INTERVIEW

OLEDICKFOGGY "残夜の汀線" INTERVIEW!!

コロナ禍に加え、メンバーチェンジという危機……いや、そういう認識がメンバー達にはあまりなさそうなので、言葉を変えたほうがいいだろう。そういう状況に直面してもOLEDICKFOGGYが活動を止めることはなかった。そこに改めて、メンバー達自身を突き動かすOLEDICKFOGGYというバンド自体が持つ求心力を感じずにいられないが、その彼らが若いメンバー2人を迎えた現在のラインナップで、フルアルバムとしては5年ぶりとなる『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』を完成させた。
さらなる新境地を思わせる楽曲を含むバラエティに富んだ全11曲は、もはやラスティック・ストンプ(というのも今更だが)には収まりきらないOLEDICKFOGGYの音楽性が、さらに発展を遂げたことを物語っているが、何よりもそこに明るいポジティブなバイブが溢れていることが重要だ。
「(若い2人に)おじさん達ががんばってついていってるという状況」とスージー(Gt, Cho)は笑いながら言ったが、メンバーチェンジはバンドにとって、間違いなく転機になったようだ。
『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』の残夜という聞き慣れない言葉は、夜明け方、明け方近い頃を意味するそうだが、『夜明け来ず跪く頃に』とタイトルを付けたミニアルバムの次の作品に、その言葉を冠したことからも現在のバンドの状況が窺える。
「現在のメンバーが最強だと思わなきゃ進んでいけないですから」
かつて伊藤雄和(Vo, Mandolin)が言った言葉を思い出した。
新曲のリハーサルのため、都内某所のスタジオに集まった最強のメンバー達を訪ね、話を訊かせてもらった。

Interview by Tomoo Yamaguchi
Photo by Chabo

 

――現在のラインナップになって、そろそろ1年が経とうとしています。フルアルバムを完成させたことでもあるし、みなさんの息もぴったり合ってきているんじゃないかと思うのですが、現在のバンドの雰囲気をまず聞かせてもらえないでしょうか?

三隅朋子(Accordion, Key, Vo, Cho):楽しいです。
鹿児島大資(E.Ba, Cho):僕は必死にやらせてもらってます(笑)。
伊藤雄和:新しい風が入って、いい感じだと思います。

――若いメンバーが2人加わったことで、どんな変化がありましたか?

大川順堂(Dr, Cho):演奏がうまい。
スージー:特に朋ちゃんはすごい上手なんでスキルアップと言うか、バンド自体の底上げと言うか、ぐっとクオリティが上がって、それにおじさん達ががんばってついていってるという状況です。
四條未来(5 String Banjo):朋ちゃんは上手だし、いろいろな音楽を知ってるから適応力があるし、コミュニケーション能力も高いし。大資もいろいろな音楽を聴いてきた上で、自分の好きなジャンルとかスタイルとかがあるから、彼なりの色を発揮してくれたらバンドにとってプラスになると思います。
大川:うん、大資もいいですよ。リズム隊として楽しいです。ノリが合うと言うか、(ベースが)そういう行くなら、(ドラムは)こう行こうかって遊びができるんですよ。

――yossuxiさん脱退の1か月後にオーディションを経て、三隅さんが加わった直後に上原子Kさんが脱退して、鹿児島さんがサポートとして加わったんですよね?

鹿児島:最初は僕を含め、ベースはサポートが何人かいたんですよ。
大川:大資はスージーが誘ったんだっけ?
スージー:そうだね。やりたいみたいなことを陰で言ってるって聞いたから(笑)。
鹿児島:いや、夢で見たんですよ。よっちゃん(yossuxi)の最後のライブを見に行ったんですけど、その日の夜、僕がOLEDICKでベースを弾いている夢を見ちゃって。でも、恥ずかしいから誰にも言わないでくれって、(カメラマンの)Chaboさんにだけ話したんですけど。
大川:そしたらChaboが言っちゃったんだ。
伊藤:それ、ほんとなの?
鹿児島:ほんとですよ。そこで嘘ついても。
伊藤:そんなことある? 『BECK』読んだんじゃないの。

――おふたりとも元々、OLEDICKFOGGYが好きで、バンドに入りたいという気持ちがあったわけですね。そんなふたりの音楽的なバックグラウンドは?

