CULTURE

THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION Vol.13:Rie Minegishi

photograph by Yuta Kato text by Teneight

SATANIC ENT.はライブハウスから生まれるシーンを紹介するメディア。では、ライブハウスではバンドやアーティスト以外にどんな人が働いているんだろう? ライブハウスの店長さんやスタッフさんはどんな経緯を経て、そこで働いているんだろう? 言わば"ライブ職人さんたち"に、そんな疑問をストレートに投げつけまくるのが本企画"THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION"! 登場するのはPA、照明、バンドのマネージャーさんやレコーディングエンジニア、ライブハウスシーンを取り巻く人を徹底追求!

小泉さんよりご紹介していただいたのは、バンドのライブレポートやインタビューなど、フリーランスのライターとして活動をしている峯岸 利恵さん。全て独学で学ぶところからスタートし、さまざまな媒体で活動するまでに至った経緯をうかがう。


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何もかも飛び越えて無名でフリーランスとして活動を始める

ー小泉さんからのご紹介ですが、どのような繋がりで?

峯岸:彼女のことはきょんきょんって呼んでるんですけど、出会いは結構最近なんです。ライブを観にいったときに酔っ払っているきょんきょんに出会って、そこで周りの人から吉祥寺WARPの店長さんだよって話を聞いたのが最初の出会いでした。その後吉祥寺WARPに遊びに行くときに挨拶してからの付き合いなんで、知り合ってからは短いんですが仲良くしてもらっています。

ーそうだったんですね。

峯岸:家からも近いので、よく遊びに行くようになってそれからお世話になっているんです。

ー峯岸さんはどんな音楽を聴いて過ごしてきたんですか?

峯岸:私がバンドにハマったのは大学生からでした。それまでは吹奏楽部にいたのであまりバンドだと意識して音楽を聴いていなかったんです。そんなときに部活の男友達にこれカッコいいから聴いてみたら?と勧められたのが、ELLEGARDENの「Fire Cracker」で、そこでバンドサウンドに衝撃を受けたのがロックの入口でした。そのあと、当時付き合っていた人に勧められたBIGMAMAの「Love and Leave」って初期のアルバムにどハマりしちゃって、八王子RIPSやMatch Voxをはじめとしたライブハウスに通うようになっていったんです。そこからNorthern19やCOUNTRY YARDにRIDDLEといったバンドも好きになって聴いていましたね。ツアーがあれば夜行バスや青春18切符を駆使して全国をまわって、東京に帰って学校やバイトに行ってまた遠征する、みたいな生活でした。

ーライブハウスキッズだったんですね。

峯岸:そうですね。今では聴く音楽も変わってきて、メロディックハードコアをはじめ、さまざまなジャンルを聴くようになったんですけど、ルーツとしてはやはりBIGMAMAですかね。

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ーでは、峯岸さんはどういった経緯で、ライターになったのですか?

峯岸:大学生のときに好きなアーティストのツアーを観に行く中で、当時mixiの日記機能に、行ったライブの詳細をレポートみたいに書いて、コミュニティに投稿するってことをしていました。そこでリアクションがもらえると嬉しくて、色々と投稿をしていました。でも、その当時はそれを職にしたいとまでは思ってなくて。大学卒業後は一般企業に就職をしたんですけど、やはりもっとライブにも行きたいし、音楽業界に飛び込めばもっと私生活でもライブを観に行けるじゃん!と仕事を1年で辞めてフリーターになった時期に、『もしかしたら、あの時結構リアクションもらってたから、文章でいけるんじゃないか』と本当に安直で若気の至りがスタートでした。

ーそこからどう仕事をもらうようになっていくんですか?

峯岸:最初の1年くらいは何もせずに本当にフリーターみたいな生活をしていて。その後ロッキング・オンでライターの募集をたまたま見つけて応募して、そこでお仕事をいただくようになっていきました。

ー年齢でいうと24歳くらい?

峯岸:そうですね。

ーよくあるのは、どこかの編集部や、すでに活動しているライターさんに師事してからライターとして独立しますが変わった経緯をお持ちなんですね。

峯岸:この業界への入りが、雑誌をやりたいというよりは音楽業界に携わりたい!そしてライブに行きたい!っていう理由だったんです。なのでライブに行きながら、楽しく生きていくためにはどうすれば良いか逆算をするところから始まったので、何もかも飛び越えて無名でフリーランスから始めちゃったんですよね。今考えたら無謀すぎるって思います(笑)。

ーでは、参考にしたり誰かから学んだりもしていなかったんですか?

