TOTALFAT 22nd Anniversary “POSITIVE VIBRATION”~PUNISHER’S REVENGE!!~ LIVE REPORT!!
Report by 山口智男
Photo by Masaty
2022.4.6
TOTALFAT 22nd Anniversary “POSITIVE VIBRATION”~PUNISHER’S REVENGE!!~ @渋谷 WWW X
「時代が移り変わっていくとき、パンクってみんなの力になれるんじゃないか」
かつてTOTALFAT(以下TF)のメンバーは、筆者の取材に対して、そんなふうに語った。それから4年。TF自身のキャリアにも、我々が暮らしているこの世界にも大きな変化が荒波のように押し寄せてきたが、その中で彼らは自分達がさまざまな困難を乗り越える姿を見せることで、ファンの力になってきたと思う。どれだけの人達が「TFががんばっているんだから、私達も、俺達も」と思ったことだろう。
「国に対する不満でも、身近な不満でも、何でもいいけど、そういうものに対して立ち向かっていこうぜという精神性ってどんどん強くなっていくような気がしていて、ミュージシャンとして音楽をやっていく上ですごくやり甲斐になる」
彼らはそんなふうにも言った。柔なバンドだったら解散に追い込まれていたかもしれない危機が次々にTFを襲ったのだから、やり甲斐があったとは他人である筆者の口からは決して言えないけれど、彼らが言う「立ち向かっていこうぜという精神性」は、さらに研ぎ澄まされていったに違いない。
だからこそ、毎年4月6日に開催する恒例の周年記念ライブが初の対バン形式になったことに大きな意味がある。その周年記念ライブに「TOTALFAT 22nd Anniversary “POSITIVE VIBRATION”~PUNISHER’S REVENGE!!~」とタイトルを付け、わざわざリベンジと銘打ったのは、転んでもただでは起きないTFの面目躍如だ。
本来であれば、1月のパニシャ=TF主催の対バン・イベント「PUNISHER’S NIGHT 2022」で実現するはずだったKEMURIとの対バンを成就させたわけだが、周年でリベンジしたいと考えたTFも、彼らの考えに乗ったKEMURIも、ともにイカしている。「新型コロナウイルスにやられたままでいられるか!」と両バンドが思ったかどうかはさておき、後述するように我々がこの日、パニシャで対バンしていたよりもきっと強い絆を結んだに違いない両バンドからもらったインスピレーションは決して少なくなかった。
「短い時間ですが、よろしくお願いします!」と言う伊藤ふみお(Vo)の挨拶から演奏になだれこんだKEMURIは1曲目の「I Am Proud」をはじめ、新旧のスカパンク・ナンバーの数々を披露。観客を存分に踊らせた。
パニシャの出演をやむを得ずキャンセルしたことをTFのファンに詫びた伊藤が、TFの22周年に立ち会えることを「最高です!」と言ってから演奏した「Ohichyo」は、22年間、バンドを続けてきた後輩を称えているようにも聴こえたが、その「Ohichyo」に加え、「ima-sorewo-hikarini-kaete-susume!」、そして「Ato-Ichinen」といった日本語で歌う曲が持つ大きなグルーブが、バンドがキャリアを重ねてきたいま醸し出しているのは、包容力とも表現できる魅力だ。
TFのスタートがNOFXのコピー・バンドだったことに言及した伊藤は「KEMURIの入りのBGMがNOFX(の「ALL OUTTA ANGST」)。何かご縁がありますね。無理やりご縁を作っていきたいです」と笑った。TFのメンバーにとって、その言葉がどれだけうれしかったことか。単にパニシャのリベンジだけに終わらずに未来に繋がる成果を生んだことにこそリベンジした甲斐がある。
そこにいる全員が待っていた「PMA」で観客全員をジャンプさせ、今日イチの盛り上がりを作り上げた直後、「これは自信を持って言えるけど、グルーブ感は27年間やってきて一番、最高です!」と伊藤は宣言。そこには昨年12月、長年活動を共にしてきたドラマー、サックス奏者、トランペット奏者が抜けたものの、新たにメンバーを迎え、前進を続けるバンドの矜持も込められていたはずだ。
そんなKEMURIがラスト・ナンバーに選んだのが正調スカコア・ナンバーの「New Generation」。その曲を演奏する前にパニシャでTFがKEMURIの曲を演奏したことについて語った伊藤は、「TOTALFATの曲をカバーする余裕はありません(笑)。その代わりにKEMURIって名前が付く前に作った曲をTOTALFATに贈りたい」と選曲の理由を説明したが、伊藤がこの曲に込めた「最初に作った音楽や最初に夢中になった音楽を忘れずに進んでいきたい。TOTALFATにも忘れずに進んでいってほしい」という思いは、22周年という節目を迎えたTFにとって、先輩からの素敵なメッセージになったことだろう。
