COLUMN

ROCK CLASSICS SELECIONS Vol.14 selected by TAISHI IWAMI

この世に数多溢れる名盤と呼ばれる音源の数々。このシーンにおいても、そんなキラキラ金ピカのままに輝き続けるロックのクラシックが存在するわけです。この連載企画"ROCK CLASSICS SELECTIONS"では、現在のシーンに繋がるパンク、ロック、ラウドの名盤を各セレクターにピックアップしてもらい、セレクターの思いと共にお届けしたい。このシーンが好きでCDショップやサブスクでもっとディグりたい! というアナタに捧げる名盤特集。最高のロックエクスペリエンスをどうぞ!
第14回目のセレクターはDJ兼ライター、TAISHI IWAMIによるセレクション。ロック好きに欠かせない大名盤をお届け。

Select ROCK CLASSICS 

The Vines "Highly Evolved"(2002)

Recommend by TAISHI IWAMI


00年代の初めは、まだインターネット環境が整っている家のほうが少なく、音源のダウンロードサービスも普及する前夜で、聴きたい曲はCDかレコードを買うしかなかった。今ではほんとうに少なくなった海外音楽の“国内盤”も、メジャーレコードレーベルから多くリリースされていた。 盤の帯やリリースにまつわるチラシ、レコード店のポップ、音楽雑誌、街に出ればそれらにまつわる日本語の文字が溢れていて、週に数回は一緒にパーティをしているDJや学校の友人と買い物に繰り出した。SNSなんて当然ない。会えない日はメールで情報交換。なんでも試聴できるわけではないから、どの店が何をどんな書き方で推していたとか、どこの雑誌にどんなことが書いてあったとか、先に買ってみたけどあれは誇大広告だとか、アルバムなら2000円前後~3000円、シングルなら600円~1000円、とにかく限られたお金で失敗することなくいいレコードを、できるだけたくさん買うことにすべてを懸けていた。そしてある日、行きつけのレコード屋をいつもの仲間と訪れると、最強のキラーフレーズが。 “The BeatlesとNirvanaの融合” The Beatlesは60年代に活動、現代のロックやポップスのもっとも大きな礎となり、世界中の人々に愛され続ける歴史的最重要バンド。Nirvanaは、80年代のメインストリームを席巻したロック(ハードロック)の代名詞的な、ショウアップされた曲やサウンドプロダクション、テクニカルなギターソロ、派手な衣装やヘアメイクとは全く異なる、ざらついたジャンクなギターの歪みが鮮烈なサウンドや内省的な歌詞とともに、80年代後半に登場。1991年にアルバム『Nevermind』で時代をひっくり返しオルタナティヴという概念を世に知らしめた。そして、フロントマン・故Kurt Cobainの古着をカッコよく着こなしたファッションも含め、現在に至るまで絶大な影響力を持ち続けている。 60年代のR&Bやガレージロック、サイケデリックロックと、ぎりぎりオンタイムで触れることができたオルタナティヴロックがルーツの二軸だった私にとって、それらが混ざっているということは、当たればリスナー遍歴史上最大級の衝撃になる。しかし、その道のプロが書くポップなので大筋は間違っていなくとも、騙された気分になることも多かった。その額はもう振り返りたくない(笑)。まあ、それも含めていい経験で、当時はまったく聴けなかった作品が、今ではかけがえのないものになっている、すなわち自分の感覚が追い付いていないだけだったことも多々ある。 そんなこんなで基本的に大きな触れ込みには疑いを持つことが習性化していながらも、「ここまで書くならさすがにかなり自信があるんじゃない?」とか話しながら、みんなでそれ以上の情報を入れずに即購入。それが、今回紹介するオーストラリアはシドニー出身、The Vinesのデビューアルバム『Highly Evolved』の先行シングルとして出ていた7インチシングル「Get Free」。結果は大当たりだった。 ちなみに“The BeatlesとNirvanaの融合”という言葉自体は、イギリスのメディア、NME誌がそう評価していた一節を引用したのか、店員がその前に独自に付けたものが偶然にも一致したのか、時系列的なところは調べられませんでした。すみません。

 

