INTERVIEW

TOTALFAT×Daihei Yamanaka (CLEAVE) "Smile Baby Smile" INTERVIEW!!

Interview by Chie Kobayashi
Photo by Taio Konishi

 


TOTALFATが3月25日にデジタルシングル「Smile Baby Smile」をリリースした。「Smile Baby Smile」は新型コロナウイルスの感染拡大の状況を踏まえ、2月に始まったライブツアー「MILESTONE Tour 2020」のキャンセルが相次ぎ、時間とパワーを持て余したという3人が急きょ制作した楽曲。「早くファンに届けたい」という思いから、制作は猛スピードで進んだという。ハッピーなサウンドと歌詞、メンバーやスタッフの笑顔を収めたMVに、救われたファンも多かっただろう。

SATANIC ENT.ではTOTALFATの3人と、彼らと共に急ピッチでのレコーディングに携わったレコーディングエンジニアの山中大平(CLEAVE)の対談を実施した。彼らがこの曲に込めた思いを感じ取ってほしい。
 

今の気持ちを曲にするということが、バンドマンとしての使命

――デジタルシングル「Smile Baby Smile」は、新型コロナウイルスの感染拡大の状況を踏まえてツアーをキャンセルしてから制作を始めたそうですね。急きょリリースすることになったということですが、この曲をリリースするまでの経緯はどんなものだったんですか?

Shun(Vo, Ba):2月26日に千葉LOOKでツアー(「MILESTONE Tour 2020」)の初日公演をやったあと、2本目からライブをキャンセルすることになって。その瞬間、3人で「じゃあ曲作るか」って話になって、すぐに曲作りの合宿を入れたんです。


Bunta(Dr, Cho):3月の1週目には合宿したよね。

Jose(Vo, G):うん。速攻入った。

Bunta:リリースこそ決まってなかったものの、もともと4月にレコーディングをしようと思ってたんです。だからそのときのための曲作りをこのタイミングでやっちゃおうぜっていう。

Shun:アルバムを出したばっかりだったんですけど、3人でのツアーを始められたこと、でも続けられていないこと、今の社会の現状なんかが要因で、俺らの中にいろんなものが出てきて。今の気持ちを曲にするということが、バンドマン、ミュージシャンとしての仕事なんじゃないかな、というある種の使命感みたいなものを感じたんです。それがパンクバンドなんじゃないの?とも思って。だからこういう俺ららしい、ポジティブの塊みたいな曲ができた以上、なるべく早くファンの人に届けたいと思ってリリースを急いだんです。

Bunta:ただ……「Smile Baby Smile」はその合宿でできた曲ではないんですよ。

山中大平:えっ! マジで!?

Bunta:合宿のあとの、3月7日にミーティングがあって「こういう状況だし、なる早で1曲リリースしたいよね」って話になって。そのときに、Shunが「実は合宿で作った曲とは別に、スカの曲がデモの状態であるんだよね」と。で、「今出すんだったら、この曲がいいんじゃないか」という話になって、そこからアレンジをして……。

Shun:そのときはサビだけあるみたいな状態だったんじゃないかな。

山中:じゃあなんで今、合宿の話したの?

Shun:あの合宿に入ったこともすごく意味があって。今回、マネージャーも不在で、3人だけで合宿に入ったんですよ。そのときに来年、再来年の話から、「今後、俺らはどうなりたいか」みたいな核心めいた話をして、なんかエンジンがかかっちゃったんですよね。

Bunta:普通の合宿所だったから、和室で雑魚寝でね。

Shun:夜中の2時、3時までスタジオに入って、一緒に風呂入って、寝るぞって布団に入って、電気消して……「あのさ~、来年さ~」って。

Bunta:そこから盛り上がっちゃったんだよね。

Shun:「現状に不満はないけど……やっぱり海外行きたいよね」。

Bunta:「もう1回、海外目指そう」って。

Shun:なんかそういう会話から、俺の中で火が付いて。でも合宿で作った曲はそれはそれでいい感じだったから、「Smile Baby Smile」の原型は合宿ではあえて出さなくて。

Jose:合宿中にも言ってたもんね。「近い曲持ってるけど、今はいいや」って。

Shun:うん。でも、合宿でブーストがかかって、帰ってきてから冷静になって改めて聴いたら「これはたぶん、ものすごくいい曲になるぞ」と思えた。しかも今のこの世の中で、自分がこういう曲を求めていて、つまりTOTALFATのファンの人も、俺らのことを知らない人も同じように、こういう曲を求めてるんじゃないかって思えたんだよね。
 

