Who’s Next by SATANIC Editing Room Vol.05: Sable Hills
Photograph by Ryusei Sabi, Interview by YT
連載企画"Who's Next"はSATANIC ENT.を編集するスタッフが、今現在気になっているけど、まだSATANIC ENT.ではピックアップしていない次世代のバンド・アーティストに会いに行き、ルーツや活動、それを取り巻くカルチャーなどを一方的に紹介するというシンプルかつ偏愛極まりない企画。第5弾はメタルコアバンド、Sable Hills。メタルという音楽が連綿と築き上げてきた歴史を受け継ぎ、日本の新たなメタルコアバンドのカタチを提示する彼らのこれまでとこの先を捉える。
L to R: Rick(Gt)、Takuya(Vo)、Keita(Dr)
兄弟でスタートさせたメタルコアバンド
ーSable Hillsはどのように結成したんですか?
Takuya:結成自体は2015年になります。自分と弟のRickの2人で最強のメタルコアバンドを作ろうっていう超単純な理由でスタートしました。
ー今のメンバーは幾度かのメンバーチェンジを経て成っているんですか?
Takuya:そうですね。初期メンバーは俺とRickだけですね。
Keita:僕が正規メンバーの中で唯一後から加入していて。ある時Sable Hillsがオーディション形式でドラマーの公募をかけていたので応募をしてみたんです。で、映像を見てもらったら上手すぎるからからとりあえずスタジオに入ろうって言ってもらえて。オーディションをすっ飛ばしてスタジオに行きました。そこで技術を認めてもらえて加入しました。
Takuya:メタルをやる上でドラムの技術ってすごい大切だと思うんです。ドラムがやばいテクニックを持っていないと成り立たないですからね。特にSable Hillsみたいなエクストリームなメタルコアバンドは、ドラムの力が重要だと思っていたので、スタジオで合わせた瞬間に、若いのにやばいドラムを叩いていて、聴いている音楽もイケてるしマジで最高だなって。
Rick:その当時は見た目がかなりイナたくて、豆粒みたいなやつがきたと思いました(笑)。
ーまあ、当時18ですからね(笑)。
Takuya:とりあえず髪を伸ばせってところから始めたので加入条件はロン毛でしたね。
ーそれぞれでメタルを聴き始めたキッカケはいつになりますか?
Takuya:一番最初に聴いたメタルはMetallicaなんですけど、自分の父親に「そういう激しめのバンドが好きなら、これを聴け」って言われて聴いたのがMetallicaの『St. Anger』でした。「なんだこの暴力的な音は!!」って衝撃を受けて、すぐにハマっていきました。そこから映画などに使われている主題歌とかも結構チェックするようになっていったんです。そこで、SAW3の主題歌に使われていたALL THAT REMAINSってバンドの「This Calling」を聴いて、さらにメタルコアにハマっていきました。それとトランスフォーマーでLinkin Parkの曲が使われていて。ワンが「What I’ve Done」で、ツーが「New Divide」。そういうのを聴いているうちに、このジャンルにのめり込んでいきました。
ー確かにアメリカの映画だとそういうのありますよね。
Rick:僕は大体の流れは兄と同じなのですが、Slipknotとかスクリームのあるバンドを知った当初は全然受け入れられなかったんです。その中でも衝撃的だったのが、Slipknotの1stに入っている「Wait and Bleed」という曲です。あの曲はイントロからクリーンなんですよ。スクリームとクリーンの調和ができている、絶妙なバランスの曲を聴いたときに、初めてスクリームの存在意義に気付いたんです。そこからもうメタルコアとかのジャンルに対してアレルギーなく聴けるようになりました。以降、どっぷり浸かっていった感じです。
ーKeitaさんは?
Keita:僕が初めて聴いたメタルはSlipknotです。当時中学2年だったんですけど、たまたまYouTubeのおすすめ動画に「People=Shit」のライブ映像が出てきて。当時のドラムのジョーイ・ジョーディソンの後ろ姿が流れている映像だったんですが、それを見た瞬間に、これをやるしかないという衝動に駆られてメタルに目覚めて。
ーSlipknotを聴く前からドラムはやられていたんですか?
