INTERVIEW

Who’s Next by SATANIC Editing Room Vol.33:RAINCOVER

SATANIC ENT.の編集スタッフが気になるバンドをピックアップする連載企画"Who's Next”。今回は今年3月にTRUST RECORDSから1stフルアルバム「good boy」をリリースしたRAINCOVER。10-FEETに憧れてバンドを始めたという辻出凌吾(Vo, Gt)を中心に結成された彼ら。熱量高い楽曲とライブで全国のリスナーの胸を打っている。彼らのルーツ、そして楽曲に込めた想いとは。


Text by Chie Kobayashi
Photo by Ruriko Inagaki

 

きっかけは商店街で配られた京都大作戦のチラシ

──まず皆さんが楽器を始めたきっかけから教えてください。

辻出凌吾(Vo, Gt) 大学生のときに軽音サークルでコピーバンドをやっていたんです、ピンボーカルで10-FEETを。それってめちゃくちゃダサいじゃないですか(笑)。絶対にギターを弾きながら歌ったほうがカッコいいなと思って、楽器を始めました。
 

 

──軽音サークルに入ろうと思ったのはどうしてだったのでしょうか?

辻出 10-FEETが好きでバンドをやってみたいと思っていて。中学高校は剣道部だったので、大学は絶対に軽音楽部に入ると決めていました。

──10-FEETが好きなのは、やはり同じ京都だからというのが大きい?

辻出 そうですね。僕は宇治出身で。中学生のとき、近所の商店街で京都大作戦のチラシをもらったんです。家に帰って、パソコンで調べて、そのとき10-FEETを聴いて。初めて“ロックバンド”と認識してちゃんと聴いたのが10-FEETでした。

──学生時代には京都大作戦にも行きました?

辻出 はい。高校生のときはチャリンコで音漏れを聴きに行っていて、大学生になってチケットを買って行きました。超泣いたっす。

──コウタさん、多響さんが楽器を始めたきっかけは?

コウタ(Gt) モテたかったから。中学時代になんとなく、漠然と始めました。でもきっかけになったのは、RADWIMPSのライブ映像。「会心の一撃」という曲の映像を見て、ギターを始めようと思いました。そのあと聴く音楽は変わっていっていますが、ずっと変わらずに好きなのはELLEGARDENです。
 

 

多響(Dr) 僕は小さい頃に習い事でドラムを始めたんですけど、習い事としては途中で辞めて、そのあとは家でたまに遊びで叩く程度でした。バンドに出会ったのは中学3年生か高校1年生くらいのとき。中学生のときにPSPで「クロヒョウ 龍が如く新章」というゲームをやっていたのですが、そのゲームのテーマソングがRIZEで。「何、この曲!」となって、YouTubeで調べたのが始まりです。そこから[Alexandros]やTHE ORAL CIGARETTES、04 Limited Sazabys、Mrs. GREEN APPLEなどを聴いていました。そこからバンドをやりたいと思って、大学で軽音サークルに入りました。
 


初めて作った「秘密基地」で火がついた

──RAINCOVERはどのように結成されたのでしょうか?

辻出 3人とも大学で同じサークルで。コピーバンドで一緒になることはあったんですけど、オリジナルをやる発想はなくて。で、俺は「バンドやりたい」と思って、大学2回生のときにKYOTO MUSEでバイトを始めるんです。

──「バンドをやりたい」と思ってライブハウスでバイトを?

