THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION Vol.11:Go Kato
photograph by Yuta Kato text by Teneight
SATANIC ENT.はライブハウスから生まれるシーンを紹介するメディア。では、ライブハウスではバンドやアーティスト以外にどんな人が働い ているんだろう? ライブハウスの店長さんやスタッフさんはどんな経緯を経て、そこで働いているんだろう? 言わば"ライブ職人さんたち"に、そんな疑問をストレートに投げつけまくるのが本企画"THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION"! 登場するのはPA、照明、バンドのマネージャーさんやレコーディングエンジニア、ライブハウスシーンを取り巻く人を徹底追求!
樅山さんよりご紹介していただいたのは、SATANIC CARNIVALにも何度も出演している04 Limited Sazabysの、マネージャーを務める加藤 剛さん。この連載では久しぶりの20代の登場だ。撮影日に事務所に伺うと堂々とした立ち振る舞いと気さくな笑顔で迎えてくださった。取材をして見えてきたのは、そんな立ち振る舞いの裏にある、ここに至るまでの様々な努力とこの仕事への情熱であった。
前職で見つけた繋がりからマネージャーという仕事へ
ー加藤さんは29歳ということで、久しぶりに20代の方から話をお聞きできるので楽しみにしていました。
加藤:40歳くらいの方の後に俺が話すの、逆に緊張します(笑)。内容も薄そうだし。
ーそこは気にしないでいただいて大丈夫です(笑)。では、早速ですがどうやって04 Limited Sazabys(以下フォーリミ)のマネージャーになったんですか?
加藤:もともと、学生時代は蒲田にある日本工学院って音楽系の専門学校に通っていたんです。当時、授業にライブ実習っていうのがあって、そこではライブハウスを借りてイベントを企画していたんですよ。その企画のブッキングを僕が中心にやっていて、そこでフォーリミに出てもらっていたんですよ。それがキッカケで出会ったんです。
ー学生の時からフォーリミとは面識があったんですね!
加藤:で、学生の時にインターンとして東京のインディーズレーベルにてお仕事を手伝わせていただいていたんです。僕はそのレーベルに所属していたバンドの物販や、ライブのセキュリティをやらせてもらったり。そんな関係値もありながら、専門学校を卒業するタイミングでお世話になっていたレーベルの先輩が映像会社に転職して、『お前行くところないんだったら、ちょっとやってみる?』って声をかけていただきました。で、その映像会社に入社したんです。それが2013年の春ですかね。そこから映像の仕事を1年ほど続けていて。
ーその就職した映像の会社は具体的にはどんな業務をされていたんですか?
加藤:その会社では、ライブ映像の撮影と編集をしていました。年間で50本くらいやったんじゃないかな。もともと映像のスキルを身につけていた訳では無かったんですけど、バンドのライブ映像コンテンツを制作させていただいていました。それこそ、フォーリミも協力してくれたり。Genさん(Ba./Vo.)に電話して協力してもらいたいって話をしたら、『今は僕らもマネージャーがついて活動をしているから、連絡先を教える』って言って教えてくれたのが、今の上司の連絡先だったんです。それで撮影後の打ち上げでフォーリミのマネージャーで今の上司が色々話を聞いてくれて。『何をやりたいの?』って。僕はもう少しバンドの活動に寄り添える仕事がしたいって話をしていたと思うんですよ。それを覚えてくれていたみたいで。
ーそこで今の会社への足掛かりをつかんだんですか?
