「東北全体会議 in APPI」INTERVIEW!!
Interview by Chie Kobayashi
Photo by bunta
野外ライブイベント「東北全体会議 in APPI」が10月3日に岩手・安比高原スキー場 特設会場にて開催される。このイベントは「いしがきミュージックフェスティバル」などを行う岩手・盛岡Club Changeが主催するもの。東北6県在住者のみが参加できる、東北のためのイベントだ。
そこで主催者である盛岡Club Changeの店長・黒沼亮介氏にインタビューを実施。Club Change系列のライブハウスや「いしがきミュージックフェスティバル」が、岩手のみならず東北の音楽シーンに与えた影響、そして「東北全体会議 in APPI」への想いを聞いた。
ライブハウスがなかった岩手県
──最初に黒沼さんの自己紹介をお願いします。
株式会社盛岡Club Changeの代表取締役です。18年前にClub Changeを作って、現在はCLUBCHANGE WAVE、the five moriokaもあわせて3店舗のライブハウスの経営、そのほか飲食業などもやっています。
──そもそもClub Changeを作ったのはどうしてだったんですか?
中学生の頃にパンクやハードコアパンクに目覚めた僕は、盛岡在住でバンドをやっていたんです。でも盛岡市どころか岩手県内にもライブハウスがなくて、ツアーを回っても地元でツアーファイナルができなかった。そんな話をSLANGのKOさんにしていたら「ないなら作ればいいんじゃない?」って言われて。で、27歳のときに知り合いの大工さん2人と、3人で作りました。そもそも東北は人口が少ないですし、岩手では高校卒業後、東京や仙台に出ていく人が多くて、なかなか音楽シーンが育ちにくくて。47都道府県の中で最後にライブハウスができたのが岩手だと思います。
──シーンができにくいとおっしゃっていましたけど、3店舗ができた今はシーンは出来上がっていますか?
大きいシーンにはなっていないと思うのですが、いろいろな世代の人たちがライブハウスに出て交流しているのを見ていると、集まる場所があるのは大きいなと思いますね。すごく良い形でつながりができてるんじゃないかな。Club Changeができてから20年近くの間にライブハウスのあり方は変わっていますが、逃げ場というか……弱い人間も少し変わっている人間も、いろんな人がやって来られるような場所にはなってきているのかなと思いますね。
盛岡の活性化を目的に始めた 「いしがきミュージックフェスティバル」
──2007年には「いしがきミュージックフェスティバル」を始められました。これはどういった想いからだったのでしょうか?
ちょうどその頃、市街地のデパートがなくなったり、郊外に大型店ができたりして、盛岡市に元気がなくなっているのを感じていて。何か盛り上げられないかなと思って、音楽に限らずさまざまなコンテンツのあるお祭りのような「いしがき文化祭」というイベントを開催したんです。その中で、音楽は世代を問わず楽しめるものだなと感じたので、翌年から音楽に特化した「いしがきミュージックフェスティバル」を始めました。あくまでも街を盛り上げる一つのイベントに過ぎないのですが、動員人数も参加者も増えていって。盛岡の人も、関連企業も、もちろん僕らみたいな制作陣も、みんなが一体となっている街ぐるみのイベントになっています。遠方から来てくれた人に「盛岡って良い街ですね」と感想をもらうこともあって、街の人も出演者も喜んでくれて、すごくうれしいですね。
──これだけの規模のイベントを、無料で開催しているのもすごいですよね。
目的は街の活性化なので、誰もが見られる環境を作る必要がありますから。普通に部活帰りの中学生が見ていたりするんですよ。若年層がライブを見て、その記憶や思い出を、大人になったときに街にフィードバックしてもらえたらという想いもあって。もちろん無料でやるのには厳しいこともありますけど、楽しいですね。
──アーティストは、ゲストとアマチュアあわせて100組ほどが出演しますが、中でもゲストアーティストは、それこそ黒沼さんのルーツでもあるパンクやハードコアのバンドが多いですよね。変な話、街ぐるみのイベントでモッシュやダイブが起こるアーティストを出演させるのは簡単なことじゃないような気がするのですが、そのあたりはいかがですか?
