LIVE REPORT

OLEDICKFOGGY "残夜の汀線 Tour FINAL" LIVE REPORT!!

Report by 山口智男
Photo by Chabo

 

2023.7.15 @WWW X
"残夜の汀線 Tour FINAL"

 

「俺達がOLEDICKFOGGYだ!」

観客の歓声と怒号が入り混じる荒っぽい歓迎の中、伊藤雄和(Vo, Mandolin)が声を上げ、♪オッオッ・オオー、オッオッ・オオー・オー!とメンバー全員でシンガロングしながら演奏したのは、フルアルバムとしては5年ぶりのリリースとなる『残夜の汀線-ZANYA NO TEISEN-』のトップを飾るアンセミックなロックンロール「消えて行く前に」。同アルバムをひっさげ、3月21日の新宿LOFT公演から全国を回ってきた長いツアーがついに迎えたファイナル公演のオープニングを飾るにはぴったりの選曲だ。

拳を突き上げながら、シンガロングするだけでは、高ぶる気持ちを抑えきれない観客が早速、ステージに押し寄せ、ダイブを始める。

ステージの6人は間髪入れずに「夜光虫」「満月とポイズン」をたたみかける。前者はスージーが哀愁のリフを閃かせるロックンロール。後者はシュールな歌詞も楽しいダンス・ナンバー。「消えて行く前に」から前掲アルバムの曲順通りというところが心憎い。だって、それがベストの並びなんだから、無理に変える必要はないだろ!? メンバー達がそう考えたかどうかはさておき、そんな曲順はアルバムの出来に対するバンドの自信の表れなんじゃないかと思ったりも。

「満月とポイズン」のポルカのリズムに合わせ、体を揺らす観客の姿を見ながら、四條未来(5 String Banjo)がにこにこと笑っている。今日もいいライブになるに違いない。

ツアーの初日、『残夜の汀線-ZANYA NO TEISEN-』から4曲だけ披露したバンドはこの日、全曲を演奏した。ライブを重ねるごとに曲数を増やしてきたのだろう。アルバムの曲順通りということなら、「満月とポイズン」の次は、「少し飲んで帰ろう」なのだが、ノスタルジックなポップ・ソングを演奏するにはまだ時間が早いと考えたのか、バンドは「凡テ奈落ノ代理サマ」から観客の気持ちを煽るようにお馴染みの曲の数々を、気づけば8曲目の「また今日が終わる」まで、大川順堂(Dr, Cho)のドラムで繋げながら、ほぼノンストップで披露。ハードコア調のダンス・ナンバー「暗転」から、伊藤が哀愁に満ちたメロディをシャウトした「blow itself away」の流れでは、フロアがモッシュとダイブに荒れ狂う、まるでクライマックスを思わせる大きな熱狂が序盤にもかかわらず生まれたのだった。

「いらっしゃい。ツアー・ファイナルです。ありがとうございます。無事に迎えられました。途中で3会場ぐらいトバしてしまいましたが、なんとか最後を迎えられてよかったです。ツアーは終わるけど、ツアー並? いや、ツアー以上の予定がそのうち発表されます(OLEDICKFOGGY presents「あの夜のつづきVol.9~12」を含め、8月以降のライブが発表されたが、それらのことか?)。今日、いろいろなところでいろいろなバンドがやってるけど、ここを選んでくれてありがとう」(伊藤) 照れ臭そうに付け加えた「普段こんなことは言わないんですけどね(笑)」という言葉が、伊藤の気持ちの中の新境地を想像させた。

