"山人音楽祭 2022" LIVE REPORT!!
Report by Chie Kobayashi
Photo by 上坂和也(大劇場)、松本えり奈(スタジオシアター&集合)
2022.12.3 @高崎芸術劇場
"山人音楽祭 2022"
「山人音楽祭」。2012年に「GUNMA ROCK FESTIVAL」として産声をあげ、2016年に「山人音楽祭」に変更。2021年にはコロナ禍の影響により、それまでの会場・ヤマダグリーンドーム前橋から高崎芸術劇場に会場を移した。そして2022年、高崎芸術劇場の大劇場とスタジオシアターの2会場往来自由のイベントに。名前を変え、形を変えながらも、G-FREAK FACTORYがオーガナイザーで、群馬で、まだまだ続いている。まさにG-FREAK FACTORYの生き様と同じだ。
NAIKA MCによる前説を含むフリースタイルののち、今年の「山人音楽祭」はBRAHMANで幕開け。雄大な「A WHITE DEEP MORNING」で始まる。G-FREAK FACTORYとは“北関東出身”という共通点が彼らの絆を強くしているのだと、改めて感じさせる。「ANSWER FOR…」ではG-FREAK FACTORYの茂木洋晃(Vo)がボーカルとして参加。TOSHI-LOWと茂木は向かい合い、互いの声と音楽に耳を傾けながら優しくもたくましい歌声を聞かせる。最後には拳をぶつけ合って互いの健闘をたたえた。その後に「去っていく友達の背中を見送る曲」として「PLACEBO」を演奏したのは、BRAHMANなりの渡部“PxOxN”寛之への餞だと捉えるには考えすぎか。G-FREAK FACTORYという盟友への想いを込めたステージは、<幕が開くとは 終わりが来ることだ>と歌う「真善美」で締めくくられ、まさに、イベントの幕が開いた。
続いて登場したのは、5年ぶりの「山人音楽祭」へとやってきたTHA BLUE HERB。この日の「ILL-BEATNIK」が、きっと彼らが2022年の「山人音楽祭」でもっとも伝えたかったことだろう。「2022年っつったら、俺らやG-FREAK FACTORYが、10-FEETが25周年の年。ただ大成功がゴールだなんて思っちゃいねえ。きっとあなた方は、5年後、10年後、こう言う。『先は長かったな、深かったな』って。『そこからもあの人たち、すごかったな』って。先は長い、深い、言葉にならない」。改めて思う。今年の「山人音楽祭」は日本各地のローカルヒーローが、地元を、そして歴史を背負って、ここに来ている。
京都からやってきた10-FEETは、TAKUMA(Vo, Gt)が「G-FREAK FACTORYの茂木とは、どっちがカッコいいか勝負をいっぱいしてきたし、いろいろバンド続けていくきっかけもろたし、カッコよくなる理由をいっぱいもらってきた」「初めて見たときは衝撃で。身長も髪も長くて(笑)」「あんな感じやのにすれ違ったらいい匂いがする(笑)」とG-FREAK FACTORYへの想いを口にしても口にしても足りない様子。「自分もそういう影響を与えられるバンドだったらいいなあと思ってバンドを続けてきました」「みんなにもそんな友達がいたらええなぁと思います」と告げ「その向こうへ」を優しく披露。終始G-FREAK FACTORYへの想いの溢れ出るステージを展開した。
今年の「山人音楽祭」は、高崎芸術劇場 大劇場が舞台の“劇情ステージ”と、スタジオシアターが舞台の“激情ステージ”の2ステージ制。劇情ステージのライブが終わると、激情ステージへの道のりとして、階段(エスカレーター、エレベーターも使用可)を降りていくのだが、はやる気持ちを抑えて急ぎ足で階段を降りていくこの感覚、グリーンドーム前橋での「山人音楽祭」と同じだ。少しずつ、山人音楽祭が戻ってきている。……なんてことを思い出しながら到着した激情ステージでは、岩崎有季、どんぐりず、FOMAREという、群馬のアーティストが出演。そして毎度、スタジオシアターは超満員。オーディエンスの期待が渦巻いており、G-FREAK FACTORYが、群馬の音楽シーンに、どっぷり根を張っていることを証明した。
