"東北全体会議 in APPI" LIVE REPORT!!
Report by Chie Kobayashi
Photo by Maki Ishii
2021.10.3
“東北全体会議 in APPI” @安比高原スキー場 特設会場
「東北全体会議 in APPI」は岩手・盛岡Club Changeが主催した野外イベント。東北6県在住者のみが参加できる、東北のためのイベントだ。このイベントの開催までの経緯はこちらの記事(https://satanic.jp/news/detail/MTIzNw==)で確認してもらいたいのだけど、コロナ禍の今、東日本大震災から10年という節目の今、“今じゃなきゃダメな人がいる”、その想いから企画された。
聞くところによると、「東北全体会議 in APPI」の会場である安比高原スキー場は基本的に霧の多い場所だという。それを聞くまで、まさか霧が出る場所などと思う余地もなかった。数日前まで日本列島に台風が近づいていたことも、この会場が普段霧で覆われていることも嘘みたいに、当日はすっきりとした晴天が広がった。
オープニングアクトを務めたのは地元・岩手のFUNNY THINK。「音楽雑誌で見ていたようなこういうステージに憧れていた」という彼らは、胸を張って「岩手県、FUNNY THINK始めます」と自己紹介すると、気持ちの良いパンクロックナンバー「パンクロックが鳴る夜に」でスタート。大船渡出身の彼らは、小学生の頃に東日本大震災を経験した。そして現在はコロナ禍。金野一晟(Gt, Vo)は「いつも救ってくれたのは音楽でした。今日は音楽で返す番だと思います」と言うと、“東北の歌”「桜が咲く頃に」へ。それまでの性急な楽曲群とは違い、ピンク色の照明に照らされる中で優しくゆったりと歌い上げる姿は観客の胸を打つ。間奏では金野が「悲しい歌じゃない、東北の歌だ」と叫んだ。歌詞は「俺はまだここで生きている」。東日本大震災から10年経った2021年に、彼らのパンクロックで、「東北全体会議」と冠されたイベントの幕が開いた。
「バンドとオーガナイザーとお客さんは三つ巴でなくちゃだめで。どれか一つでも欠けると成功しないと思ってる。今日、この覚悟と挑戦、そこだけ意識してほしい」、そう話したのはG-FREAK FACTORY 。「Unscramble」「REAL SIGN」で勢い付け、「Fire」では優しい火を東北に灯す。「真上に飛ぶのはいんだってよ」と声を弾ませながら煽った「日はまだ高く」と、バンドは東北のオーディエンスたちとの再会を楽しむ。茂木洋晃(Vo)は「全員東北なんでしょ?考えたもんだ」と唸り、「調子はどうだい?」と尋ねながら、うれしそうに観客の顔を見渡していく。「Too oLD To KNoW」で決死の気迫を見せたあと、「今日の会議に1つのトピックを投げる。『ダディ・ダーリン』という覚悟」と前置きをし、ゲストにTOSHI-LOWを迎えた「ダディ・ダーリン」へ。自身の覚悟を提示して“会議”のステージをあとにする説得力はさすがだった。
KAZUOMI(Gt, Programming)の治療療養のため、4人での登場になったROTTENGRAFFTY。「4人のROTTENGRAFFTYもマジでヤバいってところを見せつけにきたのでよろしくお願いします」とNOBUYA(Vo)が言っていた通り、4人は序盤からいつにも増して熱のこもったパフォーマンスで、あっという間に会場をライブハウスに変えてしまう。とはいえ、いつものライブハウスとはいかないファンの様子を見てN∀OKI(Vo)が「声出せない分、ステージに上がってるやつらが全部やるから。全部アクションで返してくれ!」と呼びかけ。彼らの思いを受け取ったオーディエンスは、2人の哀愁漂うボーカルから始まる「Goodbye to Romance」や、「先が見えない未来 何もできないなら踊れ」と歌詞を替えて歌われた「銀色スターリー」でさらにヒートアップ。「ライブハウスは死なねえ!」とのシャウトから始まった「ハレルヤ」では「守り抜いて、守り抜いていくぞー!」との咆哮が会場いっぱいに響き渡った。最後にNOBUYAが改めて、「俺たちが京都からやってきた、5人組ロックバンド・ROTTENGRAFFTYだ!」と宣誓した姿からは、バンドの強い覚悟が見えた。
サウンドチェック時から心地よい音楽を奏でていたのはOAU。チェックを終えると「16:20からMONOEYESです、よろしく」と自分たちではなく、MONOEYESの宣伝をして去っていくのも“らしい”。自身のスタート時間に改めてステージに登場すると、TOSHI-LOW(Vo, Gt)が「たぶんこういう景色が見たくて、いや違うな、今日の全体会議のために作ったんじゃねえかと思うんですけど……そう思った人は一緒に歌ってください、心の中で」と告げ、まさに“そびえる山の前で”「こころの花」を丁寧に歌い上げた。「東北全体会議」出演の喜びをMARTIN(Vo, Violin, G)がハッピーならぬ「I'm appi」と言い得て(?)いたが、彼らはその後も新曲のインストゥルメンタルや「Making Time」など、appi……ならぬハッピーな音楽を届けていく。最後に「コロナ禍で、何しに俺らが東北に来たのか。それを東北の人がちゃんと伝えて、またフェスやライブハウスで会いましょう。それまでに絶対にご無事でいてください。帰り道も、気をつけて」と告げると、「帰り道」でそのステージを優しく締めくくった。
