THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION Vol.16:Junji Matsushita
SATANIC ENT.はライブハウスから生まれるシーンを紹介するメディア。では、ライブハウスではバンドやアーティスト以外にどんな人が働いているんだろう? ライブハウスの店長さんやスタッフさんはどんな経緯を経て、そこで働いているんだろう? 言わば"ライブ職人さんたち"に、そんな疑問をストレートに投げつけまくるのが本企画"THE CRAFTMAN SATANIC CONNECTION"! 登場するのはPA、照明、バンドのマネージャーさんやレコーディングエンジニア、ライブハウスシーンを取り巻く人を徹底追求!
第16回目は、前回の椎橋健一さんからバトンを繋いで、Buzz Frontの代表取締役を務め、ミュージシャンとしても活動する松下順二さんにお話を伺います!
Photography & Text - Yuta Kato, Edit - Ryo Tajima(DMRT)
Job - Livehouse owner / Musician
やってきたこと・やれなかったことにトライする場所がBuzzFront
ー早速ですが、松下さんの音楽との出会いはいつ頃ですか?
松下:音楽との出会いは小学生の頃でした。父親の影響もあり、洋楽ばかり聴いていた子供でした。中でも、中学生の時にRed Hot Chili Peppers(以下レッチリ)とNirvanaを聴いたのが衝撃で、ベースを始めました。20数年前の話ですが、当時日本ではみんなHi-STANDARDに影響を受けていて、でも僕は洋楽好きで誰とも話が合わず、部室で1人、レッチリを練習していました。高校時代は特にバンドを組むことはありませんでしたが、「音楽でなんとかしてやるぞ」という意気込みで、卒業後は音楽の道へ進むことを決めました。
とはいえ、売れないときは並行してアルバイトもするじゃないですか。そこで当時憧れていた、現gnkosaiBANDのゲンキさんを頼りに、B.B.streetというライブハウスで働き始めました。ゲンキさんはB.B.streetで演者として出演することもあり、自分の憧れのミュージシャンの照明など裏方を担えるようになりたい気持ちと、自分も一演者として近くで先輩の姿を見て吸収しようと、働いていました。
ーモチベーションとしてはかなり高かったと。
松下:そうですね。もう、楽しくて仕方がなかったというのが正直なところで、それもあって27歳前後の時に、B.B.streetの店長に抜擢されました。並行して、バンド活動も続けていて、その頃から所属バンド以外のサポートベースでも、お声がけいただくようになっていました。28歳で現在所属のSOBUT、33歳でNUBOの両バンドに加入し、B.B.streetから「お前はライブハウスの店長じゃなくて、ちゃんとミュージシャンとして生計を立てなさい」と言っていただき、退職に至りました。
ーつまりは音楽活動への後押し。
松下:完全に後押しでした。すごくいい会社ですよね。ただ「ベーシストとして頑張っていこう」と思った矢先にコロナ禍に突入し、全てのライブがキャンセルになりました。その結果、知り合いの紹介で、全然違う会社に入りました。
ーどのような業界に?
松下:コールセンター業です。丸2年在籍し、最後の1年は管理職を経験しました。正直、それまでと全く関係ない異業種で戸惑いもありましたが、その2年間で得たビジネススキルや部下との関わり方などを含め、今に活かしています。
ーそこからどのようにして、現BuzzFrontの仕事に就かれたのでしょうか?
松下:高校の時にBOMB FACTORYというバンドが好きで、そこでギターを務めている鈴木和哉(KAZUYA(BOMB FACTORY/KYONOバンド))が、実はBuzzFrontの発起人なんです。和哉さんは雑誌やテレビで見てきた「中の人」という印象だったのですが、自分がキャリアを重ねる中で共演できるようになり、喋ってみたらすごく良い方で仲良くしていただきました。8年ほど前から「横浜駅周辺にライブハウスを作りたい。いつかやるときが来たらお前に頼みたい」と言っていただいていて、2年前に再度お声がけいただき、「今までやってきたことと、やれなかったことにトライするチャンス」と思い、お引き受けしました。
SOBUT
NUBO
ーなるほど。先ほどお話にも出てきましたSOBUTとNUBOについても教えてください。
松下:SOBUTは25年以上活動していて、全盛期にはアメリカ、ロシア、中国、韓国へもツアーを展開し、世界的に活躍したバンドで、今も立ち止まらず活動を続けているパンクバンドです。NUBOは5人編成、ツインボーカルの、分かりやすく言うとミクスチャーバンドになります。昨年に20周年のベストアルバム『Timeless Tracks』を出して、昨年末にツアーファイナルを終えたばかりです。
ー両バンドで松下さんはベースを担当していると。それこそ、中学時代から弾き続けているベースという楽器の魅力は何でしょうか?
