"GRATEFUL ONION 2021" LIVE REPORT!!
Report by Chie Kobayashi
Photo by manaty
2021.11.23
"GRATEFUL ONION 2021" @USEN STUDIO COAST
帰り道、広辞苑のアプリで「ヒーロー」という言葉の意味を調べてみた。それから「ヒーローの条件」というワードで検索もしてみた。たどり着いたヒーローについての論文とやらも読んでしまった。どうしてか。「GRATEFUL ONION 2021」、この日のHOTSQUALLがヒーローだったから。
前任ベースの卒業が決まる前に「GRATEFUL ONION 2021」出演のオファーを受けていたDizzy Sunfistは、卒業が決まってから、改めて「新体制で出演したい」と申し出て、HOTSQUALLから快諾をもらったという。あやぺた(Vo, Gt)は「Dizzy Sunfistを信用してくれてありがとうございます」とステージ上でその感謝の気持ちを述べていた。コロナ禍にライブを一度も行わず、この日が2年ぶりのライブとなったOVER ARM THROWは「引っ張り出してくれてありがとう」と言った。ほかにもこの日出演したバンドはみんな、MCで言わなかっただけで、それぞれがHOTSQUALLに救われた場面はあると思う。彼らの強さだったり、優しさだったり、まっすぐな眼差しだったり。だから私は、この日、HOTSQUALLはヒーローだと思ったのだ。
コロナ禍でのHOTSQUALLは積極的に新作をリリースする一方で、恒例となっていた主催イベント「ONION ROCK FESTIVAL」は2年連続で開催できず、「GRATEFUL ONION」も2020年は開催がなかった。THE CHERRY COKE$のKAT$UO(Vo)が、この日のことを「何度もトライして、壁にぶつかっても諦めなかった覚悟の塊」と言っていたが、まさにその通り。HOTSQUALLの強い想いと、HOTSQUALLを慕い慕われた仲間が作り上げた覚悟の塊が、この日の「GRATEFUL ONION 2021」だった。
トップバッターのTHE CHERRY COKE$は、気付けの一杯とばかりに「Dong Chang Swag」「John Ryan’s Polka」で場内を一気に温める……どころか、のっけから“どんちゃん騒ぎ”のムードに。一方で2008年、初めてSTUDIO COASTに出演した「1997」では「メロディックパンク好きなキッズに俺たちの音楽がわかるもんか」と思っていたものの、蓋を開けてみたらテントからあふれるほどに人が集まったと回想。バンドにとってその気付きは大きな節目だったと言い、この日もスタートから会場いっぱいに集まった観客を愛おしみ「RISE AGAIN」を届けた。
続くBUZZ THE BEARSは「ここがライブハウス・スタジオコーストだ!」という、直前のKAT$UOの言葉をそのまま具現化したようなライブに。通常では大合唱が巻き起こる「約束」では、「口パクで!」との越智健太(Gt, Vo)の指示通り、実際には歌声は上がらなかったものの、まるで大合唱が聞こえてくるような一体感がSTUDIO COASTに広がった。その名も「ライブハウス」とのタイトルを冠した同曲ではさらに3人が感情を爆発させ、ラストナンバーは「雨」。“HOTSQUALLの友達”らしい温かなステージで繋いだ。
「FOMAREです、よろしくお願いします!!!!」と、ひときわ元気いっぱいに登場したのはFOMARE。意気込みいっぱいに「雨の日も風の日も」「Frozen」とパンキッシュなナンバーをたたみ込んでいく。かと思えば、地元・群馬への想いを綴った「夕暮れ」や失恋を歌ったバラード「長い髪」では、情景を描き出させるかのように丁寧に歌い上げる。しかしパンクをルーツに持つ彼ららしく、最後には「君と夜明け」を叩き込み。勢いを加速させ、あっという間に駆け抜けていった。
「YOUR SONG」から始まったSECRET 7 LINEのステージは、RYO(Gt, Vo)が「今日はお前らと作りに来たぞ!」と言っていたが、まさにその通り、歌えはしないもののシンガロングパートのある楽曲多めのセットに。また「踊ることはできるよな?」と煽ってから始まったブロックでは「TILL THE SMELL'S GONE」「DANCE LIKE NO TOMORROW」を続けて、観客の体を揺らしていく。「今日出てるバンド、みんな想いは一緒」と言っていたが、それはRYOが「IT'S ALL RIGHT」の曲中に放った言葉に込められていたのだろう。「これからもライブハウス、ライブバンドをよろしくお願いします」。
