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ROCK CLASSICS SELECIONS Vol.12 selected by TAISHI IWAMI

この世に数多溢れる名盤と呼ばれる音源の数々。このシーンにおいても、そんなキラキラ金ピカのままに輝き続けるロックのクラシックが存在するわけです。この連載企画"ROCK CLASSICS SELECTIONS"では、現在のシーンに繋がるパンク、ロック、ラウドの名盤を各セレクターにピックアップしてもらい、セレクターの思いと共にお届けしたい。このシーンが好きでCDショップやサブスクでもっとディグりたい! というアナタに捧げる名盤特集。最高のロックエクスペリエンスをどうぞ!
第12回目のセレクターはDJ兼ライター、TAISHI IWAMIによるセレクション。今年、全米で話題をかっさらったMachine Gun Kellyのアレ!

Select ROCK CLASSICS

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Machine Gun Kelly "Tickets To My Downfall"(2020)

Recommend by TAISHI IWAMI

“ROCK CLASSIC SELECTION”ということで、私も2カ月に1回のペースで過去の“ロック名盤”を1枚あげて、当時の時代背景や作品を通じての自身の経験談などを書かせてもらってきたこのコラムですが、今回は2020年の締めくくりとして、今年もっとも印象深かったアルバムを紹介します。

Machine Gun Kellyはオハイオ州クリーブランド出身のラッパー/シンガーで10年代初期から活躍。当初からハードロックや90年代~00年代のオルタナティヴロック、ラップメタル/ニューメタル、ポップパンクやエモなどを中心としたロックバンドからの影響が強い音楽性を打ち出してはいたが、大きな括りではさまざまなジャンルの要素をミックスしたトラックにラップを軸にした声が乗る、“ヒップホップのソロアーティスト”というイメージだった。しかし、2020年に彼がリリースした本作『Tickets To My Downfall』は、自らのルーツである90年代~00年代のポップパンクに焦点を絞り、チャート上は低迷を続けるロックに対し「ポップパンクの新時代を創る。ロックを救う」という宣言のもと、どこをどう切り取ってもロックとしか言いようのない歌ものの作品を意図的に制作しリリースした。


そしてその言葉通り、本作は全米アルバムチャートで彼のキャリア史上初の1位に輝く。ロックアルバムとしては2019年9月にリリースされたToolの『Fear Inoculum』以来の出来事で、2020年に全米1位を獲得したロックアルバムは本作とAC/DCの『Power Up』のみ。2019年にはToolの前にVampire Weekendの『Father Of The Bride』も1位を獲ってはいるが、“ポップパンク”というカテゴリーで言うならばかなり久々、まさに快挙中の快挙だ。ちなみに同ジャンルの開祖的存在、Green Dayのニューアルバム『Father Of All Motherfuckers』は4位だった。

さらに突き詰めると浮かび上がってくるもうひとつのポイントは、彼がソロアーティストであるということ。圧倒的にバンドのイメージが強いポップパンクというジャンル。単曲ではなくアルバム単位で全米チャートのトップ10レベルのヒットを飛ばした実績となると、ポップパンクと重なる部分も多く、それよりも音楽的なレンジの広いエモを含めても、私はほかにOwl Cityくらいしか思い当たらない(Owl Cityをこの文脈に含めることには物議があると思うが)

ではなぜMachine Gun Kellyは、そんな偉業を成し遂げることができたのか。まずひとつは、彼がすでにトップスターの一人であり、よほどの駄作でもなければある程度の数が見込めたことが挙げられる。実際に聴けばわかる素晴らしい内容。では、ほんとうにそれだけで大胆な方向転換、しかもジャンルを狭めるという変化が世に受け入れられたのだろうか。私の答えはノーだ。そこには、さまざまな予兆や後押しがあった。

例えば、Lil PeepやXXXTentacion、Juice Wrldらエモやポップパンク、オルタナティヴロックなどを大きなルーツに持つラッパー/アーティストが、ヒップホップの進化と溶け合いヒットし、いわゆる“エモラップ”と呼ばれるスタイルが台頭したことや(3人とも若くしてこの世を去ってしまったが)、ロックから受けた影響を公言し、コロナ禍を受けてNirvanaのトリビュートライヴを自宅から配信したPost Maloneの存在。


