Who’s Next by SATANIC Editing Room Vol.40:the奥歯's
SATANIC ENT.の編集スタッフが気になるバンドをピックアップする連載企画"Who's Next”。今回ピックアップするのは広島発のthe奥歯's。アサベシュント(Gt, Vo)とアサベハルマ(Ba, Vo)の兄弟と、ジン(Dr, Cho)の3人からなるパンクバンドだ。3人の音楽的ルーツから結成の経緯、本気になるきっかけとなったライブ、そして9月30日にリリースした2ndミニアルバム『PSYCHO PSYCHO LOVE』の制作秘話まで、たっぷりと語ってもらった。
Interview&Text by Chie Kobayashi
Photo by タカギユウスケ(ライブ写真)
THE BLUE HEARTSを見て「こんなことしていいんや」
──SATANIC ENT.初登場ということで、皆さんの音楽的ルーツ・音楽遍歴から教えてください。
ハルマ 父親が長渕剛をめっちゃ聴いていたので自然と耳にしていました。自分で好んで聴いていたのはRADWIMPSとかメジャーなバンド。高校生になって弟のシュントにパンクバンドを教えてもらってからは、銀杏BOYZ、THE BLUE HEARTS、ハルカミライなどを聴くようになって。楽器は大学1年生のときに始めました。高校までサッカーをやっていて、引退してくすぶっていたときにギターを触るようになり、ベースはthe奥歯'sに入ってから始めました。

シュント 俺のルーツはTHE BLUE HEARTSです。中学生のとき、YouTubeでラッパーの曲を聴いていたら関連動画でNirvanaが出てきて、そこから急にTHE BLUE HEARTSの放送事故の映像にたどり着いて。最初は「うわ、変な人おる」と思ったんですけど、次の日にもう一回見たらカッコよく思えてきた。音楽って技術がある人やプロみたいな人がやるものっていうイメージがあったんですけど、ぽっと出の兄ちゃんが暴れ狂ってるみたいに見えて。「こんなことしていいんや、自分もできるんじゃないか」って思わされました。

──楽器もその頃から?
シュント 中学生のときに「モテたいな」と思って、俺の部屋にあった父ちゃんのギターを弾き始めました。
ハルマ シュントが中3の受験期に「勉強しろ」ってめっちゃ怒られていたんですが、その頃からギターの音が聞こえるようになって。勉強したくないから弾いてたんですよ(笑)。
シュント ロックにハマって勉強しなくなったんです。元からできなかったんですけど(笑)。
ジン (僕も)一緒。
──隣から「一緒」という声が聞こえましたが(笑)、ジンさんの音楽ルーツもお願いします。
ジン 僕は星野源さんです。CMで流れていた「夢の外へ」が好きになって、そこからずっと星野源さんばかり聴いていました。ドラムを始めたのは高校の軽音楽部に入ったのがきっかけ。もともとはボーカル志望だったんですけど、先輩がものすごく歌が上手で「俺は無理だ」と思って。その頃好きだったボカロの関連動画で「ドラム叩いてみた」動画が出てきて、「ドラムってカッコいいな」と思って始めました。

──そんなジンさんと、シュントさん&ハルマさんが一緒にバンドを組むようになったのはどういう経緯なのでしょうか?
シュント 俺が誘いました。
ジン 共通の友人から「バンドやりたがってるやつがいる」と言われて。
シュント 本当は俺もジンちゃんと同じ高校の軽音楽部に入る予定だったんです。だけど俺がバカすぎて……。高校を決める時に、軽音楽部がある高校がいいなと思って、軽音楽部がある工業高校に行くことに決めたんです。その工業高校は県立の工業高校だったんですが、俺は市立工業高校を受けてしまって。受験当日に「あれ、事前に見ていた写真となんか違うな」と思ったんですが、まぁ受けるかと思って受けたら合格しちゃって。そしたら友達が「違う高校だけど、ドラムだったらおるよ」って紹介してくれて、ジンちゃんと一緒にバンドを組むことになりました。
大切にしているのは「カッコつけないこと」
──結成当初からオリジナル曲が多かったそうですが、「こういう曲を歌いたい」とか「こういうバンドをやりたい」というものはあったのでしょうか?
