INTERVIEW

Northern19 "YES" INTERVIEW!!

Interview by Tomoo Yamaguchi
Photo by Taiyo Konishi

 

 

 

出会った経緯やタイミングも含め、あ、こいつで決まりだなって

Northern19(以下ノーザン)がニュー・シングル『YES』をリリース。新体制となってから初めてとなる今回の音源を、いろいろな意味で心待ちにしていたメロディック・ファンは多いことだろう。まさに待望という言葉がふさわしい。
03年の結成から16年間、活動を共にしてきたベーシストの脱退というある意味、ノーザン史上最大の事件に対する不安を払拭するかのように活動を止めずに新ベースシトを迎え、バンドは自身のツアーを含め、精力的にライブを続けてきたが、今回の『YES』がノーザンの健在と再出発をダメ押しでアピールすることは間違いない。そこには直球のメロディックパンク・ナンバーを中心に、それぞれに違う角度からノーザンの魅力をアピールする4曲が収録されている。
結成18年目を迎えたノーザンは、なぜメンバー・チェンジをバンドが生まれ変わるチャンスに変えることができたのか? 笠原健太郎(Gt/Vo)、馬場豊心(Dr/Cho)、そして19年5月にバンドに加わった敦賀壮大(Ba/Vo)に話を訊いた。 

――新体制初となるシングル『YES』が、いよいよリリースされますね!

笠原健太郎(Gt/Vo):やっと出せます。
馬場豊心(Dr/Cho):ノーザンとしての新曲は久しぶりなので、反応が楽しみです。

--当然、自信作になった、と。

笠原:そうですね。自信はありますけど……。いや、ありますよ(笑)。

――けどっていうのは?(笑)

笠原:いいものを作らなきゃと言うか、新体制1発目っていう意味合いをちゃんと良い形で表現したいという思いがあって、そこに対するプレッシャーと言うか、プレッシャーとまでは言えないまでも、そういうものはあったので。しかも、時間もかかっちゃったっていうのもあって、そこがハードルというところはあったんですけど、そこは超えられたと思います。

――敦賀さんも一言お願いします。

敦賀壮大(Ba/Vo):今まではノーザンの作品を聴いている側だったんですけど、去年、入ってからツアーを経験しつつバンドに混じると言うか、自分自身がバンドに浸透していくような活動をしてきて、今回、CDというものができて、そのラインをもう1個超えたという実感はあります。バンドに深く入っていけたっていうのが、CDという形が見えるものになったというのは、自分の中ですごくでかいです。

――おっしゃっていただいたように敦賀さんが加入後、ツアーも行っているので、行った先々で敦賀さんのことは紹介していると思うのですが、読者の中にははじめましてという人もいると思うので、改めて出会いも含め、敦賀さんのことを紹介していただけますか?

馬場:HEY-SMITHのYuji(Ba/Vo)の紹介だったんですよ。で、「じゃあ会ってみようか」って話になって、直近のライブに来てくれたんです。元々、見に来るつもりだったみたいだったんですけど、そこで初めて顔を合わせて、「じゃあスタジオに入ってみようか」ってところからの始まりでした。
笠原:だから、僕らはまったく面識がなかったんですけど、Yujiとは昔から知り合いで、仲が良かったんだよね?
敦賀:そうです。
馬場:そのYujiの紹介がすごい熱量で(笑)。 
笠原:そうだったねぇ(笑)。
馬場:「俺の友達、マジ、ヤバいんだよ!」って感じで来られたんで、何かあるんじゃないかって思わなかった? 思ったよね?
笠原:思った。Yujiがそんだけ言うなら。
馬場:スタジオに入ってみようって。

――敦賀さんは以前のバンドでは、ギター/ヴォーカルだったそうですね。

敦賀:そのバンドをやっているとき、Yujiさんと仲良くなったんです。ノーザンの話を貰うちょっと前にそのバンドもメンバーが抜けて、あんまり活動できなくなっていたので、僕としてはタイミングがすごく良かった。だからYujiさんから電話をもらった時に「やります!」って答えたんですよ(笑)。


――でも、ベーシストではなかったわけではないですか。そこは大丈夫だったんですか?

