LIVE REPORT

HEY-SMITH “SKAramble Japan” LIVE REPORT!!

Report by 山口智男
Photo by HEY-SMITH

 

2019.8.1
HEY-SMITH&東京スカパラダイスオーケストラ Presents “SKAramble Japan”
@川崎・CLUB CITTA’


“スカをキーワードにスカを愛するバンドを集めて新しいイベントをやろうじゃないか”  そんな思いの下、HEY-SMITHの猪狩秀平(Gt/Vo)と東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志(Gt)の2人が中心となり、立ち上げた「SKAramble Japan」。その記念すべき第1回公演が8月1日、川崎・CLUB CITTA’で開催され、平日17時からのイベントにもかかわらず、スタートから多くの観客が集まった。
 出演はHEY-SMITH、東京スカパラダイスオーケストラ、KEMURI、SHANK。そして、オーディションを勝ち抜いたMAYSON's PARTY、THE SKA JUNCTIONS、TRI4THの計7組。
 イベントの趣旨を伝える開演前の加藤と猪狩による影アナウンス中、“ゆくゆくはいろいろなところで開催したい。いつかは野外でやりたいね!”と加藤が発言。“まだ(1回目が)始まってないのに2回目の開催宣言(笑)”と猪狩が慌てた同イベントからHEY-SMITH、東京スカパラダイスオーケストラ(以下スカパラ)、KEMURI、SHANKの熱演の模様をお届けする。

トップバッターは、つい10日ほど前に「KEMURI TOUR 2019 "ANCHOR"」と題した全国ツーマン・ツアーを終えたばかりのKEMURI。来年、結成25周年を迎えるベテランをトップに持ってきたところに主催者の本気の意気込みが窺えた。そんな思いを汲み取ったのか、出演者の顔ぶれがそうさせたのか、1曲目の「Standing in the rain」からスカンキンなダンスはもちろん、モッシュ、ダイヴで応える観客に“最高じゃん!”と笑顔で声をかけた伊藤ふみお(Vo)が“猪狩の快気祝いも多分に含んでやろうと思います!”と言いながら、KEMURIの7人はいつも以上にエモーショナルな演奏を見せつけた。 熱演を締めくくった「I am proud」まで、「PMA」を含む新旧の代表曲を40分のセットにギュッと凝縮。中でも特に印象的だったのは“(スカパラの)青木(達之)さんと(クリーンヘッド・)ギムラさん(ともに故人)に俺たちから1曲贈ります”と披露した「白いバラ」。それは自分たちと同じように傷つきながらも今日まで活動を続けてきた盟友=スカパラに対するリスペクトを込めたエールのようにも聴こえたのだった。

そんなライヴの直後だけにやりづらいんじゃないかと思いきや、憂いを含んだスカ・パンク・ナンバーの「620」から演奏をスタートさせたSHANKは、“俺たちはスカ・バンドでも何でもないけど、ここに立ててうれしいです。スカ、レゲエに対する愛を表現して帰りたいです”(庵原将平 Vo/Ba)とメロディックパンクとスカパンクを交互に演奏しながらマイペースのライヴを展開。スカンキンなダンスにモッシュとスタンディングのフロアを存分に揺らした。普段よりもスカ要素が多かったセットリストも新鮮だったが、手強い先輩や後輩に囲まれながら、飄々と自分たちらしさを貫いた40分のステージからは、04年の結成以来、ライヴに軸足を置きながら活動を続けてきたからこその自信が窺えた。
終盤の「Grimly Window」で、HEY-SMITHのホーン隊をゲストに迎え、“田舎すぎて(ホーン隊が集められず)できなかったけど、スカ・バンドを組みたかった”(庵原)という念願を、この1曲限りとは言え、ついに叶えると、ラストは“猪狩、退院おめでとう!また生きて会おう!” (庵原)と、8ビートのパンク・ロック・ナンバー「Set the fire」で駆け抜けるように締めくくった。

