INTERVIEW

INTERVIEW: HIKAGEが1stアルバム“True Colors”で到達した自分らしい音楽

札幌発、次世代を担うロックバンド、HIKAGE。SATANIC CARNIVALにも出演し、シーンの中で縦横無尽に活動している。そんなHIKAGEが1stアルバム『True Colors』を完成させた。すでに発表されているシングルを含む全9曲。リリースは9月3日。まさしくシーン待望であろう。今作に至るまで、HIKAGEは紆余曲折を経て試行錯誤したのだという。今作は自らにとってどんな作品になったのか。

Photography: Taio Konishi

Text: Ryo Tajima

感情・思想をより直接的に表現できるロックへ

ー待望の1stアルバムだと思います。いつ頃からアルバムを作ろうと考えていたんですか?

GEN:実はもともとEPを出そうと考えていたんです。それが「Happy」(2024年6月12日)をリリースした以降から、バンドの方向性を見直そうっていう時期に入り、そのタイミングで次々にシングルを出していたので、せっかくなら既存曲と新曲を一緒にして出そうってことになったんです。それでアルバムというフォーマットになったんです。

Yasui:「WAIT??!!!」を作った頃に、バンドとしてどういう曲をやっていくのかが決まっていった気がする。それを拠り所にして制作を進めていったんじゃないかな。

ー実際、どのように音楽性を変えていったんですか?

Yasui:80’sから現行までのオールドスクールだったりパンク色の強いハードコアやハードコアパンクに、90’s以降のグランジ、オルタナティブだったり、インディーロックのアンニュイなニュアンスをミックスしたような曲が「WAIT??!!!」以降に出てきた曲作りの軸で、それがHIKAGEでやりたかったことなんだなって再認識した感じだったんです。

GEN:今までよりもロックバンド寄りなことをしようってことになったんです。俺もグランジが好きですし、その要素を今のサウンド感に落とし込みたいと思っていて、ただそのままやるとちょっと違うかなと。自分たち的には、グランジやガレージロック、オルタナの要素をどう落とし込んでいくのかを「WAIT??!!!」以降から考えるようになっていったんです。そこから歌詞でも日本語を使うようになっていきました。

LtoR_GEN(Vo), Wataru(Ba)

ーでは、サウンドの面ではハードコアとグランジ・オルタナティブの要素を取り込み、メロディや歌においてはグランジやオルタナを意識していくという方向性になっていったという感じですか?

GEN:そうです。ハードコアやグランジもそうだと思うんですけど、キャッチーさを大事にしたいと思って。それに、もともと邦楽もたくさん聴いてきたこともあって日本語で歌うことは自然なことでもあったんです。

ー日本語で歌うようになったというのが、今のHIKAGEに繋がる重要な変化ですよね。その辺りの心境の変化について教えていただけますか?

GEN:俺の中では日本語でカッコいい歌詞を書くのはすごく難しいことだと思っていたんです。言い回しを1歩間違えただけでダサくなってしまうんじゃないかと。ある意味、英語に逃げていた部分もあってメロディ重視の考え方になっていたんです。でも、やっぱり日本人として日本語の方が直接的に言いたいことが響くんですよね。それが「YAIBA(feat.タナカユーキ SPARK!!SOUND!!SHOW!!)」を出した時にすごく感じたんです。そこで、やっぱり日本語の方が自分に合っているなと考えるようになっていきました。

Wataru:そんな風にHIKAGEの曲が変わったことで、やっぱりカッコいいな、こういうのがやりたいって思いました。自分が好きだったグランジなど90’sの音楽を改めて聴こうって気持ちにもなりました。

GEN:一時期どういう方向にしようかってめちゃくちゃ考えていましたけど、意外とメンバーみんなが好きな音楽を合わせればハマったんです。HIKAGEの新しい音楽性が、このアルバムを通して出せるようになってきたし、新たな一歩目を歩み始めた感覚です。

ー日本語で歌詞を書くようになって変化した部分はありますか?

GEN:明らかに歌詞を考えるスピードが上がりました。今、デモを聴いてその場で歌詞を考えるというスタイルでやっていて、英語詞でやっている時よりも発想力が格段に増えたんですけど、そこがこれまでともっとも大きな違いだと思います。そう思うと、これだけ日本語を使えるようになったので今後が楽しみなんですよ。もっと学べることがあるし、日本語の面白さにようやく気づいたんです。

LtoR_Halki(Gt)、Yasui(Gt)、ISSEI(Dr)

ーデモを聴いてその場で歌詞を考えるというのは、即興でやるということですよね。そうなると歌詞の内容はどういうものが多いですか?

