Who’s Next by SATANIC Editing Room Vol.10: IRIE BOYS
Photograph by Ryo Kuzuma,Text by DMRT
連載企画"Who's Next"はSATANIC ENT.を編集するスタッフが、今現在気になっているけど、まだSATANIC ENT.ではピックアップしていない次世代のバンド・アーティストに会いに行き、ルーツや活動、それを取り巻くカルチャーなどを一方的に紹介するというシンプルかつ偏愛極まりない企画。
第10弾は横浜発、IRIE BOYS。ダヴ・レゲエの要素をパンク、ハードコアに織り交ぜ、バンドならではのオリジナリティ溢れる形でサウンドを鳴らすバンドだ。IRIE BOYSは初となるフルアルバム『Buddys FM 045』を7月7日にリリース。これが各方面で大いに反響を呼んでいる。今、絶対に注目しておきたい彼らを直撃。
※ドラマーのShinyonP2はスケジュールの都合上、欠席。
L to R: Shinhong Park(Gt), Alan James Ishida(Vo/Djembe), Riku(Ba)
民族音楽の要素を取り入れたサウンドを目指して
ーIRIE BOYSはParkさんとAlanさんが2011年に結成したバンドがもとにあるそうですが、どのような経緯で現在の形になっていったのか教えてもらえますか?
Shinhong Park(以下、Park):Alanと会ったのは、2010年でリザード(横浜のライブハウス Club Lizard Yokohama、現在は営業終了)でした。共通の知り合いがいて、出会ってすぐ遊ぶ約束をしたんですけど、最初のAlanの登場が鮮烈だったんですよね。
ー鮮烈と言うと?
Park:Alanがオレの家に着いてドアを開けたら、血だらけで立ってたんですよ。「どういうこと???」って聞いたら「大男にいきなりボコボコにされた」って(笑)。
Alan James Ishida(以下、Alan):ちょうど明け方だったんです。Parkの家に向かう途中に長く薄暗いトンネルがあるんですけど、素通りしようとしたら、後ろからなぜかタコ殴りにされたっていう。
Riku:通り魔みたいじゃん(笑)。
Park:服もボロボロになってて、ちょうど洋服屋に遊びに行く予定だったから、「すぐに着替え買いに行こうぜ!」って。そんな登場でしたからね、もうコイツしかいないなって思って、バンドやろうって誘ったんです。最初はQARってバンド名でやっていたんですけど、初ツアーのときにドラマーが急に抜けちゃって。周りに叩けそうなやつがいなかったんで、かろうじて叩けそうなオレの兄貴(ShinyonP2)を誘って、最初はサポートドラマーとしてやってもらってたんです。同時にベーシストも次々に辞めちゃってたんですよね。
ーそこでベーシストを探し始めた、と。
Park:はい。なかなかベーシストが決まらない中で、知り合いの中で1番一緒にバンドやりたかったのがRikuだったんすよ。最初は渋ってなかなか入ろうとしなかったんすけど。ちなみにRikuと出会ったのもリザードです。当時はバンド云々関係なく、しょっちゅう一緒に飲み歩いて遊んでいたんですよ。
ーRikuさんはなぜ、加入を躊躇されたんですか?
Riku:当時、自分はParkとAlanがやっているバンドの対バン相手だったんですけど、それまでやっていたバンドが全部後から入ったメンバーだったんですよね。最初に誘われたときは、自分の手でバンドを立ち上げたいと思っていたんで断っていたんです。
ーそれが、一緒にやろうという考えに変わっていった?
Riku:決定的だった出来事があって。オレ、BACKDATE NOVEMBERが地元の先輩なんですけど、渋谷のGAMEにライブを観にいったときに、カッコ良すぎてクラい過ぎちゃって。「(先輩はあんなにカッコいいライブをやっているのに)オレは何やってるんだろう」ってマジで落ちちゃったんですよね。このまま居たら凹み過ぎちゃうから、もう帰ろうと思ってライブハウスの扉を開けた瞬間にParkから連絡がきて「やっぱ、やってくれない」って。その瞬間に、これかもしれない……と感じて「オレもやってみたい」って返事をしたんです。
Park:それが2014年で、その頃から民族音楽にハマりだしたんですよ。じゃあ、そういう音楽性をバンドで表現してみようってことになり、メンバーも正式に揃ったんで心機一転、バンド名をIRIE BOYSに改名しようと。そうやって、今の音楽性になっていった流れですね。
Alan:それまでは、スクリーモやザ・ラウドという感じだったんですよね。そもそもオレはPTP(Pay money To my Pain)を聴いてボーカルをやろうと思ったんですよ。その当時はスクリーモばっかり聴いているような感じでした。ずっと、そういう音楽をやりたいと思っていたんですけど、やっていくうちに新しい音楽をどんどん知るようになって、これもカッコいいな、あれもいいな、そんな風に音楽を掘っていくうちに今のスタイルに辿り着いた感じです。
ー今のスタイルに行き着くまでのルーツとなったバンドの話を教えてもらえますか?
