COLUMN

ROCK CLASSICS SELECIONS Vol.17 selected by Taishi Iwami

この世に数多溢れる名盤と呼ばれる音源の数々。このシーンにおいても、そんなキラキラ金ピカのままに輝き続けるロックのクラシックが存在するわけです。この連載企画"ROCK CLASSICS SELECTIONS"では、現在のシーンに繋がるパンク、ロック、ラウドの名盤を各セレクターにピックアップしてもらい、セレクターの思いと共にお届けしたい。このシーンが好きでCDショップやサブスクでもっとディグりたい! というアナタに捧げる名盤特集。最高のロックエクスペリエンスをどうぞ!
第17回目のセレクターはDJ兼ライター、TAISHI IWAMIによるセレクション。今聴くとまたフレッシュな名盤をご紹介。

Select ROCK CLASSICS

RED HOT CHILI PEPPERS “BLOOD SUGAR SEX MAGIK” (1991)

Recommend by TAISHI IWAMI

2021年から30年前、1991年はロックにとってもっとも重要な年の一つだ。端的に言えば後世に多大な影響を与えた、いわゆる“名盤”が大豊作だった年。すなわち当コラムにおいて、決して避けては通れない時代の1ページなのである。

その象徴的な作品がNirvanaの2ndアルバム『Nevermind』だ。ジャケットで水中を泳ぐ全裸の赤ちゃんが、リリースから30年が経過した今になって、その写真が児童ポルノ法に抵触するとして多額の損害賠償を求めたことが物議を醸している現在。それについて、目に見えている事実だけで判断することは難しくこの場で言及することは避けるが、日本のワイドショーでも取り上げられていたことからも、同作の影響の大きさがよくわかる。故Kurt Cobainを中心にシアトルの小さなインディー・シーンから出てきたバンドは、派手にショーアップされたロックやポップスが席巻するメインストリームを、ロックの持つプリミティヴなエネルギーに回帰したサウンドと内省的な歌詞で塗り替え全米1位に。オルタナティヴ(別の可能性、とって代わるもの)・ロック / グランジが大ブームに発展するトリガーとなった。

また、ブリティッシュ・ヘヴィー・メタルとハードコアを飲み込んだスラッシュ・メタルの代表格で80年代のロック・シーンに君臨したMetallicaは、そんなオルタナティヴ・ロックの大きな波と共鳴するセルフ・タイトル・アルバム、通称ブラック・アルバムをリリースし、自身初の全米1位を獲得。30周年となる今年はリマスター盤に加え、さまざまなジャンルから当時のことを知らない世代も含めた総勢53組のアーティストによるトリビュート盤『The Metallica Black List』が、CDとデジタル配信で登場する(リマスターは9月10日に発売済み、トリビュート盤は10月1日)。

ほかにも、オルタナティヴ・ロック勢だとNirvanaと同じシアトルから、Soundgardenのメジャー2ndアルバム『Badmotorfinger』がヒットし、Pearl Jamのデビュー・アルバム『Ten』も翌年に全米2位を獲得。ジョージア州出身で80年代初期から活動していたR.E.M.の7thアルバム『Out of Time』もキャリア初の全米1位に。チャート・アクションこそ振るわなかったが、のちにシーンを代表するバンドになるSmashing Pumpkinsも『Gish』でアルバム・デビュー。轟音ギターとポップなメロディーが独特の脱力感とともに疾走し、オルタナィヴ/インディー・ロックのバイブル的存在の一つとなったDinosaur Jr.の『Green Mind』も1991年の作品だ。

さらにUKへと目を向けると、ロックとクラブ/レイヴ・カルチャーで発展したハウスやヒップホップなどを融合することが盛んに行われていたインディー・シーンのなかででもひと際輝きを放つ、Primal Screamの3rdアルバム『Screamadelica』もこの年。10月には30周年を記念しデモ音源などをプラスした『Demodelica』がリリースされる。アイルランドからは、My Bloody Valentineが2ndアルバム『Loveless』を発表。フォークもパンクもハードコアも飲み込んで、美しくも凶暴なフィードバック・ノイズと甘美なメロディーとともに吐き出した、シューゲイザー界の首領で異次元の存在で、今年はいくつかの媒体で大きな特集が組まれているが、筆者も寄稿した「シューゲイザー・ディスク・ガイド」の10年ぶりとなる改定版「シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition」も絶賛発売中なのでぜひ。

前置きが長くなったが、今回はそんな1991年組のなかから、Red Hot Chili Peppersのアルバム『Blood Sugar Sex Magic』にフォーカスする。日本では“レッチリ”の愛称で親しまれている彼らは1983年にカリフォルニア州ロサンゼルスで産声を上げた。現在のメンバーはヴォーカルのAnthony Kiedis、“Flea”ことベーシストのMichael Peter Balzary、ドラマーのChad SmithとギタリストのJohn Frusciante。オリジナル・メンバーはAnthonyとFleaの二人で、ChadとJohnは1989年の4thアルバム『Mother’s Milk』から加入した。Johnは現在までに二度脱退しているが2019年末に再々復帰している。

