COLUMN

SATANIC ART CHRONICLE Vol.03 by Hirotton

シーンの中でバンドのリリースする作品のアートワークやマーチャンダイズのデザインを手掛けるデザイナーやアーティストたち。彼らのデザインは音源の顔として我々の印象に残っていき「あー! あの飛行機のジャケのやつね!」なんていう会話に繋がっていく。
SATANIC CARNIVALでも、シーンで活躍するアーティストが多々参加している。この本企画"ART CHRONICLE"では、このシーンにいるアーティストに彼らのルーツを紹介してもらう。そのルーツは少なからずアーティストに影響を与えているし、このシーンが好きなのであれば知っておくべきレジェンドたちだ。
アーティストに教えてもらえるアートのお話、"ART CHRONICLE"。第3回はSATANIC CARNIVALでも度々ライブペイントで登場しているドローイングアーティスト/デザイナー、Hirotton! ![IMG_1719]

###Profile Hirotton
ドローイングアーティスト/デザイナー。2012年に拠点をロンドンから東京へ移す。数々のバンドのマーチャンダイズ、アートワークを手掛けつつ、ファッションブランドやHeroin skateboardsといったスケートブランドともコラボレートする。自作のシルクスクリーンを用いたアート、アパレルプロダクトも幅広く支持されている。
https://www.instagram.com/hirotton/
https://hirotton.theshop.jp/


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※SATANIC CARNIVAL'19のライブペイントの模様より

####Hirotton SELECT.01:SWAMPY
アメリカのグラフィティライター。https://www.instagram.com/swampy/
###about SWAMPY by Hirotton
"自分のバックボーンにあるアーティストを紹介するにあたって、第1回目はカリフォルニア出身、正体不明のストリートアーティスト’SWAMPY’を紹介したいと思います。

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自分が長くディグっているカルチャーの一つにトレインホッピングというカルチャーがある。
簡単に説明すると、北米ではじまったカルチャーで、貨物列車に違法で飛び乗って移動し、楽器を弾いたりグラフィックを描いたりとクリエイティブなことをしながら社会に縛られず、旅を続ける若者たちのこと。
それを体現している人たちをトレインホッパーと呼ぶ。

トレインホッパーは自分がロンドンで経験してきたスクワット(放棄された土地や建物を不法占拠すること)のカルチャーと共通点が多く、皆、ヒッピーという感じよりはルーツがパンクやハードコアにあって、アナーキズムを基本としているのでタトゥーや服装も独特でそこにも魅力を感じていた。

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トレインホッパーの資料はいくつか持っているのだが、その中でよく目にする壁に描かれているキャラクター、それがSWAMPYのアートワークだった。
SWAMPYはまさにそのトレインホッピングをしながらアーティスト活動をしている。
主に貨物列車や、廃墟、ストリートの壁に彼のオリジナルキャラクターを描いていて、カリフォルニアはもちろん、ニューヨークでもよく見かけた。
許可なくアートワークを残していっているため、どこにもSWAMPYという名前以外は公表しておらず、謎に包まれている。

彼のアートワークは、自由奔放でどこかノスタルジックな雰囲気がするし、その中に彼のライフスタイルであるトレインホッピングや不法占拠、アナーキズムの匂いもする。
列車の上からじゃないと見えない景色、旅の中でしか味わえない経験の美しさをユニークなスタイルで表現していると感じた。
広い範囲で実際に旅をしながら自身のアートワークを残していくその活動スタイルもリスペクトしていて、いつか会うことができれば話してみたいと思っていた。
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2014年にそのタイミングは急に訪れた。
当時、ロンドンから拠点を東京中野に移していた自分は、中野駅の周辺でSWAMPYのステッカーを発見し、すごく興奮した。
まず本当にSWAMPYが作ったステッカーなのか、また本物だとして誰がここに貼ったのか、とにかく気になっていた。
それから同時期に新宿や渋谷でも同じステッカーが貼られているのをいくつか発見した。
その数日間で確実に誰かが貼っているようだった。

