INTERVIEW

SUZZY - 須藤慈郎 - 1st Solo Album「僕の正体」 INTERVIEW!!

OLEDICKFOGGYのギタリスト、SUZZYこと須藤慈郎が1stソロアルバム『僕の正体』を完成させた。
ソロアルバムを作ったきっかけこそ、所属レーベルからの提案だったが、SUZZYには元々、OLEDICKFOGGYという枠組みにこだわらずにやってみたいことがあったようだ。
打倒OLEDICKFOGGY。ソロアルバムを作るにあたって、まず掲げたテーマと洋邦および新旧問わず、さまざまな音楽を聴き、培ってきたバックグラウンドがOLEDICKFOGGYとは一味も二味も違う多彩な全8曲に結実した。
『僕の正体』の一番の聴きどころはそこだと思うが、今回、改めて取り組んだという歌はもちろん、自ら書いた歌詞とともにSUZZYならではと言える美学や、こだわりをじっくりと味わいたい。
レコーディングには全曲で演奏した大川順堂(Dr/OLEDICKFOGGY)、三隅朋子(Key/OLEDICKFOGGY)、ERY(Ba/極東ファロスキッカー)に加え、小峠英二(Sax/バイきんぐ)、中尊寺まい(Gt/ベッド・イン)がゲスト参加。また、伊藤雄和(OLEDICKFOGGY)、佐佐木春助(東狂アルゴリズム)が2曲の作詞を手掛けるなど、盟友達のバックアップも聴きどころの1つであることを付け加えておこう。
インタビューでは、『僕の正体』についてはもちろん、SUZZYの“正体”にも迫りたいと考え、ミュージシャンとしてのSUZZYのバックグラウンドについてもたっぷりと聞かせてもらった。


Text by 山口智男
 


――早速ですが、今回、ソロアルバムを作った経緯を教えてください。
 
コロナ禍になって間もない頃、(所属レーベルのA&Rの)広中さんから「SUZZY、ソロやらないか?」という話をもらったんです。それが2020年ぐらい。「いいですね。やりましょう」ってその時は答えたんですけど、コロナ禍とか、(OLEDICKFOGGYの)メンバーがやめるとかいろいろあって、3年ぐらいほったらかしにしていたんです。そしたら、去年、改めて広中さんから「SUZZYのOLEDICKじゃない繋がりの人達をいろいろ呼んで、広げたい」と言われて。それでようやく動き始めたんです。
 
――実際、取り掛かるまで時間は掛ってしまったけれど、ソロアルバムの制作を打診されて、即OKしたということは、SUZZYさんはソロをやることに興味があったわけですね? 
 
おもしろそうだなと思いました。最初は僕が歌わなくてもいいかなと思ったんですけど、広中さんが「歌ってほしい」って言うから、歌うことは全然嫌いじゃないんでやってみました。
 
――おもしろそうだっていうのは、OLEDICKFOGGYとは違うものが作れると思ったからですよね?
 
そうです。元々、僕はラスティックとか、ウッドベースとかの畑の人間ではなくて、ロックとかファンクとかが好きだったんですよ。OLEDICKでは、それをOLEDICKのフィルターを通してやっていたんですけど、やっぱりどうしても薄まっちゃうんですよね。でも、ソロだったら、僕ひとりでシンプルにできるんじゃないかってソロの話をもらったとき、こんなことがやりたいってぱっといろいろ出てきたんです。
 
――それから3年を経て、去年、着手しはじめた、と。
 
はい。夏ぐらいから曲を作り始めました。
 
――それはソロアルバムのために曲を作ろうということで?
 
そうです。曲はOLEDICKでもけっこう作ってましたけど、詞は作ったことがなかったから、もう伊藤ちゃんに丸投げしちゃおうかなって思ってたんですけど、試しに1曲、書いてみたらおもしろくて。
 
――どんなところが?
 