峯岸:『MUSICA』という音楽雑誌を発刊している会社が主催している音小屋という育成教室があったんです。そこでライターコースを受講して、小野島大さんというベテランのライターの方に、文章とは何か?ということを教わりました。

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お仕事は現場の繋がりからしか生まれない


ー音楽ライターさんって、バンドに対する知識を豊富に持っている方が多いですが、峯岸さんも勉強されたりするんですか?

峯岸:音小屋の教室でいろいろと教わったんですけど、今、それを活かしきれているかと言われるとどうなんだろう……。基礎としてはもちろんあるんですけど、今はわりと独走しているんじゃないかと思っています。他のライターさんのライブレポートを読んで勉強になる部分はたくさんあるんですけど、それらを武器として昇華している実感や器用さが、自分には未だにないと思っていて。なんとなくドラマチックに書くのが好きで、その書き方とバンドの音楽性がマッチしたところから、お仕事をいただいたりしています。その中で自分らしさを模索しながらも、「あ、あの人ライターやってるんだ、こういう文章書くんだ」って認知していただいて、そういう文章書くんだねってところからお話をもらったりもしてたので。

―現場での繋がりが峯岸さんは多かったんですね。

峯岸:すごく多いです。現場での繋がりしかないかもしれないですね。ライターの方って、自分から媒体に「私はこういう文章を書きます」という売り込みをすることもあるかと思うんですけど、それをやったことがなくて。同年代のライターの方とかは結構そうしている人もいて。なので、その手があったかと思うんですけど、お恥ずかしながら結構甘えちゃってるというところもありまして……。だから、周りの人からサポートがあってこその今って感じですね。

ー今峯岸さんが受けているお仕事は、ライブレポートがメインなんですか?

峯岸:そうですね。メインはライブレポートとインタビューで、後はディスクレビューだったりコラムなんかもしています。

ーライブレポートを書き上げるうえで、どんなことを意識されていますか?

峯岸:最近気を付けてるのは、“オーディエンスが拳を突き上げた”とかそういうのって写真とセットになるから、情景描写としてはカメラマンさんがその役割を大きく担ってくれると思うんですよね。じゃあ文字側が何をすべきなのかって考えたときに、そのイベントはなぜ行われたのか?というところも踏まえて、そのアーティストがこの日のライブのためにどういう想いで来たのか?というところをライブからなるべく汲み取ること。その上で、私はこのライブを観てこう感じました、という主観を入れるようにしています。

ー月に何本くらいこなしているんですか?

峯岸:週に2、3本ほどあったんですけど、コロナ禍になってからは結構減ってしまい、今は月に2、3本あればってくらいの数になっています。結構このタイミングで自分も色々考えるところではあるなと思いつつ。もともとフリーランス1本で生活をしているワケではなくて、普通に日中働きつつ、お仕事が入った時に休みをとって現場に向かったり、仕事後にライブに行ってレポートを書くという兼職的なスタンスでやっています。

ーもうひとつのお仕事も音楽関係なんですか?

峯岸:音楽とはまったく関係のない仕事をしています。ただ最近、吉祥寺WARPにブッキングスタッフとして働きだしたんですよ。ライブハウスで働いても私のライターとしての経験を活かせるし、新しいことにも挑戦できて面白そうだなって思っているんです。なので、今はライブハウス発信で、何か新しいことが出来ないかと模索している状況です。でも、そこでライターの仕事を手放すつもりはまったくないです!今まで出会えなかったバンドがたくさんいるから、そういう人たちに対して自分ができることが何かあるかもしれないと、可能性を考えつつこれから動いていきたいと考えています。

ーコロナ禍になってから、ライブレポの数が減ってしまったとのことですが、心境に変化はありましたか?

峯岸:やっぱり収入としての危機感はありました。でも逆に、今までの経験をもとに一歩踏み込んで面白いことができたらいいなっていうポジティブなマインドを持てています。ブッキングを兼務しようと思ったのも、そういったマインドがあったからかもしれないです。


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バランス感を大切にしないと、みんなが良いと思う記事は書けない


ー今後ライターを目指していきたいと考えている若い世代には、どんなことを思いますか?

峯岸:それこそ、SNS上で『どうやってなるんですか?』とか、『音楽業界ってどうやって入るんですか?』って質問が割とあって、興味をもっている人は割といるんだなって感じているんです。

ー『私のように最初からフリーでやってみて』とか?