シュント 好きなバンドみたいなことをしたいなと思っていて。結成当初、グランジがやりたいと思って、「ブラインドリベット」というバンド名をつけてやっていたんですが……。
ハルマ ちなみにブラインドリベットというのはネジの名前だそうです。工業高校だから(笑)。
シュント そうそう。でもやっていたら、自分はカッコつけきれんなと思って、そこからはTHE BLUE HEARTSとかサンボマスター、WANIMAやSUNNY CAR WASHあたりを、自分なりに咀嚼して曲を作るようになりました。

──シュントさんの書く歌詞も、the奥歯'sの魅力の一つです。言葉選びなど、歌詞を書く上で影響を受けているものはありますか?
シュント 決めきれないですね。めっちゃYouTubeっ子だったんで、「このアーティストから影響を受けました」っていうのはあまりないんです。My Hair is BadやSUNNY CAR WASH、CRYAMY、時速36kmあたりはよく聴いていましたけど、アーティストというより好きな曲が多いっていう感じで。何が有名かもよくわからないまま、好きな曲を集めたプレイリストを作ってシャッフルで聴いていました。この世代はみんなそうなんじゃないかな。
──digって出会った、いいなと思う曲を次々と聴いていくみたいな。
シュント そうです。
──言葉は一つ一つわかりやすいのに、世界観やストーリーがロマンチックで。まっすぐなのに乱暴ではない、その感じがすごく素敵だなと感じています。そこはご自身で生み出したものなんですね。たとえば本をたくさん読んでいるとかではなく。
シュント そうです。でも、実は引用が多いです。いろんな曲とか本、好きな絵から引用することはめっちゃ多いです。
──ジンさん・ハルマさんは、シュントさんが書く曲の魅力をどういうところに感じていますか?
ジン 結成当初から歌詞の世界観がすごく好きです。あとはメロディも良い。耳馴染みが良くて、それまであまりバンドを聴いてこなかった僕でもすんなり入ってくるのがすごいなと思います。
ハルマ ジンが言ったようにメロディもいいし、歌詞もその時々のシュントの感情がそのまま出ていていいなと思います。
シュント 気持ちいい(笑)。けど、それいつも言ってるやつだから、もう一つちょうだい!(笑)
ハルマ 同世代のバンドって、言葉遊びがうまいなと思うんです。韻を踏んだり、ラップっぽい言い回しをしたり。シュントもそういうことをするけど、そこに重きを置いていないんだろうなと思う歌詞が多くて。「この気持ちを伝えたくて書いているんだろうな」っていうのがわかる。どっちがいい悪いという話ではなくて、シュントのそういう歌詞が好きだなと思っています。
シュント カッコつけないようにしているんです。
ハルマ 背伸びするのが嫌いだよね。
シュント うん、嫌い。
ハルマ 背伸びして韻を踏むとか、失恋していないのに失恋ソングを書くとか、やろうと思えばたぶんできるんだろうけど、そういうのが嫌いなんだろうなと思う。
シュント そうですね。ナルシストではあるんですけど、カッコつけてる自分に気づいた瞬間めっちゃ恥ずかしくなるんで。だから言葉選びにおいても、カッコつけないようにしてます。
THE NINTH APOLLOイベントでの挫折で火がついた
──the奥歯'sとして活動していくなかで、音楽やライブへの意識が変わったタイミングや出来事はありますか?