僕の口がうまいんですかね(笑)。「ロックって言ったらHi-STANDARDしかない」「ロックってダイブとかないんですか? 普通ありますよ?」と言って回っているので(笑)。というのは冗談で、パンクというのかラウドというのか、ジャンルわけは難しいですけど、そういう音楽って、やっぱりライブの熱量自体がすごく高いじゃないですか。万人受けはしないかもしれないけど、強烈なインパクトを放っていく。「いしがき」にはそういう科学反応を期待しているんです。とはいえ、出演者を音楽的なジャンルで決めているわけでもなくて、人間的に好きなアーティストを呼んでいるという感じです。アーティストってすごく偏っている人間も多いし、一般的には斜めに見られがちな人も多いですけど、いい感性を持って言葉に替えてくれる。生き方の指標みたいなものを出してくれる人たちだと思っているんです。だからそういうライブを見て、何か感じてもらえたらって。日食なつこも、中学生のときに「いしがき」でライブを見て、強烈なインパクトを受けて、そのあとClub Changeでライブハウスデビューをしてるんですよ。そうやって、ジャンルを超えていろんな人が影響を受けて育っていってくれているのは「いしがき」をやっていてうれしいことのひとつですね。
今じゃなきゃダメな人がいる
──コロナ禍の影響で、昨年と今年は「いしがきミュージックフェスティバル」が中止。「東北全体会議 in APPI」はその代わりのような気持ちで始まったものなのでしょうか?
結論から言うと、「東北全体会議 in APPI」は「いしがき」とは別ベクトルのイベントです。去年コロナ禍で「いしがき」ができなくて、今年はなんとかやろうと動いていたのですが、そもそも「いしがき」は盛岡の街の活性化のためのイベント。自分が盛岡市の住人であるということもあって、“盛岡の人は、今『いしがきミュージックフェスティバル』で街に人が集まることを望んでいないだろうな”と思い、中止という判断をさせてもらいました。ただ、ライブハウスや音楽事業をやっている身として、音楽を提供できないという現実にはすごくストレスを感じていて。去年もそうでしたけど「できないならできないでいいや」とは思えなかった。そこで音楽を伝える事業者として、音楽を提供する場を作ろうと思って企画したのが「東北全体会議」です。「来年のほうがいい」「再来年のほうが」という意見はあるのもわかるんですけど、僕は今じゃなきゃダメな気がしていて。
──それはどうしてでしょうか?
コロナ禍になる前に、仲のいいバンドのボーカルが癌を患って。ステージIVで、調子も悪かったので、勇気づけるためにイベントを企画していたんです。でもコロナ禍でできなくなって。結局イベントができないまま、そいつは去年の冬に亡くなってしまった。そのときに、「あのとき無理矢理にでもイベントをやっておけばよかったな」と思ったんです。やる側にも見る側にも、今年じゃなきゃ、今じゃなきゃダメな人がいるんですよ。
──コロナ禍だからこそ音楽やライブができることもあるでしょうしね。
あると思います。ある年、「いしがき」が終わったあとに、とある親御さんからメールをいただいたんです。当時中学生くらいのお子さんが、ずっと学校に行ってなかったんだけど、「いしがき」の10-FEETのライブを見て学校に行くようになったって。そのメールを読んだとき、音楽やライブが勇気を与えられたのかなと思ってすごくうれしかった。今の中学生や高校生って3年間のうちの2年間がコロナ禍でほぼ奪われている状態で。さっきも言った通り、岩手県の人たちは卒業したらほとんどが上京したり県外に行ってしまう。だから学生時代に地元の思い出が作れないまま終わってしまうのは悲しいんですよね。そういう意味でも、学生に地元でライブを見せてあげたい。あとは、大人の僕たちにとってもライブが1年も2年も見られないのってすごく健康に悪いじゃないですか。狂っちゃいそうになる。音楽やライブは、それを引き止めてくれる薬だと思うんです。そういう想いで開催を決意しました。
──「東北全体会議 in APPI」の参加者は東北在住者限定です。その理由を教えてください。
東北の人ってすごく真面目な人が多くて。いい意味で田舎者で地元を大切にしているので、コロナ禍の今、東北以外でやっているライブには行きづらいという問題があるんです。だから東北の人が来やすい環境を作りたいと思って、東北の人限定にしたというのが1つ。もう1つは、今年で東日本大震災から10年が経ったからです。コロナがあって、10年の節目もどこかふわっとしているんですよね。僕自身も含めて忘れてきていることもあるし、10年経ったこれから先どうしようかっていうことも、改めて考え直すきっかけが必要だなと思って。なので、ほかの地域の人には申し訳ないですが、東北の人たちで集まって語り合いたいなと。感染防止の観点から、実際には会場内で語らっちゃダメですけど(笑)。
“東北で音楽イベントを開催する”その意思表明を
──出演者にはG-FREAK FACTORY、MAN WITH A MISSION、MONOEYES、OAU、ROTTENGRAFFTY、10-FEET、The BONEZがラインナップされています。
「誰に会いたいかな」って想像して、会いたい人を集めたようなラインナップで。僕にとっての仲間みたいなアーティストたちですね。正直、当日まで本当に開催できるかわからないですけど、「急遽中止になってもいいよ」って言ってくれるような仲間たち。
──彼らにどんなライブを期待しますか?
