INTERVIEW

Who’s Next by SATANIC Editing Room Vol.16: Made in Me.

 photograph by Ryohei Obama  text by Teneight


連載企画"Who's Next"はSATANIC ENT.を編集するスタッフが、今現在気になっているけど、まだSATANIC ENT.ではピックアップしていない次世代のバンド・アーティストに会いに行き、ルーツや活動、それを取り巻くカルチャーなどを一方的に紹介するというシンプルかつ偏愛極まりない企画。第16回目は横浜のMade in Me.。詩的なリリックとそれに歯車のように噛み合ったメロディラインをもつバンドだ。レコーディングの合間を縫って来ていただいた、彦(Vo.Rap.Gt.)とU sucg:):(Cho.Ba.)の2人にバンド結成の経緯から伺う。


Left to Right:じゅんちゃい(Cho.Gt.Syn)、ゆかり(Vo.Syn.)、U sucg:):(Cho.Ba.)、DAIKI(Dr.)、彦(Vo.Rap.Gt.)


1つ1つのチャンスを掴み今の5人体制へ


ーまず結成の経緯は?

:そもそも僕はバンドクラッシャーで、このバンドを結成するまでに何度か解散を経て疲れていた時期だったんです。それで当時のドラムの家にたまってゲームをしていた時に、暇だしバンドやらない?ってゆるっと始めたんです。当時は僕とドラムとU sucg:):の3人で活動をしていて。で、組んだらやっぱり僕は本気でやりたいし、対バン相手の熱量にも影響されてU sucg:):も火がついて。じゃあ遊んでないで本気でやろうって決めたんです。そしたら、そのテンションだとドラムは違うからという理由で抜けて。でもドラムを新たに探す気力もなかったので、2人で活動をスタートしました。

ー初期メンバーは彦さんとU sucg:):さんの2人なんですね。

:そうですね。その後に、当時JKバンドでドラムをしていたゆかりに声をかけて、加入してもらいました。そこから彼女のプレイスタイルに合わせつつも、コーラスにも参加してもらい、バンドの方向性を模索し始めていきました。その次に、Made in Me.よりも前に組んでいたバンドの元メンバーだった、じゅんちゃいがライブを観に来てくれたんですけど、そこで『売れるわこれ!』って言ってくれて、加入してくれたんです。その言葉が嬉しかったし、それで4人になって1年くらい活動していました。最後に入ったのがドラムのDAIKIで、彼とは元々知り合いだったんですけど、『お前ら曲は良いけど、音源がクソだから俺に録らせて』って言われて。僕的にはDAIKIが作ってくれたら音源のクオリティも上がるし、このバンドがさらにパワーアップすると思って。どうしてもうちに加入して欲しくなったんです。ゆかりはドラムと並行してボーカルとしても頑張ってくれていたけど限界が来そうだし、もっと先を目指そうと思った時に彼女の負担が大きくなりそうで。なので、彼女なりに歌うことが楽しくなってきたタイミングで、僕の意志を汲んでくれた上でドラムを手放して、DAIKIがドラムとして加入してくれたんです。それで5人になりました。

U sucg:)::それがちょうどコロナ前で。ライブも一段と気合を入れたと同時にコロナになっちゃって。なので、今も挨拶回りのようなテンションでライブをやっています。

ー徐々にメンバーが集まっていったんですね。

U sucg:)::なるべくしてなった感じはありますね。でもホント1つ1つ掴んでいったなと思っています。

ー影響を受けたアーティストで共通しているのはORANGE RANGEとお聞きしたのですが。

:そうですね。

ーそれは今でも変わってないんですか?

:どうですかね。チラッと聞いた音楽からインスパイアを受けて書いたりするので、ここ最近はみんなが思ってるほど音楽を聴いていなくて。今だったらaespaって韓国のアイドルをめちゃカッコいいなって思ったり。でも、血肉に染み込んでいるのは、ORANGE RANGEとかRADWIMPSやBUMP OF CHICKENとか。後は、KORNの楽曲も好きですね。ただ、親はロックじゃなくてフォークのレコードを自宅で流していて、僕はそれを聴いて育ったんで、そこも根源にありますね。

ーなるほど。



U sucg:)::Made in Me.の音楽的根源になっているのは、彦とDAIKIくんとじゅんちゃいの3人なんです。なので、DAIKIくんとじゅんちゃいは常に音楽をディグっていてめちゃ詳しいですね。DAIKIくんなんかラウドロックシーンで、週ごとにリリースされた曲のプレイリストを作るくらいなんです。

:でもDAIKIは、温かみのある音楽を逆に知らなかったり。じゅんちゃいはHIP HOPを通ってなくて、僕がRIP SLYMEを勧めたりしていて。僕はなんでも好きで、みんなの好きな曲の中間地点にいて、最近の音楽の動向だとこんな感じがいいと思うって提案したものを、周りが拡大解釈をしてくれて制作しています。

ー結構メンバー間でバランスも取れているんですね。

:そうですね。めちゃバランスが取れています。それに、ほとんど自分達がDIYでやっているので。

U sucg:)::マーチのデザインは僕が担当をしています。10代の時からパソコンが好きでよく触っていて、趣味でデザインの勉強をして、突き詰めてアドビとかもイジれるようになっていきました。

:今では、アナログ派だった他のメンバーのレベルも上がって、トラックメイキングまで出来るメンバーもいたり。それに、DIYならメンバー間でも意見が言いやすいし連携が取れるので、自分達の思った通りの作品へ向かって作り込んでいけるところも活かして活動しています。

U sucg:)::デザインにおいても、彦が『最近こういうの流行ってるよね?』って投げかけてくれるし、偶然キャッチしたものをメンバーに共有していて。そうやって彦が蒔いた種に他のメンバーが水をやって、成長していくって流れでやっていますね。



ーグラフィックでは、影響を受けたアーティストはいますか?

