CULTURE

THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION Vol.14:Mitsuru Kosaka

SATANIC ENT.はライブハウスから生まれるシーンを紹介するメディア。では、ライブハウスではバンドやアーティスト以外にどんな人が働いているんだろう? ライブハウスの店長さんやスタッフさんはどんな経緯を経て、そこで働いているんだろう? 言わば"ライブ職人さんたち"に、そんな疑問をストレートに投げつけまくるのが本企画"THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION"! 登場するのはPA、照明、バンドのマネージャーさんやレコーディングエンジニア、ライブハウスシーンを取り巻く人を徹底追求!
第14回目は、アーティストに同行し、機材搬入から楽器のメンテナンスやセッティングを行う名ローディー、小坂充さんに話を聞く。

Photography & Text - Yuta Kato, Edit - Ryo Tajima(DMRT)

 

ーローディーの仕事について教えてください。
 

小坂:主なお仕事としては、アーティストの楽器をセッティングし、演奏可能な状態に調整することです。アンプやドラムセットなどの楽器の持ち方や位置を、個々のアーティストの好みに合わせて調整し、ライブの際には楽器のメンテナンスや修理なども行います。機材トラブルが発生した際や、ギターの持ち替えでステージに出てくるスタッフと言えば、一般的なイメージかもしれません。
 

ーかなりマニアックなお仕事内容だとも考えられますね。ファンに顔が覚えられたりもしますし。
 

小坂:そうですね。ドラムのチューニングやギター、ベースの音作りも担当します。個々のアーティストごとに音や機材の設定も異なるので、それに合わせて作業をします。
 

ー小坂さんの場合、どんなアーティストを現在担当されていますか?
 

小坂:Ken Yokoyama、04 Limited Sazabys、HEY-SMITH、G-FREAK FACTORY、KUZIRAなどなどパンク寄りのバンドは多いですね。 あとはシンガーソングライターのアーティストだったり、幅広く担当させていただいてます。
 


ーでは、どういった経緯からローディーになりましたか?
 

小坂:音楽の専門学校で、ギター製作のコースに通っていました。同時にライブや音楽イベントにも足しげく通っていて、自然と音楽業界に興味を持つようになりました。
 

ーとなると、学生時代からギターも弾いていたということで。実際にアーティストを目指すことはなかったのでしょうか?
 

小坂:ギターはあくまで趣味程度で、プレイヤーとしては技術が足りないことを認識していました。 それでも楽器を触ること自体が楽しかったので、楽器に関わる仕事をしたいと考えていたんです。
 

ーちなみに、楽器のどこに、魅力を感じていたのでしょうか?
 

小坂:なんでしょう?  プラモデルみたいな感じというか。「このネジを外したらこれが取れるんだ」「ここのパーツをこれに変えてみよう」とか。本当にずっと好きなんですよね。仕事を通じて、ドラムや他の楽器にも触れるようになり、楽器の仕組みを理解し始めると、また新たな楽しさや面白みを感じています。
 

ー変な話、ライブ中に楽器が壊れたりする場合もあるわけじゃないですか。そういうときは、自分なら解決策が分かるかもしれないという、ある種の興奮や緊張を感じたりもしますか?
 

小坂:もちろんライブ中にトラブルがあると困りますけど、確かにどうやったら対応できるかなと瞬時に考えて解決策を見つけることも「仕事をしてるな……っ!」と感じる部分ですかね。
 


ーローディーの仕事のやりがいはどんな部分でしょうか?
 

小坂:アーティストにいかに満足して演奏してもらえるかですかね。ライブ会場では、照明さんの仕事は視覚的に目立ちますが、僕たちの仕事は聴覚的に、しかもお客さんの耳に伝わる音っていうのはPAさんが調整した音なので、「今日のPAよかったね」はあっても「今日のローディーよかったね」とは誰も評価しないですよね。バンドやアーティスト1人1人に合わせて要望も異なるので、仕事への満足感も自分の中でしかないです。求められる音にどれだけ近づけられるか、が鍵です。
 

ーなんとなくPIZZA OF DEATH(以下、P.O.D.)と言えばのローディー、というイメージがあるのですがP.O.D.とはいつからお仕事を?
 