これは無理くそでもやるべきなんじゃないか

Bunta:で、その曲を3月7日のミーティングに持ってきて。

Shun:大平くんに7日にすぐ連絡して。

山中:うん、すぐだった。


Shun:あのときまだワンコーラスしかできてなかったんだよ。歌詞も仕上がってなかった。

Jose:でもレコーディングは12日だったってことは……そっか、そこから1週間も経たずに録れたのか。

Shun:最初はスケジュール的に厳しいって言われたの。「録ったとしても、ミックス作業ができるのは4月だ」って。

Bunta:まあ、そうだよね。「いきなり言われても」って普通はなるよね。

Shun:で、「まあ、そうだよね」と思って、ほかの人探そうという話をしてたら、数時間後に「いや、いけなくもない。突貫工事でなんとかなるんじゃないか」って連絡がきた。

山中:電話切ったあとに「これは無理くそでもやるべきなんじゃないか?」って考えたんだよね。メンバーの勢いもすごかったし。自分が作り手でもあるというのもあって、ヤバい曲ができたときの止められない衝動みたいなのはよく知ってるから。で、「これはやるしかねえ」と思って、いつも使ってるスタジオに日程確認して。

Shun:頼んでもないのに仮押さえしてた(笑)。

山中:そうそう(笑)。
 

この曲を歌うべきときがきた

Bunta:ちょっと話が戻っちゃうんですけど。この曲をフル尺でアレンジしようって3月9日にスタジオを予約して。そのとき確か4、5時間スタジオを押さえてたんですけど……アレンジを始めたら一瞬でできちゃったんですよ。


Shun:そう、3回くらいあわせて完成したよね。1番しかできてなかったから、とりあえず1番をあわせてから続きを考えていこうと思っていたら、1番のあとも演奏が止まらなかった。

山中:マジか!すごいねえ。

Shun:みんなで1つの車に乗って、知らない道を走ってるみたいな感覚だった。「こっちじゃね?」って探り合いながらも2番が終わって。演奏始める前にBuntaが「2番はギターソロじゃね?」って言ってたのを思い出して、ギターソロで進めて。

Bunta:歌詞がなかったから。

Shun:そう。俺もギターソロだと、歌詞考える必要ないからスピード感上がっていいなと思って(笑)。で、2サビが終わってから「どうする?」って話に。演奏中だよ!演奏しながら「どうする?」って話してたら、うっかりいい感じのマイナーコードに入って。

Jose:いい感じにね!

山中:入りたくなるよね。

Shun:パンクマナーみたいなところあるよね。そこで俺がフリースタイルで歌ったのが、このCメロ。

山中:なるほどね! バチハマリだね。

Shun:で、マナーで、Cメロ終わったら落ちサビがくるわけよ。そしたらラスサビね。もう「茶沢通りまっすぐ行ったら三茶です」みたいな。

山中:「行ったことなくてもとりあえず走りゃわかるから」みたいなね(笑)。

Jose:そう。そうやって1時間くらいで構成ができて。


Bunta:だから「もうBunta、OK!帰っていいよ!」って言われて(笑)。

Shun:Joseくんにも「ギター録ったら帰っていいよ」って(笑)。

Jose:最後はShunの歌詞待ちみたいな。

Bunta:すげー早かった。

Shun:こういうとき求められるのって、ジャンルが持ってる本質だと思うんだよね。気を利かせすぎると、伝わるものも伝わらなくなっちゃうような気がして。それは俺らが3ピースになったことでより感じてることでもあったんだけど。

Bunta:あとスカっていうのも、メッセージ的にいいよね。スカって黒人と白人の融和の音楽で。今、世界で起きてることもそうだと思うんだよ。初めはアジアで始まって、アジア人がボコられてて……けど今じゃアメリカ、ヨーロッパに広がって。

Shun:俺、めっちゃ覚えてるよ。デモを聴かせる10分前くらいにさ、みんなでアジア人がリンチされてる映像を見たんだよね。俺らはそれを見て欧米人に中指立てるとかじゃなくて、こういうときにこそ音楽が必要だよねって思った。

Bunta:そうそう。曲調もメッセージも含めて、このタイミングに出せてよかったよね。

――歌詞はデモの段階からあったんですか?

Shun:「I wanna make you smile」っていうフレーズだけあったんですよ。俺らの持ってる強さを体現する歌詞だなと思っていて。アッパーな感じというか。曲がアッパーってことじゃなくて、生き方。それをうまく表現できて、しかも誰でも簡単に歌えるから、大切にしたいなと思っていた。だからこそ、どこに向けてこの曲を歌うかを探してたんだよね。で、今の状況を受けて、言っちゃうと……「歌うべきときがきたな」って思ったの。で、今のこの状況に向けて残りの部分を仕上げていった感じかな。
 

「録ってもらった」っていうよりも、一緒に作った感じ

Shun:あとね、このタイミングでこの人(山中)とやれたのもすごいよかった!

――そもそも今回、山中さんをエンジニアに迎えたのはどうしてだったんですか?