敦賀:大変でした(笑)。
笠原:だから、僕らもベース初心者だってことは理解した上で迎えたわけですけど。
馬場:ただ、Yujiも同じだったじゃないですか。
笠原:元々ギター/ヴォーカルで。
馬場:HEY-SMITHに加わったとき、ベースに変わってっていう。「そのYujiが紹介してくるってことは」みたいな(笑)。そこがすごく気になったんですよ。

――なるほど! 敦賀さんとしてはベースに転向してでもノーザンに入りたかった、と?

敦賀:そうですね。ノーザンに入れるならって。でも、あんまりベース云々は考えてなかったです。

――いきなり何十万もするベースを買ってきたそうですね?

笠原:そうなんですよ(笑)。初めてスタジオに入った時に。でも、自分から言わなかったんですよ。「今日、スタジオに入るために買ったんですよ」って。
馬場:でも、サオを見たら、新品みたいだから、何気なく「新品っぽいね」って言ったら。
笠原:「実は買ったんです」って言うから、「えぇ?」って。それもだいぶグッと来ましたね。うわー、マジかって。

――もちろん金額じゃないですけど、それだけ真剣に考えてくれているんだって伝わりますよね。

笠原:びっくりしました。しかも、まだ加入するって決まっていたわけではないですからね。
敦賀:でも、ちゃんとしたベースを持ってなかったっていうのもあるし、俺としては、もう入る気持ちになっていたんで、後々買うのも、今買うのも同じかなって(笑)。

――そんな敦賀さんを迎える決め手になったのは?

笠原:出会った経緯やタイミングも含め、あ、こいつで決まりだなって自然になりました。他のバンドをやっているとか、やっていたとかって人よりも、そうじゃない人を選びたかったんです。
馬場:イメージがもうできちゃっている人じゃないほうが、俺ら的には。新たに入った人と一から作っていくみたいな感じでやれたほうがいいかなってところですね。
笠原:これまでノーザンとしてやってきて、ここで変に色のある人が入るよりもっていう。そういう人を選んだほうが、どれくらい弾けるとか、どれくらい歌えるとか、なんとなくわかると思うんですよ。でも、そうじゃなくてっていうのを考えました。


――結成から16年間、メンバー・チェンジせずに活動してきたバンドに加わるっていうのは、けっこうプレッシャーもあったんじゃないかと思うのですが。

敦賀:入ってから感じましたけど、入る時はそんなことは全然考えてなかったです(笑)。
笠原:そんなにプレッシャーを感じないタイプなんだと思います(笑)。
敦賀:いや、緊張はしますけど(笑)。
笠原:壮大とやり始めてから、最初の頃は(馬場と)2人でよく言ってたんですけど、年が下っていうのもあるのか、我々からするとニュー・ジェネレーション感があるんですよ。もちろん、良い意味でですけど。感覚の違いは、すごく感じていて、けっこう飄々としていると言うか、まぁ、内心ではそうは思っていないかもしれないですけど、「わかってるのかなぁ?」って思う時はありますね(笑)。
馬場:でも、笠原と話しながら、「でも、これって老害ってやつなんじゃないの?」って(笑)。
笠原:そうそう。「若い奴はよぉ」みたいな(笑)。それに近い感覚と言うか、立場になっちゃってるんじゃないのかな。なってたらイヤだなみたいなね。そういう意味でも、フレッシュと言うか、おもしろい感覚がありましたね。
馬場:凝り固まっていた今までの考えのままで行くよりかは、また違う考えが入ってきたほうが。
笠原:その感じでずっとやってきたわけじゃないですか。でも、もう別物なんだなっていうのを、いろいろな面で気づきました。

――2人がフレッシュに感じられているなら全然良いですよね。

敦賀:だとしたら良かったです(笑)。


――そして、その別物を音源として形にするには、まず1回ツアーを回ってからと考えたわけですね。

笠原:バンドによっては、すぐに新曲を作って、その曲作りを、ぐっと1つになるための過程にすることもできると思うんですけど、僕らはそうしたくなかったと言うか、できなかったですね。一から3人でスタートした曲を作りたいという気持ちがあって、たとえば、「前からあったネタを合わせようよ」じゃなくて、新たに3人でやっていく中で湧いてきたネタやアイディアから新曲を作ってやっていきたかったんです。だから、ちょっと時間はかかってしまったんですけど、納得できるものにできたのは良かったです。

――ツアー中、3人ならではのグルーブが生まれたと思えた瞬間があったのでしょうか。それとも気づいたら生まれていたのでしょうか?