その頃ちょうど東京での初の大きな個展を自分は控えていたのだけど、準備もひと段落し、息抜きに友達のライブを観に下北沢に行っていた。
下北沢のライブハウスで共通の友達を通し、カリフォルニアのオークランドから来ている女の子にあった。
自分の個展のフライヤーを渡すと、もう1人こういうアートワークを好きな友達が今日本に来ているから一緒にいくよ!と言われた。

個展当日、その彼女が連れてきたやつに自分のステッカーを渡すと、彼もポケットからステッカーを出し、渡してくれた。
それがなんとSWAMPYのステッカーだったのだ。
「え?どういうこと?」と聞くと「オレがこれ描いてるんだ」。と言う。
偶然なのかなんなのか軽いパニックになったのだがとにかく嬉しく、色々な話をした。

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その話の中で彼がサンフランシスコで行なった"Safe in my cave"というタイトルの個展の話が特に印象的だった。

"Safe in my cave"とは直訳すると"安全な洞窟"という意味だが、そのタイトルにはこんな想いが込められていたらしい。

「旅と旅の間で自分の部屋があって寝る場所が毎日確保されていた時、安全に寝るところがあることをとても贅沢に感じたし、すごく快適だったんだ。文字通り、その場所はおれの安全な洞窟で、ずっとここにいたいと思っていた。だけど、その安全なスペースがだんだん自分を縛っていることに気づいた。時におれたちはその殻を破って、洞窟から離れ、自分と向き合う必要がある。洞窟は安全だけど影であって、そこに留まっていては成長できない。陽を浴びる必要があると思うんだ。それで皮肉も込めてこのタイトルにしたんだよ」。

ちょうど彼と会ったその場所の自分の個展のタイトルが"FEELING GOOD IS SUCH A WASTE"というタイトルで"気分がいい時ほど無駄な時間はない"と偶然にも彼が話している内容と全く同じ意味を込めていたのでその話に深く共感した。

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ちなみにSWAMPYの個展"Safe in my cave"には人が溢れかえるほど来ていて、SWAMPY本人はギャラリーの片隅で椅子に座ってその様子を眺めていたらしいが、誰も彼の顔を知らないので、一度も話しかけられなかったらしい。

また旅の途中にどこかで会って話をしよう、SWAMPY。"



連載"ART CHRONICLE"第3回目、Hirottonが紹介してくれたのはSWAMPY。そんな偶然な出会いがあるの?? っていうぐらいの驚きと衝撃。これだからストリートアートの世界は面白いんですよね。ちなみにグラフィティというカルチャーがアートシーンにあって、そのアーティストは顔が世間に知られていないことが多いんです。そして、だからこそ素晴らしくて面白いんです。街に描いている一見誰も気づかないアートも改めて見返してみても良いかもしれないですね。
次回もお楽しみに!!
####SATANIC ART CHRONICLE ARCHIVES 

Vol.17 by TM paint
Vol.16 by KISHI KOUJI - Roy Lichtenstein
Vol.15 by KISHI KOUJI - JIM PHILLIPS
Vol.14 by Hirotton - Mark Foster
Vol.13 by TM paint コラム番外編! サタニック反省会
Vol.12 by Hirotton - Hundertwasser
Vol.11 by KISHI KOUJI - FRANK KOZIK
Vol.10 by TM paint - Melodic Punk Cover Art 2000年ver
Vol.09 by KISHI KOUJI - 佐伯俊男
Vol.08 by Hirotton - BB BASTIDAS
Vol.07 by TM paint - -僕が影響を受けた "90sくらいのMelodic Punk Cover Art" を描くアーティストたち-
Vol.06 by KISHI KOUJI - Boris Tellegen / DELTA
Vol.05 by Hirotton - USUGROW
Vol.04 by KISHI KOUJI - Andy Warhol
Vol.03 by Hirotton - SWAMPY
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Vol.01 KISHI KOUJI - 村上隆