答えがないじゃないですか。答えがないと言うか、全部正解じゃないですか。逆に言えば、全部不正解でもあるんですけど、そんなところがおもしろくて、どんどんのめり込んでいきました。割りと向いてたかもしれない。おもしろかったです。
 
――今回、全8曲の中で一番初めに作った曲は、どれでしたか?
 
2曲目の「僕の正体」です。最初にやっておかないとまずいなと思って、メンバーに細かいことを指示して、できあがったのがたぶんこれだと思います。
 
――ソロのための曲作りはOLEDICKの曲を作る時とは何か違うんですか?
 
全然違いますね。まずマンドリンもバンジョーもいないし、アコーディオンも考えてなかった。今回はキーボードだったんで。何か往年の感じと言うか。
 
――往年のロックですか?
 
そうです。日本の、90年代前後とか、80年代後半とか、日本のロックの良かった時期ってあるじゃないですか。僕は良かったと思ってるんですけど。
 
――それはSUZZYさんがリスナーとして聴いてきたところですよね。80年代から90年代にかけて、たとえば、どんなバンドを聴いてきましたか?
 
THE BLUE HEARTSとか、レベッカとか、BOØWYとか。みんなが聴いてたやつってあるじゃないですか。今聴いても、やっぱりクオリティが高いって思うんですよね。それを20代前半ぐらいの人達が作ってたってすごいなって思います。
 
――SUZZYさんは3歳ぐらいの頃からCMソングを完コピして歌っていたそうですね。
 
あぁ~(笑)。CMソング好きですよ。昨日とか今日とかもツアーの帰り道、歌ってました。
 
――じゃあ、それぐらいの頃から音楽にハマっていったんですね?
 
おばあちゃんが歌好きだったんです。踊りの先生をやっていて、踊るとき、レコードを掛けるんですけど、その曲を覚えて、歌ったりしてました。そうそう、「北酒場」を俺が歌ってるカセットテープがあります。3歳ぐらいの時だったのかな。今もあるかどうかわからないけど、聴き返してみたとき、自分でもうまいと思いました(笑)。
 
――そんなSUZZYさんが最初にハマったアーティスト、あるいはバンドと言うと? 
 
BY-SEXUALってビジュアル系のバンドです。自分で集めたCDがそれでした。小6だったから、11歳ぐらい。1992年から1993、4年ですね。
 
――ギターを始めたのもその頃ですか?
 
ギターは中学生になってからでした。通ってた塾に川島って奴がいたんです。そいつがすごい奴なんですよ。一歩進んでる奴っているじゃないですか。それの最たるものみたいな奴だったんですけど、その川島が「須藤、バンドやらないか?」って言い出して。でも、バンドなんて自分でできるって思わないじゃないですか。中学生の時は。でも、おもしろそうだ。やりたいと思って、バンドを組んだんです。その時に川島からいろいろ、BUCK-TICKとか、BOØWYとか、ビジュアル系の系譜のZI:KILLとか、LUNA SEAとか教えてもらって。あとはニューロティカとか、LAUGHIN' NOSEとか、ニルヴァーナとか、どんどん出てきて、それを聴き漁ったのが、僕の初期衝動でした。
 
――バンドを組んだとき、なぜギターを選んだんですか?
 
ギターをやっておいたほうがいいと思ったんですよね。川島もギターだったんですよ。中学生なのにめちゃくちゃうまくて、「須藤も練習しろ」って言うから一緒に練習したんですけど、僕、けっこう器用だから、ベースもドラムもなんとなくできるようになって、いろいろなところから頼まれて、ベースをやったり、ドラムをやったり、ボーカルやったり、けっこうマルチな感じでやっているうちに音楽が身に付いていったんです。だから、曲を作る時もドラムはこうしてとか、そこにベースを合わせてとか、けっこうイメージできちゃう。
 
――じゃあ、OLEDICKFOGGYのギタリストをやりながら、ギタリストという意識はそんなにない?
 