彼らそれぞれの活動は広い視点で見ると、ジャンルレス、ポストジャンル的なイメージだが、あえてロックの文脈という一点から捉えると、確実にその魅力に光をあて、まだまだアップデートできる余白があることを証明してみせたと思う。そして今もその流れは進行中。私の好みにはなるが、エモにポップパンク、ラップメタルにヒップホップまで何でもありのNothing,Nowhereや、日本国内だと根は完全にMy Chemical RomanceやL’Arc~en~Cielといった歌もののロックでありながらバンドとしては活動しなかった(sic)boyら、ソロだからこそ編成や共作者を自由に変えジャンルを往来することができるアーティストは、まだまだこれから大きな芽を出しそうな予感に溢れている。

一蓮托生の仲間とバンドを組み生活をともにしながら一斉に音を鳴らすことで生まれるエネルギーやヒストリーというロック最大の魅力は、一人ないしは世界中から選抜したメンバーを必要に応じて入れ替えながら完結できる、DTMやネットワークの進化ありきの潮流と相性が良いとは言えない。それによって世間的には“古い”というイメージが持たれてしまったロックの巻き返しにおいて、そこにうまく対応しているバンドも数多くいるが、Machine Gun Kellyやここまでに紹介したソロアーティストたちの貢献度はかなり大きいように思う。


そして、Machine Gun Kellyは、さまざまなジャンルのミクチャースタイルを経たうえで、ここにきてあえて20年も前に確立されたオールドスクールなポップパンクに的を絞ったアルバムを作った。バンドであることがデフォルトだったポップパンクに、新たな価値観を提案。そこにはプロデューサーとして、ポップパンクを語るに外せないレジェンドで、もともと柔軟な音楽センスに定評のあったBlink-182のTravis Barkerもいた。

だからと言って、前述した“古い”と言われるロックを、私はネガティヴに古いとは思わない。音楽なんて私なぞが語るまでもなくやりたいようにやればいい。もっと言えばロックたるものバンドであるべき、ギターとドラムとベースとヴォーカルのみ、シンセやライヴでのイヤーモニターなんて邪道だというさらに昔ながらの考えがあったとして、それは利便性に溢れた今だからこそ、何よりもカッコいいとも思う。

しかし、それだけだと、かつて隆盛を誇ったシーンも縮小していくことは否めない。手法の変化やジャンルを越境することによる化学反応、そして概念の拡張という進化的な側面がトレンドを担ったときに、古き良きものは再び際立ち、リヴァイヴァルする。そういった今までは外側だと考えられてきたものとの結合という意味では、全体的なイメージとして、10年代のロックやポップパンクは後れをとってきた。しかし今は違う。20年代という新たなディケイドの幕開けとともに、新たなフェーズに突入したロックの、ポップパンクの未来が楽しみで仕方がない。

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TAISHI IWAMI
大阪を拠点に90年代後半よりDJを始める。心斎橋ROCKROCK、京都CLUB METRO、新宿ROLLING STONEといった東西老舗クラブでのレギュラーDJほかさまざまなイベントやフェスにも出演。レコードショップのバイヤーやラジオDJなども経験し、近年はライター/編集者として読むメディアの世界にも本格的に関わるようになる。2017年に上京。現在は執筆やDJ、イベント制作、自主でのマンスリー・パーティ・SUPERFUZZのオーガナイズなどを中心に活動中。
https://twitter.com/TAISHI_IWAMI
https://www.instagram.com/taishi_iwami/
https://twitter.com/superfuzz2019
https://www.instagram.com/superfuzz2019/


いかがでしたでしょうか、今回の"ROCK CLASSICS SELECTIONS"。
Machine Gun Kellyの全米チャート1位獲得は正直ビビリましたね。2021年は全世界的にまたバンドがメインストリームを暴れ回るのか?? 非常に楽しみです。それでは次回もお楽しみに!


ROCK CLASSICS SELECIONS ARCHIVE

Vol.11 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - NOFX “Punk in Drublic”(1994)
Vol.10 selected by TAISHI IWAMI - The Music "The Music"(2002)
Vol.09 selected by SENTA - V.A. "NEW YORK'S HARDEST"(1995)
Vol.08 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Korn “Korn”(1994)
Vol.07 selected by TAISHI IWAMI - Jet "Get Born"(2003)
Vol.06 selected by SENTA from NUMB - Madball “Set It Off”(1994)
Vol.05 selected by TAISHI IWAMI-GREEN DAY “Dookie”(1994)
Vol.04 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - blink-182 “Enema Of The State”(1999)
Vol.03 selected by SENTA from NUMB - HATEBREED / Satisfaction Is the Death of Desire (1997)
Vol.02 selected by TAISHI IWAMI - Matthew Sweet / 100% Fun (1995)
Vol.01 selected by BONE$ aka Shuhei Dohi - Rage Against the Machine / S/T (1992)