加藤:はい。ただそれはもう少し先の話で、映像の会社では人手が足りず日々業務に追われて、ギリギリの状態で働いていたので、みんなの精神も崩壊していき、1人ずつ辞めていって。辞め方も辞表を置いて急に来なくなるとか。労働組合に掛け合う人もいたり。僕を誘ってくれた先輩も急に連絡が取れなくなって。その先輩には後日、『こんなカッコ悪いところ見せて申し訳ない』と言われて、それがすごく印象的でしたね。でもその気持ちも凄く分かりましたし、いつも夜中の3時から4時ごろまでみんなで仕事していて、休みもなかったし。今思うとあの1年は辛かったですけど、凄い良い経験にはなりましたね。そんな会社で僕は映像の制作と、デザインのちょっとしたスキルも身につけることが出来たんですよ。
ーなるほど。
加藤:それで、既に先輩は辞めちゃってましたし、残っていたのは、僕と学生時代からの親友と社長の3人になっていて。ライブ撮影も3人じゃ出来ないってのもあり、じゃあもう辞めるって言おうって。辞職する前夜にコンビニの前で2人で座って、『明日社長に辞めるって言おうぜ。でもブチギレられたら怖いよな』なんて話をしながら、翌日に社長にそのことを伝えたら、意外とすんなり受け入れてくれて。『逆にそうだよな。ごめん』と言われて。
ー壮絶な1年だったんですね。
加藤:思い返すと1年間とは思えない程、色んなことを学べたタイミングでもありました。で、辞めた後は行くあてもなくて。そしたら何人かお世話になっていた先輩方が、仕事を振ってくれたんですよ。良い言い方をしたらフリーランスみたいな感じで半年くらい活動をしていて。それこそ、今の僕の上司からもフォーリミの撮影の仕事を振ってくれたりしたんですよ。そういった感じで幾つか仕事をやらせてもらっていて。『こんくらいあったら家賃払える?』って気にかけていただきながら、報酬をいただいたりしていました。
ー映像会社で築いた信頼も結構あったんですね。
加藤:そうかもしれませんね。その頃、フォーリミは少しづつ勢いも増してきて、いよいよスタッフをつけないと回らないってなっていった時期だったんですけど、ちょうど僕も暇そうにしていたので、『現場手伝いに来てよ』って。映像で手伝いをしながら、物販や運転などもやっていて(笑)。そして、半年くらい続けていたら、会社にも話をつけてくれて。『日本コロムビアに入れることになったから、正式にどう?』って声をかけていただき、2015年の春に入社しました。
一緒に仕事をするなら彼らが良いと思える唯一のバンド
ーそういう経緯だったんですね!加藤さんは入った当初からフォーリミのマネージャーをしていたんですか?
加藤:そうですね。僕の感覚的にはフォーリミを担当する為に入社した感じでした。これは僕が入社時にとても嬉しかったことなんですけど、フォーリミが2015年の4月にメジャーデビューをしてから1枚目のアルバム『CAVU』のツアー初日が僕の入社日だったんです!全国ツアーの初日が僕の入社日ってのが嬉しかったですね(笑)。そのツアーは30本くらい回ったんですけど、1つのバンドの全ツアーを見れるなんて、なかなか無いじゃないですか。なので、全ツアーが終了したときに、メンバーにツアー終わっちゃいましたね~。ってしんみり話したんですけど、意外にサラッと『ツアー始まったら、そりゃ終わりもあるでしょ』って感じで返されて(笑)。『いや~、よかったね』って一緒に浸って欲しかったんですけどね(笑)。
ー学生時代からフォーリミは好きなバンドだったんですね。
加藤:そうですね。この音楽シーンが好きでライブもよく観ていましたし、やっぱり、僕にとっては一緒に仕事するならこのバンドがいいって思える特別なバンドだったので、今の上司から声をかけていただけた時はとても嬉しかったですね。
ーメンバーと近い距離感で話せるのは加藤さんなんですかね?
加藤:まあそうかもしれないですね。最初は運転要員と現場でのグッズ販売が中心でしたが、徐々にそれ以外の業務を任せてもらえるようになりました。最初は運転も中々慣れずに、メンバーも心配していたと思いますが、それでも僕のことをここまで育ててくれた4人には感謝しています。
ーマネージャーはバンドマンとチームで動くと思うんですが、関係性など意識しているところは?
加藤:関係性を意識したことはあまりないですけど、お互いに尊重して信頼することですかね。それが出来ていると凄くスムーズですし、何より一緒に過ごす時間が楽しいですよね。もちろん意見がぶつかることもありますけど、意見を伝え合ってお互いに理解した上で進めていくことが大事ですね。あと、今はフォーリミだけじゃなくて、Wiennersってバンドのマネージャーも担当しているのですが、アーティストによって関わり方も違い、新たな刺激と経験をさせてもらっています。
ーここまで続けてこれた理由は?
加藤:それはいっぱいありますし、辞めたいって思ったことは無いですね。物理的にキツイことはあって、全然帰れないし辛いじゃんってことはありますけど、みんな凄くいい人たちで、環境に恵まれていたので、アーティストの成長と共に、自分自身もたくさんの経験と失敗を繰り返しながら成長できたのかなと思います。
ーフォーリミは熱狂的なファンも多いですよね。ファンに対して、加藤さん目線でこういうものを届けたいってものはあるんですか?