Park:やっぱり90年代のミクスチャーバンドが好きだよね。
Alan:ああ。
Park:本当に王道ですけどRage Against the Machine、System of a DownにLIMP BIZKITやIncubusだとか。
Alan:あとはAsian Dub FoundationとAt The Drive Inが4人共通のルーツとして大きくあるよね。あの2バンドに出会って、今の方向性を見出していった感覚はありますね。民族っぽい要素を入れようって。それでジャンベもバンドに取り入れるようになっていきましたし。
ーRikuさんはベーシストとしてのルーツでいくと、ParkさんやAlanさんと同じような感じですか?
Riku:バンドの音像としては同じですね。ベーシストという括りでは個人的にアイコンとしているようなプレイヤーがいるわけではなくて。バンドサウンズにおけるベースの存在が純粋に好きなんですよね。ギターって繊細な音色の変化でバンドに彩りを与えていくじゃないですか。対してベースは低音で音圧を上げるほどに存在感を増していくわけなんで。なんだろうな、もうマヨネーズぶっかけたみたいな、これ美味くない? カッコよくない? みたいな。そういうところが好きなんですよ。
Park:すげー例え方するな、半分くらいしかわかんない(笑)。
ーちなみに、IRIE BOYSの楽曲はどのように制作されているんですか?
Park:基本的にはオレがリフを持っていって作ることが多いんですが、メンバー各々、アイディアを持ち寄ってくれたりするし、Alanがこういうメロディに展開させていきたいって意見をくれたりという場合もあります。それを踏まえてスタジオでセッションして曲を練っていくことも多々ありますよ。でも、最終的な判断は自分がすることが多いですかね。わがままな性格なんで、飽きちゃったらもう無理って。よかったら「これでいこう!」って。
Alan:そうだね(笑)。でも、ボツになったリフも違う曲で復活したり、そこから発展していったりするんで、それはそれでいいんですよ。
Riku:セッションで合わせた感触が次の制作で活かされることも多いですからね。
ーなるほど。では、歌詞を書くうえで重視していることは?
Alan:もっとも重視するのはリズム感ですね。言葉の意味ももちろんなんですけど、ただ曲のリズムに合わせて歌乗せするのではなく、リズムを遊んだ譜割りにしていますね。内容については自分自身の思いを描いて訴えかけるようなものが多いです。
バンドで踊る楽しさを多くの人に知ってもらいたい
ーそういった意味で1stフルアルバム『Buddys FM 045』に収録されている楽曲はボーカルのリズムが実にユニークです。民族的な要素がもちろんですが、テンポをズラして聴かせるような感じが耳に残りました。
Park:そういうリズムに関する部分はかなりこだわっている部分でもありますね。今作は初フルアルバムということもあって、新曲だけではなく、初期の楽曲も収録しているんですよ。というのも、オレらはツアーをめちゃくちゃ周るバンドなんで、この10年で本当に数多くの人と出会ってきたんですよね。過去に出会った人が、『あの日ライブで演奏していた曲だな』なんてことも思って欲しくて、昔の楽曲も入れていますね。バンドとして今後チャレンジしていきたい要素を詰め込んだ楽曲と織り交ぜて1つのアルバムにしています。
ー1曲めから13曲めまで、一貫したストーリーを感じさせるアルバムでもあります。本作に込められたコンセプトを教えていただけますか?
Park:タイトルの『Buddys FM 045』からも連想できると思うんですけどアルバム1枚を通してラジオ番組みたいな構成にしています。Buddyくんっていう架空のキャラクターが宇宙からやってきて地球に不時着して、そいつがラジオDJをやっているようなイメージですね。Buddyくんが1番好きなバンドがIRIE BOYSでアルバムの曲をずっと流しているストーリーなんです。FM 045の045はオレらのローカルでもある横浜市の市外局番ですね。今までもこれからも、活動拠点は横浜だし、アルバムのジャケットも中華街で撮った写真を兄貴(ShinyonP2)がグラフィックにしたものを使っているんですよ。
ー同時に、メロディラインが実に鮮やかですよね。一緒に歌いたくなるような、良い意味で耳馴染みが良いアルバムだと感じます。
Alan:特にメロディラインは重要視して作っていましたし、Parkと2人で作った新曲は、メロディも2人で考えていたんですよ。うまくリスナーの印象に残るようにしたいと思って。
Park:曲によっては展開が複雑だったり、逆にずっとループしているものもあるんで、初めて聴く人にとってはちょっと難解な作品でもあると思うんですよね。だからこそ、メロディをしっかりさせて耳馴染みの良い部分を各曲に落とし込みたかったんです。その方がリスナーにストレートに届くと思ったし。
ーそれが、先程の「バンドとして今後チャレンジしていきたい要素」ということになりますか?