三隅:私はお母さんがロックンローラーみたいな感じで。
伊藤:そうなんだ。
三隅:ツイストを踊る練習を、小学校の時から家でしてました。
伊藤:すごいね。
大川:キャロルが好きなんだもんね。
三隅:毎日、キャロルのラスト・ライブ(のDVD『燃えつきる キャロル・ラスト・ライブ』)を見てから学校に行ってたんですよ。キャロルとかクールスとか大好きで。でも、昭和歌謡も大好きで。基本的にロックンロールと昭和歌謡を聴きながら育ちました。19歳の時に上京してきて、ラスティックというジャンルを知ったタイミングでOLEDICKのことも知ったんですけど、自分の中ではラスティックの界隈で雲の上の存在というイメージでした。それでラスティックのバンドを聴いているうちに自分もやってみたいと思って、アコーディオンを始めて。その後、何個かバンドをやってたんですけど、ご縁があって、OLEDICKと自分のタイミングが合ったので、これはやるしかないと思って、オーディションに応募しました。

――アコーディンを始める前にピアノか何かやっていたんですか?

三隅:3歳ぐらいから高校生までクラシック・ピアノを習ってました。

――鹿児島さんは、どんな音楽を聴いてきたんですか?

鹿児島:僕はパンクばかりでした。レゲエとかダブとかスカとかも聴くんですけど、一番好きなのは70’sのUKパンクですね。クラッシュとか、ダムドとか、ジェネレーションXとか。でも、クラストとかハードコアとかも好きです。

――OLEDICKとの音楽の出会いは、どんなきっかけで?

鹿児島:イギリスに住んでた頃、友達に薦められて、日本に帰ったら絶対ライブを見に行こうと思いました。それまでラスティックってジャンルは聴いてなかったんですけど、めちゃかっこいいと思ったんです。その後、一方的にライブを見に行ったり、CDを買ったりしていたんですけど、共通の知り合いを介して、一緒に(スケートボードで)滑ろうって誘ってもらって、初めてちゃんとお話しさせてもらったんです。

――そんなおふたりから見た4人の印象を一言ずつお願いします。

鹿児島:めっちゃ緊張しますね(笑)。

――では、伊藤さんから。

三隅:剽軽(笑)。ギャップがありますね。こんなに剽軽な人だとは思ってなかったです。バンドに入るまで、メンバーとは話したことがなかったんでびっくりしました。
鹿児島:最初はスケボーを一緒にさせてもらったんですけど、OLEDICKでベースを弾くようになってからは、改めてかっこいいなぁと思います。ベースを弾きながら、前で歌っている姿を見ていると、すごいな、声がでかいなって。いや、みなさんかっこいいんですけど、伊藤さんはめっちゃ声がでかいから、弾きながらテンションが上がりますね。背中がかっこいいです。

――大川さんは?

三隅:縁の下の力持ちですね。
大川:ありがとうございます。
鹿児島:一番相談したい人です。ベースという楽器の特性上、ここはどうしたらいいんだろうってとき、頼りにしていると言うか、先生みたいな存在です。こうしたらいいんじゃない? ああしたらいいんじゃない?ってけっこう一緒に考えてくれるんですよ。

――スージーさんは?

三隅:コミュニケーション能力の塊。みんなと仲良いんです。OLEDICKに入ったとき、すごい緊張してたんですけど、スージーさんのお陰で、気づいたら友達みたいに安心して喋ってました。すごい才能だと思います。

――じゃあ、今ではため口で?(笑)

三隅:いえ、ため口ではないです。

――失礼しました。

伊藤:キモって言うよね?
大川:それは言うね。
伊藤:キモってよく言われてるよ。
鹿児島:それは俺も言われた。
大川:みんな言われてるんじゃん(笑)。
鹿児島:それは言われる俺らが悪いんですよ。

――鹿児島さんのスージーさんの印象は?