10月に行われたFOMARE主催の「FOMARE大陸」で、FOMARE前の出番だったG-FREAK FACTORY。そこでG-FREAK FACTORYは、FOMAREへ重たいバトンを渡した。そのバトンを受け取ったFOMAREが、今度は「山人音楽祭」激情ステージのトリという形で、さらに熱く重たくし、再びG-FREAK FACTORYへと渡した。
この日の出演者、さらにこの日出演できなかったアーティストからの熱いバトンを手に、G-FREAK FACTORYが劇情ステージに登場。吉橋“yossy”伸之(B)のベースリフと同時に会場が暗転し、そのまま「Too oLD To KNoW」へ。あっという間に全員の手が上がり、1曲目にしてすでにクライマックスのような盛り上がりに。原田季征(G)の鋭いギターが光る「Unscramble」、三味線のイントロにも群馬愛を感じる「REAL SIGN」、イントロで歓声が上がった「EVEN」と、序盤からフルスロットルだ。それもそのはず。茂木は今日のこのステージに対して、「こんなに強い仲間が来てくれました。今年はもう一個の会場にも、地元の強い仲間たちが集まってくれました」「それでも負けねえライブを……いや、違う、今日は勝ちに行くライブをやろうと思っています」と意気込んでいるのだ。
オレンジ色の照明に包まれ始まったのは「ダディ・ダーリン」。G-FREAK FACTORYの優しい音色と、歌詞をかみしめるように拳を握りしめるオーディエンスがステージを見つめる。すると、1番のサビでTAKUMAが歌いながら登場。さらに2番が始まると続いてTOSHI-LOWが登場する。さらに間奏ではILL-BOSSTINOが登場し、「Requiem」のリリックを届ける。もともと同じ曲だったかのようにリンクしたメッセージが、疫病、ロシア・ウクライナ戦争……混沌とした2022年の終わりに、群馬に響き渡る。さらに、「ダディ・ダーリン」の歌詞を、茂木とTOSHI-LOWが朗読。音が止まると、茂木が「いつかその平和とやらを誰かが破くのでしょうか?」と力いっぱいに叫び、最後のサビへ。音楽と言葉が持つパワーがまっすぐに突き刺さり、そして会場いっぱいに広がる。楽曲が終わると、観客からは惜しみない拍手と歓声が送られた。
翌日のワンマンライブで、G-FREAK FACTORYを脱退することが決まっていた渡部“PxOxN”寛之。アンコールでは「日本の名だたるボーカリストの背中をやれるやつはそうそういないと思うので光栄です」と、この日のステージを振り返ると、茂木も「すごかったな。今年の山人もとんでもなかったな」と感慨深く口にする。そして最後は出演者を呼び込み、「日はまだ高く」。間奏ではILL-BOSSTINOとNAIKA MCのフリースタイルが炸裂する。茨城のBRAHMAN、札幌のTHA BLUE HERB、京都の10-FEET、群馬のG-FREAK FACTORY、岩崎有季、どんぐりず、FOMARE、NAIKA MC。TAKUMAが、この日のライブを「天下一武道会みたいだ」と例えていた。それぞれ地元をリスペクトし、地元を盛り上げてきたアーティストたちだ。まさに<限りない故郷に愛を>。最後に、茂木が「これにて『山人音楽祭2022』大成功! ざまあみろ!」と宣言し、イベントは文字通り、大団円を迎えた。
茂木が言うように、今年の「山人音楽祭」も「とんでもないものを見た」と思った。でもこれは、伝説的なライブを見たと語りつぐために起きた出来事ではない。茂木が言っていた。「怖いけど、怖いと言う時間はもうすぎた。次に行こう。来年の山人音楽祭に絶対につなげたい」「ここには俺たちもいる。未来の仲間たちもいる。信じてついてきてください。火を消さないでください」と。そう、「山人音楽祭」の火を消さないためにと、みんなが願ったから起きた一夜であり、これまで灯し続けてきた山人音楽祭だからこそ起こすことのできた火なのだ。