“スカパラ30周年。おめでとうございます。最大級のリスペクトです!”
 この日、猪狩はそう彼らを称えたが、イベントのトリを、後輩であるHEY-SMITHに任せたのは、デビュー30周年を目前に控えたベテランの余裕なのか、それとも、祭り上げられるのはまだ早い。先輩も後輩も関係ない。まだまだ大暴れするぜというベテランに似つかわしくない向こう意気の表れだったのか。そんなことを思わず想像してしまうほど、今現在のスカパラには勢いがある。
 その証拠に登場のSEが流れ始めたとたん、観客が“オイ!オイ!オイ!”と声を上げながら、ぐわーっとステージに押し寄せた。ひょっとしたら、この日、スカパラのライヴを初めて見るという人は案外、少なくなかったんじゃないかと思うのだが、たとえ初めてだとしても、とことん楽しませてくれるんじゃないか、と多くの人たちがスカパラに期待していたようだ。
 そんな期待に応えるようにしょっぱなから9人のメンバーがステージをめいっぱい使って、音を鳴らしながら、踊り、そして、歌う。そんな熱演に応え、拳を振り、モッシュで応える観客の盛り上がりに“盛り上がりがはんぱないね!声いっぱい聞かせてよ。幸せだよ!”と思わず言った谷中敦(Baritone sax)をはじめ、メンバーたちもみんな笑顔だ。
“いろいろなタイプのスカを感じてほしいと考えて、今日のためのセットリストを作ってきました。踊り方がわからなかったら、新しい踊り方、みんなで考えて!”と加藤が言ったようにSKAとscramble(=ごちゃごちゃに混ぜる)でSKAramble――スカの影響をバックボーンに持ちながら、それだけにとどまらない音楽を楽しむというこのイベントのテーマとも言える概念を、この日、最も体現していたのはスカパラだ。
 ホーンズの演奏が炸裂するイントロに大歓声が沸き、フロアに熱狂が渦巻いたお馴染みのインスト・ナンバー「Paradise Has No Border」でぐいぐいと盛り上げると、“今夜、Skaramble交差点は音楽が鳴っているかぎり赤信号はありません”と茂木欣一(Dr)がミラーボールが眩い光を放つ中、ロマンチックな「銀河と迷路」を歌い、続けて沖祐市(Key)がアコーディオンのノスタルジックな音色と口笛の調べで観客をうっとりさせながら、スローでムーディーな「君と僕」を披露。
 そして、イギリスのネオ・スカ・バンド、MADNESSの「ONE STEP BEYOND」で観客を存分に踊らせたバンドがKEMURIのホーン隊を呼びこみ、一緒に演奏したのが伊藤ふみおをゲストに迎え、08年に発表した「Pride of Lions」。歌うのはもちろん、伊藤ふみおだ! ひょっとしたら?と期待していたファンもいたに違いない。そんな期待を裏切らないサプライズがこの日のスカパラ一番のハイライトになったことは言うまでもない。スカ・パンクなロックンロールに合わせ、踊り狂う観客たちの姿は、まさに狂喜乱舞の一言がぴったりだった。

 KEMURI、SHANK、スカパラが演奏したSKA Stageとオーディションを勝ち抜いた3組が演奏したramble Stageで交互に熱演を繰り広げながら開演から3時間45分。トリを務めるHEY-SMITHの5人を、観客全員が手拍子で迎える中、“前に来い!前に来い!”とアピールする猪狩が開口一番、“心配かけたな!”と挨拶すると、会場中から猪狩の復帰を祝う拍手と声援が起こった。
 猪狩が肺気胸と診断され、入院と手術が必要と報じられたのが7月7日のことだった。その後、療養を続けていた猪狩だったが、1本もキャンセルしたくないライヴの中でも、特に自ら立ち上げたこの「SKAramble Japan」は、どうしてもステージに立ちたかったはず。そんな思いが回復を促したのだろうか。猪狩がライヴに復帰したのが7月20日の「OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL VOL.10」だった。
つまり、20日足らずという驚異の回復を見せ、周囲を驚かせたわけだが、“行くぞ、SKAramble!”という猪狩の掛け声を合図に満(Tenor sax)、イイカワケン(Trumpet)、かなす(Trombone)ら、ホーンズの演奏が炸裂した「Living In My Skin」から繰り広げた熱演はもちろんのこと、曲間に猪狩が挟む短い言葉から伝わってきたのは、無事、「SKAramble Japan」のステージに立てた歓びと、このイベントにかける並々ならぬ思いだった。
Yuji(Ba/Vo)と猪狩がヴォーカルをリレーしながらこの日、アンコールを含めHEY-SMITHが新旧のレパートリーから演奏したのはスカ・パンクな全17曲。とは言え、そこはスカをキーワードにスカにとどまらない、いろいろな音楽を楽しむ「SKAramble Japan」。「Fog And Clouds」でスカ・パンクにレゲエ~ダブ・パートを交え、フロアにゆらゆらと漂うようなグルーヴを作り出したバンドは、“夏の思い出、一緒に作ってくれ。梅雨が長かったから今日から夏ってことでいいか。夏の曲やります!”(猪狩)と演奏した「Summer Breeze」では、“お~お~お~”と観客にシンガロングの声を上げさせた。



そして、猪狩がメタリックなリズムを刻んだエモいロック・ナンバー「Truth Inside」では、それまでスカンキンなダンス、モッシュ、ダイヴすることに懸命だった観客たちが拳を振り上げ、観客が隣同士、肩を組んでジャンプした「Lonely With Everyone」ではTask-n(Dr)が鳴らしたシャッフルのリズムが途中から祭りの拍子のように聴こえ始めた。そして、テンポアップしていった演奏に応えるようにサークル・ピットがフロアに出現!