山中:TOTALFATと俺が知り合ったのはもう20年近く前で。高校生だった?


Shun:19歳くらいかな。原宿に海外のバンドのマーチを売ってる「SMOKY MONKEY」っていう店があって、そこに出入りしてるうちに知り合ったんだよね。

山中:そうそう。パンクもメタルもごちゃ混ぜのね。

Shun:そこで顔見知りになって、でもまだ付き合いは浅いときに対バンして……。

山中:俺がステージで一緒に歌ったんだよね(笑)。

Shun:俺らがNOFXのコピーしてたら、いきなりステージ登って俺のマイク奪って(笑)。それで「こいつおもしれえな」って思ったのが仲良くなったきっかけ。

山中:俺がレコーディングエンジニアを始めた頃には、TOTALFATはTOTALFATでがんがん突き進んでたから、レコーディングをする機会はなくて。……だったんだけど、何を思ったか、今回急に連絡がきた(笑)。

Bunta:俺らはもう10年くらい、細井(智史)さんっていうエンジニアさんにお願いしてて。だけど今回、こんなタイミングだったから細井さんはスケジュールが埋まっちゃってて、「誰にお願いしようか?」と話したとき、一番に大平くんの名前が挙がった。

Jose:こういうタイミングでこういう曲を作りたいって言ってるときに、知らない人と録っても……っていうのもあって。もちろん勉強にはなるけど。で、大平の名前が挙がったとき「キター!」って感じだったよね。


――先ほどShunさんが「このタイミングで一緒にできたのがよかった」と言っていたのは、どうしてですか?

Shun:「Smile Baby Smile」はストレスフリーな曲なんですよね。だから変な緊張感があってはダメなんですよ。音には録ってる現場の空気とかもものすごく作用すると思うから。このいい感じに肩の力が抜けた今回のテイクは、やっぱり20年近くの付き合いのある、気の知れてる人が録ったから出せた結果だと思う。

山中:クソ笑いながら録ってたからね。普段のレコーディングがあれだったらちょっと考えるレベル(笑)。

――MVも楽しそうなシーンばかりでした。

山中:かなりカットしてあれだから(笑)。真面目なシーンをかいつまんでやっとあれ(笑)。なんでかって言われたらわかんないけど、すげー楽しかったよね。

TOTALFAT:うん!

Bunta:同い年っていうのもあると思うんだよな。背景にある音楽、俺らがルーツにしてる音楽なんかが一緒だから。「あの音ね」だけで伝わる。

Shun:そうそう。今回、けっこうプロデュースもしてくれてるんだよね。

山中:そんなにしてた? 笑いすぎてレコーディングのときの記憶がない(笑)。

Shun:歌のハマりとか。

Bunta:「ここの発音ちょっと……」とか。

Shun:なんならメロも変えたからね(笑)。

山中:すみません!(笑)

Shun:いや、超いいプロデュースだったよ。だから「録ってもらった」というよりも、一緒に作ったという感じがする。

山中:ああ、そうだね。俺も気持ち的にはそうかな。

Shun:でも、一緒に作れるエンジニアってそんなにたくさんはいないんですよ。それができる人と一緒に作ると、あからさまに曲にパワーが付加されるんだなあって、10年ぶりにエンジニアを変えてみて気付いた。俺らはもちろん細井さんにリスペクトがあって、一緒に求めてきた音があるから、生半可な気持ちではほかのエンジニアに頼まないけど、今回はよかったな。
 

大平くんらしいエッチな……!?

Shun:大平くん、怒りの超2ビートが来ると思ったんでしょ?この状況で俺が「やるしかねえんだよ!」みたいな電話したから。デモ送ったら「怒りの2ビートが来ると思ったら超ポジティブでハッピーじゃん!」って。

山中:BPM240くらいの曲かと思ってたから、最初に聴いたとき「超ポジティブハッピースカじゃん!」ってズッコけたわ(笑)。でもね、純粋にすげーいい曲だなと思った。

Shun:レコーディング中も「サビの中毒性がやべえ」って言って、休憩でタバコ吸いながら口ずさんでたよね。

山中:俺、録り終わってからも一生聴いてるからね。すげーよ。

Shun:Rec中って何度も聴くからおなかいっぱいになっちゃうこともあるよね。それでも聴けるっていうのは、それだけいいものが詰まってるんだろうね。曲の構造的にも、理論をしっかり踏んだものができてると思う。

山中:うんうん、本当にそう。

Bunta:音的にも、クリアなんだけど、大平くんらしいエッジィな……。

山中:エッチな!?