「新木場、無事立てました。踊っていきましょう」とふらりと挨拶してからスローなチルナンバー「SOBER」でライブをスタートさせたのはENTH。その自由な雰囲気は3人のスタイルだけでなく、セットリストにも大いに反映。登場こそゆるりとしたムードを漂わせたかと思いきや、高速ツービートの「BLESS」、ハードな「"TH"」を続けて、一気にアゲていく。さらに「Get Started Together」でエモーショナルを届け、最後には再び裏打ちナンバー「I'm the Fool」で和ませるという、ENTHのペースに巻き込んだステージを展開した。
会場には千葉の台風被害支援をきっかけに繋がったという支援プロジェクト「#サポウィズ」のブースが出店。ステージでは、Tokyo Tanaka(MAN WITH A MISSION)がDJとして登場した。Tokyo Tanaka は、locofrankやHEY-SMITH、ROTTENGRAFFTYといった、仲間のアーティストの楽曲で会場を盛り上げる。さらに10-FEET「super stomper」ではTokyo Tanakaが思わず歌い出し、最後はMAN WITH A MISSION「FLY AGAIN」でフィニッシュ。「GRATEFUL ONION」のための選曲であろうが、観客それぞれのSTUDIO COASTでの思い出をも引き出すための選曲だったのではないかと推測してしまうが、果たして。
Dizzy Sunfistはあやぺたが「今までのDizzy Sunfistを越えに来ました」と意気込みを語っていたが、これはファンに向けてというよりも、冒頭で説明したいきさつがある以上、つまり何よりも新体制のDizzy Sunfistを信頼してくれたHOTSQUALLに対して、“今までのDizzy Sunfistを超えている姿”を見せなくてはならないのだ。突如“オニオンポーズ”を編み出してうれしそうにしている姿などはいつも通りだったが、たとえばHOTSQUALLに向けた愛の歌として届けられた「Little More」ではあやぺたが勢いあまってマイクスタンドを倒してしまうほど感情的に。さらにはSTUDIO COASTでMVを撮影した「So Beautiful」を同じ会場で披露するなど、その心意気を隅々から感じられるライブを見せた。
Peta(Vo)から「あやぺた」と付けたというDizzy SunfistのあとにGARLICBOYSという出演順に意図があるのかないのか、それはHOTSQUALLのみぞ知ることだが、いずれにしても次に控えるのはGARLICBOYS。「行きますよ~」とふらりとライブを始めたGARLICBOYSだが、一音鳴らせばそこにゆるさは皆無。「YOKOZUNA」や「失恋モッシュ」など、みっちりと詰まった骨太のハードコアナンバーを、しかもほぼノンストップで展開。それでいて曲間には、何か言いたげなファンにマイクを向けて会話を楽しんだり、2階席で盛り上がる観客にもマイクを向けたりと、余裕と貫禄を見せつけた。
OVER ARM THROWはこの日が2年ぶりのライブ。ファンはもちろん待ち焦がれていたが、それはメンバーも同様の様子で、菊池信也(Vo, Gt)の「すべての人に…」との言葉から始まった「Thanks」でさっそく一気に拳が上がると、そのフロアの様子を3人はうれしそうな顔で見る。「(体力的に)思ってたよりつらい」「話すことがいっぱいある」「やっぱりカロリーたくさん消費しますね」と笑いながら、それぞれがひさしぶりのライブを語る。その間にリリースした「Polestar」を、ようやくバンド形式で初披露した喜びもひとしおのよう。さらにその喜びや、バンドに対する思いを爆発させながらライブはさらに熱を帯びていく。「Dear my songs」では菊池がシンガロング代わりの拳を浴びながら、フロアに何度も頭を下げ「また会おうな!」と約束。ひさしぶりのステージを、3人は満ち足りた表情で締めくくった。