まずはその「Get Free」をお聴きください。時代背景として90年後半のロックは、Nirvanaのような、オーセンティックなロックの持つ生々しさを損なわずにその時代の象徴へと昇華したサウンドや、インディペンデントなロックからの刺激が足りなかった時期。ロック自体が沈んでいたわけではないが、オルタナティヴロックの成功を生産ライン化したようなロックが多く出てきたことに馴染めなかった人々、Oasisの登場やBlurやPulp、Suedeのヒットなどで知られる、“ブリットポップ”と呼ばれた90年代半ばにUKで起こったオルタナティヴなニューカルチャーの終焉後をさまよっていた人々がたくさんいた。時代は繰り返すと言うが、ある意味、前述したハードロックが飽和していた80年代の後半に似ている。00年代に入ってそこに現れたのが、アメリカからThe StrokesやThe White Stripes、イギリスからはThe Libertines、スウェーデンのThe Hivesやオーストラリアの彼らだった。興奮剤をぶち込んだようなキラーチューン。電光石火の2分に受けた衝撃はあまりにも大きかった。 間違いなく00年代以降のロック史を代表する曲でしょう。DJでもずっとかけ続けている。まず聴いた感じはNirvanaはじめオルタナティヴロックの影響が強いと思われる曲だが、ヴォーカルの雰囲気やギターのエフェクトやフレージングからは、どこかしらThe Beatlesが活動していた1960年代のサイケデリックな雰囲気を感じる。 こちら、イントロのインパクトのあるリズムは60年代からの定番で、そこにオルタナティヴロックを彷彿とさせるエモーショナルなシャウトやギターの歪みが乗った曲。 アルバム全体は大きく分けると、The Beatlesっぽい曲とNirvanaっぽい曲に分かれるのだが(当然、影響源はその二組だけではないので、あまり言うと怒られそう)、どの曲も変なギミックやてらいがなく、直感的、衝動的にさまざまな要素が混ざっている印象の強いことがポイント。歴史のなかで自分たちが触れてきたさまざまな音楽や文化的背景を、一気に吐き出したらこうなっただけのように思う。だからこその00年代にしか出なかったプリミティヴなロックのエネルギーが、多くの人々の心を掴んで離さないのだろう。のちに世界的なビッグバンドとなるArctic Monkeysの結成は、The Vinesのライヴがきっかけだったというエピソードは有名。私が大阪にいた頃、DJをしていた心斎橋ROCKROCKという店にGreen DayのBillie Joeが訪れた時に、彼がリクエストしてきた曲の一つも、The Vinesの「Get Free」だった。

 

The Vinesは2018年にもアルバム『In Miracle Land』をリリースしており、現在も活動中。単独来日公演は、2004年の渋谷と当時大阪・心斎橋にあったCLUB QUATTROのツアー1回のみ。渋谷での公演は、音が悪く演奏もバラバラ、フロントマンのCraig Nichollsが客に向かって悪態をつき英語を話せる客が言い返す、Craig以外のメンバーがステージを降りる、キメの「Get Free」を中断するなど、めちゃくちゃだったらしい。私は大阪公演を観たのだが、そこまで酷くはないにせよ、とにかく演奏に覇気がなく生温さが否めないなか、「Get Free」で無理矢理合唱していた思い出が。当時のことはCraigも反省していて、元メンバーのHamish Rosserも、「バンドが最悪の時期で日本のファンには悪いことをした」といった旨のことを語っている。2008年にはFUJI ROCK FESTIVALに出演しているが、私は観られなかった。せめてあと一度は来日してほしいと、切に願う。


Selecter's Profile 


TAISHI IWAMI
大阪を拠点に90年代後半よりDJを始める。心斎橋ROCKROCK、京都CLUB METRO、新宿ROLLING STONEといった東西老舗クラブでのレギュラーDJほかさまざまなイベントやフェスにも出演。レコードショップのバイヤーやラジオDJなども経験し、近年はライター/編集者として読むメディアの世界にも本格的に関わるようになる。2017年に上京。現在は執筆やDJ、イベント制作、自主でのマンスリー・パーティ・SUPERFUZZのオーガナイズなどを中心に活動中。
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####ROCK CLASSICS SELECIONS ARCHIVE 

Vol.19 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Descendents “Everything Sucks”(1996)
Vol.18 selected by SENTA - TURNSTILE “GLOW ON” (2021)
Vol.17 selected by Taishi Iwami - RED HOT CHILI PEPPERS “BLOOD SUGAR SEX MAGIK” (1991)
Vol.16 selected by Taishi Iwami - The Jesus And Mary Chain “ Psycho Candy”(1985)
Vol.15 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - LIMP BIZKIT "Significant Other"(1999)
Vol.14 selected by TAISHI IWAMI - The Vines "Highly Evolved"(2002)
Vol.13 selected by SENTA - SWITCH STYLE "....TO INFINITY"(1997)
Vol.12 selected by TAISHI IWAMI - Machine Gun Kelly "Tickets To My Downfall"(2020)
Vol.11 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - NOFX “Punk in Drublic”(1994)
Vol.10 selected by TAISHI IWAMI - The Music "The Music"(2002)
Vol.09 selected by SENTA - V.A. "NEW YORK'S HARDEST"(1995)
Vol.08 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Korn “Korn”(1994)
Vol.07 selected by TAISHI IWAMI - Jet "Get Born"(2003)
Vol.06 selected by SENTA from NUMB - Madball “Set It Off”(1994)
Vol.05 selected by TAISHI IWAMI-GREEN DAY “Dookie”(1994)
Vol.04 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - blink-182 “Enema Of The State”(1999)
Vol.03 selected by SENTA from NUMB - HATEBREED / Satisfaction Is the Death of Desire (1997)
Vol.02 selected by TAISHI IWAMI - Matthew Sweet / 100% Fun (1995)
Vol.01 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Rage Against the Machine / S/T (1992)