ないことはないけど、全体が好きって言うか。ギターももちろん好きですけど、ベースとドラムってギターにはないおもしろさがあるじゃないですか。そこに惹かれるって言うか。
 
――ギターを始めてからギターはかなり練習したんですか?
 
いえ、練習はそんなに好きじゃなかったんで、ある程度のところまでは練習しましたけど、メタルの速弾きはそんなに。川島はそっち系になったんですけど、そこまでは無理かなって、ちょっと逃げちゃいましたね。メタルも好きなんですけどね。自分でやるとなると、めんどくせえなって(笑)。それよりも曲作りがある程度できたほうが何でもできるかなっていう考えが自分にはあったから、基礎がしっかりできてれば、ある程度は弾けるんじゃないかって、そころからは速弾きの練習はしませんでした。
 
――なるほど。ざっくりとまとめちゃいますけど、そんなふうにいろいろやってきたことが、今回、ようやくソロアルバムとして形になった、と。OLEDICKFOGGYとは違うものをというところがまず一番にあったと思うんですけど、それ以外にソロアルバムを作るんだったら、こんな作品にしたいみたいな考えはありましたか?
 
打倒OLEDICKFOGGYは一応、目標にしました。なんかバンドのギタリストのアルバムって、バンドのアルバムよりもちょっと下にあるようなイメージが僕の中にはあるんですけど、突き抜けたアルバムにはしたかったですね。自分が所属してるバンドを打倒するって、なんか変な感じはしますけど。
 
――いかがですか。アルバムができあがったとき、打倒できたと思いましたか? 
 
いやぁ、けっこうできたと思いましたね。
 
――バンドのギタリストが作るソロアルバムって、往々にして歌が弱いことがあるじゃないですか。もちろん、そこがいいと思える作品もあるんですけど、『僕の正体』を聴いて、SUZZYさん、歌がうまいと思いました。ボーカリストとして、すごく魅力がありますよね。
 

ボイトレに行ったんですよ。広中さんから「行ったほうがいいんじゃない?」と言われて、伊藤ちゃんが習っている、うつみようこさんのところに週1で通いました。
 
――いかがでしたか? ボイトレに通って、変わりましたか?
 
かなり変わったと思います。いろいろしごかれて、矯正させられました。歌のクセがあったんですよ。僕、浜省(浜田省吾)のコピーバンドもやっているんですけど。
 
――えっ、そうなんですか!?
 
そう。やってるんです。ソロアルバムを作るってなったとき、人前で歌っておいたほうが良いだろうと思っていたら、浜省のコピーバンドとして、イベントに誘われて、練習も兼ねて、お客さんの前で歌ってたんです。
 
――なるほど。
 
浜省の歌い方ってクセがあるんですよ。しゃくるって言うか、こんなふうに♪だ~れもがぁって(と「悲しみは雪のように」を歌う)。そのクセが僕にもあって。音符通りに歌わなきゃいけないのにしゃくっちゃうんで、そこを先生にダメだと言われて、「ちゃんと歌えるようになってからやりなさい」と矯正されて。おかげで今回はあまりクセを出さずにストレートにパーンと、カラオケの延長じゃない歌が歌えたのかなと思います。
 
――ところで、今回、初挑戦した歌詞はフィクションと言うよりは、SUZZYさん自身の体験や、その時に生まれた感情を、歌詞として言葉にしたものなんじゃないかと思ったのですが。
 

そうですね。まさにその通りです。
 
――じゃあ、SUZZYさんのことをよく知っている人だったら、歌詞を聴いて、わかるわかる。あの時のことだろうとなるんですか?
 
うちの嫁は、たぶんわかると思います。わからない曲もあると思いますけど、「僕の正体」なんて、もろに子育てのことを歌ってるんで。
 
――あぁ、なるほど! 《涎垂らして様になってれば 勝ち目はないだろう》なんてまさにですね。
 

《Baby》は、言葉通り赤ちゃんって意味です。僕、子供が3人いて、ずっと子育てしてるんですよ。この5、6年。それを歌詞にするしかないだろうと思いました。
 
――子育てを歌った曲は他にもあるんですか?
 