鹿児島:やさしい兄貴ですね。それこそ最初に声をかけてくれたのはスージーさんだったんで。あと、やっぱりギターがうまい。音作りもかっこいいんですよ。OLEDICKに入る前から、たまにライブの打ち上げに参加させてもらってたんですけど、楽器の話もちょっとさせてもらってたんです。スージーさんの鳴らすクリーントーンがすごく好きなんですよ。

――最後に四條さん。

三隅:気配りや、やさしさをいつもめちゃ感じますね。OLEDICKに入ってから、ツアーに行った時の移動の車の中とかで一番話を聞いてもらってるかもしれないです。あと、甘いものがめっちゃ好きです(笑)。好きなものが一緒なんですよ。どら焼きとか(笑)。
四條:印象はどら焼きですね(笑)。
鹿児島:でも、こんなにハードコアなバンジョー弾きはいないと思います。バンジョーが入っているバンドをやらせてもらうのは初めてなんですけど、節々にババッとか、チャッとか、ちょっとしたフレーズなんですけど、僕はこっそりと、あ、これはUKハードコアなんだなっていうのを感じてますね。ライブをやる時は、僕ら立ち位置的に前と後ろなんですよ。未来さんが前にいて、僕が後ろにいてっていう。なので、未来さんが楽しそうにやっていると、その日はいいライブができたんだなって個人的には思ってます。

――無茶ぶりに答えていただいてありがとうございます。メンバー全員が揃うインタビューもなかなかないのかなと思って、新しいラインナップになってからのバンドの雰囲気が伝わればいいなと思いながら、質問させてもらいました。さて、そんな6人で作り上げた7枚目のフルアルバム『残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-』。OLEDICKらしいせつなさ、やるせなさ、狂気も交えつつ、全体の印象としては、明るいポジティブなバイブが溢れているように感じましたが、みなさん、どんな手応えがありますか?

伊藤:いい作品ができたと思います。統一感があると思うんですよね。アルバムの全11曲に。曲って1曲ずつ作りながら、順々に増えていくじゃないですか。その時は、そんな統一感は感じてなかったですけど、アルバムとして1枚になると、いい感じの統一感が出たかな。狙ってなくても、そういうふうになっちゃう凄さが出ちゃったなってところはありますね。

――その統一感っていうのは……。

伊藤:いろいろな曲が入ってるんですけど、この1曲だけちょっと違うよねって感じが俺はあんまりしなくて。全体的に、今、(OLEDICKは)こういう感じなんだっていうのが出ていてすごくいいと思います。
大川:エンジニアの林田(涼太)さんとはつきあいが長いんで、やりとりがすごくスムーズだったんですよ。ドラムの音に限った話ですけど、ミックスに関しては何も言わずに基本的に任せちゃったんです。以前だったら、たとえば「残夜の汀線」のダブっぽいミックスは、生ドラムの感じがなくなっちゃって、ちょっとなって思ってたと思うんですけど、それも林田さんに任せたら、良かったから、さすがだなって。つきあいが長い分、こうしたいんでしょ?みたいなのがお互いにわかってきたという意味では、1曲1曲バチっとまとまった感じの作りになったんじゃないかなと思います。

――今回のアルバムの曲は、いつ頃どんなところから作っていったんですか?

大川:去年の8月ぐらいから曲を作り始めて、プリプロ録音が10月ぐらい。その時点で8曲のミニアルバムって考えてたんですけど、8曲あるんだったらあと2曲足して、フルアルバムにしたほうがよくないかという話になって。結果、3曲足して11曲になったんですけど、プリプロの時、なかったその3曲もレコーディングの現場で仕上げて、ばっと録って。それが年末から年始に掛けてでした。

――追加した3曲っていうのは?

大川:「消えて行く前に」と「さよならセニョリータ」と。
伊藤:あと、「満月とポイズン」。

――なるほど。全然タイプの違う3曲を追加したわけですね。逆に最初はどのへんの曲ができたんですか?

伊藤:「ゆらゆら」ですね。
大川:スタジオに最初に持ってきたのは、そうだったね。

――スタジオに持ってきた時には、すでに三隅さんに歌ってもらおうと考えていたんですか?

伊藤:そうです。イメージがあったんですよ。女性が歌うカントリーみたいなやつをやりたかったんです。それに歌いたいって言ってたから。
三隅:言ってないです(笑)。

――とおっしゃってますけど(笑)。

三隅:でも、作ってもらって、持ってきていただいた時はうれしかったです。

――オーディションで三隅さんを選ぶにあたっては、歌えることも条件の1つだったんですよね?