Park:そうっすね。もっと変な曲もたくさん作りたいんですけど、複雑になり過ぎないようにってことを意識した楽曲というのは、今後へ向けたチャレンジの1つです。無理してキャッチーにしようというつもりは全然ないんですけど、もっと色んな音楽を多くの人に聴いてもらえたらいいなという思いはあるので。それが"聴きやすさ"に繋がるという部分はあるかもしれないです。
ー一方でベースやリズム隊として意識したところはどんな点ですか?
Riku:これまでエフェクターを多用していたんですけど、今作のレコーディングでは、それらは無しにしてやってみたんです。そしたら、自分の出したいロウの感じが出て、自分が弾いていたフレーズがやっと活きてきた感じがしたんです。音作りも含めてレコーディングができたのが楽しかったですね。あと、IRIE BOYS史上もっともBPMが早い楽曲も収録されているので、そういう曲の中で、いかにベースラインでリスナーやオーディエンスを踊らせることができるかを意識しました。IRIE BOYSの音楽は踊れる音楽なので、そこをどれだけ表現できるかを追究していきましたね。
ーさきほどParkさんが言った「もっと色んな音楽を多くの人に聴いてもらえたらいい」ということについてですが、IRIE BOYSが見ているシーンや目標としているのは、どういうところなんですか?
Park:難しいですけど、フェスで言えばFUJI ROCK FESTIVALは絶対に出たいですし目指しています。シーンで言うと、オレらが主に関わっているところはメロディックパンクやラウド、ハードコア、パンクといった場所ですけど、意外とダンスシーンで活躍しているバンドとも共演することが多いんですよ。IRIE BOYSのライブでもジャムセッションのパートがあったりするので、そっちのシーンとも積極的に関係を持ち、パンク、ラウドのシーンにダンスカルチャーを持っていきたいと思うんですよね。そんな風に活動する場所を限定させず、色んなバンドと音楽を楽しんでいきたいと思っています。そういう部分を意識して『Buddys FM 045』を聴いてもらって、ちょっとでも、その要素を感じてもらえたら嬉しいですね。今作はミックスを大阪のスタジオクーパーでやっているんですけど、エンジニアの永田さん(永田進氏)が制作してくれたDUB MIX盤が初回盤に付くんです。これもやりたかったことの1つで。オレは、こういうカッコいい音楽を知っているんだよってことを提示していきたいと考えています。
ー本作を携えた『Buddys FM 045 TOUR』の日程が発表されていますが、全国津々浦々めっちゃ周るんですね。
Park:そうですね。時代はコロナ禍ですけど、オレらは4人ともバンドをやるってことしか考えていない人間なんで、ツアーをめっちゃ回ります。オレらのライブに遊びにきてくれる人がいるなら、今まで以上のものを見せられる自信があるんで、なかなか動きづらい状況ではあると思うし、人それぞれ状況は異なると思うんですが、来れる人は来て欲しいですね。
Alan:もっと活発に活動していきたいですね。とにかくツアーをやりたい。今はライブハウスもソーシャルディスタンスを保った状況ですが、その分、自分の踊れるスペースがあるわけなんで、ダンスするという意味で絶対に楽しいと思うんで。
Riku:こういう状況だからこそ、バンドや音楽の楽しさをもっと伝えられたらいいなって思いますね。まだまだライブハウスでダンスするのは恥ずかしいっていう人も多いと思うんですけど、そんなこと忘れちゃうぐらい踊れるような空間を、オレらがどれだけ作ることができるのか。モッシュ・ダイブだけじゃないライブの楽しさをIRIE BOYSとして広めていきたいと思っています。
※Shinhong Parkの自宅に置かれていた折れたマイクスタンド。敬愛する大阪のハードコアバンドFIVE NO RISKのライブでTEPPEI(Vo)がぶち折ったもの。
IRIE BOYS
https://irieboys.ryzm.jp/
https://twitter.com/IRIEBOYSJP
https://www.instagram.com/irieboysjp/
Who's Next by SATANIC Editing Room
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Vol.08 See You Smile
Vol.07 Honest
Vol.06 FUNNY THINK
Vol.05 Sable Hills
Vol.04 CrowsAlive
Vol.03 Paledusk
Vol.02 HOTVOX
Vol.01 mildrage