LIVE REPORT

BRAHMAN “六梵全書 Six full albums of all songs” LIVE REPORT!!

Report by Shuichi Aizawa(PineBooks Inc.)
Photo by Tsukasa Miyoshi (Showcase)


BRAHMAN “六梵全書 Six full albums of all songs”
2024/11/04 @横浜 BUNTAI

 

この世に暮らす人々の分だけそれぞれの人生があるように、好きになった音楽との出会いも人の数だけ違うだろう。ある人は親や兄弟といった家族の影響で。またある人は友達や付き合った人から勧められて。他にもテレビや雑誌、SNSやネットと挙げればきりがない。でも出会い方や時期は違えども、その好きになった音楽を奏でているのはいち、アーティスト・バンドであることは揺るがない。

BRAHMAN。1995年に誕生し、2025年で結成30周年を迎えるパンク・ハードコアバンド。この30年という月日は、ひとりの人間が誕生して成人し、さらなる波に乗ろうとする三十路を迎えるのと同じ時間だ。人生にいい時もあれば悪い時があるように、BRAHMANだってそう。出会いや別れ、さまざまなことを乗り越えながら歩みを止めることなく、曲を作り、ライブで音を奏でてきた。その大きな節目を迎えようとするBRAHMANが、活動30年の間にリリースしてきた6枚のアルバム、全72曲を4時間かけて披露するという。題して“六梵全書 Six full albums of all songs”。30年を4時間と書くと少なく感じるかもしれないが、4時間ぶっ続けのライブとは、正にいちバンドの人生のそのものが凝縮される時間だろう。会場となった横浜BUNTAIには、30年近くを一緒に過ごしてきたであろう人から、最近知ったであろう若い世代まで、さまざまなオーディエンスが集結した。それはそれぞれが着ていたTシャツからも伝わってくる。あれはあのアルバムのツアーの時のだ、こっちはあのイベントのだ、これは対バンアーティストとのコラボだ、ってそれぞれの思い出が詰まったTシャツを着ていると感じる。この光景を見ただけでもグッときてしまう。

この日会場に集まったみんなは、BRAHMANとどの作品で出会ったのだろう。結成したてでスタイルが荒々しかった初期作? それともAIR JAM '98直後にリリースされた1stアルバム『A MAN OF THE WORLD』だろうか。またはメンバーの内面を紡いだ『A FORLORN HOPE』か、生きる目的を模索、追求した『THE MIDDLE WAY』だろうか。もしくは苦しみながらも人生を謳った『ANTINOMY』? 東日本大震災を経て新たな境地に立った『超克』、その時のありのままを表現した『梵唄』だろうか。冒頭に書いたように人の数だけ出会いはあるから、Tシャツと同じようにそれぞれが思い思いの作品を胸に抱きながら足を運んできたのだろう。


こうして始まったライブの1曲目は、6thアルバム『梵唄』から「真善美」。BRAHMANによる4時間1本勝負の開幕宣言だ。フロアを埋め尽くすオーディエンスから洪水のような大合唱が起きてステージに押し寄せる。KOHKIのギターが鳴り響き、MAKOTOのベースがうねり、RONZIのドラムが鳴り響く。巨人の足踏みのように地面が揺れる。そして大歓声のオーディエンスのシャウトをかき消すかのようにTOSHI-LOWが歌い叫ぶ。
<さあ 幕が開くとは 終わりが来ることだ 一度きりの意味を お前が問う番だ>




そのままMCに流れ、TOSHI-LOWは語りかける。

「さあ、幕が開くとは終わりが来ることだ。一度きりの意味をおれたちが問う。六梵全書。30年分のBRAHMAN、始めます!」。



フロアが沸騰し爆発する。続くも『梵唄』から「雷同」、さらに「EVERMORE FOREVER MORE」。ここで気づいた人もいたかもしれない。もしかすると、アルバムの曲順に行くのではと……。そう、この夜は30年の時を巻き戻していくかのようにライブが続く。『梵唄』の1部を終え、小休止を挟み『超克』が2部で、3部の『ANITINOMY』と、まるで螺旋階段を上から下に降りていくように、深く深くオーディエンスを誘っていく。だが、このままいかないのがBRAHMAN。これまでだってオーディエンスの期待をさらに超えてきたのだから。



4部はライブの折り返しを迎える3rdアルバム『THE MIDDLE WAY』から「THE VOID」。次は「LOSE ALL」だなと思いきや「BASIS」。これは2nd『A FORLORN HOPE』収録曲だ。ここからは1st『A MAN OF THE WORLD』も含めた曲が、予測不能にランダムに繰り出されていく。ここからがすさまじかった。階段はもっと下へ下へと。オーディエンスを自分たちの深淵へと引きずり込んでいくように休みなくライブはひたすらに続いていく。まだまだおれらの底は先だというように。正直、この辺りからは楽しいけど苦しくもあった。まるで深い海の底まで潜ってきたかのような感覚だった。その底で夢中で拳を上げ、ともに歌い、叫んだ。みんなとともに潜りに潜った。

そしてたどり着いた先は72曲目の「TONGFARR」。フロアは水面に上がっていこうとするダイバーたちが泳ぎ回り、ステージでもメンバーが自由に泳ぎ回っている。「生きてっか? 大丈夫か?」と声をかけるTOSHI-LOW。苦しかったのはオーディエンスだけじゃない、メンバーもだ。4時間ひたすらに体を動かし、曲を鳴らし、歌い続けたのだから。でもその顔は苦しそうではなく、とても満足そうだった。

こうして30年の節目のライブに終わるが来る……とはならず、「FLYING SAUCER」「BEYOND THE MOUNTAIN」「ARTMAN」のボーナス3曲のラッシュ。これは彼らなりのありがとうの表現なのではと感じた。だってやり切った4人の笑顔がそこにはあったから。


これまでに“今”を乗せて、今に“今”を乗せて、未来に“今”を乗せて、BRAHMANはオーディエンスとともに未踏の先へと歩みを進める。いつのまにか満ち足りてしまったら、思い切って苦しくなるまで潜ってみるのもいい。音楽はまだまだ人の心を揺らすことができる。そのことを今日、この会場にいたみんなは知ったはずだ。だからあんなにもまっすぐに楽しそうに音を掻き鳴らしていたし、私たちは一緒に楽しむことができたのだ。音楽はライブは、楽しいと。抗えない衝動を胸により前に進み続けるBRAHMAN。彼らの姿を私たちはいつまでも追い続ける。そう、30年への歩みはまだ終わらない。来年2月26日には7thアルバム『viraha』のリリース、そしてアルバムツアーへとつながる。次のライブでまた会いたい。

 

BRAHMAN オフィシャルサイト:https://brahman-tc.com/