伊藤:いや、オーディションの時は歌えるってわからなかったです。最初、スタジオで演奏しているところを撮影した動画を送ってもらったんですけど、彼女、カメラに向かって一礼したんですよ。そこですかね。彼女を選んだ理由は。やっぱり礼儀正しい子がいいじゃないですか。
三隅:やっぱり大事じゃないですか。最初、礼するのを忘れて、撮り直したんですよ。
伊藤:それがよかったんだよ。
三隅:ありがとうございます。
伊藤:(動画は)3曲ぐらい送ってくれたんだっけ?
三隅:2曲です。
伊藤:早送りで見たから。
三隅:見てないって言うか、聴いてない。ひどい!(笑)
大川:逆にね。
伊藤:礼するのを見て、もう大丈夫だと思ったのかな。

――ところで、「ゆらゆら」のギター・ソロはペダル・スチールか、ラップ・スチールなんですか?

スージー:いや、普通のボトルネックです。フィドルのソロを入れようって話になって、ラッキー、俺、ギター・ソロ考えなくていいんだって思ってたら。
大川:レコーディング当日、フィドル奏者が来られなくなっちゃって。
スージー:それで困った時のボトルネックみたいな。
大川:とりあえずボトルネックでやっておけば、形にはなるでしょって。
スージー:雰囲気あるし、カントリー調の曲にも合うし。たまにやるんですよ。

――まさかボトルネックだとは思わなかったですけど、印象に残るソロになっていると思いました。そんな「ゆらゆら」を含め、全11曲の中から、先行配信リリース曲として、「消えて行く前に」と「夜光虫」の2曲を選んだのは、どんな理由からだったんですか?

伊藤:レーベルの意向ですかね。

――まぁ、そうかもしれないですけど(笑)。

伊藤:提案されたんで、まぁ、そうなのかなって。俺は違ったんですけどね。でも、普通のほうがいいかなと思いました。
大川:因みに何だったの?
伊藤:「さよならセニョリータ」。でも、そういうことじゃないのかな。わかりやすいほうがいいのかなって。

――確かに「消えて行く前に」はキャッチーなロックンロールですからね。

伊藤:歌詞的にも今の時代に合っているのかなって思いました。

――「消えていく前に」の歌詞は1つ前のミニアルバム『夜明け来ず跪く頃に』に入っていた「行け若人」に繋がるところもあるのかなと思いました。

伊藤:気づいちゃいました?

――繋がっているんですか?

伊藤:全体的に繋げているんです、今回。歌詞が繋がっていると言うか、何もない普通の1日を歌いたかったんです。だから、どの曲も一貫してそういう歌詞を書いてます。

――そういうテーマは今回、曲作りを進める中でどのタイミングで思いついたんですか?

伊藤:今回って言うか、前作がそうだったんですよ。だから、そこにさらに磨きをかけていこうと思って、ずっと同じことをやろうと決めたんです。

――そういう歌詞を書くのはいかがでしたか?

伊藤:大変でした。歌詞をシンプルにするのが大変でしたね。すごい時間が掛かりました。年々、時間が掛かるようになってきましたね。スキルアップしていないという説も出てきているんですけど(笑)。

――それは推敲に推敲を重ねているからなんじゃないですか?

伊藤:そうですね。考えすぎてるんですよ。最後に書き上げたのがこれ?ってなるんですけど、でもまぁ、そうなのかなって。時間を掛けて、言葉を選んで選んで書いているんですけど、行き詰まると書けなくなるんですよ。歌い出しから。でも、そういう時に、いい方法を見つけたんです。ヒット曲を聴くんですよ。そうすると、これでいいんだって思えるんです。マジ? こんなんでいいのって自分に自信をつけていくと、なんとなく書けるようになっていくんですよ。

――そんな中で、今回、一番よく書けたと思う歌詞は、どの曲ですか?

伊藤:どれもよく書けたと思うんですけど、一番時間が掛かったのは「残夜の汀線」ですね。

――日々の暮らしの中の感情を歌った歌詞もあれば、男の性をユーモラスに歌った歌詞もある中で、「残夜の汀線」は、もちろん日々の暮らしの中の感情だとは思うんですけど、大きなテーマを歌っていますね。

伊藤:はい。曲がそういうイメージを思い起こさせたんです。特にイントロとか、間奏とかが。

――曲が普段から思っていること、考えていることを引き出した、と。2つ前の『POPs』収録の「Grave New World」は世界平和を歌っているとおっしゃっていましたけど、「残夜の汀線」もそこに繋がるところがあるんじゃないかと思いました。

伊藤:そうですね。

――《空が大地を眺めていた 溢れそうな悲しみを湛えている》という歌詞は、主語は空ですけど、伊藤さんの気持ちなんじゃないかと聴きながら思いました。たとえば、どんなことを見たり、聞いたりすると、こんな気持ちになるんでしょうか?