何だろう……期待を裏切ったことのない人たちなので、通常運転してくれれば大満足です。
──オープニングアクトとして岩手のバンド・FUNNY THINKも出演します。
彼らは大船渡出身で、震災から10年を背負った今回のイベントに出ることに意味のあるバンドだと思ったので。彼らには東北の風を吹かせてほしいですね。東北に住んでる人間がバンドをやるってすごく大変なんですよ。東京も名古屋も大阪もすごく遠いし、今は緊急事態宣言で、行ったはいいけど帰ってこられなくなったりする。いろんな制限のある中でがんばっているので、応援してもらえたらうれしいです。すごくいいバンドなので。
──会場ではどのような感染対策を行う予定ですか?
まずは人数制限。2万人くらい入る会場で、来場者の上限は3000人としています。あとは東北在住者であるかを確認するIDチェック、マスクの着用、前方エリアでのソーシャルディスタンスを保った立ち位置指定。アルコールは持ち込み中止で、場内での販売もなし。飲食スペースもかなり広く取っているので安心して食事をしてもらえると思います。あとは車での来場のみとさせてもらっています。公共機関や会場付近での密を避けるほか、イベント中の逃げ場の確保にも繋がると思うので。あと来る皆さんには無理しないでほしいです。普段からライブハウスに来ているような方々ばかりだと思うので信用していますが、一人一人の心がけが大切になってきますので。(※詳しい新型コロナウイルス感染拡大予防への取り組みやガイドラインはイベントのサイトをご確認ください。https://tohoku-zentaikaigi.localinfo.jp/pages/5255046/GUIDELINE)
──そのほかに特徴や特色はありますか?
会場である安比高原は東北屈指のリゾート地。景色もすごくキレイですし、コロナ対策もかなり厳重にやっていて。ホテルもあるので、前日に泊まったりして、ぜひ会場も堪能してもらえるとうれしいです。
──では最後に「東北全体会議 in APPI」がどのようなイベントになりそうか、今の黒沼さんの想いを聞かせてください。
1年くらいだったらまだ我慢できたかもしれないですけど、もう2年くらいライブを見られていない人もいます。それはやっぱり健康によくないし、その間に環境が変わったり、心が弱ってしまっている人も多いと思います。そういう人たちに勇気を与えられるイベントにしたいですね。正直な話、いろいろな問題があるので、最終的にイベントが開催できなくてもいいと思っているんです。それよりもまずは、東北で音楽イベントを開催するんだという決意表明する、そのアクションが大切なこと。もちろん開催できるのが一番ですけどね。
東北全体会議 in APPI
日程:2021年10月3日(日)
OPEN 9:00 / START 10:00(END 19:35)※予定
会場:岩手県 安比高原スキー場 特設会場
出演者:G-FREAK FACTORY / MAN WITH A MISSION / MONOEYES / OAU / ROTTENGRAFFTY / 10-FEET / The BONEZ / FUNNY THINK(O.A)
チケット3次先行予約受付中
受付期間:9月17日(金)17:00~9月20日(月)23:59
・ローソン https://l-tike.com/tzkappi
・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/zentaiappi/
・e+ https://eplus.jp/tohokuzentaikaigi/
東北全体会議 in APPI OFFICIAL SITE