笠原:あ~、どうだろう? でも、ツアーはでかかったです。自分たちの冠の。全然ダメなライブも何本かしちゃって、それはやっぱりめちゃめちゃ悔しかったし、落ち込んだし。でも、それを1回ちゃんとやれたと言ったら変なんですけど、共有したと言うか、同じラインでその気持ちを感じられたことが俺的にはでかかったかなって思います。

――今回の4曲は、ツアーが終わってから作り始めたんですか?

馬場:ツアー中でしたね。

――あ、そうか。ツアー・ファイナルで新曲を1曲、披露していましたね。

笠原:いよいよ、もう作り出さなきゃなってなって(笑)。でも、作れそうだっていう手応えもあって、そこからけっこうな勢いで作り始めました。

――最初にできたのは、「NOTHING BUT MY HEART」?

笠原:そうです。その曲ができてから風穴が空いたみたいにばーっと。俺的に、けっこう「おっ!」と思ったことがあって、これまではGarageBandを含め、あんまり宅録的なものは駆使してこなかったんです。でも、今回は曲も作らなきゃいけないし、グルーブを高めるために練習もしなきゃいけないし、さすがに宅録的なものも使わないと時間が足りないってことになった時に、壮大はそういうのができるんですよ。元々、ガレバンをいじってたからメカに強いんです(笑)。それはすごく助かりました。俺も「GigaFileってよく聞くけど、GigaFileで送信ってどうやるの?」とか、いろいろ教えてもらって。
馬場:え、それほんとに聞いたの?(笑)
笠原:そのレベルだったんで(苦笑)。
馬場:なかなかだね、それは(笑)。
笠原:Ctrl+cでコピーで、Ctrl+vで張り付けねとか(笑)。
敦賀:それができないんだよって連絡が来て(笑)。
笠原:そういうところからやりながら。でも、おかげでスムーズにできました。

――それはすごく良かったんじゃないですか。敦賀さんがバンドに加わるという意味でも。

笠原:だから後半はね。
敦賀:楽屋とかでも、本番前に。
笠原:そう。楽屋で、「これ、ここをこうしない?」とかって。で、馬場君がその場でドラムを打ち込んで、それに合わせて録ったりもして。そういうことは今まで全然なかったんで。
馬場:やればできるんじゃんってね(笑)。
笠原:このやり方、良いなって思いました。

――これまでは笠原さんが弾き語りしたものを、他のメンバーに投げていたんですか?

笠原:ほぼそうでした。ガレバンを使うこともあったんですけど、肌に合わないと言うか。
馬場:スタジオと言うか、現場で考えながらちょっとずつ作っていくってスタンスだったんですよ、ずっと。
笠原:やる気が起きないんですよ、自分一人でやるって。湧かないんですよ、イメージが。なんとなくこんな展開になるかなぐらいのやつをスタジオに持っていって、スタジオで合わせた時に、そうそうそう! こうでこうでって浮かぶタイプだったんです。ひとりでやるってすごく虚しいって感じだったんですけど、今回、やってみたらポンポンポンって。そう言えば、スタジオに入ったのに、結局、1回も音を出さずにパソコンの前で3人で、こうでこうでってやった時もありましたね(笑)。
馬場:ああ、ドラム、セッティングしたのに1発も叩かないで終わった日があった。
笠原:「ここのキックはこっちにずらして」ってパソコン内で。
馬場:だったら(スタジオの)ロビーで良かったじゃんって(笑)。
笠原:そうそうそう(笑)。でも、それ、やったらレコーディングもスムーズで。それはでかかったですね。
馬場:僕は以前からドラムのアレンジを考えるとき、パソコンを使ってましたけどね。もちろん、そんなに(宅録の)スキルがあったわけじゃないですけど、今回、現場で「これ、どう?」ってぱっとやれるぐらいにできて、それがうまいことハマったのはおもしろかったですね。

 

「とにかく止めるな」って言ってもらってなかったら、もっと違っていたと言うか

――今回の4曲はそれぞれに違う魅力や聴きどころがあるものになっています。収録曲について、1曲ずつ話を聞かせてもらえる機会もそんなにないので、今日は1曲ずつ、その曲のバックグラウンドや聴きどころを聞かせてください。まず1曲目の「YES」は、どんなところから作っていったんですか?