辻出 高校から軽音楽部に入っているやつらは、高校の軽音連盟みたいなものに入っていて、そこでバンドを組んだり曲を作ったりしていたんですけど、俺は剣道部やったからそんなつながりもない。じゃあバンドが組めそうなところって言ったらライブハウスやなって感じで。そうやってバンドを2つ組んだんですけど、2つとも解散してしまって。俺としては曲を作って形にはしたいけど、バンドが2つともうまくいかへんかったから心が折れてしまって……。もうライブはしたくないし、バンドは組みたくない、だけど曲は作りたい。そう思って、多響に「曲作りを手伝ってくれへん?」って連絡して。

多響 長文のLINEで(笑)。

辻出 で、断られて(笑)。

──断られたんですね。

辻出 多響もコウタも当時はそれぞれ別のバンドを組んでいたから。「自分のバンドがあるんで」って理由で。

多響 だけど「一回飯行こう」って言って。そこで話を聞いて、ライブをする気はないということも聞いて、コウタではないギターのやつと俺と辻出でとりあえず曲を作ったんです。それでできたのが「秘密基地」。

辻出 それができたときに、多響が「バンド本気でやったほうがいいで」って言ってくれて。「絶対いけるから」って。でも俺はもうバンドをやる気はなかったから「嫌だ嫌だ」って言って。

多響 逆にここは断られるっていう(笑)。

──辻出さんとしては、曲を作りたいだけだったから。

辻出 そう。だけど前のベースが、千葉で就職していたんですけど、バンドやるために退職届出して京都に戻ってくるって言い始めて。じゃあ本気でやらないと、と思ってRAINCOVERが始まりました。

──辻出さんはバンドはもうやりたくないと思っていたのに、実際にRAINCOVERとして動き出してみてどうでしたか?

辻出 ちょうどコロナ禍だったというのもあるんですけど、多響も「もう就職せえへん!」ってぶっちぎってたし、当時のギターのやつも意欲的やったし、ベースも仕事辞めてきてるしで、「3人分の人生を背負ってしまっているのかもしれん」って思って。だから頑張らなアカンっていう気持ちが一番でしたね。

──流れに身を任せるように、とりあえずやってみようと。

辻出 もうRAINCOVERが終わったら次のバンドはなし、これが最後やと思って始めました。

──その気持ちは今も変わらずですか?

辻出 今はまた変わってきましたね。最初は誰かが抜けることになったら解散しようって思っていたんですけど、結局ギターはコウタになったし、ベースも抜けたし。今は周りのバンドとか仲間とか、レーベルとか、お世話になっている人たちがいっぱいいるので、期待を裏切らないようにちゃんと頑張らなきゃと思っています。

 

──ちなみにコウタさんはどういった経緯で入ったんですか?

多響 チョロかったよな(笑)。

コウタ 俺、チョロかったか?(笑)

辻出 うん、チョロかった(笑)。

コウタ 前にやっていたバンドは女性ボーカルのシティポップで、今とは全然違うジャンルやったんです。でも俺はメロディックパンクも好きで、大学のときはそういうバンドもコピーしていて。多響と同じで俺も就職したくなかったんで(笑)、RAINCOVERのギターが抜けるっていう連絡がきたときに、タイミングが良くてそのままサポートで2〜3ヶ月やって、加入しました。話をもらう前から、それこそ「秘密基地」は聴かせてもらっていてすごくいいなと思っていたので、迷わずでしたね。


「バンドマンになりたい」から「音楽がしたい」へ

──RAINCOVERとしては、どういう音楽を作りたい、届けたいと思って始めたのでしょうか?

辻出 楽曲的には、面白い展開があるものがいいなと思っていました。いい意味で期待を裏切るような。ミクスチャーが好きなので、1曲に2曲入っているみたいなものにしたいなと思っていました。だから逆にセオリー通りのものがあるのもアリやし。マインド的な面でいうと、心沸き立つものですね。

──心沸き立つものにしたかったのはどうしてですか?