松下:ベースって一般の方から言わせると「なんかよく分からないけど、下で鳴ってる楽器」「いてもいなくても一緒」みたいに耳にしますけど、僕はそこが逆によくて。下を支えるリズム楽器にもなるし、ギターのようにメロディーを奏でることもできる楽器なんです。ちゃんと後ろで支えつつ、前に出るときは出て主役にもなる楽器だと思います。バンドの中での立ち位置としては、ずっと他の楽器とのバランスを意識していて、まとめ役になることが多いですね。
ーそうお聞きすると、ベースを通して得た視点や経験が、ライブハウスの経営にも活きていると想像します。
松下:はい。良くも悪くも俯瞰で物事を見がちですね。仕事に関わらず、下手すると料理とかもそうだと思いますが、1つのゴールがあって、そこに向けて何が必要かを常に逆算するクセがついています。こういう音を出したい、だったら何が必要か。こういうイベントがやりたい、だったら何が必要か。そして自分は演者にしろ裏方にしろ、何を担うのか、意識はしていますね。演者のブッキングにもその視点は活きていて、「この人とこの人」を呼んだらどうなるのか、と組み合わせを考えたりも好きです。
ーちなみに松下さんにとって、ライブハウスとはどんな場所ですか? また公私共に数々のライブハウスを見てきたかと思います。いいライブハウスってどんな条件でしょうか?
松下:家、職場、遊び場ですね。個人的に理想のライブハウスは、音逃げ場がある構造で、あとは良いスタッフと、良い音が重要と考えます。音逃げ場ってのは、自分もこの仕事をしながらで何ですけど、イベントで4、5バンドを見続けるのって疲れちゃうと思うんですよ。なのでBuzzFrontでもバーカウンターなど含め充実させようと、構想段階から今までもよく話し合ってきましたね。
ー今後このシーンを目指す人にも向けた、お話もお聞きできればと思います。最近で「ライブハウスの経営に携わりたい」と、志を持った方とお会いすることはありましたか?
松下:「ライブハウスでアルバイトをしたい」という方はいますけど、「経営・運営側で活躍したい」はまだないですね。ただB.B.street店長時代も後継者が出て来るまでに時間を要したので、簡単には出ないと想定しています。
ーライブハウスで仕事をしていくにはどのような視点が大事だと考えますか?
松下:やっぱり音楽が好きでないと難しいと思います。お金だけ、利益だけを考えるなら、人気があるバンドやアーティストばかりを呼ぶと思いますが、知名度に関わらず「このバンド面白い」「こことここ一緒に出てほしい」とか、好奇心や直感みたいなところがないと、良いライブハウス、良い経営に繋がらない気はしています。
ー最後に、松下さん個人と、Buzz Frontの今後の展望をお聞かせください。
松下:馬鹿げた答えだと「街のボス」になりたいですね(笑)。裏社会系ではなく、街歩いてたら「お疲れ様です」みたいにコミュニケーションが発生するような。真剣な答えだと、ミュージシャンとしてより大きな舞台で必要とされる人間になっていきたいです。あと、今年の始めに石川県で地震がありましたが、これまで雇われの身だと何かをしたくても自分だけで即決できず、もどかしい経験をしてきました。ただ今は自分の判断で動けるので、今回の地震直後には、ライブハウス仲間のF.A.D YOKOHAMAとB.B. Streetに声をかけて募金箱を設置しました。今後は、音楽を通して何か人の役に立てれば、嬉しいですね。ライブハウスとしては、「Buzz Frontに出てれば間違いない」「あそこに出てみたい」と思ってもらえる、カルチャーの中心になっていきたいです。何か一緒にBuzzFrontで面白いことを作れる人も大募集中です! そして、そんな自分のライブがあるので来てください!(笑)。
松下順二
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https://www.instagram.com/junji_matsushita
BuzzFront
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