敦賀:割と(曲作りの)後半にできましたね。
笠原:そうですね。この曲は最初にメロディがあったんですよ。俺的にこの曲がすごくおもしろいと思うのは、B♭というちょっと変なキーになっているところなんですけど、今までにない感じが良いなと思います。歌のキーもB♭がジャストだったんですよ。最初はAかBか、つまりB♭の下か上かで考えていたんですけど、B♭がちょうど良くて。ただ、B♭にしてしまうと、ギターを弾くとき、開放弦が使いづらくなると思っていたら、それでイケるフレーズが出てきて、「これはそういうことですね」というふうにうまい具合に作れたんです。B♭ならではのギターのコード感やプレイもぜひ聴いて欲しいですね。

――笠原さんがブログで、「日々色々感じること、思うことはあるし、なんか凹んだりする時も、不安になる時もあるし、そんな中で嬉しいこと、新たに気づくこと、再確認すること、凄く勉強になることもあるし」と書かれていましたが、「YES」はまさにそんな気持ちを歌っていますね。

笠原:レコーディングが始まってから歌詞を書いたんですよ。その頃には、新型コロナウイルスの状況がじわっと襲いかかってきていたと思うんですけど、「怖いね」みたいなことも話しながらも、自分らがいろいろがんばってきたことがようやく1つ実を結ぶところまで来たという喜びが言葉として出てきたんです。とにかく肯定的な気持ちと言うか、スタンスを出したくて。冒頭でも言ったように新体制の1発目ってことで、どういうものが良いとか、どういうものであるべきかとか、変にいろいろ考えちゃったんですけど、その答えがすごく詰め込まれた曲だと思います。常に前向きと言うか、前向きな選択をやっぱりするだろうな、自分らは。そうでありたいなっていう。正直、あまりにも前向きすぎて、ちょっと気恥ずかしいところもあるんですけど、自分の中に芯みたいな、軸みたいなものがあるとして、それを突き詰めて考えていくと、そういうものに結局行きつくんです。いろいろ大変なことはあるけど、やっぱり最終的には前向きでいたい。その気持ちを、〈Yes〉という言葉とともに包み隠さずに歌いました。

――新体制1発目の作品の1曲目にふさわしいタイトルだし、メッセージだし、曲調だし。

笠原:曲のタイトルを作品のタイトルにしたことってこれまでないんですよ。
馬場:初めてですね。タイトルの一部分を使ったっていうのはありましたけど。
笠原:そうそうそう。そのものズバリでいいでしょうって感じでした、今回は。

――歌うようなベースラインが耳に残ります。それはやはり元々ギタリストだった人が作ったからこそなのかな、と。

笠原:そうかもしれないですね。(フレーズは)ほぼ壮大に任せたんですよ。
敦賀:めちゃくちゃ考えたフレーズではないです。案外すらっと乗ったと言うか。
笠原:「ここらへんでちょっと動いて欲しい」っていうイメージを伝えたら、「そしたらこんな感じでどうですか?」「ああ、それそれ!」って。
敦賀:考える前にフィットしましたね。

――2曲目の「DRAIN」はメロディック・パンクと言うよりは90’sオルタナやポスト・ハードコアの雰囲気もあるロック色濃い曲ですが、抑えた調子で歌っているせいか、笠原さんの歌声もこれまでと違って聴こえますね。

笠原:キーが低いんですよ。実はこの「DRAIN」、けっこう波乱を呼んだ曲で(笑)。ベースとドラムを録って、ギターを録り始めたところで、メロディが別のバンドの曲に似ている気がしたんですよ。だから、2人に「何かに似ていない?」って聞いたら、「似ているかもしれないけど、わからない」って。何かに似ているなと思っても、自分でボツにしたメロディだってことがたまにあるから、これもそうかもしれない。大丈夫だろうと思ったんですけど、念のため、ちゃんと確かめたほうがいいと思って、Kuboty(ex. TOTALFAT)に聴いてもらったら、「これはあれだね」って返ってきて。
馬場:すぐにね(笑)。
笠原:某バンドの某曲だったんですけど、マジかぁと思って。
馬場:聴いてみたら、確かに。
笠原:違うっちゃ違うんですけど、彷彿させるんですよ。ピッチ感とかテンポ感とかが。「これはまずい。メロディを変えよう」ということになって、新たに考えたり、使わなかった曲のメロディを、Aメロに持ってきたりしながら急遽作り直して、結局、メロディとそれに合わせてコード進行が変わると、ベースも変えないといけないから、ベースも録り直したんですけど、壮大は前のバンドでは曲も作っていたせいか、飲み込みも早くてスムーズに行って。しかも最初に作った時よりも全然、良いものにできたんですよ。さっき歌のキーが低いって話が出ましたけど、それもレコーディングしながら気づいて。それは今、スタジオで練習しながら、けっこう大変なんですけど(笑)、それはそれで良い経験になると考えてます。

