COLUMN

SATANIC ART CHRONICLE Vol.09 by KISHI KOUJI

シーンの中でバンドのリリースする作品のアートワークやマーチャンダイズのデザインを手掛けるデザイナーやアーティストたち。彼らのデザインは音源の顔として我々の印象に残っていき「あー! あの飛行機のジャケのやつね!」なんていう会話に繋がっていく。
SATANIC CARNIVALでも、シーンで活躍するアーティストが多々参加している。本企画"ART CHRONICLE"では、このシーンにいるアーティストに彼らのルーツを紹介してもらう。そのルーツは少なからずアーティストに影響を与えているし、このシーンが好きなのであれば知っておくべきレジェンドたちだ。
アーティストに教えてもらえるアートのお話、"ART CHRONICLE"。第9回はKISHI KOUJIのターン。あのバンドのあのジャケットアートワークを描いたアーティストをご紹介。

 

Profile KISHI KOUJI

グラフィックデザイナー。パンク、ストリート、ポップアートなどに強い影響を受け、友人のバンドのフライヤーを手掛けることでキャリアをスタート。音楽シーンを中心に、アパレルブランドや企業にもアートワークを提供している。
http://irodoristudio.com/
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KISHI KOUJI SELECT.04:佐伯俊男

自分が影響を受けたアーティストを紹介するこの企画、今回は絵師「佐伯俊男」氏です。

1945年宮崎県生まれ、4歳から大阪で育つ。1969年東京で活動を開始。寺山修司・澁澤龍彦らの目にとまり、大阪万博が行われた1970年に男性向け週刊誌「平凡パンチ」でデビュー。
同年処女作「佐伯俊男画集」を出版。パリにて原画展を開催するも、原画の全てを盗まれてしまう。その後も数々の作品集を出版し続け、アメリカ・フランスなど世界中で個展を開催されていて海外からの評価も高い。


揺月(2018)
JP POP UNDERGROUND / Curated by NANZUKA

エロス、ユーモア、ホラーが混じりあった湿り気のある画風はまさに「現代の春画」。
現実と想像、性と死。幼少期、思春期の記憶。背後から忍び寄る、妖怪、獣、闇。心の奥のさらに深いところにあるタブーも何もない自由な表現。何度見ても見る度にいつも心揺さぶられる。

音楽関係の作品も多く「三上寛」や「ジョン・レノン&オノ・ヨーコ」のアルバムジャケットにイラストが使用されていたり、「OZZFEST 2000」では「Incubus」のステージ装飾を担当されている。


John Lennon & Yoko Ono / Sometime in New York City(1972)

また、ここを読んでいる方はご存知の方も多いであろう「GARLICBOYS」のアルバムジャケットも4作担当されていて、僕自身「佐伯俊男」氏を知ったきっかけは「GARLICBOYS」のジャケットからだった。どの作品もバンドの世界観とマッチしていて、素晴らしい傑作。


「マッシュルームカットとダッフルコート(2001)」「ロマン(2001)」「十(2004)」「再録ベスト(2011)」

2006年頃、当時同居していた「GARLICBOYS」のBa.PESSINの紹介でTシャツやフライヤーのデザインをさせて頂けるようになり、初めはその資料のような感じでアルバム以外の作品を掘っていたが、すぐにその魅力に惹かれていった。知れば知るほど怖いもの見たさのようなもので、どんどんはまっていった。

その後、2011年「再録ベスト」リリースの際、ジャケットイラストを「佐伯俊男」氏が担当し、レイアウトデザイン構成を僕が担当させて頂く事になった。
原画が手元に届いた時は本当に興奮し緊張した。原画が届いてから数日後のある日、起き抜けに見覚えのない電話番号からの着信があり、出ると聞き覚えのない声だったので、間違い電話か何かの営業かと思い、寝ぼけながら無愛想に「え?はい?」などと受け答えしていると「サエキ」と聞こえた、ような気がした。「サエキ」が「佐伯」に変換されるまで数秒…直接ご本人から連絡があるなんて1ミリも頭になかったので、慌てふためき脇汗びっしょり、見えもしないのに電話越しに正座で何度も何度も頭を下げた。そんなマヌケな若造にも、氏はとても優しく丁寧に色々と説明をしてくれた。

「再録ベスト(2011)」の仕事は本当に勉強になった。自分以外の方が描いた絵のカラーをつけていく作業自体が初めてだったし、原画の上に貼られたトレーシングペーパーに直筆でびっしり書かれた色指定も、僕の世代ではほとんど目にすることがなくなっていたので興奮した。大胆で絶妙なカラーも大好きだったので、CMYKの数値を知れてとても嬉しかったし、特に特徴的な赤の色は、自分の引き出しにない掛け合わせで感動したのを覚えている。


佐伯俊男初期作品集(1997)・淫剣花(2001)


痴虫2号(2003)・夢隠蛇丸(2010)

この仕事を続けていれば、いつかお会いできる日がきて、電話での無礼を直接謝罪し、そしてお礼を言える日がくると思っていたが、それはもう叶わなくなってしまった。
そのことが心残りで、今でも知らない電話番号からの着信の度に、あの日のことを思い出す。


連載"ART CHRONICLE" Vol.09、KISHI KOUJIが紹介してくれたのは佐伯俊男。この和の魅力、知っておくべき芸術なのだ。
次回もお楽しみに!!
 

SATANIC ART CHRONICLE ARCHIVES

Vol.17 by TM paint
Vol.16 by KISHI KOUJI - Roy Lichtenstein
Vol.15 by KISHI KOUJI - JIM PHILLIPS
Vol.14 by Hirotton - Mark Foster
Vol.13 by TM paint コラム番外編! サタニック反省会
Vol.12 by Hirotton - Hundertwasser
Vol.11 by KISHI KOUJI - FRANK KOZIK
Vol.10 by TM paint - Melodic Punk Cover Art 2000年ver
Vol.09 by KISHI KOUJI - 佐伯俊男
Vol.08 by Hirotton - BB BASTIDAS
Vol.07 by TM paint - -僕が影響を受けた "90sくらいのMelodic Punk Cover Art" を描くアーティストたち-
Vol.06 by KISHI KOUJI - Boris Tellegen / DELTA
Vol.05 by Hirotton - USUGROW
Vol.04 by KISHI KOUJI - Andy Warhol
Vol.03 by Hirotton - SWAMPY
Vol.02 TM paint - さくらももこ
Vol.01 KISHI KOUJI - 村上隆