LIVE REPORT

TOTALFAT pre. Kuboty's Last Show "FINAL SHRED” LIVE REPORT!!

Report by 山口智男
Photo byAZUSA TAKADA

 

2019.10.22
TOTALFAT presents Kuboty's Last Show "FINAL SHRED”
@新木場Studio Coast


“いつも以上に長時間の公演となります!”
 開演前、そんなアナウンスが超満員の客席を沸かせたが、終わってみれば、あっという間だった。時計を確認すると、開演から2時間半が過ぎていた。1回のアンコールを含め、この日、TOTALFATが演奏したのは計32曲。なかなかの曲数だが、時間を忘れるぐらい楽しかったんだから、とてもいいライヴだったということだろう。
もっとも、「TOTALFAT presents Kuboty's Last Show "FINAL SHRED”」とタイトルでも謳っているとおり、15年間、活動を共にしてきたKuboty(Gt/Cho)がこの日を最後にバンドを去る……いや、バンドとは別の道を歩き始めるKubotyを送り出すんだから、いいライヴにならないわけがない。それはあらかじめ約束されていたようなものだが、そこが始めてみなきゃ何が起こるかわからないのがライヴなんだと思う。

“俺らがやることはただ1つだ!楽しもうぜ!”
“命がけでかかってこい!”
 Jose(Vo/Gt)とShun(Vo/Ba)が口々に発破をかけ、1曲目の「Broken Bones」から徹頭徹尾、フルスロットルの演奏を繰り広げたJose、Shun、Kuboty、Bunta(Dr/Cho)の4人と、その熱演を受け止めながらモッシュ、ダイヴ、ジャンプ、モッシュ・サークルと最後まで大暴れした観客による熱情の交歓の中で幾つもハイライトが生まれ、そして曲と曲の間にメンバーの口からふとこぼれた何気ない言葉が観客の胸を焦がしたことで、たぶん誰もが予想していたに違いない胸アツのいいライヴをはるかに上回る、この日、Shunが求め続けた「最高の1日」になった――と、少なくとも筆者は信じているのだが、それにしてもスタンディングの1階も2階のスタンド席も、その後ろの立ち見スペースも、言ったら関係者席もこんなにすし詰めになったSTUDIO COASTは、いつ以来だろう?
バンドの先輩・後輩、関係者も含め、TOTALFATとKubotyの新たな門出を祝福するために集まった、それだけのたくさん人たちに「新しい一歩を笑って踏み出せるように、いつも以上に求めて、ガンガンやらせてもらうんで」とShunが言いながらバンドが披露したのは、Kuboty加入以降、バンドが世に送り出してきた新旧のレパートリーの数々だった。




イントロを聴いただけで大歓声が沸いた「Good Fight & Promise You」、シンガロングの声が響き渡った「晴天」「Phoenix」、「よっしゃ、踊ろうぜ!」と言ったShunに応え、観客がハイ!ハイ!ハイ!と声を上げながら手を叩き、Oh oh hoo?と歌った「Summer Frequence」といった序盤から中盤にかけて早くも繰り出した人気曲だけにとどまらず、TOTALFATがKubotyからハード・ロック/ヘヴィ・メタルの影響を取り入れるきっかけになったというMR.BIGの「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」のカヴァーといった、この日だからこそと言えるレア曲も含むセットリストは、15年の在籍期間の中で、初めてKubotyが考えたものだそう。



Shunが「かなりのオール・タイム・ベストですよ」と言ったように4人編成のTOTALFATの集大成という表現がふさわしい32曲は、そんな狙いがあったのかなかったのか、TOTALFATというバンドが持っているメロディックパンクだけに収まりきらない可能性を今一度アピールしたという意味でも見応えがあった。そんな32曲を、Shunは「ここにあるものが、俺たちがずっとやってきたことの証しです。それ以上でもそれ以下でもありません」と言った。


男鹿なまはげ太鼓をゲストに迎え、曲が持つ祭りのリズムを強調した「夏のトカゲ」、音源通りレゲエDJのJ-REXXXをフィーチャーした「Delight!!」、電動ドリルを使ったギター、およびベース・ソロまで再現してみせた前述のMR.BIGのカヴァー、「X-stream」他でJoseとKubotyが重ねたツイン・ギター・ソロなど、見どころはいくつもあったが、バンドの可能性を改めて気づかされたという意味では、パワー・ポップとも言える爽やかなギター・ロック・サウンドとともに美しいハーモニー・ワークを聴かせた「Livin’ for The Future」から立て続けに披露したメロディックパンクという観点からは異色と言える6曲は、裏のハイライトなんて言ってもいいかもしれない。
ツイン・ヴォーカルとラップを交えた巧みな曲作りが印象的な「Walls」、TOTALFAT流の歌もののロックなんて言ってみたい「Space Future」、Kubotyがかき鳴らすアコースティック・ギターのコード・ストロークにShunとJoseがハーモニーを重ねた「See You Later, Take Care」、感情をぐっと抑えた歌をじっくりと聴かせた「All for You」、そして、オルタナ的なロック・ナンバーの「The Naked Journey」――そういう曲を作ってきた経験は、しっかりとバンドの糧になっていると思うし、これからバンドを続けていく中で、きっとどこかのタイミングで生きてくるに違いない。