この日の出演バンドは、言うまでもなく全組ライブバンド。ツアーで楽曲を完成させていき、ライブを重ねてバンドの底力を上げ続けてきた。それをこの日一番感じさせたのがNorthern19。笠原健太郎(Vo, G)の第一声、「新木場ー!」と呼びかけたその声の大きさというか、ハリの強さが飛び抜けていた。彼らは現在ツアー中で、3日後にツアーファイナルを迎える。バンドとして完全に“仕上がっている”時期なのだ。自分たちの出番について「大トリ」と言い間違えていたけれど、気持ちは大トリを任されたくらいの気持ちだったのであろう。もちろん声の大きさだけでなく、3人の演奏もタイトで、定番曲「STAY YOUTH FOREVER」から、最新アルバム収録曲「MOVE ON」まで、弾けるような勢いで駆け抜けていった。
直前のNorthern19が「SUMMER」を最後に投下し“真夏”になったSTUDIO COASTに、サザンオールスターズの「HOTEL PACIFIC」が鳴り響き、HOTSQUALLの3人が登場。アカマトシノリ(Vo, B)の「こんな時代、夜明けはすぐそこだ」と力強い言葉とともに「Daylight」でライブの封を切った。
アカマが「今日ヤバかったな。みんなの顔見たら伝わってきたよ」と言えば、チフネシンゴ(Gt, Vo)も「開催できてよかったです。ステージに立ってみんなの前で演奏していることが、夢のようです」と感慨を次々と口に。昂ぶる想いを重ね、しんみりしたムードになるかと思いきや、突然「SLAM DUNK」のセリフを引用して笑いを誘うあたりもHOTSQUALLらしい。ドウメンヨウヘイ(Dr, Cho)の軽快なキックから「‘Cause you are here」でライブを再開させると、続く「For today」で<これから紡ぐ日々に例え何が起ころうとも/あの日に描いた未来を夢見ていくのさ>との歌詞が、コロナ禍に2年越しで開催された「GRATEFUL ONION 2021」とリンクして胸を打つ。「Darlin' Darlin」では、アカマがハートマークを作るだけでなく、両手を大きく広げて、STUDIO COASTごと抱きしめる。その後、いつも以上に頼もしく「Won’t let you down」「ROCK SOLDIERS NEVER DIE」を届けたあと、MCをしようとマイクに向かったアカマだったが、言葉に詰まる。「今、ぐっときた。みんなの顔を見てたら何も言えねえ」と目に涙を浮かべる。続けて「音楽食って生きてるから、すごくエネルギーをいただきました」とこの日を振り返って、涙を引っ込めると「いつもは『背中を押してやる』って言うんだけど……もうその必要ねえな。俺たち先進んでるもんな。だから一緒に行こうぜ」と焚きつけ、コロナ禍で制作された「Grateful Shout」をドロップ。さらに2年前の「GRATEFUL ONION」の景色が原体験となっている「High-On The Winding Road-」、「LAUGH AT LIFE」と続けて熱狂のうちに本編を締めくくった。
アンコールではドウメンが「今日は全員ドメってました!」と出演者やオーディエンスを称え(?)、チフネは「またやりましょう。その頃はみんなもやりたいようにできるようになってると思う。けど、俺たちはこれを乗り越えたから、無敵ですな!」と振り返る。
しかし感傷に浸ってばかりいないのがHOTSQUALL。ここで新曲「January Rain」を披露し、その無敵っぷりを示す(ちなみに「January Rain」は翌日24日に配信スタート。MVも公開された https://youtu.be/S2ZFo6dLrEg)。最後の最後に「GRATEFUL ONION」らしく「Enjoy Music」をプレイし、イベントは大団円を迎えた。
と、各バンドの様子を書き連ねてきたが、1日通して印象的だったのはフロアの様子。これだけの熱演に、フロアも高まっていて、正直「クラウドサーフが起こるのでは」と思うような熱狂に包まれる場面が何度もあった。それでもモッシュもクラウドサーフもまったく起こらなかった。それはひとえに、集まった全員が『ライブハウスを守る』という強い意志を持っていたからにほかならない。まさにこの1日を作り上げた、HOTSQUALLというヒーローのもとに集まった、バンドもオーディエンスも含めた“俺たち”は、無敵だ。