峯岸:人にはあまり勧めないかもしれないです(笑)。編集者を募集している会社に応募して経験を積んだ方が確実なはず!という風に答えています。フリースタートからは得られない経験が絶対にあるので。

ー本当に峯岸さんのような仕事の入り方って珍しいですよね。

峯岸:私もフェスで知り合うライターの先輩方に聞くと、やっぱりどこかの編集部から独立したっていうルーツがある方ばかりなんで、私がどれだけ無鉄砲だったんだろうって聞くたびに痛感します(笑)。なのでアドバイスを言える立場ではないんですけどね。でも、やっぱりライターは楽しいなと思います。インタビューも然り、人に話を聞く機会ってなかなか無いですからね。ライブレポートもすごい難しい部分もあるけど、日々勉強だなって思います。

ーそうですね。そういったところがライターをしている中での1番のやりがいなんですか?

峯岸:そうですね。インタビューで、自分が好きでカッコいいと思う人に話を聞けるってこともそうだし、ライブレポートでは読んでくれた人にライブの情景が伝わったときは嬉しいですし、ごく稀にアーティストからリアクションがあったりするときは書いててよかったなって思いますね。

ーライブレポートもインタビューも、バンドのことをしっかり理解しているかどうかも大事ですよね。

峯岸:下準備は大切ですね。バンドのここがレベルアップしたとか、新譜は前作とはここが変わったなとか。そういう変化に気付けるのは、ここまで積み重ねてきたものがあるからだと思います。

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ー逆にフリーランスのライターとして活動されてきた中で、辛かったことや苦労したことはありますか?

峯岸:些細なことで、人の信用を無くしてしまうとかはありましたね。これはライター業に限らずだと思うんですけど、少し考えれば分かることなのに向こう見ずに突っ走ったがゆえに、相手からの信頼を失ってしまうこともありました。後ろ盾がない状態なので、本当に1つミスを犯すと全てが終わる、という緊張感をもたなきゃいけないんだって、やってから気付くみたいな。

ーそこは気をつけないといけないですね。

峯岸:あとは、インタビューの時の悪い癖なんですけど、あれもこれも!と前のめりになっちゃうんですよね…。この間も『〇〇の歌詞は△△のここに繋がっていますよね!』みたいに、私が全部言っちゃうみたいな(笑)。だからお相手は『そうです!』としか言えないから、文章にするときに「発言者が逆だ…」ってなることが結構あります。

ーアーティストさんのことを好きすぎるのも難しいですよね(笑)。

峯岸:そうなんですよね。インタビューする側って、1投げて10返ってくるのが理想だと思うんですけど、本当にテンションが上がっちゃうと、そこのバランスが崩れちゃうんです(笑)。後日、自分で文字おこしする時にやりすぎたって気づくんですよね。毎回反省するのにそれを活かしきれてない。

ー峯岸さんがライターというお仕事を通して、読者に伝えたいことや意識していることはありますか?

峯岸:この仕事って記事を読んでもライターの名前は見ないという人がほとんどだと思うんです。やっぱり、読者からすれば、そのアーティストを知るために見るツールがライブレポートやインタビューだと思うので、そのために自分がどれだけ良いアシストをできるかってところは永遠の課題です。それに、私が唯一無二にならなくてもいいと思うんです。向上心がないという意味ではなくて、大前提として、アーティストがいてこその音楽でありライブなので、そこを忘れてしまうと独りよがりの文章になっちゃう。なので、そこのバランス感は1番念頭に置き続けなければ、みんなが良いと思う記事は書けないと思うので、そこは大事にしていきたいです。

ーでは、最後の質問になりますが、今後の目標や目指していくところを教えていただけますか?

峯岸:常に自分ができることを考えながら動いていきたいですね。このコロナ禍を経て、さっき話したような考え方の変化も出てきて、じゃあできることって何だろう?って考えてみたんです。私の周りには、もっとフックアップしたいと思えるアーティストがたくさんいるので、そことライター業をどう絡ませていけるか。そこでアーティストにとって何か助けになれば、とても嬉しいですね。人に助けられ続けてきた10年間だったので、これから先は、自分がやってみたいことと自分のスキルを絡ませつつ、アーティストやライブハウスの力になれたらいいなと思います。若輩者がおこがましいですけどね。

ーありがとうございます。

峯岸:ありがとうございました!とても新鮮でした。でも、私が酔っ払ってそこら辺で寝転んでいる姿を見てきた友達や先輩がこの記事を見たら『何言ってんだよ』って思われそうだな……。取材する人を間違えてるんじゃないか?大丈夫か?って思われないか心配です(笑)

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峯岸利恵
Twitter https://twitter.com/negitam?s=20&t=tKJtXlb4DsIvnyezW34xlA 


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