 普段のライヴではなかなか見ることができない一面を見られたのは、いつも彼らのライヴでアンセミックな曲の数々にぐっと来ている筆者にはめっけもんだったが、本当のハイライトは、もちろんここからだ。
 自分の可能性をもっと試すためにバンドを脱退したいというKubotyの考えを最初受け入れられなかったというShunが「ムカつく。ふざけんじゃねえ。ぶん殴ってやりたいと思った」と、その時の正直な気持ちを、ここで明かしたことに、筆者を含め、ちょっとびっくりした観客は少なくなかったと思うが、大事なライヴだからときれいごとにせず、本音で語ったところが良かった。ぐっと来た。
「ぶん殴りたいと思ったその先でKubotyが俺たちにくれた感情は形容しがたい。ありがとうも違うし、これからもよろしくも違うし」と整理がつかない感情を若干持て余しながら、Shunの中ではっきりしているのは、前のギタリストが脱退したとき、それほどバンドに真剣ではなかった自分たち3人だけでは、もしかしたら終わっていたかもしれないTOTALFATを、Kubotyが繋ぎとめ、ここまで連れてきてくれたことに感謝する気持ち。
「ありがとう、ふざけんな、これからもよろしく、行ってらっしゃい――その全部を込めて、他のどのバンドの脱退ライヴとも違う空気でやれてるのがうれしい」とそこまで語ったShunは、「ちょっと涙出てくるね」と照れ笑い。
 そして、「しんみりしないと決めたんだ!」と気を取り直すと、Oh oh ohというアンセミックなシンガロングからバンドはいよいよラストスパートに突入していった。

「大切な仲間の門出です。俺たちにとっても大切な1日です。新しいTOTALFATが誕生する日です。だから、終わらないでなんて思わないでください。大丈夫、死ななきゃまた会える! ラスト1曲。全員の声をこいつにぶつけてやろう。1人になったら寂しい時もあると思うんだ。だから、みんなの声でKubotyに言ってやろう。〈君はひとりじゃない〉って!」
 Joseがそう訴えかけた本編ラストは「Place to Try」。これまで何度も何度も聴いてきたアンセムを、こういうシチュエーションで聴く日が来るとは。
〈君はひとりじゃない〉と、そこにいる全員が精一杯、シンガロングの声を上げ、最高潮に熱狂の中で本編は終わったが、笑いながら新しい一歩を踏み出すには、それじゃ、あまりにもエモすぎるだろう。
「3人で続ける選択をしたのがマジかっこいい。俺も曲作りとギターで、今日を超える感動を作っていきます。TOTALFATも今日を超えるライヴをやってくれるでしょう!」というKubotyの言葉を受け、「最高の笑顔で帰りましょう!」(Shun)とバンドがアンコールに選んだのは、屈指のパーティー・ソングの「宴の合図」と「PARTY PARTY」。さらにそこに加えた「Good Bye, Good Luck」と「Overdrive」の計4曲。


「じゃあ、行こうか。Kuboty、本当にありがとう。日本国内にはない、新しい音楽をこの4人で作ってこられたことを誇りに思ってます。これからの俺らに期待してください!」とShunが言い、まるでこの日のために用意されたのではないかと思うくらいに今日を象徴する楽曲「Good Bye, Good Luck」では、新たな門出を祝うように金テープが放たれ、最後の最後に演奏した「Overdrive」では頭上のどデカイミラーボールが会場を暖かく包み、大団円を華やかに飾る――と思いきや、最後を締めくくったのは、観客によるKubotyの胴上げだったが、その後も名残惜しそうに1人、ステージに残って、ピックを1枚1枚、客席に投げるKubotyの胸に去来するものは何だったのだろうか。再会した時はバチバチやりあうことを誓った、決して悲しい別れではなかったが、15年という歳月に思いを馳せれば、歴の長いファンほど感慨深いものがあったに違いない。




 そして、ステージを去る直前、Shunが言った「続けてくれてありがとうって言われるのはうれしいけど、続けないって選択肢がないんで、普通に続けていきます」と言葉通りTOTALFATはライヴの翌日、早速、3人になって初めてのシングル「Give It All」を配信リリース、およびMVを公開。一瞬も立ち止まることなく、進み続けるバンドの意思を表明したのだった。

 

 

 

 

 


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