――新しい引き出しになるんじゃないですか。

笠原:そうなったら良いですね。

――ブログに書いていたレコーディング中のトラブルは、そのことだったんですね。

笠原:そうです。焦ったし、他のバンドの曲に似ている曲を気づかずに出してしまったことにも、うーんってなりましたし。
馬場:レコーディングの序盤がけっこう巻いていたから、何とかなったと言うか、「ドラムも録り直す?」って言ってたくらいですからね。
笠原:その余裕があったからちょっと良かったですけどね。その時点でカツカツだったら、すでに録ったオケのまま行くしかなかった。ただ、すべてがうまくハマって、結果、めちゃくちゃ良い感じになったんで、土壇場での閃きと言うか、エネルギーって、やっぱ良いんですよね(笑)。
馬場:今までもね。
笠原:割とそれを発揮してきたタイプなんです(笑)。
馬場:そういう曲がリード曲になって、MVも作って、バンドの定番曲になるってこともけっこうあるんですよ。
笠原:このタイミングで神は降ろしてくれるのか。もっと早く来いよって、そのたび思いますけどね(笑)。

――アコースティック・ギターの弾き語りにバンドの演奏が加わる3曲目「LETTER」は、メロディの良さが際立つギター・ポップ・ナンバーです。

笠原:これもほんとギリギリのタイミングでツアー中にできた曲で。
敦賀:1月でしたっけ?
馬場:福岡のライブハウスの楽屋で、笠原がたまたま弾きながら歌っていたんですよ。
笠原:リハーサルが終わった後、飯を食いに行って、ライブハウスに戻る時にバーンとメロが降ってきて、これは!と思いながら楽屋で弾きながら、その日の対バンだったTrack’sのメンバーと2人に「こんな感じのメロが浮かんだんだけど」って言ったら、みんな、「良いね」って言ってくれて、その場でメロもリフもほぼできて、すぐ録れるじゃんって。

――ビートルズと言うか、マージー・ビートっぽいアレンジもその時に?

笠原:それも最初から。

――そんなふうに降ってくることが多いんですか?

笠原:多いと言うか、それで作らないと、良くないんですよ。なんかぐっと来ないって言うか、すんなりできる曲ってやっぱり良い。でも、作ろうとしていろいろトライするってこともしないとダメで、両方あって成り立っているんだとは思いますけど。
馬場:最初にできた時は尺が今の1.5倍ぐらいあって、もう1個、展開があったんですけど。
笠原:要らないよねってなったんだ。
馬場:演奏がシンプルなんだから、もっと短くてもいいんじゃない?って今の形になりました。

――実はドラムが聴きどころなんじゃないかな、と。

馬場:最初、弾き語りを聴いた時に歌だけでイケると思えたんで、ドラムは余計なことと言うか、細かい手数は要らないと考えて、ほんと必要最小限のことしかしないって感じで作りました。それでも物足りないとは思わないんですよ。実は、むしろそういうドラムが好きなんです。いろいろなことをやるのも嫌いじゃないんですけど、シンプルでぎゅっとまとっているのが好きなんですよ。


――そして、4曲目の「NOTHING BUT MY HEART」は、直球のメロディックパンク・ナンバーで、歌詞も新体制での新たなスタートの決意と言うか、所信表明と言うか、真っ直ぐに訴えかけてきますね。

笠原:何のヒネリもない(笑)。新体制になってからの自分らのストーリーと言うか、気持ちをそのまま乗せている。

――〈I remember your words and love.“You keep on trying and don’t stop your music.”〉(あなたにもらった愛のある言葉 決して忘れないよ 『お前の音楽を止めるな 挑戦し続けろ』)と歌っているその言葉は実際、誰かから貰ったものなんですか?