Keita:そうですね。ドラム自体は小学3年生くらいから習っていました。その後、ドラムをやめたタイミングでSlipkontの動画を見てしまい、そこからメタルの熱に飲み込まれていったんです。
『Embers』で1つの完成形を提示できた
ーでは、作曲・作詞についてお聞きしたいんですが。
Rick:基本的に作曲は僕が一から作っていて、その後みんなでアレンジをしています。作詞に関しては2パターンあって。Takuyaがこういう感じの歌詞やこういうことを言いたいってメッセージを日本語でもらって英訳して歌詞にするパターンと、僕が一から作っていく2パターンがあります。
曲によって書いていることは違うと思うんですけど、伝えたいメッセージはありますか?
Takuya:一番代表的な曲の「Embers」について話すと、自分たちがやっと良い意味でスタートラインに立てたアルバムだと思っていて。初めて全国流通もしたし、1st Full Albumだったんで自分たちの歴史に残る一枚だと思っています。『Embers』って種火って意味なんですけど、初めて作ったアルバム=種火がここからどんどん世界に向けて広がるようにって想いでアルバム名につけたりしています。
ー作曲の部分で、最近の曲とかはメロディが多いじゃないですか。でも昔の曲はメロディが少ない。その辺りはどう切り替わっていったんですか?
Rick:一番のキッカケになったのが、2nd EPの「Absolute」でした。そのときまで、僕は心持ちがリズムギタリストだったんですよ。で、2nd EPのレコーディングをしてくれていたのが、リードに拘りのある方で何度も録り直しをして、かなりリード部分を弾いたんです。その時にリードの心得を理解して、メタルってリードが必要なんだって改めてわかったんです。そこから音楽的にもメタルに近づいたもしれません。元はメタルコア的要素の方が強かったんですけど。その次の「Elements」ってEPからよりメタルっぽいアプローチが増えていきましたね。
Takuya:そして、その流れのまま『Embers』が一回完成したもんね。
Rick:そうだね。変わろうと思ってすぐに切り替わることは難しいと思うんですけど、徐々にメタルに近づいていって。『Embers』で1つの完成形を提示できたんじゃないかって思っています。
ーでは、海外のバンドから影響を受けてっていうよりは、自分たちの中で見つけていったって感じですか?
Rick:今の音楽性はそういうところがあると思います。
Takuya:日本人にしかできない泥臭いパッションや、ジャパニーズエッセンスが多めなメロディもあると思っています。
Rick:僕はストレートなメロディが好きで。昔はゲームもよくやっていて、そこに使われるサウンドトラックが好きでした。昔、Nintendo64とかゲームキューブやゲームボーイをやっていた僕は、8bitなどのストレートなサウンドを聴いて育ったので、作るメロディがドストレートなんですよ。それを、ギターで弾いちゃおうって。実際にはメタルバンドの影響も受けているんですけど、根本のメロディが出てくる部分はサウンドトラックから受けていると思います。
ーちなみに、今話に出た影響を受けたメタルバンドは具体的に言うと?
Rick:そうですね、Arch EnemyとかChildren of Bodomとか。メタルコアだとAs I Lay DyingやUnearthとかですね。メロデスとかメロデスライクなメタルコアとかからは影響を受けています。
ーちなみに、その次のEPが「FLOOD」ですよね。あのEPはどんなテーマなんですか?
Rick:「FLOOD」は水がテーマになっています、日本語訳は洪水って意味なんですけど、これは比喩的な表現で使っていて。「FLOOD」はコロナ渦になってから出したEPなんですけど、そんな状況でツアーが延期しちゃって。結構コロナに対するヘイトがすごくあった時期で。不満というかそれを乗り越えていくぞって想いが込められています。
ーSable Hillsってコロナ渦でも積極的にライブをやっていましたよね? ライブに対する捉え方とか考え方はもっていますか?
Takuya:俺らも半年くらいライブをしていませんでした。今は先輩バンドがレーベルだったり様々な事情で出来ていないじゃないですか。でも、自分らみたいなバンドは何も制約もなく止める大人もいないので、俺らが先輩たちが動けない間に少しでも動きまくって上に近づいていこうって。むしろこのコロナ渦をチャンスだと思って、今まで以上にガンガンいこうぜっていう気持ちでやりまくっています。
ーライブをするにあたって、ライブハウスがこういう状況でも開いてくれるっていうのは、リスナー側もリスペクトを感じますし、バンド側もそういう想いがあると思っています。なおかつ今日の撮影場所のCYCLONEにはそういう想いがあったりするんですか?