ジン 2023年のTHE NINTH APOLLOのイベント「挑戦的熱量至極人動説」です。その日は悔しいライブをしてしまったうえに、当時社会人だった僕は、翌日の仕事のために一人だけ先に新幹線で広島に帰らなきゃいけなくて。それがすごく悔しくて、情けなくて。「俺、何がしたいんだろう」って。どっちも一生懸命やってるつもりだったけど、実は仕事もバンドもおろそかにしていたんだと気づいたんです。それが本気になるきっかけで、そのあと仕事を辞めました。
ハルマ 「挑戦的熱量至極人動説」はレーベルに入って、初めて千人以上の前でやらせてもらったライブだったんです。その日にかけていたけど、かませなかった。
シュント 俺もあの日です。ライブにも勝ち負けがあるんやって、初めて思い知らされました。バンドをやるために大学に通っていたんですが「本気でこの人たちと戦ってみたい」と思って、大学も辞めて。それまでは目の前のことしか考えてなかったけど「これからどうなっていきたいか」を3人で考えるようになりました。
──最新作『PSYCHO PSYCHO LOVE』収録の「涙ぽろぽろ」では、<歌がなくても音楽になるから><希望は捨てないで(中略)絶望も捨てないで>と歌っていますね。シュントさんにとって、音楽とはどんなものなのかも伺いたいです。
シュント 昔から、音楽に限らず何かを作るのがめっちゃ好きなんです。学校でプリントが配られたら、まず裏が白紙か確認して落書きしたり、工作や裁縫をしたり。そんななかで中学生のときに音楽に出会って、曲を書いてライブをしてみたら、音楽が一番ダイレクトに人に伝わるし、一番目立てるじゃんって。俺、目立ちたがり屋なんで。だから、自分の表現方法の中で一番でかいのが音楽です。
ハルマ <歌がなくても音楽になるから>の話、ライブのMCでもしてたよね?
シュント うん。俺は口下手なので、人と話していてもうまいこと伝わらんことがあるんです。でも作品を作る場なら、普段は隠している本音も思い切って出せる。だからこそ、表現していない時間もめちゃくちゃ大事なんだなって。その気持ちをこの曲に書きました。
──<悲しみの数だけ強くなれるわけないでしょう>も、すごく頼もしいなと思いました。「悲しんだぶんだけ強くなれる」というメッセージを持つ作品が多いですが、生きていると、そう思えないことも多々あるので。
シュント 俺は応援ソングも好きなんですけど、ネガティブな曲にめっちゃ助けられる瞬間の方が多かったんで。だから自分の曲もネガティブになりがちで。その分曲調をポップにしたり工夫はしています。
「PSYCHO PSYCHO LOVE」でのお気に入りは
──「PSYCHO PSYCHO LOVE」で特に気に入っているフレーズや聴いてほしいポイントを一人ずつ教えてください。
シュント 曲じゃないんですけど、紹介したいのはジャケットです。俺が描いたんです。

ハルマ 今までは僕がラフを描いて、知り合いにデザインしてもらっていたんですが、今回はシュントが自分で描いたんです。
──なぜご自身で描こうと思ったんですか?
シュント 頼るツテがなかったから(笑)。俺、人に頼るのが苦手で。そのまま放置していたら、もうジャケット決めないけんタイミングになってしまって。頼れる人が誰もいなかったから「自分で描いてみます」と言って描きました。
──ジャケットに込めた想いも聞かせてください。
シュント タイトルより前に、「チェーンソーギター」を思いついたんです。そこから「もっとこうしたら面白くなるんじゃないか」って描き進めていったのがこれです。何か思いがあってというより、「チェーンソーギターってカッコいいんじゃないか」というところからスタートしました。
──結果的に、アルバムタイトルにぴったりな絵になりましたね。では、楽曲のお気に入りポイントも教えてください。
ハルマ 僕は1曲目「Iと太陽」と2曲目「死ぬほど君に恋をして」が好きです。「Iと太陽」は、会えなくなっちゃった友達の曲で。そいつの顔が思い浮かぶので、聴いていても演奏していてもくらいます。「死ぬほど君に恋をして」はずっとやりたかった三声が入る曲で。3人とも歌えるし、ジンちゃんはコーラスもうまいんで、それを活かした曲を作りたいよねってずっと言っていて。ライブでくらわせられる曲にしようと思って気合いを入れて作りました。めちゃくちゃいいです。
──ハルマさんが作詞を手がけた「指先」は?