本作は『Mother’s Milk』でライジング・スターとして注目されるようになった2年後の5thアルバム。シングル「Give It Away」はグラミーの「最優秀ハードロック・パフォーマンス・ウィズ・ヴォーカル賞」を受賞し、「Under The Bridge」は全米2位を獲得。アルバム自体も全米で3位、全英では5位、カナダとオーストラリアとニュージーランドでは1位に輝き、レッチリは世界的なブレイクを果たした。

ブルーズ・ロックもガレージ・パンクもフォークもファンクもヒップホップもクロスオーヴァーする、日本で言う“ミクスチャー・ロック”の開祖的な存在であり、4人のスキルとユーモアと野生があってこそ成せる唯一無二のレッド・ホットなスパイスの効いたサウンドに痺れる。プロデューサーを務めたのはRick Rubin。SlayerやThe Black Crows、Johnny Cashら当時の新たなヒット・バンドからレジェンド勢も在籍したロックのAmerican Recordingsと、Beastie BoysやPublic Enemy、LL Cool Jらを擁するヒップホップのDef Jam Recordingsの創設メンバーで、ジャンルの垣根を飛び越えるレッチリ・サウンドを手掛けるにはうってつけの人物。その結果、バンドのポテンシャルは世界という大きなフィールドに向かって花開いた。

ラップや歌といった手法よりAnthonyという“人間そのもの”と言ったほうがしっくりくる肉体的なヴォーカル・パフォーマンス。作り込まれたリッチなサウンドではなく、楽器そのものの生々しさや臨場感に目を向けアップデートした、90年代のオルタナティヴ・ロックらしさがもっとも顕著に表れているチャドのドラム。パンクの荒々しさを通過したうえでよりファンクに接近し、シンプルでワイルド且つテクニカルなリフを連発するFleaのベース。シャープな16ビートのカッティングあり太いキラー・リフあり、Flea顔負けのスラップあり、哀愁漂うフレーズありのJohnのギター。そんな4人の個性がときに絶妙に調和し、ときに激しい化学反応を起こす、これぞバンドであり、これがグルーヴでなくて何なのだと言わんばかりのファンキーなサウンドを繰り広げるなかに、メロディー・メイカーたる資質を存分に感じることができるバラードもある。全17曲74分とけっこうなヴォリュームなのだが、その流れに身を任せるとあっという間で、そのオリジナリティはまったく色褪せない。

もはや既存のジャンルでは言い表せない個性的なクロスオーヴァー・ミュージックがどんどん出てきている現代。そんな今だからこそ、元祖クロスオーヴァー/ミクスチャー・バンドであるレッチリを、本作を、1991年という時代を、楽しみ踊りながら噛みしめていただきたい。

Selecter's Profile
TAISHI IWAMI
大阪を拠点に90年代後半よりDJを始める。心斎橋ROCKROCK、京都CLUB METRO、新宿ROLLING STONEといった東西老舗クラブでのレギュラーDJほかさまざまなイベントやフェスにも出演。レコードショップのバイヤーやラジオDJなども経験し、近年はライター/編集者として読むメディアの世界にも本格的に関わるようになる。2017年に上京。現在は執筆やDJ、イベント制作、自主でのマンスリー・パーティ・SUPERFUZZのオーガナイズなどを中心に活動中。
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ROCK CLASSICS SELECIONS ARCHIVE

Vol.19 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Descendents “Everything Sucks”(1996)
Vol.18 selected by SENTA - TURNSTILE “GLOW ON” (2021)
Vol.17 selected by Taishi Iwami - RED HOT CHILI PEPPERS “BLOOD SUGAR SEX MAGIK” (1991)
Vol.16 selected by Taishi Iwami - The Jesus And Mary Chain “ Psycho Candy”(1985)
Vol.15 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - LIMP BIZKIT "Significant Other"(1999)
Vol.14 selected by TAISHI IWAMI - The Vines "Highly Evolved"(2002)
Vol.13 selected by SENTA - SWITCH STYLE "....TO INFINITY"(1997)
Vol.12 selected by TAISHI IWAMI - Machine Gun Kelly "Tickets To My Downfall"(2020)
Vol.11 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - NOFX “Punk in Drublic”(1994)
Vol.10 selected by TAISHI IWAMI - The Music "The Music"(2002)
Vol.09 selected by SENTA - V.A. "NEW YORK'S HARDEST"(1995)
Vol.08 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Korn “Korn”(1994)
Vol.07 selected by TAISHI IWAMI - Jet "Get Born"(2003)
Vol.06 selected by SENTA from NUMB - Madball “Set It Off”(1994)
Vol.05 selected by TAISHI IWAMI-GREEN DAY “Dookie”(1994)
Vol.04 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - blink-182 “Enema Of The State”(1999)
Vol.03 selected by SENTA from NUMB - HATEBREED / Satisfaction Is the Death of Desire (1997)
Vol.02 selected by TAISHI IWAMI - Matthew Sweet / 100% Fun (1995)
Vol.01 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Rage Against the Machine / S/T (1992)