伊藤:やっぱり戦争じゃないですか、最近の。

――その戦争は他人事じゃない。自分達のことを省みるべきだと歌っているようにも聞こえます。

伊藤:しかし、残念なことに対岸の火事なんですよね。結局、日本に住んでいる以上は。でも、せっかく歌にできる環境にあるんだから、歌にしたいなと思って。

――対岸の火事という言葉には皮肉が込められているんじゃないですか?

伊藤:対岸の火事って言い方は適切でないと思いますが、戦争反対の歌を作って、レコーディングできるのですから、日本は平和だと思います。

――そんな歌詞を引き出した曲は、スージーさんの作曲です。

スージー:レゲエとかダブとか、そっち系の曲はあんまりやったことがなくて、鹿児島君とスタジオ帰りとか、飲んだりとかしている時に、そんな話になって、僕もレゲエは好きだからやってみたいと思ったんですけど、そういう曲って難しいんですよ。でも、ポリスがやってたようなホワイト・レゲエみたいな曲だったらできるかなって作ったんですけど、鹿児島君がいなかったらたぶん作ってないと思います。

――なるほど。途中、テンポアップして、ドラムが4つ打ちになるのは、ポリスの感じなんですか?

大川:あれはもろそうだよね。
鹿児島:「残夜の汀線」をやるにあたって、ポリス、めちゃめちゃ聴きました。でも、ポリスは演奏うますぎるからできなくて、レコーディング当日はクラッシュのTシャツを着て、クラッシュになったつもりでやってました(笑)。

――ちょうどポリスの名前が挙がったので、質問させてください。今回、もう1曲、個人的にポリスを感じた曲があったんですよ。

スージー:どれでしょう?

――「エンドロール」です。ギターのミュート・カッティングとか、コーラスを掛けたアルペジオとか、ポリスっぽいな、と

スージー:ちょこちょこポリス感、出すんですよ。
大川:出がちだよね。
スージー:以前にもあるんですよ。「肯定の化学」なんて、そうですよ。

――前作の『夜明け来ず跪く頃に』は、ちょっとクラシック・ロックっぽいものを感じたんですけど、今回はポリスをはじめ、UKニュー・ウェーブっぽさが感じられますね。

スージー:好きなんですよ。

――「消えて行く前に」のコンボ・オルガンっぽいキーボードの音色は、ロックンロールと言える曲調もあいまって、昔のエルヴィス・コステロを連想させるのですが、今回、サウンド・メイキングにテーマはあったんですか?

スージー:コステロを意識したんでしょ?
鹿児島:黒縁の眼鏡かけてたよね。
三隅:確かに昔っぽい音色が好きなんで、ビンテージのシンセっぽい音にしてくださいって、林田さんに音を作ってもらいました。
大川:音はけっこうこだわって、曲ごとに変えましたね。プレイが安定しているから、そこに心配がないぶん、いろいろな音を試すってことはやりました。
スージー:時間がけっこうあったから、音作りもしっかりとできたんですよ。前はそこまで頭が回らなかったと言うか、プレイするのに精一杯だったんですよ。でも、朋ちゃん、弾けるから、音だけ変えれば、いろいろ試せたんですよ。

――では、今回、それぞれのパートでどんなことを意識しながらアプローチしていったのか、おひとりずつ教えていただけますか?

大川:レゲエの「残夜の汀線」とか、スウィング・ジャズっぽい「デリバリーヘルスウィング」とか、今までやってこなかったジャンルの曲が増えたんで、いろいろ楽しめたと言うか、ライブのリハで、俺がリズムを刻んでいると、大資がジャム・セッションっぽくすっと入ってきたりするんですよ。そこでいろいろなリズム・パターンを試せたことが違うジャンルの曲に挑戦する上では役に立ちましたね。あとは、手癖だけで叩かないように心がけました。

――スージーさんは?