いえ、「僕の正体」だけ。もう1曲、作ろうと思ったんですけど、さすがにちょっと(笑)。子育ての曲に共感してくれる人って、ロックを聴く人には少ないだろうなって思ってやめました。ロックはもっとアウトローでなきゃいけないじゃないですけど、そっちのほうがかっこいいかなと思って、「僕の正体」だけにしておきました。
 
――そんな「僕の正体」も含め、曲ごとにいろいろなことを歌っていると思うんですけど、違う道を歩み始めた人や、離れ離れになってしまった人に対する思いがテーマとしてあるんじゃないかって感じました。今回、歌詞の根底にある感情ってどんなものなんでしょうか?
 
生と死ですね。生が「僕の正体」だとしたら、死は5曲目の「Good Bye」。「Good Bye」は親父が亡くなる前にやりとりがあって、それ歌ってるんですよ。
 
――大きなテーマである生と死というところもSUZZYさん自身の体験の中から出てきたものなんですね。1曲目の「2019~そして僕ら歩き始める~」は、2019という数字が具体的なのですが。
 
コロナ禍になって、メンバーがけっこうやめていきましたけど、2019年まではそんなになかったんですよ。やめ方もそれぞれにいろいろあって、それを歌いたいと思ったんですよ。
 
――実体験を元にしていると思わせつつ、具体的な表現を避け、聴き手の想像力を掻き立てる歌詞の書き方をしていると思うのですが、3曲目の「ドリフが聴こえる」はタイトルの印象とは逆にシリアスな曲で、志村けんさんの追悼という意味もあるのかなと想像しました。
 
この曲、最後にできた曲なんですよ。歌詞も含めて。「ドリフが聴こえる」は小峠さんが参加しているんですけど、最初の予定では、小峠さんの参加は「2019~そして僕ら歩き始める~」だけだったんです。でも、「もう1曲行きましょうよ」って言ったら、「やります」って言ってくれたから、サックスが乗るような曲をもう1曲作ったんです。その時、小峠さんってコメディアンだから、人を笑わせるコメディアンのすごさも表現できたらおもしろいかなと思って。
 
――はい。
 
ザ・ドリフターズが出演していた『8時だョ!全員集合』の転換の音楽ってあるじゃないですか。
 
――この曲の間奏は、あの転換の音楽を連想させますね。
 
そうそう。あの転換の音楽を聴いているとき、なんかちょっとプログレっぽいなと思って。
 
――プログレですか!?
 

もっと速くしたら、キング・クリムゾンになるんじゃないかって。キング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」。
 
――あぁ、あの曲、サックスが入っていますね。
 
そう。サックスも入ってるし、いいな、これ。ドリフとクリムゾンを合わせたら、おもしろいぞと思ったんですけど、さらにもう1つTURTLE ISLANDってバンドが得意としているドンタタ、ドンタタみたいなリズムを加えたら、絶対おもしろいと思って、ジャンルとか関係なく作ってみたんですよ。
 
――実際、すごくおもしろい曲になりました。SUZZYさんはザ・ドリフターズはお好きだったんですか?
 
好きでした。
 
――ザ・ドリフターズといい、8曲目のタイトルになっている「ノストラダムス」といい、1970年代に少年時代を過ごした僕は胸アツになってしまったのですが(笑)。
 
1999年に人類が滅亡するってノストラダムスの大予言ってあったじゃないですか。僕、1980年生まれだから、高校を卒業する頃までノストラダムスのブームってなんだかんだあって。ただ、「ノストラダムス」の歌詞は、東狂アルゴリズムの佐佐木(春助)君が書いているから、なぜノストラダムスって言葉が出てきたのかはわからないです(笑)。佐佐木君から歌詞をもらったとき、ノストラダムスっていう言葉が出てきたから、今の若い子達は知らないんじゃないかと思って、一応、何人かに聞いてみたんです。そしたら、誰も知らなかった。今回、アルバムに参加してくれた(中尊寺)まいちゃんがギリギリ知ってるくらいで。だから、やめようかなと思ったんですけど、逆に若い子に調べさせてやれって。なんだこれって気になるはずじゃないですか。若い子に合わせてたらキリがないから、わからなかったら調べろということで生かしました。
 