小坂:ちょうど僕が専門学校時代に、Ken Yokoyamaが始まり、当時ライブにもキッズとして頻繁に足を運んでいました。後にKen YokoyamaのエキストラとしてもMVに出させてもらったりと、さかのぼると色々あります(笑)。転機としてはP.O.D.のバンドを担当していた先輩の代役で現場に行くようになったことですね。気付いたら現在の立ち位置になっていました。この仕事を始めた頃からP.O.D.のファンで、P.O.D.のTシャツを着て現場に行ったりしていたので、おそらく『P.O.D.を好きな若いやつがいるよ』という話が巡り巡って、お仕事をいただけるようになっていったんじゃないかと思います。今ではP.O.D.の中の人のようによく思われますけど、中の人ではないです(笑)。近くに居させていただいていることに日々、感謝しかありません。
 

ーとなると念願と言いますか、自分の夢が叶ったくらいの感じでしょうか?
 

小坂:そうですね。でも気付いたら憧れの方々とお仕事ができていたという感じで、そこを目指してやってきたわけではないんですよ。あくまでも、ただ好きな楽器に触れ続けていて、やがてそれが仕事になり、その過程でたまたま自分が憧れていたバンドを担当させていただけるようになった感じです。


ー会社の話もうかがいたいのですが、5年前にローディーの会社を設立されたわけですよね。フリーランスから会社へ体制を変えられた背景には何がありましたか?

小坂:
現在もですが約10アーティストほどを担当していて、どうやったって1人で回すことが難しい状況でして。特にパンクバンドはツアーが多いですし、全国ツアーが始まるとほぼ東京にいない、というのが実情です。ただ仕事ですから、しっかりと遂行しなければいけない責任もあるわけです。そこで、信頼できる人を集め、バンドやアーティストに対するサポートを最大限提供できる環境を目指そうと思って会社として組織化しようと考えたんです。今は若い社員が1人、一緒に働いてくれています。
 

ーそれこそ、この記事の読者の中にも「ローディーをやりたい」と希望される方がいるかもしれません。その場合、最低限専門学校を卒業していたり、専門知識を身につけた上で小坂さんの会社にご応募いただきたい、という感じでしょうか?
 

小坂:そうですね。本当に何もわからない状態だと、やっていくのは難しいと思います。例えば「ギターのピックアップ交換」だとか「配線を変更して」って場面は必ず現場で起こるんですが、忙しい状況下では丁寧に教える時間が限られてくるので、ある程度の基本知識は事前に持っていてほしいんです。ローディーの現場での仕事内容は想像しにくいかもしれないですけど、楽器に関する情報は今やWEBやYouTubeで得ることができるので、自己学習いただきたいなと。たまに「ローディーになりたいんですけど、何から始めたらいいですか?」「専門学校へ行った方がいいですか?」といった質問をDMでもらうんですけど、まずは自分でできることは何か考えてチャレンジしてほしいなと。僕も専門学校に入る前には、ギターを分解して組み立てたり改造したりしていましたし、その経験が今、活きていますからね。


ー最後に、今後の目標や目指していくところを教えていただけますか?


小坂:アーティストによって求められる要望も異なるので、いわゆるローディーの仕事の範疇からはみ出ていることも多々あります。例えば、中にはリハーサルに来ないアーティストもいて、代わりにサウンドチェック用のギターを弾いたりすることもありますね。だけど、それは本当はローディーの仕事ではない(笑)。ただ、1、2曲弾いて現場の確認がスムーズに進むのなら、頑張って練習して弾こう! となるわけです。
 

ーローディーなのにアーティストの代わりにリハで演奏しちゃうという(笑)。
 

小坂:そうです。もともとテクニックがないからステージではなく裏方の道に進んだのに「ギター弾いて」って言われちゃって気づいたら弾いているという(笑)。でも、そういう思いもよらないことがあるのも楽しみの1つかもしれないですね。結局は人とどう関わっていくか、ということなので、自分のことを必要としてくれるアーティストの要望には何でも応えられる心構えでいたいですね。それは一緒に働く人も同じで、まずは自分の会社から働く環境を改善して、仕事とプライベートのバランスを取りやすくすることにも挑戦したいです。「専任専属で」と顔の求められる職種がローディーではありますけど、まずは「小坂さんの会社だったら誰でもいいですよ」と信用してもらえる存在になっていきたいです。
 

株式会社big 小坂充:https://www.instagram.com/mitsuru119/

 

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