スージー:音色は変わらずにライブでできる範囲でやっているんですけど、「また今日が終わる」って50’sみたいな曲は、今までだったら普通にバッキングしていたところを、ちょっとギャロッピングじゃないですけど……。

――あぁ、カントリーっぽく。

スージー:そこまで本格的にはできないんですけど、ピック弾きでチャレンジしてみました。

――新しいチャレンジと言えば、「デリバリーヘルスウィング」では、ジプシー・ジャズで使われるマカフェリ・ギターを弾いていますね?

スージー:そうですね。マカフェリ・ギターを持っている方がいたんで、ジプシー・ジャズっぽい雰囲気が出るかなと思って、借りてみたんですけど、良いんだか悪いだかわからないうちにレコーディングが終わりましたね(笑)。

――そういうことも試してみた、と。三隅さんのアコーディオンとキーボードは?

三隅:カントリーとか、スウィングとか、自分の好きな感じの曲が多かったので、全然悩まず弾けました。曲を持ってきた伊藤さんとスージーさんから、こういう感じでってざっくりとしたイメージを聞いて、それを大切にしながら、自分がこれまでやってきたこともプラスして出せたらいいなと思いながらやりました。

鹿児島:僕はついていくしかないと、とにかく必死にやってました。朋ちゃんと一緒なんですけど、やってきたことでどうにかするしかないだろうと思って、あんまり難しいことはやらずにと言うか、やれずにと言うか、本当にシンプルにやっていこうと思ってました。今回のアルバムは、ほんとにいろいろな曲調の曲が入っているので、弾きながらすごく楽しかったです。

――さて、四條さんのバンジョーですが、こういう編成のバンドでバンジョーはどんなふうに加えていくのか前から興味があったのですが。

四條:他のラスティック・バンドの場合、バンジョーはギターっぽく弾くことが多いんですけど、逆に僕はこれまでは、どんな曲でもカントリー、あるいはブルーグラスっぽく乗せてきたんです。でも、それを10年以上やってきて、昔の音源を聴き直してみたとき、聴き疲れする原因とか、ガチャガチャして聴こえる原因とかになっているのかもしれないと思い始めて、今回はこれまでで一番ギターっぽく弾きました。求められない限り、カントリーっぽくは弾いてないです。なので、結果、もう1本のギターです(笑)。
鹿児島:ババッとか、ダダッとかって弾くのがかっこいいんですよね。
四條:そういうことも試してみたいと思ってはいたんですけど、試すきっかけや勇気がなかったっていうところもあって。それが今、ウッドベースからエレキベースに変わったりとか、キーボードも上手なメンバーが入ってきたりとかもあって、バンドとして求める音楽性っていうのもこのアルバムの中で、きれいな感じでっていうのが見えてきたので、なるべく音数を減らしていこうって。これまではAメロでしっかり弾いたから、Bメロは弾かないとか、自分の中でバランスを取っていたんですけど、1曲通してなるべく音数を少なくするなら、プリプロでギターがガイドで弾いていたバッキングを、アコーディオンとバンジョーで分けることで、よりすっきり聴こえるんじゃないかと考えたんですよ。それで、朋ちゃんとコミュニケーションを取りながら、そういう実験的なこともやりましたね。朋ちゃんのコミュニケーション能力、適応能力が高かったので、いろいろやりやすかったです。