――その「ノストラダムス」に加え、6曲目の「1000%ハイテンションクレイジー」は伊藤さんによる作詞です。その2曲は、なぜ2人に歌詞を書いてもらおうと?
 
絶対頼むことになると思ったんで、最初から言っておいたんですよ。それに自分以外の人に書いてもらうのもいいなと思って。伊藤ちゃんには普通じゃない曲がいいと思って、「1000%ハイテンションクレイジー」を頼んで、佐佐木君は東狂アルゴリズムで、すごくいい歌詞を書いているから、僕のほうから「若い子からお爺さんまで全国民に刺さる、いい歌詞を書いてくれ。友情みたいなテーマで」って注文して、僕は誰にでも刺さるバラードを書こうと思いました。
 
――そういうことでしたか。さて、歌詞の話から先に聞かせてもらいましたが、さっき話に出た小峠さんをはじめ、今回、レコーディングに参加したメンバーはどんなふうに選んだんですか?
 
ある程度わかってる人が2人ぐらいいないとと言うか、説明した時にリズム的にフォローしてくれる人と音楽的にフォローしてくれる人が2人ぐらいいたほうがまとまると思って、まず(大川)順堂と朋ちゃん(三隅朋子)。この2人はうまいから、絶対にいてほしいと思いました。ベースのERYちゃんは前にKAPPUNKっていうイベントにOLEDICKが出たとき、彼女も極東ファロスキッカーで出ていて、なんでこんな可愛い子が楽屋にいるんだろうって話しかけたら、家が近所で、なおかつスタジオも近いから、「ソロアルバムを作ることになったらお願いするかもしれない」って頼んだらOKって言ってもらえて。ステージングもかっこいいし、他にもスタジオ・ミューシャンみたいなこともやっているからうまいんですよ。やりやすかったですね。小峠さんはもう前々から、「やりたいです」って言ってくれてたんで。実は石崎ひゅーいも誘ったら、「いいですよ」って言ってくれたんですけど、後々、事務所から丁寧なお断りの連絡が来ました(笑)。コーラスだけだから大丈夫だろうと思ってたんですけど、今考えたらメジャーの売れてる人をコーラスに使うなんて、何考えてんだってことですよね。
 
――そして、もう1人、ベッド・インの中尊寺まいさん。
 
まいちゃんは妊娠中だったんですよ。それなのに参加してくれたのでうれしかったです。しかも、出産予定が2月で、レコーディングが終わったのが1月だったんです。だから、けっこうギリギリまで弾いてくれて、本当にありがとうって思いました。
 
――そのメンバーに演奏してもらうにあたっては、SUZZYさんがアレンジを作りこんで、「これを弾いてください」というやり方だったんですか?
 
いえ、小峠さん以外には、ある程度、こんな感じと言って、あとは丸投げしました。小峠さんはさすがに経験が浅いから、「これを吹いてください」ってフレーズを送ったんですけど、「2019~そして僕ら歩き始める~」のサックスソロを考えてきてくれて、いい感じだったので、それはそのまま生かしました。
 
――そのサックスソロが入る「2019~そして僕ら歩き始める~」の間奏は演奏がけっこうファンキーになるんですけど、そういうアレンジはスタジオでセッションしながら決めていったんですか?
 