Takuya:もちろんです。ここはもう僕らのマサラタウンですね。初めてSable Hillsがライブをしたのも、ここの横にあるGARRETってライブハウスでしたし、去年の夏以降にリスタートしたばかりなんで、出発点でもあるこの場所で撮影したいなって思って。
Rick:以前やっていたバンドの時も最後の解散企画をCYCLONEでやったんです。ここの店長のSeikiさんとは長い付き合いで、CYCLONEもずっと出ていたのでSable Hillsとその前の2バンドに渡ってライブをしていて、僕らからしたら家みたいな感覚ですね。
ーここのライブハウスの店長のSeikiさんとのエピソードってありますか?
Rick:前やっていたバンドの時に僕ら客もバンドも全然呼べなくて。すごく負債を背負ってしまった時があって。そのときにSeikiさんが「君たちは未来があるから今日は俺がケツを持つ(声真似)」って言ってくれて。俺ら二人で頭下げてすごく感謝していたのを覚えていますね。
Takuya:今Seikiさんの真似したの? まったく似てない(笑)。俺らにとっては、普通のライブハウスよりもハートがあるスタッフさんが多いと感じるライブハウスだと思っています。
ーでは、Sable Hillsをとりまくシーンとしては?
Takuya:Crystal Lakeにはすごくお世話になっています。あと、CrossfaithのKoieさんがライブを観にきてくれたり。先輩をライブにお誘いしたら、忙しいのにちゃんと来てくれるっていうのがすごい嬉しいですね。今後、もっと色んな人に観てもらいたいと思っています。
ーなるほど。
Takuya:同世代だとPaleduskは最近よく会うようになりました。KaitoとDAIDAIはたまに遊んだりもしますし、同じスタイルのメタルコアだとSailing Before The WindやGraupelは共演することが多いです。
ー今後出演してみたいフェスはありますか?
Takuya:もちろん日本ならサタニックは出たいと思っています。サタニックって音楽だけじゃなくてカルチャー性が詰まっているフェスだと思っていますし。そういうところがすごくカッコいいと思います。で、海外だったらちょうど今自分たちが目指しているところがあって、ドイツのヴァッケン・オープン・エアってメタルの世界で一番くらいにデカいフェスなんですけど、そのライブオーディションに出ます。それで優勝することができたらヴァッケンに出演することができるんです。そこが自分たちの夢に近く大事な瞬間だと思っています。
Rick:TRUE NORTH FESTIVALぶりのオーディションだからワクワクしています。
ー応援しています。
Keita:『Embers』もそうなんですけど、世代が上の人にはモダンなメタルコアを提示して、若い人にはメタルの入り口になっていて。『Embers』がそういうコンセプトを含んだ作品なので、ヴァッケンのオーディションでも、メタルコアバンドのSable Hillsが勝つことの意味合いは個人的には大きいと思うので気合いを入れていきたいと思います。
メタルってジャンル以外にも響くメタルバンドになりたい
ージャンル意識は明確にあるんですか?
Rick:僕らは音楽がメタルコアだとしても、根幹がメタルな必要があると考えています。メタル好きな人が「これはメタルだ」って思える音楽じゃないと意味がなくて。すげえ広いですけど、メタルって括りから外れないことを意識しています。
Takuya:普段はポップな音楽を聴いている人でもSable Hillsは好きって言ってくれる人もいて。そういう人も立派なメタラーだよって言い張れるような音楽性を提示できるバンドにはしたいですし、なっているはずだと思います。
ーSable Hillsのジャケットのアートワークはどのように制作しているんですか?
Takuya:デザイナーに依頼をすることが大半でフライヤーとかは自分たちでデザインをしています。最近はRickが作曲で忙しいんでフライヤーは俺がやることが多いですね。
ーなるほど。『Embers』のジャケはだいぶ印象的ですよね。
Rick:ありがとうございます。あれはスペインのデザイナーのError! Designって人が作ってくれたんですけど、僕らが神として崇めてきたような海外のメタルバンドのデザインをやっているんです。その人はMetallicaやMastodonにMeshuggah、国内だとenvyやAfter Hoursの様なフェスのポスターもデザインしているんです。
Takuya:もともと自分たちがやっていた音楽を形にしてくれる、アートにしてくれる人をずっと探していたんです。それでError! Designを見つけて、絶対にお願いしたい! ってことで、アルバムを出すタイミングで、今しかないだろって。結果、最高のアートワークになったと感じています。
ーライブ中の衣装でもメタルを表現していますよね?