辻出 もともとバンドを始めたきっかけが、10-FEETのライブを見たときに「こんなんできたらカッコいいなぁ」やったんです。それこそ京都大作戦で見て、ステージ見ながら泣いているやつとか、熱狂しているやつとかがおって。「自分もこういうことができたらめっちゃカッコいいなぁ」って。そのあとも、自分の好きなアーティストが、ピンポイントで「今しんどい俺に向かって書いた?」って思うような曲で俺を助けてくれたりした。だから自分も、そういうものを届けられたらと思ってやっています。

──なるほど。

辻出 俺のバンドマン人生は「バンドマンになりたい」から始まったんです。「何何っていうバンド名でバンドやってます」って言って、ライブハウスに出入りするのがカッコいいと思っていて。当時はいい曲を書いていいライブをすることよりも、打ち上げで最後まで残って酒飲んでいることがカッコいいと思っていた。だけど今はそうは思わない。今は音楽をしたいんです。

 

そしてTRUST RECORDSへ

──RAINCOVERは2024年12月にTRUST RECORDS所属を発表しました。TRUST RECORDS所属はどのように決めたのでしょうか?

辻出 お客さんが0人のときから一緒にやっていた仲間が、事務所が決まったり、バズったりしていって。そんな中で、俺らだけ何も決まっていなくて。地元・LIVE HOUSE GATTACAの店長さんに「対バン全員に勝ってこい」と言われていたので、全員に勝ったら売れるんやと思って、何も考えずにそれだけをやっていたんです。

──対バン全員に勝つことも簡単なことではないでしょうしね。

辻出 はい。だからそれはもちろん自信にもなったし、楽しかったけど、俺らは本当にそれだけしか考えていなかったから、“売れる”にはつながらなかった。そんな中で他のバンドの躍進を見ているうちに「そもそも“勝つ”って何?」と思うようになって。でも制作意欲はあったから、「2025年にフルアルバムを出したい」と思った。で、そのアルバムをどこからか出せるんやったらお願いしよう、アカンかったら自主で出して解散しようって決めて。でもみんなバンドはやりたいから「どっかから出さんと解散になってしまう」って思うようになって。

──解散はしたくなかったんですね。

辻出 そう。で、綿谷さん(TRUST RECORDS主宰の綿谷剛)と話をして、TRUST RECORDSから出せるようにしてくれたという経緯です。所属が決定した日は、みんなで「これでバンドできる〜!」って言っていました。別に勝手にやればいいだけやのに。

──自分たちで決めただけだったのに(笑)。

辻出 そう。

──ただ、正直TRUST RECORDSは意外でした。

辻出 ああ、そうですよね。トラストは友達が多いんですよ。POTは仲良くしてくれている先輩やし、Some Lifeは同い年やし。

多響 あとはKUZIRAの存在も大きいよな。

辻出 KUZIRAの熊野くん(熊野和也 / Ba, Vo)が、俺らのライブを見て「カッコいい」と言って、初期の頃からずっとチェックしてくれていて、ツアーにも呼んでくれたんですよ。それと、「FREEDOM NAGOYA」に出たときに、KUZIRAやSome Lifeが「トラスト入ればいいやん」みたいに言ってくれたのも大きかったですね。POT先輩も「お前らやったらいいよ」って言ってくれたりして。おかげで気兼ねなくTRUST RECORDSの一員になれたのかなと思います。


名盤、1stフルアルバム「good boy」完成

──そして2025年3月に1stフルアルバム「good boy」をTRUST RECORDSからリリースしました。収録曲のうち「存在声明」「dadpect」「sleeps」の3曲はデジタル配信もされていますが、せっかくなので、配信では聴くことができない曲のなかで、特に好きな曲やおすすめの曲を教えてください。

コウタ 僕は「日々を紡いで」です。今までの歌詞とは違う語彙が使われていて、曲調もRAINCOVERではあまりしてこなかったもので、今までとは違う表現をしている曲。ライブでも映えそうだなと。

辻出 お客さんも「『日々ー』が好き」っていう人多いです。

──今までとは違う語彙というのは、意識的ですか?

