LIVE REPORT

OLEDICKFOGGY "蟻の行進TOUR 2021” LIVE REPORT!!

Report by Tomoo Yamaguchi
Photo by Chabo

 

2021.4.4
OLEDICKFOGGY "蟻の行進TOUR 2021” @新宿LOFT

 ソーシャルディスタンスを保つため、碁盤の目状にバミられたスタンディングのフロアも、そしてステージも、この日、ライブの会場となった新宿LOFTにはOLEDICKFOGGYの曲が心底大好き!という人たちしかいなかった。
 何、当たり前のことを言ってんのと思うなかれ。筆者がそこで感じた、その“大好き!”の濃度は、他ではなかなか味わえないものだ。しかも、その気持ちを、どうかしたら観客よりもむしろ演奏を提供する側のメンバーたちから感じられたところがいいじゃないか。
 3月24日にリリースした『夜明け来ず跪く頃に』をひっさげ、全国各地を回る「蟻の行進TOUR 2021」がバンドのホームとも言える新宿LOFTからスタートした。ツアーの初日となるこの日は1部と2部、それぞれ100人限定の入れ替え公演となった。その第2部の模様をレポートしたいと思う。

 先日のインタビューで、新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインに沿ったライブについて、「全然大丈夫です」と伊藤雄和(Vo/Mandolin)は語っていたが、その言葉どおりOLEDICKFOGGYの6人は観客の反応を気にするよりも何よりも、久しぶりに本格的なツアーを始められたことに自分たちが興奮しながら、演奏を楽しんでいるように見えたのだった。しょっぱなから、『夜明け来ず跪く頃に』のオープニングを飾るロック・ナンバー「逃げれない」を、観客をおいてけぼりにする勢いでぶっとばした6人は、全然止まる気配がない大川順堂(Dr/Cho)のドラムにひっぱられるように間髪入れずに「地下で」に繋げる。はねるリズムのロック・ナンバーだ。それまで、いきなりの熱演にあっけにとられるようにステージを観ていた観客がここでようやく我に返り、胸の内から溢れてきた興奮を拳に込め、一斉に突き出した。

 そしてその光景と、伊藤が歌う《オーベイビー 今夜は思い出そうぜ》《オーベイビー 今夜はキメようぜ》という歌詞が見事にリンクした瞬間、筆者はこの曲がライブハウス賛歌でもあることを思い出したのだったが、バンドは容赦なく、ともに歌謡メロディを聴かせる「blow itself away」「いなくなったのは俺の方だったんだ」とたたみかけるように繋げていく。


 ステージのセンターでアコーディオン・ソロを奏でるyossuxi(Accordion/Keyboard/Chorus)を、「よっちゃん!」と伊藤が称え、観客がそれに応えるように手を挙げると、四條未来(5 String Banjo/Chorus)と向かい合いあって、演奏していたスージー(Gt/Cho)がyossuxiと入れ替わるようにセンターに立ち、歌いながら観客を煽る。そして、そこで生まれた一体感をさらに大きなものにしたのが、『夜明け来ず跪く頃に』のラストを飾る「雨が止んでも」。《只管に金が金が無い》と、そのやるせなさを歌い上げるスロー・ナンバー。yossuxiがキーボードで鳴らしたチェンバロのクラシックな音色と伊藤によるマンドリンのトレモロ奏法がわびしさを際立たせる。そして、伊藤の心の叫びとも言える最後の《くそぉぉぉぉ!》という絶叫が観客の気持ちを鷲掴みに! 

 伊藤の絶叫に自らの思いを重ねるように観客全員が拳を挙げた光景は、間違いなくこの日のハイライトの1つだったと思う。しかし、バンドはその余韻に浸っている時間などないと言わんばかりにノスタルジックなポップ・ソングの「50/50」と繋げ、観客を存分に踊らせたところで、怒涛の前半戦が終了した。

大きな拍手が沸き上がる中、よっぽど手応えを感じたのか、伊藤は開口一番、「2部とは思えないクオリティ!」と自画自賛(笑)。思い出したように昨年4月に加入した上原子K(Ba/Cho)を紹介する。そして、「去年の今頃、そこらへんでツアー・ファイナル観てました」「ちゃんとしたツアーは今回初めてでしょ。ツアーが終わる頃にはタトゥーを入れて、飲む打つ買うでお願いします」「母に泣かれます」という上原子と伊藤のやりとりを挟んで、後半戦は「新曲です」と『夜明け来ず跪く頃に』から上原子が耳に残るリフを奏でるポップ・ナンバー「東京」でスタート。そこからパンクな勢いと歌謡メロディが絶妙に入り混じる「シラフのうちに」のメンバー全員が一丸となった演奏で観客をノックアウトしつつ、バンドが繋げていったのはポルカの「マネー」、アイリッシュな「I LOVE YOU」、フォーキーなバラードをじっくりと聴かせた「カーテンは閉じたまま」など、バンドが持つバックグラウンドの幅広さを物語る曲の数々だ。



「コロナ禍ちょっと贅沢コロナビール。季語はコロナ。太陽って意味だから」
「(曲を)やろう!(笑)」
 伊藤とスージーの、割とどうでもいいやりとりが客席に笑いのさざ波を立たせ、「新社会人に捧げます」と伊藤が照れながら紹介した「行け若人」からライブはいよいよ大詰めに。「日々がゆく」「ベターエンド」では、見事なハーモニーワークを披露。その他の曲でもメンバーが伊藤の歌にコーラスを重ねる姿が印象的だったが、筆者はそこにOLEDICKFOGGYの歌心に加え、自分たちの楽曲に対するメンバーたちの深い愛着を感じたのだった。

 そして、yossuxiが「月になんて」のイントロを奏ではじめたところで、名残惜しくなったのだろう、「これ聴くと、終わっちゃう感じがするよね、何かやろうか?」と伊藤が言い出して、予定になかった「チブサガユレル」を急遽、披露することに。そんな粋な計らいに観客も大歓びだった。
「またいつかライブ会場で会いましょう」
 そう伊藤が観客に語りかけてから、アイリッシュ風の「月になんて」を改めてじっくりと聴かせ、バンドの演奏はテンポアップ。そのままラスト・ナンバーの「歯車にまどわされて」になだれこむと、このタフなアンセムを、弦が切れても弾きつづけたスージーをはじめ、メンバー6人は全力で演奏しきったのだった。



 80分の熱演の中でバンドが演奏したのは、計18曲。ツアーの初日ということで、『夜明け来ず跪く頃に』からは、「逃げれない」「雨が止んでも」「東京」「行け若人」の4曲を披露するだけにとどまったが、他にもハード・ロッキンな演奏と精神世界を思わせる歌詞のギャップがおもしろい「蟻」、やるせなさが染みる「低空飛行」、昭和の歌謡曲を思わせる「ベイサイドモーテル」など、聴きたい曲はいっぱいある。きっとライブを重ねるごとにセットリストに加えられていくのだろう。全国各地を回って、バンドが東京に戻ってきたとき、セットリストがどんなふうに変化しているか確かめるために改めて足を運んでみたい。そして、伊藤が期待しているように上原子がツアーを経て、どれだけクズ野郎になっているかを――。



>>>Official HP
>>>Twitter
>>>Instagram
>>>YouTube