その伊藤がマンドリンで奏でるリリカルなフレーズとともに《世界を裏返すほど強くはなくて 誰も救えないほど弱くはなくて》というパンチラインが胸に突き刺さる「エンドロール」からの中盤は怒涛の序盤から一転、OLEDICKFOGGYが持つポップな魅力を、多彩な曲の数々とともにアピールする。バラードの「カーテンは閉じたまま」、リズムが沖縄民謡っぽいダンス・ナンバー「ゴシップオブフォレスト」、オールディーズ風のロックンロール「ヴィーナス」といったお馴染みの曲に、『残夜の汀線-ZANYA NO TEISEN-』から「ゆらゆら」「さよならセニョリータ」「デリバリーヘルスウィング」の3曲が加わったことによって、ポップ度はぐっと上がった印象も。三隅朋子(Accordion, Key, Vo, Cho)がリード・ボーカルを担当するカントリー・ソングの「ゆらゆら」は、スージー(Gt, Cho)によるスライド・ソロも聴きどころ。無国籍風フォルクローレなんて言ってみたい「さよならセニョリータ」とタイトル通りスウィング調の「デリバリーヘルスウィング」は、ともに男の哀しい性を題材にしたユーモラスな歌詞が染みるが、日本語の歌詞をスペイン語風に発音した伊藤の歌に加え、スージー、大川、鹿児島大資(E.Ba, Cho)が楽しそうに声を上げるウノ!ドス!トレス!という掛け声といった遊び心が散りばめられた前者は、これからライブの人気曲になっていきそうだ。

それを言うなら、「ラスティックが止められない」以降の後半戦で、懐かしい曲の数々に交え、やはり『残夜の汀線-ZANYA NO TEISEN-』から演奏した「残夜の汀線」と「仄灯-HONOAKARI-」は、どうだ? レゲエのリズムとダブっぽいサウンドに加え、ダイナミックなサビの展開を持つ前者、メタリックなギター・リフから始まる歌謡ロックの後者はともにドラマチックな曲調がフィジカルな盛り上がりだけに止まらない感動を喚起する曲として、今後、セットリストの中でいわゆるアンセムとはちょっと違う位置付けになっていきそうだが、それとは逆にノスタルジックなポップ・ソングの「少し飲んで帰ろう」がビターな味わいとは裏腹にダイブもOKのライブ・アンセムになっていきそうなところがおもしろい。

短いMCを挟む以外、最初から最後まで曲間を空けずに、ほぼノンストップで曲を繋げながら、アンコールを含め全34曲を120分のセットに詰め込んだ怒涛のステージングと6人が一丸となった気迫に満ちた演奏には、終始、圧倒されっぱなしで、凄い!凄い!凄い!と感嘆の声を上げずにいられなかった。それこそが今回のツアーの成果なのだと思う一方で、この日、『残夜の汀線-ZANYA NO TEISEN-』の全11曲を改めてライブで聴き、こういうアルバムを作れるならとOLEDICKFOGGYに対して、期待したいことが増えたのは、それとはまた別の成果なのだと言ってもいいかもしれない。

 

「いつも来てくれる人も今日しか来られない人もありがとう!」(伊藤)

大川以外の5人がステージ最前で演奏した「いなくなったのは俺の方だったんだ」からのラストスパートがどれだけ盛り上がったかは、「神秘」「月になんて」「歯車にまどわされて」とライブ・アンセムの数々を繋げたセットリストからもわかるだろう。

OLEDICKFOGGYのシーシャンティなんて言ってみたい「海のゴート」、絶叫する伊藤のボーカルが観客の気持ちに火をつけた「マネー」、そしてダメ押しで胸に染みる歌の魅力を印象付けた「シラフのうちに」とさらに3曲を演奏したアンコールでも観客のダイブは止まらなかった。

誰もがバンドの絶好調を感じ取ったに違いない。しかし、伊藤は「ツアー並? いや、ツアー以上」という言葉を使った。つまり、長いツアーを経験した今の自分達には、その自信があるということだろう。言葉尻を捉えて、勝手にあれこれ言うのもどうかと思いながら、OLEDICKFOGGYのこれからに期待せずにいられなかった。楽しみにしている。

最後に、この日、開演前の会場には7月7日に逝去したPANTAを追悼するようにPANTA&HALや頭脳警察の曲が流れていたことを追記しておきたい。


>>>OLEDICKFOGGY HP