Bunta:エッチ……はないわ!(笑) 大平くんらしい、エッジの効いた音が出てると思う。BPM自体はそんなに速くないんだけど、音にスピード感がある。


Jose:ド頭のアルペジオってさ、すごいゆったりしたフレーズじゃん。なんだけど、1発目に聴いた時の「パンパンパーン」が超速いの。ビックリした。もっとマイルドに来ると思ったら。

山中:あれ、マイルドにしたら面白くないもん。気持ちがすげー入ってる曲でさ、アルペジオ弾いてるんだからさ!

Bunta:効いてるよね。

Jose:ね。サビはマイルドになって。その差で、より感動的な曲になってる気がする。

Shun:音作りのディレクションもすごく的確で、やりやすかったなあ。
 

生活に一番必要なものはエンタテインメントなのかもしれないって気付けた

Shun:今回、俺らが戦ったのって時間なんだよね。でも、なんで時間と戦ったかって言うと、締め切りがあったからじゃなくて、速く届けたかったから。

山中:そうだね。

Shun:俺らは、追われてるんじゃなくて、追いかけてる。そこで出すアートって絶対に強いんですよ。それを証明したい。その瞬間に出せるMAX値を出すことって、ミュージシャンもエンジニアも、求められてることだと思う。ライブができなくなった今、追いかけてるやつしか、ものを作らないと思うんだよね。追われてるやつは「やったー! オフができた」で終わりだと思う。そいつらの1カ月後、2カ月後にはなにもない。だからこそ、俺らは止まらずにいたい。


Bunta:パッションってことなんですかね。たなしんっぽくなっちゃうけど(笑)。

Shun:一番時間かかったのは配信の手続きだもんね(笑)。

――先ほどShunさんが「こういうときに自分の思いを音に乗せられるのがパンクバンドだと思う」とおっしゃっていましたが、本当にそうだなと思いました。

Shun:うん。自分で漕いでる今の感じも俺は楽しいし。もちろん何の心配もなくライブができるほうが楽しいけど、俺らがこういうアティチュードを見せていけば、ファンの人とか周りの人の考え方とか生き方にも何か影響を与えられるかなと思って。「TFがこういうことをやってるんだったら自分も何かやってみよう」とか。大事なのは自分たちの後ろに続いてるやつらに、どこまで肯定的な影響を与えられるかだと思うんだよね。

山中:背中を見せるってことだよね。

Shun:そうそう。それが今、俺らのやるべきことかなと思います。どんなことがあっても俺たちは生きていかなきゃいけないし、生きていく中で楽しいっていう気持ちは必要不可欠。その「楽しい」とか「充実感」みたいなものって、何かに寄っかかっても手には入らない。俺らで作るしかないんですよ。

山中:パンクだねえ、うん。

――YouTubeのコメント欄も「このタイミングにありがとう」というものが多くて、本当に今、みんながこういう音楽を求めていたんだなと感じます。

Shun:みんな求めてるものは一緒だと思うし、いつも変わらないと思う。楽しみたいっていう気持ちも絶対になくならないと思うし。だからライブができなくても届けられる方法を探すべきだなと思いますね。

Bunta:今回のコロナの件で、ライブハウスが悪者にされて、エンタテインメントが生活の中で必要ないじゃんって思われた。でも逆に、一番必要なものがエンタテインメントなのかもしれないって気付くタイミングでもあったと思うんだよね。「意外とみんな求めてるじゃん」「なかったらつらいじゃん」って。世の中が混乱すればするほど、音楽とかエンタテインメントの力がすごく強いなってわかったじゃん。それが見えたことはよかったし、その中で、俺らがこうやって動けたこともよかったと思う。自信にもなったな。

Shun:たった3分で気持ちが伝わるんだよ。それってすごくない? それだけで存在する価値と意味はある。よくよく考えてみると、もともとライブハウスなんてそもそも世間から嫌われてる場所だよ。会社とか学校に馴染めないやつら、街歩いてて怖いと思われるやつらが逃げてくる場所なんだから。だからいいんだよ、正義じゃなくて。生活の持ち札では最初に捨てられちゃうカードなんだよ。でも、本当に必要なときに、ほかのものじゃ跳ね返せない力を持ってるっていうのを、俺らはこれまでの経験で知ってるから。そうやってライブハウスに救われた経験があるやつが集まって、支えていけると思う。ただ……これがいつまでも続くと、本当に経営が危なくなっていくと思うから、具体的にどうするかも考えないといけないとは思うけど……。

山中:でもまずは、モチベーションを上げることだよね。そこがないとポジティブに考えられないから。

Bunta:うん。そこが重要だよね。

山中:そのためにもまずはみんなこの曲を聴け!って感じだよ。

 

 


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[RELEASE INFO]
TOTALFAT「Smile Baby Smile」
2020年3月25日(水)配信リリース(ダウンロード&ストリーミング)
レーベル:RX-RECORDS / UK. PROJECT
品番:RX-173
配信URL:https://TOTALFAT.lnk.to/SmileBabySmile/

TOTALFATオフィシャルサイト