そこは僕が考えました。この曲、メン・アット・ワークの「ノックは夜中に」っぽくしたかったんです。
 
――あー、なるほど。曲は全然違いますけど、アレンジの発想はおっしゃるとおり「ノックは夜中に」っぽい。メン・アット・ワークは1980年代に活躍したオーストラリアのバンドですけど、SUZZYさんって1980年代のUKロックがお好きなんじゃないかって、OLEDICKFOGGYのアルバムでも、今回のソロアルバムでも思ったんですけど、けっこう聴いていらっしゃるんですか?
 
そうですね。でも、このアルバムを作る時はもうプログレを聴いていて。プログレって、僕の中ではパンドラの箱みたいな、あんまり開けちゃいけないジャンルだったんですけど、聴いてみたらすっかりハマっちゃって。
 
――さっきもキング・クリムゾンの名前が出てきました。
 
UKプログレももちろんですけど、一番ハマったのがアメリカン・プログレのカンサス。アメリカ人の突き抜けた感じがプログレと融合して、ヤバいことになってるんですよ(笑)。
 
――「僕の正体」のオルガン・ソロもプログレ風ですね。
 
ですね。キーボードの朋ちゃんにもいろいろ聴かせました(笑)。
 
――三隅さんはキーボードでいろいろな音色を鳴らしているんですけど、SUZZYさんがこういうイメージでって指示しているわけですね。
 
でも、朋ちゃんもけっこう研究してくれて、「レベッカっぽく」って言うと、ちゃんとレベッカっぽい音を出してくれるんですよ。おもしろかったですね。
 
――因みにレベッカっぽい音を出してもらったのは、どの曲ですか?
 
「Good Bye」です。
 
――「Good Bye」は中尊寺さんとSUZZYさんによるギター2本のアンサンブルも聴きどころだと思います。リードギターのリフはSUZZYさん? 
 
いえ、あれはまいちゃんに「こうやって弾いて」と弾いてもらって、僕はバッキングです。彼女も古いロックが好きだと思うんですよ。だったら弾いてもらったほうがいいかなと思って、ソロも弾いてもらいました。
 
――「いつかきっと」も80sのUKロックっぽいと思いましたが。
 
「いつかきっと」はUKってプログレ・バンドの「ナッシング・トゥ・ルーズ」って曲があるんですけど、イントロとAメロのリズムがずっと同じまま、ウワモノのリズムだけ変わっていくおもしろい曲なんです。そういう曲を作りたいと思ったんですよ。だから、「いつかきっと」もイントロとAメロのウワモノのリズムは変わっていくんですけど、ドラムのリズムは一切変わらずに、ずっと8ビートなんです。
 
――そうか、シャッフルになるのはギターなんですね。
 
そうです。でも、ドラムが変わんないところが通には堪らないと言うか、素人にはわからない、好きな人は好きなやつを作りたかったんです(笑)。
 
――他にも通ならではという試みを加えた曲はありますか?
 
「1999~そして僕ら歩き始める~」の間奏はファンキーになるんですけど、その後のサビはそのファンキーさがちょっと残るんですよ。その盛り上がりが気づくか気づかないかぐらいなんですけど、今のメジャーの曲って盛り上がるとき、ストリングスがわぁーって入るじゃないですか。
 
――はいはいはい(笑)。
 
そういう誰でもわかりやすいやつじゃなくて、わかるかわかんないかぐらいの盛り上がりは意識しました。だから、僕の曲は盛り上がらないんですよね。そんなに。いや、ちゃんと盛り上がっているんですけどね。でも、音をいろいろ重ねてるわけじゃないから。
 
――ギターもそんなに重ねていないですね。
 
そうですね。重ねてないですね。
 
――「2019~そして僕ら歩き始める~」や「いつかきっと」のように凝ったアレンジの曲がある一方で、「ずっと、あのまま」のようにアコースティックギター1本とアコーディオンだけというバラードもあって。
 
そういう曲がアルバムに1曲あるとよくないですか。たとえばエクストリームの……。
 
――「モア・ザン・ワーズ」!
 