ハルマ もちろん好きですよ。この曲は会場限定盤として「Iと太陽」と一緒にレコーディングしたんですが、そのときシュントがメンタルにきて「もう歌詞書けないわ」となっていて。
シュント 「ちょっとバカな曲を作って」ってお願いしたら、兄ちゃんなりにいい感じの歌詞を書いてくれました。
ハルマ 初めて歌詞を書いたんですが、好きと言ってくれるお客さんも多いし、ライブで演奏していても楽しいです。
──ジンさんのお気に入りの曲やフレーズも教えてください。
ジン 僕も2曲目の「死ぬほど君に恋をして」はサウンド的に一番好きです。いつもはコーラスがパッと決まるんですが、この曲はなかなか決まらなくて。初めてくらいに悩みましたけど、すごく納得いくコーラスができてよかったです。あとは「ギョウ」も好き。この曲はアルバムのなかで最後のほうにできた曲で。シュントに「好きなようにやっていいよ」と言ってできた曲なんですが、初めてシュントが曲を作った頃を思い出しました。
ハルマ ブラインドリベットの頃ね(笑)。
ジン そうそう。
ハルマ 他の曲は結構「こういうテイストの曲を作ろう」と話し合いながら作ったんです。それってバンドにとっては大事なことですが、シュントにとってはちょっとストレスじゃないですか。縛られるし。だから「じゃあ、この曲はマジで好きにやって」って言ったらこの曲ができた。「涙ぽろぽろ」もシュントっぽい曲だと思うんですが、この曲もまたそれとは違う、最新のシュントです。歌詞にはモチーフにした小説があるらしいです。
──差し支えなければ教えてください。
シュント 中島らもさんの「黄色いセロファン」という短編です。その小説は好きな子のギョウ虫検査に興奮する小学生の話なんですが、それを元に歌詞を書きました。さっき落書きの話をしましたけど、俺が落書きをするのは授業中に現実逃避するため、自分と向き合わないためだったんです。この曲は、まさにそんな落書き精神で作りました。
「計画的に物事を進められるようになりたい」
──本作に「PSYCHO PSYCHO LOVE」というタイトルをつけた理由を教えてください。
シュント 全部録り終えて「タイトル決めないとまずいよ」と言われて。「あ、やばい」と思って……(笑)。
ハルマ 今日、ずっとこんな話をしてる(笑)。
シュント 本当だ(笑)。アルバムを通して聴いてみたら、ラブソングが多いのにどこか狂気を感じて。サイコキラー系の映画が好きなこともあって、まず「サイコラブ」を思いつきました。そこから、言葉を2回繰り返すのが好きなので「PSYCHO PSYCHO LOVE」にしたら響きもよかったので「PSYCHO PSYCHO LOVE」に決めました。
──この作品はバンドにとってどういう1作になりそうですか?
シュント 事務所に入ってからの作品って、どこか“やってもらってる感”が強かったんです。「レコーディングさせてもらえるんや、ありがたいな」と思いながらやっていたから。だけど今回は自分たちから「もっとこうした方がいいんじゃないか」って意見を出したり、ジャケットも自分で描いたりして、事務所に入る前に自主で出した「前歯」という作品に近い感じがあって。そういうDIYな感じは、これからもっと強めていけたらいいなと思いました。規模は大きくしていきたいけど、自分らの色は出していきたいし、自分らでかけられる労力はかけたいなと。
──血の通ったものというか。もともと作ること自体がお好きと言っていましたもんね。
シュント はい。
──今のお話にも通ずると思いますが、バンドの今後の目標や展望があれば聞かせてください。
ハルマ もっと大きい会場でライブをやりたいです。今回のアルバムでは、衝動感だけじゃなく、良いメロディと歌も届けられたと思っていて。最近はフェスにも出させてもらっているんですけど、フェスには中学生の頃の俺たちみたいに、演奏のこともライブハウスのこともわからない人たちもいるじゃないですか。そういう人たちにも届く作品になったと思うので、このアルバムの曲を持って、それこそSATANIC CARNIVALに出られるような強いバンドになりたいです。
ジン 僕の目標は、ずっとそうですけど、極力長くやれたらいいなぐらいです。
シュント 俺は、計画的に物事を進められるようになりたいです。
ハルマ お前個人の目標じゃねえ! 書き初めじゃねえんだ(笑)。
シュント 今日のインタビューで、自分がいかにギリギリに行動しているかを知ったので(笑)。計画的にやったら、もっといいものができるかもっていう期待もあるし。バンドの目標は兄ちゃんと同じです。


the奥歯’s「PSYCHO PSYCHO LOVE」
1.Iと太陽
2.死ぬほど君に恋をして
3.涙ぽろぽろ
4.ギョウ
5.指先
6.コモンナンセンス
7.花冷えて
8.真夜中のドレス
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