笠原:先輩のバンドマンから貰いました。何人かいるんですけど、「とにかく止めるな」って言ってもらってなかったら、もっと違っていたと言うか、それを言ってもらったからこそ、今があるんだと思います。

――違っていたというのは?

笠原:前のベースがやめてもバンドは続けていこうと思っていたんですけど、もっと時間をかけて新しいメンバーを探して、練習もして、ちゃんと体制を整えて、「よし!」と思える曲を作ってから、動き出そうというのがいいんじゃないかって馬場と2人で話していたんです。
馬場:メンバーが抜けるって初めての出来事だから、けっこう慎重になっていたんです。
笠原:でも、いろいろな先輩が言ったのは、むしろ真逆で、「止めるな」って。「止めないほうが絶対いい」ってSHADOWSのHiroさん(Vo)、Kazukiさん(Gt/Vo)も言ってくれたし、前のベースが脱退して、どうしようってなったとき、dustboxとOVER ARM THROWがライブに誘ってくれて。「いや、自分らまだどうなるかわからないから、返事はできない」って言ったんですけど、「でも、出たほうがいいと思う。何かできるでしょ。とりあえず出るってことで」って(笑)。そんなふうに背中を押してもらったことはでかかったですね。

――なぜ、みなさん、「止まらないほうがいい」と?

笠原:単純に止まると、忘れられちゃうからってことだと思います。今は時の流れが速いから、止まらずにライブをやって、動いているところを見せないとダメだよっていう。
馬場:中にはちょっと間が空いても、奇跡的に成立する人たちもいるけど、動いていたほうが忘れられないと思うんですよ。
笠原:あとは単純に、そうだよなって思えたって言うか、そっちの方がっこいいし、やりたいなと思ったんです。結局どうなるかなんてわからないんだから、そのほうが後悔しないだろうっていうのがでかいですね。実際、壮大が加入して、ライブするまでめちゃめちゃ長く感じてたんですよ。
馬場:たった1か月だったんでけど、1か月ってこんなに長いんだって感覚でした。
笠原:その間はSNSを見るのもしんどかったんですよ。周りのバンドが活動しているのを見ると、置いていかれるような気がして。自分たちは大丈夫だろうと思ってたんですけど、思っていた以上に悔しいという気持ちがあって、そのタイミングで壮大と出会って、「よーし、行こう!」って。

--「NOTHING BUT MY HEART」は、そんな気持ちをストレートに書き綴ったわけですね。そんな4曲が収録された『YES』。自信作にもなったと思うし、今後のノーザンの基礎になる作品になったとも思うし、かなりの手応えがあるんじゃないでしょうか?

笠原:そうですね。手応えたという意味では、もっと音楽的にとか、自由にとか、さらにおもしろいとか、これからはそう思えるものをやっていきたいと思えるようになったことがでかいですね。今回は改めての名刺代わりの1枚ってことで、ちょっと意識的に、こうあるべきものだというものを作ったところはあって、確かにそれってすごく大事だと思うし、良いと思うんですけど、もうちょっと自由に作ってもいいんじゃないかって。ノーザンらしさってけっこうあると思うんですよ。それを軸にしながら、「こういうアプローチもするんだ?」とか、「新体制になったんだね」とか、そういう面もどんどん出していきたいと思うし。新型コロナウイルスのせいで、ライブができなくなってから、いろいろな音楽を聴いたり、考えたりしたとき、気持ちが自由になったと言うか、そういうふうにしてもいいなと思ったんです。ノーザンらしさって、どうしても出ると思うんですよ。だったら、やりたいことも、もっとこうでもいいなと思うこともいっぱいあるから、それをやりたいです。新体制になって、新しいものを提示しなきゃと思っていたものが、ようやく出るわけじゃないですか。だから、ここからはちょっと気が楽と言うか、何でもやれることはいっぱいあるぞって気持ちになっていて、実は、もう新曲も作っているんですよ。


--それは楽しみですね!

笠原:壮大も曲を作ったり、ネタを持ってきたりしているんですけど、「ノーザンにこういうバイブスの曲なかったな」とか、「こういうのやるんだ?」とか、そういうのもちょっとずつやれると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。




“YES”
[CD]
1.YES
2.DRAIN
3.LETTER
4.NOTHING BUT MY HEART


WIRED ReCORDS / WRIN-021 / 形態:CD / 価格:¥1,100(税抜)





>>Northern19 OFFICIAL HP