そう。だから、ドラムの順堂くんとずっとハモってるんですよ。この曲だけクリックを使わずにマイク1本で、言い方は悪いけど、けっこう雑に録ったんです。他の曲はけっこうしっかりやってるけど、ドーンってやつが1曲あったほうがいいかなと思って。だから、アコーディオンの朋ちゃんにもレコーディングの前日に曲を渡して、「これにアコーディオン付けてきて」って頼んだんです。そんなふうに時間を掛けずに最後に録りました。
 
――「1000%ハイテンションクレイジー」は、ラテンファンクっぽい。
 
ファンキーすぎると、僕の色には馴染まないってわかってるんで、ファンクだけど、ロックって曲あるじゃないですか。エリック・クラプトンみたいな。そういう曲を意識しました。
 
――この曲、ギターソロでフェイドアウトして終わるんですけど、もうちょっとギターソロを聴きたいと思いました(笑)。
 
思いますよね?(笑) 本当、最後の最後だけじゃないですか。でも、まぁ、あれぐらいでいいかな。
 
――ここまでいろいろお話を聞かせてもらって、いろいろな音楽をたくさん聴いているんだなって改めて思いました。いまだに現役のリスナーなんですね。
 
そうですね。新しいのも聴いてるし、古いのもけっこう掘り下げてるし、音楽は聴くのも作るのも好きですね。
 
――ところで、完成したばかりですが、機会があったらまたソロアルバムを作りたいですか?
 
作りたいですね。反省点もありますしね。広中さんから「やりたいことは全部出し尽くしたか?」と聞かれたとき、全然出し尽くしてないと思いました。まだまだやりたいことはいろいろありますよ。
 
――OLEDICKFOGGYの活動に支障が出ない程度にソロ活動にも取り組んでいただきたいと思いますが、最後に6月と7月に東名阪で開催するソロアルバムのリリースツアーの意気込みを聞かせてください。
 
6月22日の東京・下北沢SHELTER公演は、ちゃんまい以外の4人、順堂くん、朋ちゃん、ERYさん、小峠さん、あとサポートギターとして、流血ブリザードのミリー・バイソンが出ます。名古屋と大阪は順堂くん、朋ちゃん、ERYさんに加え、サポートギターに堀口知江さんを迎えてやります。
 
――下北沢SHELTER公演の対バンがマーク・パンサーさんと聞いてびっくりしました。どんな繋がりなんですか?
 
去年、富山のONE FESで一緒になったんですよ。その時、舞台裏で一緒にお酒を飲みながら、「小室哲哉さんってどんな人なんですか?」「ピコピコ系のヤバい奴だよ」なんて話をしているうちに仲良くなって、「じゃあ、いつか一緒にやりましょう」ってLINEを交換したんですけど、今回、対バンを決めるとき、やっぱりちょっと派手にしたいじゃないですか。誰がいいだろうって考えてたら、朋ちゃんが「マーク・パンサーさんがいるじゃないですか!」って言うから、連絡してみたら、OKしてもらえたんです。
 
――SUZZYさん、小室さんの音楽っていうのは?
 
めっちゃ好きです。あ、globeの曲やっちゃおうかな(笑)。
 
――それ、いいかもしれないですね。SUZZYさんらしいアレンジで。
 
朋ちゃんが歌えるからね。でも、まずはソロアルバムの曲を練習しなきゃいけないな。考えるのは、それからですね。


 
SUZZY - 須藤慈郎 -
1st Solo Album「僕の正体」

2024/04/24 On Sale Diwphalanx Records / PX377 / CD 3,000 yen+tax
 
「僕の正体 TOUR」
2024年6月22日(土)東京 下北沢 SHELTER with マーク・パンサー
2024年7月19日(金)愛知 名古屋 HUCK FINN with 東狂アルゴリズム
2024年7月20日(土)大阪 心斎橋 BRONZE with 東狂アルゴリズム

OLEDICKFOGGY HP