――伊藤さんはマンドリンも弾いていますが。

伊藤:いや、俺はそんなにこだわったところはないです。

――そうですか。「満月とポイズン」「少し飲んで帰ろう」「ゆらゆら」「エンドロール」といった曲にはけっこう印象的なリフやソロが入っていると思いますが。

伊藤:マンドリンっぽいことを邪魔にならないようにできればいいかな。それぐらいですかね。

――ところで、伊藤さんは最初、「さよならセニョリータ」を先行配信したかったとおっしゃっていましたが。

伊藤:はい。インパクトあるかなと思って。ただ、そういうバンドなのかなと思われたらダメなのかなって(笑)。

――歌詞は日本語なんですけど、わざとスペイン語っぽく歌っているじゃないですか。

伊藤:空耳アワーです。2年ぐらい前から、どっかでやりたいと考えてたんですよ。

――スペイン語だから、マリアッチなのかなと思いきや、曲調はアイリッシュっぽいところもあるし。

伊藤:マリアッチのつもりでやったんですけどね。でも、マリアッチのことは1ミリも知らなかっていう。

――《ボラれ》という歌詞は、イタリアの歌曲カンツォーネの「ボラーレ」と掛けていると思うんですけど。

伊藤:そうです、そうです。

――さらに、《さよならさ アデュー》というフランス語まで出てきて(笑)。

伊藤:いいんですよ。ラスティックだから。

――そんな多国籍感と言うか、無国籍感も最高だと思いました。この曲、共感する男性リスナーは多いんじゃないですか?

伊藤:ぼったくりバーでボラれた歌ですからね。楽しかったですよ。録ってて。

――はい。僕も聴いてて楽しいです。

伊藤:やっぱり長い時間、レコーディングしていると、重たい空気になるんで、笑いがあったほうがいいかなって。そういう息抜きのつもりでやりました。

――《せめて 目を見て せめて 欲しかった》という歌詞がいいですね。

伊藤:いいですよね。仕事なのはわかってるけど、せめて目を見てほしかったなっていう(笑)。

――とても染みます。「デリバリーヘルスウィング」のジプシー・ジャズっぽい曲調は、どんなところから?

伊藤:どんなところからもないんですけどね。俺の引き出しの1つとして、デリバリーヘルスの運転手だっていう経験もありますからね。ただ、音楽的な引き出しじゃなかったっていう(笑)。
大川:人生経験のほうだっていう。
伊藤:ジプシー・ジャズの引き出しなんて1個もないですからね。

――いや、でも、これ、そういう曲じゃないですか(笑)。

伊藤:なんちゃってですよ。

――さっき聞きそびれたので、歌詞の話をもう少し聞かせてください。細かいところなのですが、「少し飲んで帰ろう」の《流行り風邪の様な歌の 真似をした》という歌詞の《流行り風邪の様な歌》は、伊藤さんの中では具体的に、この曲だっていうのがあるんですか?

伊藤:いや、この歌、ダサくない?ってことではないんですよ。

――《いつもと違う道で帰ろう》で検索したら、けっこういろいろな曲が出てきて。

伊藤:俺もしました。つまり、それぐらいありきたりってことですよ。世に溢れた、当たり前のことをちょっとディスったのかもしれないですね。

――さて、どの曲もすごく聴き応えがあるのですが、中でも「仄灯 -HONOAKARI-」はバンドが一丸となっていることが感じられる勢いのある曲という意味で、特に聴き応えがあります。

スージー:X JAPANで言ったら、たとえば「紅」のようなドラマチックな曲を作りたかったんですよ。
伊藤:最初にアコースティック・ギターだけのスローなところあるじゃないですか。あそこで歌わされたらどうしようって思ってました。
スージー:さすがにそれはやめましたけど。今、サブスクで流行っている曲って、イントロが短いとか、サビから始まるとか、そんなのばかりじゃないですか。

――確かに多いですね。

スージー:だから、イントロをめちゃめちゃ長くしてやろうと思って、好きなことをたっぷりと1分以上やりました。そしたら歌自体が1分ぐらいになっちゃって(笑)。

――メタリックなギター・リフがアンサンブルのメインになっているから、当然、ソロもギターと思いきや、アコーディオンってところに意表を突かれました。

スージー:ギター・ソロをやっちゃうと、それこそ「紅」になっちゃうんで。そこは自分達らしいバランスを考えました。

――さて、3月21日の新宿ロフト公演から5か月にわたる「残夜の汀線TOUR 2023」が始まります。最後にツアーの意気込みを聞かせてください。

伊藤:久しぶりなんで、昔ぐらいの感じで行きます。鈍ってると思われたらいけないと思うのでしっかりと仕上げて臨みたいですね。

 

「残夜の汀線 -ZANYA NO TEISEN-」
Diwphalanx Records / PX375 / 3,000円+Tax
01 消えて行く前に
02 夜光虫
03 満月とポイズン
04 少し飲んで帰ろう
05 仄灯 -HONOAKARI-
06 残夜の汀線
07 ゆらゆら
08 さよならセニョリータ
09 また今日が終わる
10 エンドロール
11 デリバリーヘルスウィング



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