Takuya:最近はメタルの具現化みたいな。ライブでもメタルを体現するスタイルを作りたいと思っているんです。ステージではSable Hillsのメタルを視覚化するような服装でやろうってのは意識していますね。
ーちなみに、もうすぐ新曲をリリースされるとお聞きしましたが、言える範囲でお話を聞いてもいいですか?
Takuya:今回は曲だけでなく音がレベルアップしていて、かなりイかれています。歌詞については、今の社会のことに触れていて。
ーどういった内容なんですか?
Takuya:今でもコロナ禍は続いていて、何が正しい情報で何が正しい行動なのかって人それぞれにある時代じゃないですか。特にライブハウスに遊びにいくのは正解なのか不正解なのか誰もわからない状況です。誰にも決められないし、誰も分からない。それを俺たちSable Hillsが決めてやる、くらいの意気込みと、俺らがみんなを導くからついてこいっていうメッセージを込めています。
Rick:今回のEPは風をテーマにしていて。今は風の時代って言われることもありますし、しかもコロナの湿っぽい空気を吹っ飛ばすくらいの意味合いを込めてこのテーマにしています。なのでアルバムのジャケットも風で飛び去っていくぞってイメージの鳥をデザインしてもらっていて。
ーそれもError! Designに依頼しているんですか?
Rick:そうですね。今回も依頼をしています。風でコロナウイルスを吹き飛ばそうっていう(笑)。
Keita:無謀だな(笑)。
Rick:ていう作戦ですね(笑)。
ー曲だけじゃなくて、ジャケットのデザインもリンクしていて、そこも楽しんでもらえそうですね。
Rick:是非堪能してもらいたいです。
Takuya:かなりイケてるので。
ーでは最後の質問なのですが、今後の目標や展望があれば教えてください。
Keita:もちろん大規模なイベントでライブもしたいですし、大きいステージに立ちたいですね。今年はリリースも控えていますし、いろんなコンテンツを用意してお客さんに楽しんでもらいながら自分たちも大きいステージに進出していって。より多くの人たちにアプローチをして、いろんな人に知ってもらいたいと思います。
Rick:僕もいろんな人にアプローチしたいってのはあって、メタルはすごく狭いカテゴリーなのでどうしても限界がある気がしていて。やっぱメタルってジャンル以外の部分にも響くメタルバンドになりたいというか、そういう曲を作っていきたいと思っています。それに、やっぱり日本で生まれた音楽じゃないですし、自分たちが影響を受けたのと同じ音楽を聴いてきた人たちにもアプローチしたいって思いもあって。なので海外に進出したいって気持ちもあります。ただ、海外だけみて足元の土台を固めないのも不安定になってしまうんで日本でも精力的にライブをやりたいですね。
Takuya:俺はバンドがかましていけば、必然と大舞台に立てる機会が巡ってくるんじゃないかって。2017年も一つのタイミングだったと思うし、そのときにかましきれないで、今またこのアンダーグラウンドでやっているってことは、また次に機会が来ると思っているので。そのタイミングが巡ってくるときのために、今俺たちは自分たちのやれること、ひたすらカッコいい音源を作って、ヤバいツアーをして、たくさん繋がりを広げていくことをしていくだけだと思っているので。それとメンバーチェンジが何度起きてしまっても、Sable Hillsは変わらずに前に進み続けていきます。なので、そうですね……頑張ります(笑)。
Rick:そのまとめはヤバイでしょ(笑)。
Takuya:俺、ちょっとスピリチュアルな考え方をすることもあるので、今回ヴァッケンにオーディションで勝ったら確実に海外にも行った方がいいってことだと思います。なので、もしフェスにでれなかったとしてもそれは俺らがまだかましきれてないことだと考えて、自分たちでどんどん高めていくだけかなって思っています。
Sable Hills
https://www.sablehills.jp/
https://twitter.com/SableHills_
https://www.instagram.com/sablehillsjp/
https://m.facebook.com/sablehillsweb/
Who's Next by SATANIC Editing Room
Vol.04: CrowsAlive Vol.03: Paledusk
Vol.02 HOTVOX
Vol.01 mildrage