“ヤバい日になってるよな? あの伝説のライヴに行きたかったっていうの、みんな、1個ぐらいあるだろ? でも、安心していいぞ。今、俺たちは伝説の中にいる。伝説を作ろうぜ!”
 早くも序盤で猪狩が言ったこの言葉からは、このイベントに大きな手応えを感じていることが窺えたが、もちろん彼は平日の夜、ソールドアウトになるほど多くの人たちが集まってくれたことに感謝することも忘れなかった。
“スカ好き、音楽好き全員に贈る。そういう奴はみんな俺の友だち!”と言ってから演奏したのがメロディック・パンク・ナンバーの「Don't Worry My Friend」だったのだから心憎い。
 そして、哀愁メロディーがエモい「Dandandan」で、さらにフロアを盛り上げたHEY-SMITHが本編の締めくくりに選んだのが「Drug Free Japan」と「Endless Sorrow」の2曲だったのだが、その2曲を紹介する猪狩のMCが興味深かった。猪狩が言うには、スカのイベントに出れば、踊れないと言われ、メロディックのイベントに出れば、騒げないと言われたことに反発しながら、活動を続ける中で“これが俺たちだ!”“これがHEY-SMITHだ!”と最初に思えたのが、その2曲だったのだとか。そんな2曲を曲にまつわる思い出つきで本編の締めくくりに持ってきたのには、ちゃんと意味があったに違いない。
 踊れない、騒げないと言われたことに対すると言うよりもむしろ、そういう言葉を生んだ音楽の世界にありがちな偏狭さに対する反発心こそが、スカをキーワードにごちゃ混ぜになろうというこのイベントを立ち上げた、そもそものきっかけだったのかもしれない。となれば、「Paradise Has No Border」と掲げるスカパラとHEY-SMITHが共鳴するのは必然だった。
スカ・パンクとエモとスラッシュ・メタルがごた混ぜになった「Drug Free Japan」では、“頭がおかしくなる2曲!”と猪狩が言ったとおり、頭がおかしくなった(?)満がフロアのモッシュめがけてダイヴ! そして、アイリッシュ・パンクの要素もある「Endless Sorrow」では、観客が拳を振りながら、“ヘイ!ヘイ!ヘイ!”と勝どきを思わせる声を上げたのだった。



“(みんなは「SKAramble Japan」の)最初の目撃者。頼むで! みんなに伝えて言ってくれ!”
 アンコールを求める声に応え、ステージに戻ってきた猪狩は、観客にそう語りかけると、“第2回目あるらしいから(笑)、一緒に「SKAramble Japan」と成長していきたい。改善点があったら送ってきて。一緒に良くしていきたいんで。でも、出演バンドのリクエスストは受け付けません。スカパラと俺らで決めます(笑)”と付け加えた。
 公式の発表はまだないものの、これだけ言ったんだから、第2回目の開催はもう決定ということでいいだろう。



 この日、SHANKとHEY-SMITHホーンズ、スカパラとKEMURIといった、ここでしか見ることができないコラボレーションが実現したが、ダメ押しでもう1つ。スカパラのトリビュート・アルバム『楽園十三景』にHEY-SMITHが提供した「Glorious」のカヴァーを、スカパラ・ホーンズを迎え、“ここでやるしかないじゃないですか!”と本邦初公開。出演バンドによるコラボレーションは、今後、「SKAramble Japan」の定番になっていきそうだ。



“踊れーーーー!!” 
 高速のスカ・パンクにアレンジした「Glorious」に合わせ、全員が踊り狂う。そして、“1分しかないぞ! イケるか?”と猪狩が発破をかけ、HEY-SMITHが最後の最後に演奏したスカコア・ナンバー「Come back my dog」に観客全員が“ヘイ!ヘイ!ヘイ!”と声を挙げながら、渾身のサークル・ピットで応えたのだった。






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