加藤:そうですね。アーティストしか見えない視点とマネージャーしか見れない視点、そして、もちろんお客さんからしか見えない視点もあるでしょうし。そういうのを出来る限りチームで共有し、メンバーの視野を広げてより良いものを届けられたらなと思っています。
ーフォーリミと言えば、YON EXPOなどのイベントも目玉の1つですよね。
加藤:もうすごいですよ。ステージのセットも照明も豪華で。
ー毎回世界観も凄く凝ってますよね。
加藤:毎年"空港"や"運送"などのコンセプトがあって、それを軸に細部にまでこだわっていますね。普段のライブハウスとは違う、エンターテイメントの祭典を重視したイベントで、僕的にもかなり気持ちの入ったイベントでしたね。
ーテンション上がってるお客さんがすごく多くて。
加藤:採算度外視でやっていますからね(笑)。チームフォーリミ総動員の発表会って感じです。あの祭典に関しては、ライブ以外にも準備することが多くて、実はすごく大変で。
ーその分やりがいも。
加藤:はい。メンバープロデュースのラーメン屋を出店したり、アミューズメントエリアなどが展開されているんです。グッズを買ってご飯も食べて、フォトスポットで写真撮ったり、ブースではゲームに参加してから、いよいよライブだね。って朝からトータルで楽しんでもらえるイベントになるよう意識しました。フォトスポットも4ヶ所くらいあったんですけど、ずっと行列ができていて。みんなこういうの待ってたのかなって思ったり。
ー間違いないですね。ちなみに、先ほど話されていたもう1つのバンドの事もお聞きしていいですか?
加藤:Wiennersは、去年からマネージャーとして携わるようになりました。もともと個人的に好きなアーティストだったので、東京でライブがあれば遊びに行って打ち上げまで参加したり(笑)。フォーリミ主催のYON FESやツアーにも出演してもらってましたね。ボーカルの玉屋2060%から生まれる楽曲は、ジェットコースターのような衝撃で毎度驚かされてます(笑)。Wiennersのメンバーと過ごす中で、改めて勉強になることや経験することもたくさんあって。いろんなことに気づき、新たに挑戦できるきっかけとなりました。お互いに信頼関係も築けてきたので、メンバーとともに掲げる目標に向かって、面白いことをたくさん仕掛けていけたらなと思いますね。
ー1人でマネージャー業務をしているとのことですが、具体的には?
加藤:ツアーのスケジュールから行程まで全部自分で考えていて。Wiennersの現場は、運転から機材搬入にリハーサル、ライブまでみんなでやるんで。
ーそれこそバンドマンって感じですよね。
加藤:そう。フォーリミはメンバー4人に対して、スタッフが10人以上もいるんで。もちろん、それぞれに役割があるんですけど、Wiennersの場合は全員メンバーって感覚じゃないとやれないんで。より責任感を持って仕事させていただいています。
一番アーティストを好きなのってマネージャーなんですよ
ーでは、今後2つのバンドとやっていきたいことや目指していくところは?
加藤:Wiennersでいうと、ユーモア溢れる楽曲の世界観をどんどんライブで表現して、たくさんの人に届けたいですね。昨年秋に非現実な世界をテーマにしたコンセプトツアーを開催したんですけど、会場BGMや登場SEにナレーション、衣装や楽曲アレンジまで全ての演出をメンバーがプロデュースしていて、会場の装飾もリハより3時間前に入ってみんなで準備したり。そんな手作りながらにも妥協せずに作り上げたツアーを終えたらもう達成感が凄くて。凄い多幸感に満ちた空間になってましたね。
ーDIYだからこそ感じられることも沢山ありそうですね。
加藤:そうですね、みんなでこだわって作ったからこそなんだなって。フォーリミのYON EXPOもそうなんですけど、自信をもって届けたら相手にも伝わるんだなって。そういう気持ちはアーティストだけでなく、裏方としても凄く大切だなって思います。
ー熱量は伝わりますからね。
加藤:1番アーティストのことが好きなのってマネージャーなんですよ。生きている時間の大半を、そのアーティストに費やして、どごか魅力でどうしたら売れるか、どうしたら喜んでもらえるかって、ずーっとみんなで考えていて。こんだけ愛を持って仕事をしているので、それをしっかりとお客さんに届けられたらなと思います。あと、フォーリミのメンバーには恩返しがしたいですね(笑)。これまでアーティストの活動を支えてきたつもりではいますが、思えば学生のころから自分を引っ張ってくれていて。感謝してもしきれないほどの恩があるので、少しずつ返していければと(笑)。なので、今後もアーティストのパートナーとして、一緒に夢を見れたらなと思います。
ーありがとうございました。
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04 Limited Sazabys
Wienners
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