辻出 いや、本気で何の意識もないです。ただ、俺は好きなアーティストの歌詞を1小説だけサンプリングするのが好きで。「日々ー」はGEZANから取ってきているので、その影響が出ているのかもしれないですね。ちなみに「Face」はbacho、「sleeps」はGOING STEADYから取っています。パクリとか言われるかもしれないんですけど、別にそれはどうでも良くて。「この歌詞って、もしかして……? っていうことは、この人、絶対にあのアーティスト好きやん」ってルーツを感じてもらえたら、ライブの楽しみ方もわかったりして楽しんじゃないかって思うから。

──ルーツやカルチャーを知ってもらう入り口になると。多響さんは好きな曲を挙げるなら?

多響 「town beat」ですね。これも今までのRAINCOVERにはない感じで。前半は乗りやすい感じのビートで、途中からガラッと展開が変わってRAINCOVERらしくなる。とにかく詰め込んでいる感じが好きですね。あと、最後の曲(「my name is」)につながっているというのをチラッと聞いて。そういう意味でもアルバムの1曲目っぽくて好きです。

辻出 これは収録曲の中で最後にできた曲です。奇をてらいたいと思って作りました。この曲だけマイナーコードなんですよ。「アルバムの1曲目はリード曲で、歌メロに全特化しました、みたいな曲が来るんやろうな」と思って再生した人を裏切りたいなと思って。それで聴かない人がいたら、まぁそれはしゃあない。それで引き込めるかどうか、ちょっと賭けをしたかったからこういう曲にしました。

──「my name is」とつながっているというのは?

辻出 「my name is」は自分の住んでいる町のことを歌っていて。この曲が先にできていたので、“家を出て、最寄駅に向かって、駅からどこかへ行って、また自分の駅に戻ってきて、家に帰る”みたいなアルバムにしたいなと思ったんです。ツアーに出るときもそうだし、RAINCOVERは上京せずに京都を拠点にしているバンドやし、それこそがRAINCOVERのアルバムやなと思ったから。だから1曲目は「今から行ってきます」っていう曲にしたかった。それでできたのが「town beat」です。そして僕が一番好きな曲は、その「my name is」。この曲の歌詞カードを名詞として渡してもOKなくらい、自分を出した曲で。このアルバムの中で一番好きです。

──「2025年にフルアルバムを出そう」という考えから始まって、実際にフルアルバムが完成しましたが、いかがですか?

辻出 すげーっすね。

多響 いいよね。

辻出 これは名盤よ。

コウタ うん、名盤。

辻出 俺、天才や!

──現在はこのアルバムを携えたツアー中ですが、手応えはいかがですか?

多響 楽しいです。ツアーをやるのは2年ぶりなので「そうそう、これだ!」みたいな感覚で。

辻出 特に「存在声明」はすごく反応がいいですね。「日々ー」と「my name is」は全員棒立ち(笑)。やけど、みんないい表情で聞いてくれていて。お客さんを圧倒できているんやろうなって感じがします。

──アルバムをTRUST RECORDSから出せることになったとき、「これでバンド続けられる」と喜んだとおっしゃっていましたが、この先の展望や目標はありますか?

多響 最近思うのは「RAINCOVERみたいなバンドをやりたくて、バンドを始めました」みたいな人たちが出てきたらうれしいなって。

辻出 そんなん止めるやろ!(笑) でも確かに、こうやってインタビューを受けた若手が、今日俺らが「10-FEETが」「10-FEETが」って言っていたみたいに、「RAINCOVERがルーツで」とか言ってくれたらうれしいな。

 

 

 

RAINCOVER「good boy」

1. intro
2. town beat
3. 存在声明
4. Face
5. dadpect 
6. 風
7. ナイトライダー
8. 日々を紡いで
9. スムースコート
10. サンセットブルース
11. sleeps 
12. my name is

 

RAINCOVER pre.''疾風怒涛''-1st Full Album「good boy」Release Tour-
ファイナルシリーズ

2025年6月13日(金)東京都 新宿ACB HALL
2025年6月17日(火)愛知県 名古屋RAD HALL
2025年6月20日(金)大阪府 心斎橋BRONZE
2025年6月27日(金)京都府 KYOTO MUSE


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