GEN:基本的に全部自分がその時々に思ったことです。とっさに出てきた気持ちを乗っけていて、言うなれば言葉遊びのような感覚です。さっき、Yasuiが話したようなハードコア成分が強い曲がくれば自分もそういうマインドで歌詞が出てくるんです。ヒップホップ的ではあるんですけど、それが出来ているのはすごく楽しくて。どこか等身大の自分になれた感じがしています。今後、海外を目指すということを考えても、やはり自国の言語でやっている方が伝えやすいと思いますしね。

ISSEI:実際に、GENが日本語で歌うようになったのは強いと思います。ずっと使い続けてほしいですね。他バンドとの差別化もできますし。

ー今作の中で、もっとも新たなHIKAGEを打ち出している曲というと、どれになりますか?

Yasui:3曲目の「shadow」が、このアルバムでやりたかったことを1番素直に解釈している曲だと思います。最後にできた曲は「傷」なんですけど、この曲はハードコアとグランジ・オルタナの要素でいくと、ハードコアの成分が強めなんです。それに対して「shadow」はグランジやオルタナの成分が強め。こういう風に、それぞれの要素の混ぜ具合や混ぜ方によって、曲の雰囲気や表現できる感情が変わっていくのを楽しんでいました。

GEN:やりたいことを混ぜていくというやり方が多分、俺らには合っているんですけど、同時にライブも自分らの武器だと思っているので、そういう意味で全体のバランス感を考えて曲作りしていこうというのは前提にあります。そんな考えから7曲目「G.W.I.H.Y」のような短い楽曲も収録しています。

ー「G.W.I.H.Y」はヒップホップ的なアプローチがカッコいいですね。今作の中でも異彩を放っています。

GEN:そうですね。俺のルーツにはミクスチャーロックがあって、もともとRIZEやDragon Ash、山嵐、海外だとリンプ(Limp Bizkit)、レイジ(Rage Against the Machine)などが好きなので。そう、そもそも俺が1番やりたかったことは恐らくそれで、バンドで体現するのに時間がかかってしまって今作に至った感じなんですよね。ただのミクスチャーロックではなく、やりたいことを混ぜて音楽を作っていくという。それこそ、作曲しているメンバーと歌っている自分のやりたいことが違う方がミクスチャーだな、とすごく感じましたし、そっちの方が面白いと最近は思っているんです。本当のミクスチャーロックって多分、メンバー各々が好きなものが混ざり合うことで成立しているものだと思うし、それが「G.W.I.H.Y」にも表れているんです。

Yasui:このアルバムに収録している全曲がそういう感じなんです。俺はデモを作ってGENにパスする時に、あえて曲のバックボーンを伝えないようにしているんです。そしたら想像もつかないボーカルが乗っかってくるので、その化学反応も楽しくて。

ついに辿り着いた“ありのままの自分”の形

ーアートワークの話も教えてください。今作もディレクションはGENさん自らが行ったんですよね。

GEN:真ん中から見える家は、昔住んでいた実家の写真なんです。モデリングペーストという画材の真ん中をぶち抜いて、その光景が見えるようなアートワークにしてます。今作『True Colors』には、ありのままの自分というテーマを設けています。HIKAGEを始めた頃、めちゃくちゃ悩んでいたんですよ。前のバンドではギターを弾いていた自分がボーカルになり、俺って本当は何が得意なんだろうって。2019年に結成してコロナ禍になり、個人的にもよくない状況が続いていて、家庭的にもうまくいっていない時期に模索していて、その問題が解決して自分の中で腑に落ちるまでの道のりが『True Colors』、というイメージでいます。自分ってこうだよねってことが自覚できた作品でもあって、やっとここに繋がったなと。だからシングルのジャケは色を使っているんですけど、「Happy」以降はだんだん色数が減って、『True Colors』は白に自分の家。削ぎ落とされて無駄がなくなっていったイメージを表現しています。

ーメンバーにとってどんな作品になったと思いますか?

Halki:完全に新しいものになったというイメージです。方向性を変えるって話になった時、自分には想像もつかなかったけど、曲が出来てライブでやるうちに理解が進んで楽しくなっていきました。なんか長時間聴いていられるようになったと思いますね。いい意味で変わったなと。

ーそういった新たなバンドの可能性を示すアルバムが出来たというのは非常に大きなことだと思います。今後はこのスタイルでHIKAGEは進んでいくわけですね。

GEN:でも、きっと今後も変わっていくと思うんですよ。あまり型にハマっていないというのも俺らのいいところだと思いますし、1年経ったら全然違うことを言っているかもしれません。でも、その時々に感じたことをパッケージして作品として発表できればカッコいいと思います。次、どんなものが作れるのか、逆に楽しみです。そして、自分たちはライブをずっとやっている方が調子いいということもわかったので、どんどんライブを増やしていこうと思います。

 

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