~Sail Of Life~」のsuzuyoさん(A.Sax/Tin Whistle/Harmonica/Vo)が歌うパートとか。

MASAYA:ああ~。

――それまでの流れからガラッと変わるじゃないですか。それがそれこそキャッチーで、すごく耳に残るんですけど、意識してやっているんですか?

MASAYA:あまり言ったことはないんですけど、アイリッシュ・パンクをはじめ、民族音楽を取り入れたロックの進化をチェリコが推し進めないとダメだと僕は大真面目に考えているんです。僕、ポーグスもフロッギング・モリーも大好きですけど、ポーグスが曲の中で転調するかっていったらしないわけですよ。でも、それと同じことを僕らがやってもしかたない。もう後がないと言うか、音楽的な進化がない。今のアニソンのほうがよっぽど進化しているんですよね。もう平気で転調、ばんばんするし、でも、すげえキャッチーで。それを聴いたら、やっぱり遅れていると思うんですよね。民族音楽を取り入れたロックは。もちろん、それがアイリッシュだ、レゲエだ、スカだっていう考えもあると思うんですけど、そのままじゃ未来がないという危機感が僕はある。だから、僕たちがこの音楽を、世界的に進化させていかなきゃいけないと勝手に思って、そういう要素を入れているんです。だから、転調も狙ってやっています。


――冒頭で遅ればせながら、チェリコの大ファンになりましたと言いましたけど、僕が今回、大ファンになったのは、まさにアイリッシュ・パンクの進化を感じた、そういうところだったんですよ。

MASAYA:今いる僕らの立ち位置って日本武道館を満杯にできるわけじゃないですけど、でも、第一線でやらせてもらっている自負はあるので、そこで僕らができる限りのことをやり尽くして、残していかないと、後に続く者も出てこないんじゃないかな。今、評価されたいとは思いますけど、僕らが死んだあと、それを聴いてきた奴らが出てくればいいかなという思いもありますね。今回のアルバムを聴いて、“あ、こんなことできるんだ。じゃあ俺もバンドやってみてえ。こんなわけわからないバンドを”みたいに思ってもらえたらうれしいですよ。

――なるほど。20年やってきたチェリコは、これからどこを目指すのか、最後に尋ねようと思っていたんですけど、最後の質問の答えが出てしまいましたね(笑)。

KAT$UO:まさにMASAYAが言った通りですよね。人ができることをやってもおもしろくないと言うか、自分が満足しないだろうしってところじゃないですか。他のバンドやったことないからわからないですけど、楽しいからやるっていうのは絶対条件だし。だから続けてこられたんだろうなとも思いますね。極端なことを言ったら、アイリッシュ・パンクじゃなくなっても俺らはいいんです。この6人でやって、それが全然違うものになってもいい。これをやらなきゃいけないっていうのはないんです。自分たちがいいと思うものを推し進めていくだけで……それやって売れたいですね(笑)。

MASAYA:ハハハハ。それ一番だよね。昔は売れたいって言うのはダサいとか、恥ずかしいとかってあったかもしれないけど、僕らもいろいろ楽しい企画があるんですよ。たとえば、KAT$UOさんが言ってたんですけど、日本で2泊3日、1,000人規模のクルージング・ライヴを、けっこうな数のバンドを誘ってやりたいんです。でも、それって自分らの集客力が船を満杯にするぐらいないとできない。だったら売れるしかない。だから、今は売れたいって素直に言えますね。いいものをやっている自負もありますし。ありがたいことに、お客さんからも“チェリコは売れてもいいよ”って言ってもらえるんですよ(笑)。マニアックなファンって売れたら嫌がるじゃないですか。でも、チェリコのファンは、“売れて、もっと売れて”って(笑)。

KAT$UO:まるで、こっちが意図してアンダーグラウンドに留まっていると思ってる(笑)。

MASAYA:だから、“違うんだよ。がんばってるんだよ。俺たちも”って(笑)。でも、そんなふうに背中を押してくれるお客さんがたくさんいてくれるってありがたいですよね。





“OLDFOX”
01. 火華~HIBANA~
02. Daydream Believer
03. パブリック・ハウス
04. Flame
05. Social Network Slave
06. 蒲田行進曲
07. Ark Line
08. ラスト・ピース
09. Of Music
10. 桜舟~Sail Of LIFE~
11. Brigade
CD / TKCA-74837 / ¥2,591+税



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