U sucg:)::空山基さんのメカというか、パキっとした機械的なデザインが好きで。ジャンルでいうとアシッドグラフィックっていうものを派生して好きになっていきましたね。

:僕は、基本的に世のオリジナリティに対して懐疑的で。みんな、もうちょいサンプリングしようよって思うんです。完璧に模倣するだけなら誰でも出来ることになってしまうと思うので、そこに自分という転換的になる部分を織り交ぜて自分らしさを入れないと、オリジナリティの確立は難しいなって思います。


メンバー全員が歌詞の意味を分かって歌えないと
お客さんにも伝わらない



ーMade in Me.の歌詞からは、伝えたい内容や表現方法に拘りを感じます。

:何度も思考してきたことなんですが、前提として英単語や英語自体は好きだけど、使いこなせる訳ではないし、書くのにも時間がかかるので殆ど使わないんですよ。それでも英語でやっているバンドの人たちに対しては、もちろん尊敬した上でなんですが、メロディが弱くない?って思うことがあって。その時点で英語を使いこなせていないのかなって感じることがあるんです。否定する訳ではないんですが、そこまで考えて英語の歌にしているのかって疑問ですよね。日本語で歌うことの恥ずかしさを隠すために使っているバンドが多いんじゃないの?って。だったら英語の方がカッコいいと理解した上で、日本語で勝負してお客さんにカッコいいって感じてもらえた方が、僕としては嬉しいですしね。

ーそれは間違いないですね。

:あとは、もっとギャルくいきたいとは思っていて。



ーギャルですか?

:はい。中毒性のあるギャルさです。僕はあまり好きではないんですけど、今の学生とか若い子達はTikTokでコミュニケーションが取れるじゃないですか。このバンドの曲は、若い人たちに対してエールを送れる存在でありたいという想いもあって。そんな若い子たちにシンパシーを感じてもらう為に、ギャルさにもこだわっています。まあギャルって表現があっているかは分かりませんが。なので常に新しさを取り入れたいという気持ちで、積極的に流行り言葉も使うようにしています。

U sucg:)::それこそ、今回の撮影場所として使わせていただいている町田クラシックスのアッキーさんが、『バンドメンバー全員が意味を分かって歌えていないと、お客さんにも伝わらないよ』って、よく言ってくれていたんです。そういう意味で、日本語でリリックは書いているし、僕らもそれを100%理解した上でライブをできるようにしていて。なので英語でライブをしているバンドはカッコいいと思いますけど、日本語なら伝えやすいし、単語のチョイスの幅も広がるので、リリックとしては完成度が高いのかなって思っています。

:以前アッキーさんの後輩に、『彦は曲の言葉とメロディの結婚率が高いよね』って言われたことがあって。あ~確かにそうかもって。意図してやっている訳ではないんですけど、メロディがイントネーション通りになっているんです。ていうのがこのバンドの覚えやすさの売りというか。そこは、結構プライドを持っていて。けど意図してやっている訳でもなく、メロディが先?詩が先?って聞かれることもあるんですけど、僕らは全部同時に作っていて。それこそ頭の中で、誰か知らない人が歌っている架空のバンドのMVをどんどん流していって。それで良さそうなやつをピックアップして作るってイメージですね。脳内でパラレルワールドを想定して、その世界の音楽チャートから引き出して書くとか。

U sucg:)::チャネリングしてるみたいだね(笑)。



ーMade in Me.はダークな雰囲気の曲も多いですが、それは彦さんのマインドが表れているんですか?

:そうですね。暗い曲が書きたいっていうよりは、今の日本は全然良いニュースが飛んでこないじゃないですか。僕はメンタルが豆腐なんで、憂ちゃうんですよ。でもそんな憂が自分にとっての麻酔のようで嫌いじゃない部分もあって、僕はそんな感情を前向きに伝えることができると思っているんです。だから日本人独特の感性である儚さに訴えるような曲にしています。


これはみんなの生活を豊かに彩れる



ー「東京回廊」で、彦さんが具体的に伝えたかったメッセージは?