そして、観客が拳を挙げ、バンドを迎える中、「22歳になりました! 楽しんでいこうぜ、渋谷!」「それじゃあ楽しくいきましょう。1-2-Let’s go!!」とJose(Vo, Gt)とShun(Vo, Ba)が声を上げ、TFの演奏はJose、Shun、Bunta(Dr, Cho)がシンガロングする「Heroes From The Pit」でスタート。そこから「23年目始めます!」(Shun)とアイリッシュ調のイントロが印象的な「Welcome to Our Neighborhood」、そして「Room45」に繋げると、観客が全員ジャンプ。それを見たShunが「めっちゃいい景色だぜ!」と快哉を叫び、さらに繋げた「Phoenix」が終わるやいなやShunはもう1度、「KEMURI先輩が耕したライブハウスという畑がしあがってますよ! バイブス高え!」と快哉を叫んだ。
そこから「走り出したら止まらねえぞ!」とJoseが声を上げ、繋げていったのが周年記念ならではのベスト選曲と言える新旧の代表曲の数々だ。声を出したり、モッシュしたりできない観客に「その場でジャンプできるか?」「手拍子よろしく!」と声をかけたり、自ら手本を示したりしながら、ライブに参加することを促すメンバー達のリードもすっかり板についてきた。
「いろいろなことがあったけど、振り返ったとき、笑って話せる仲間がいることが大事。後悔、失敗もステージに立っているかぎり、笑って話せる。それも含め、この先の未来につれていける大事な宝です」と語ったShunをはじめ、この日、MCでメンバー達が語った言葉がいつも以上に前向きだったのは、Shunが言ったように伝えたいことがはっきりしていることもさることながら、この日に限ってはKEMURIに刺激されたところも大きかったんじゃないか。
「KEMURIが自分達のライブに出てくれるなんて高校生の時、想像できた?」(Shun)
「いや。他の芸能人と同じように、ふみおさんのこと、ふみおって言ってた(笑)」(Jose)
「(高校時代)吹奏楽部の奴らに楽譜を渡して、無理やりKEMURIの曲をコピーしてたけど、あの時の連中に今日のことを自慢したい」(Shun)
高校時代、憧れの存在だったKEMURIの思い出をひとしきり語った後、Shunが「実は…」と明かしたのがパニシャにKEMURIを誘ったとき、すでにメンバー3人が抜けることが決まっていたため、パニシャに間に合うように新メンバーを集めてくれたという裏話。
「やっとリベンジの日を迎えられた。KEMURIは現体制になってから2回目のライブ。最高のステージとメッセージを伝えてくれた。今日、リハを見たとき、かっこよすぎてドンビキした(笑)」(Shun)
それだけかっこいい姿を見せつけられたら、俺達だって負けていられないとなるではないか。「夏のトカゲ」のタオル回しで弾みを付けた後半戦でも、ぐんぐんと熱度を上げていく演奏の合間合間に「音楽と縁で繋がっているから、何があっても大丈夫。音楽は俺達の大事な武器。もっと繋がっていきましょう」「いいことやポジティブなことは探したらきりがない。そういう考え方で生きていきませんか?」「辛いことも試練だと思って乗りこなしていけば楽しいよ」とメッセージを伝えてくれたのだが、それを言う時のメンバー達が悲壮になるのではなく、終始、笑顔というところがよかった。バンドの絶好調が窺えるようだ。
「3人になってできることが減ったとは思わない。シンプルになれたし、3人の関係は強くなっているし、伝えたいこともはっきりしている。俺達が切り拓いていくから、安心してついてきてください」
そう語ったShunは、この日、TFの元ギタリスト、Kubotyがリハーサルに訪れ、ハンバーガーを22個差し入れしたというもう1つの裏話を語ると、「Kubotyの帰り際、対バンしようぜって声をかけた」とつけ加えた。
ラストスパートは、「Kubotyと作った曲もあるぜ!」とShunが紹介した「Overdrive」。そして、「心の中で一緒に歌ってくれ!」(Jose)と「Place to Try」で本編を締めくくると、Buntaが上裸になったアンコールでは、5月13日に5曲入りのEP『BAND FOR HAPPY』を配信リリースすることと、5月18日から全国29カ所を回るツアーを開催することを改めて告知すると、その『BAND FOR HAPPY』から早速、新曲「Dirty Party」を披露。
「周年に集まってもらって、みんなにただで帰ってもらうわけにはいかない」とShunは言ったが、23年目をスタートさせ、ここから活動を加速させようという気合も新曲を披露することで見せたかったに違いない。
これまで「PARTY PARTY」「夏のトカゲ」といったTFを代表するパーティー・ソングを提供してきたJoseが書いたというその「Dirty Party」は、シーケンスで鳴らしたラテンの要素とギターのサイファイ感が何やら新境地を思わせたが、それはバンドが前進しつづけている証拠。EPとツアーがよけいに楽しみになった。
周年記念を謳いながら、毎年、新たなキャリアのスタートダッシュをアピールしてきたTFだが、今年は例年以上にその印象が強かった。そして、彼らは「戦っていこうぜ!」(Jose)と「Good Fight & Promise You」で最後を締めくくると思わせ、「これで終われるか!」(Shun)と「DA NA NA」に繋げ、ライブの余韻さえもぶっちぎる勢いで未来に向かって駆け抜けていったのだった。