「3年ぶり東北、取り返そうぜ」との円陣で気合を入れたThe BONEZは、「ガンガン行かせてもらいます」とのJESSE(Gt, Vo)の宣言通り、アンセム「We are The BONEZ」や最新曲「Rusted Car」などを間髪入れずに次々と披露。MCでは「僕らバンドマンはやれる隙間があればどんな状況でもやる運命にあると思っている」「やめていくバンドが増えるんじゃなくて、見たこともないカッコいいバンドが増えるように」と頼もしい姿勢を見せる。T$UYO$HI(Ba)、ZAX(Dr)による骨太のビートでスタートする「Thread & Needle」のシンガロングパートでは歌声の代わりにたくさんの手が上がり、その景色を見たJESSEは「受け取ったぞ!」と笑顔になり、バンドは一層力強い音を聞かせた。最後のMCでは会場をぐるりと見渡し、子供の姿を発見したJESSE。「ここにいる大人たちは奇跡っていうものを信じてきたからさ、諦めんなよ!見とけ!」と言い放ち、大人にも子供にも、“奇跡”のステージを見せつけた。
東日本大震災後、細美武士(Vo, Gt)が東北地方で弾き語りライブを行っていたことをきっかけに結成されたMONOEYESは、細美いわく「東北生まれ、東北育ち」。太陽が傾き始めた頃に登場した彼らは、太陽を惜しむようにアップテンポなナンバーを連発。3曲を終えると細美が、太陽を指差し「太陽見るの今日はこれで最後だよね。ありがとう、また明日」と呟いて、ミディアムチューン「Interstate 46」へ。少しずつ暗くなっていく空と相まって、よりエモーショナルに響く。「Somewhere On Fullerton」で再開した後半では、「Two Little Fishes」でステージに恐竜……ではなくTOSHI-LOWが乱入して盛り上げる一幕も。その後、「外は白い朝だ」という歌詞が冬はスキー場となる安比高原に広がった「グラニート」では、うれしそうに会場を見渡しながら「いつだってほらこんな風にさ」と歌い、ラスト「リザードマン」では「今頃はどこかで星を見てるよ」と歌いながら満点の星空を指差す。岩手の雄大な大自然を感じさせる、「東北生まれ、東北育ち」らしい、愛情たっぷりのステージだった。
すっかり日が落ち、肌寒くなってきた安比高原に「我々ニトッテハ最適ナ気温」だというオオカミたちが参上。「Dive」でテンションを一気に引き上げると、続く「database」では10-FEETのTAKUMA(Vo. Gt)をゲストに迎え入れる。リュックを背負ったTAKUMAはDJ Santa Monica(DJ)に飲み物を手渡したり、リュックを預けたりと、リラックスした雰囲気でコラボステージを楽しんでいた。その後、まさに場内を“DEEP”に染め上げた「INTO THE DEEP」や、Jean-Ken Johnny(Gt, Vo, Raps)とTokyo Tanaka(Vo)のハーモニーが美しい全日本語詞の「フォーカスライト」などが、澄み切った星空の下に広がる。「少シズツライブガデキルヨウニナッテイマスケド、主催者モヤル側モ皆サンモ、油断スルコトナク、デモ気負ウコトナク、共ニ頑張ッテイキマショウ」と想いを口にすると、「FLY AGAIN -Hero's Anthem-」でフィニッシュ。クライマックスのような盛り上がりを見せて、トリの10-FEETへとつないだ。
10-FEETはサウンドチェックから、「盛り上がるからみんなあったまるやろ」と観客を気遣う選曲「SHOES」で、文字通り観客を温める。そしていつも通り、入場時のSE「交響組曲『ドラゴンクエストIII』そして伝説へ…」が流れメンバーがステージに……と思いきや、ステージに登場したのはMAN WITH A MISSIONのJean-Ken JohnnyとTokyo Tanaka。続いて10-FEETメンバーが「違うって! 早いって!」と制止して笑いを誘うと、3人+2匹による「super stomper feat. MAN WITH A MISSION」でライブをスタートさせた。「これで最後だと思ってやろうよ、もったいないからさ」とTAKUMAが言っていたが、その言葉を体現するかのように「RIVER」「シエラのように」「アオ」など新旧の楽曲を次々と、エモーショナルに届けていく3人。「その向こうへ feat. ROTTENGRAFFTY」ではROTTENGRAFFTYのNOBUYA、N∀OKIがステージへ。次々とコラボステージが繰り広げられる様に「京都大作戦」もコロナ禍で思うようにいかなかったことを思い出した人も多かったことだろう。その悔しさや悲しさを、強さや優しさに変えて、10-FEETは全国へ届けてくれるのだ。「こんなところで諦めたらもったいないから、また必ず会おうね」、そう言うと最後に「蜃気楼」を聴かせてくれた。オープニングアクトを含めた計8組、主催の盛岡Club Change、参加すべての想いを背負って、「東北全体会議」を締めくくった。
G-FREAK FACTORYの茂木が言っていた。「今日みたいな多くの成功が、最終的にフェスという誤解にメスを入れていく」と。この日のスイングは、間違いなく、次へとつながる一打になったことだろう。新型コロナウイルスという未曾有の自体に見舞われた2021年。東日本大震災から10年を経た2021年。この年に行われた「東北全体会議 in APPI」。この有意義な会議で交わされた議論や、導き出された結論は、次のバッターへ。