:福沢諭吉の”天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず”って言葉が好きで。なかなか出来ないけど、そのマインドってピースじゃないですか?みんなが足りない部分を補い合えば、それだけで生きていけると思うんです。僕は昔からお年玉のお金を数えるの好きだったんですけど、今は世の中金だよねっていう概念が、より強くなってきている気もして。その気持ちも分かるけど、この時代に賞賛されている価値観をぶっ壊したいなって想いがあって、できるだけ皮肉に書いたんです。だから、”憧れているのは最上階の方”って歌詞も、みんなタワマンに住みたいんでしょ?って。ただ、みんな社会のシステムに組み込まれている時点で、あーだこーだ言える立場じゃないから、憂を綺麗に歌い上げたいなって思って、”グリル”や”ソテー”って単語も使って表現しているんです。そんな食事に憧れこそあっても、僕はサイゼリヤくらいがちょうど良いんですよね。でも、やっぱりみんな本当の自分自身じゃなく、既成概念で当てはめられたステータスで固めることに勤しむじゃないですか。



ーそうですね。

:現にフランスの経済学者のトマピケティのように、資本主義の次を語っている思想家もいるし、もうみんな分かってるんですよ。年金がもらえなくなるかもしれないとか。1回冷静になって考えてほしいなって。お金じゃないエネルギー体をもっていて、人と人の繋がりは、目に見えない財産となるじゃないですか。勘のいい人はこの曲は資本主義社会を批判しているんだなって、見方をしてくれると思うし、それが正解なんですけど、僕は”欲張って見えたのは最下層の方”って歌詞の部分は、ひもじくなかったらここまでハングリーさも出なかったとも思うので、上だけの批判やどっちが良い悪いの話じゃなくて、それぞれでバランスを取ろうぜっていう気持ちで、上も下も突いたような曲にしました。なので、『あれってそういう曲だよね?』って聞かれてもそこに乗っからないようにしないと、制作した側としては美しくないなとは思いますね。

U sucg:)::49%対49%で残りの2%を芸術的に表現して、バランスをとっている感覚です。それが1番心地いいなって。自分が悪じゃないのは分かっているけど、善でもないだろうなっていうのを上手く昇華していて。

:攻めたら自分に返ってきちゃうんで、相互理解の範囲をアートって次元に留めることで、融和したいんですよね。以前はこんなこと考えなかったですけどね。昔アッキーさんに『音楽は人と出会うツールになる。カッコいいとか売れたいって次元を越えたりするよ』って言われていたんですけど、今になって、ヒシヒシとそういう次元が来ているのかなって感じます。もちろん売れたいし、もっと楽曲をリリースして世の中に広めたいですけど、これはみんなの生活を豊かに彩れるって信念をもってやってます。やっている自分自身が救われたり助かったりすることも沢山ありますし。



ーちなみに、5月に1st Mini Albumもリリースするとお聞きしました。

:『Weather Re:port』というタイトルでリリースを予定しています。喜怒哀楽が行き交う、曖昧な感情全てを詰め込んだ作品になっています。“【速報】来週の感情をお知らせします”というキャッチコピーを掲げています。虹色の感情達を移り変わる天候に重ねて描きました。様々な気持ちを表し、曲調も豊かなものになっているので、アルバムを通して楽しんでもらいたい作品です。ぜひ楽しみに待っていてください!

ー先ほどから何度か話に出てきている町田クラシックスは、Made in Me.のホームのような場所なんですか?

:ここのアッキーさんとは、高校生くらいの時から面識があって、今もよくライブをしていますし、お世話になっているんです。アッキーさんからは色んなことを教えていただいています。僕の出身も町田の隣町で、幼少期に父親の買い物について町田まで来たりしていましたし、初めてライブをした場所も町田だったんですよ。なので、このライブハウスも町田自体も馴染みのある場所で。それに、町田はバンドカルチャーが根付いている街なんです。町田ACTってスタジオ兼ライブハウスは映画ソラニンでも使われていたり、町田プレイハウスは LUNA SEAを輩出したライブハウスだったりするんです。そんな街に拠点を置く町田クラシックスは、店長の人柄もあってすごく好きな場所なんです。



ーでは最後に今後の目標は?

:5月にMini Albumをリリースするので、ライブを開催することを前提で活動をしていて。今回も白紙状態からスタートさせて、新曲がどうにかお客さんに響けば良いなと思います。バンドの価値を高めるためにも、気合の入った年にしたいですね。今の5人体制になってからは、あまりライブを出来ていなかった分、2022年上半期は初めましてのライブもちゃんとしつつ、下半期は『え、今までと全然違うバンドやん』くらいの勢いで、精力的に活動ができたら良いなと思っています。それに、僕たちのバンドは、全く違うジャンルの方からラブコールをいただけている分、そういう時の対バンって自分達の視野も広がっていくんです。それは相手側もそうだと思うし、この業界全員の視野が広がったり、感覚が広がって捉え方が変われば、音楽に留まらず今の社会の憂とかも少しは変わるんじゃないかなって。既成概念に捉われるんじゃなくて、先人たちがやってきたやり方も汲みつつ、今の時代なりにこんなやり方もどうなのかっていう、お互いの良い部分をかけあわせられたら、もっと生きやすくなるのになって。僕たちは、そんな共通のマインドをもった人たちが繋がれるフェスをやりたいし、そんな人たちと会話がしたい。そして、その繋ぎ役になれればと思っています。

ーありがとうございます。


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